量子ビット(Qubit)について
現在量子コンピュータの勉強をしており、理解したことを忘れないための備忘録な意味と、レイサマリー(Lay Summary)の練習も兼ねて、理解できたことをアウトプットします
今回は量子ビットについての内容になります
What(どの様な技術なのか)
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古典ビットでは電流の有無(電圧のON/OFF)で0と1を表現している
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対して、量子ビットでは2つの状態(準位)を取ることができる自然現象(量子状態)を採用し、0と1を表現する
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量子状態とは、極小スケールの世界でのみ取ることができる状態であり、例えば電子のスピンや光子の偏光状態などがある
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量子ビットは、0と1が確率的に重ね合わさった状態を取るため、0と1の両方の状態を同時に持つことができる
- 例えば、0と1の状態が50%ずつ重ね合わさった状態で「同時に存在」することができる
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量子状態は観測することにより決定される。観測前には、量子ビットが0と1の両方の状態を取っているが、観測によって0か1に確定する
- 参考:二重スリット実験(量子の波動性と粒子性の例)
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良く例えられるのが、「テーブルの上で回転しているコイン」の状態
- 回転している間、コインは「表」と「裏」の状態が重なり合った状態にあり(表でもあり裏でもある)、観測(回転が止まる)すると「表」か「裏」が確定する
Why(何が嬉しいのか)
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古典ビットでは、一度に1つの状態しか表現できない
- n個の古典ビットでは、
個の状態のうち1つだけを表現できるが、同時に複数の状態を保持することはできない2^n
- n個の古典ビットでは、
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対して、量子ビットでは、複数の状態が確率的に重ね合わさった状態を保持することができる
- n個の量子ビットでは、同時に
個の状態を表現し、並列に計算を行うことが可能2^n
- n個の量子ビットでは、同時に
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複数の状態を同時に保持し、並列に計算を行うことができるため、古典ビットと比較して特定の計算問題(素因数分解や検索)においては圧倒的に高速な計算が可能になる
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複数状態の重ね合わせに加えて、量子もつれの性質によりさらに高速な計算が可能になる
- 2つのもつれ関係にある量子ビットが存在する場合、一方の状態が確定すれば、同時にもう一方の量子ビットの状態も確定する。これにより、複数の量子ビット間で情報の伝播が非常に効率的に行われ、計算の高速化に寄与する
When/Where(いつ・どこで役にたつのか)
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ゲート式量子コンピュータ(汎用的な計算を行うことができる量子コンピュータ)での計算に利用される
(対比:アニーリング式量子コンピュータ(組み合わせ最適化問題に特化した量子コンピュータ)) -
ゲート式量子コンピュータは、量子ビット(qubit)を使って、古典コンピュータでは困難な計算を効率的に行うことができるコンピュータの一種
- 量子ビットの重ね合わせや量子もつれといった量子力学の特性を活かし、並列計算を利用して古典的なアルゴリズムでは解決に時間がかかる問題を高速に処理できる
Who(誰にとって嬉しいのか)
- 量子ビットが増えると、同時に扱えるデータ量が指数的に(
)増えるため、解決できる問題が増えていく2^n - ゲート式量子コンピュータの開発者
- 量子アルゴリズムの研究者
- 量子アルゴリズムを実装するソフトウェアエンジニア
- 量子計算の恩恵を受けるユーザー(製薬業界や自然現象の予測、材料科学など)
How(どのように実現するか)
- 二準位系の量子状態を取れば、様々な現象を利用して量子ビットを実現できる
- 主な方式として、超電導方式、シリコン方式、光方式、イオントラップ方式、冷却原子方式がある
- 例として超電導量子ビットの概要は以下の通りである
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※かなり専門的な物理の話になるので、レイサマリーとしては量子ビットの実現がいかに量子力学的な事象の上に成り立っているのかを感覚を持てれば良いと思います
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2つの超電導体をジョセフソン接合で接続する
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トンネル効果により、超電導体の間をクーパー対(電子のペア)が移動することで電流が生じる
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トンネル効果とは、通常の古典力学の世界では電子が通過できないエネルギー障壁を、量子力学の確率的な性質により通り抜ける現象である
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量子力学的には、ジョセフソン接合を挟む2つの超電導体間の位相差に応じてクーパー対がコヒーレント(量子状態が相関関係を持つ)に結びつき、電流が生じる
- より正確には、ジョセフソン接合を挟む2つの超電導体間の位相差(クーパー対の波動関数の位相差)に応じて電流が流れ、この電流は以下の関係式で表される:(
)I = I_c \sin(\Delta \phi)
- より正確には、ジョセフソン接合を挟む2つの超電導体間の位相差(クーパー対の波動関数の位相差)に応じて電流が流れ、この電流は以下の関係式で表される:(
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ジョセフソン接合を含む量子回路では、位相差 (
) を変数とするポテンシャルエネルギー関数が形成され、このポテンシャル(\Delta \phi )に基づいて離散的なエネルギー準位が現れるU(\phi) = -E_j \cos(\phi) -
これらのエネルギー準位のうち、n=0の基底状態((
))とn=1の励起状態((\ket{0} ))を量子ビットの「0」と「1」として扱うことができる\ket{1} -
エネルギー準位は重ね合わせ状態を形成することが可能であり、この性質により量子ビットとしての特性を実現できる
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マイクロ波照射を用いてエネルギー準位の遷移を制御することができるため、量子ビットの操作が可能である
- 例えば、基底状態(
)から励起状態(\ket{0} )への遷移を引き起こすためには、照射するマイクロ波の周波数がエネルギー準位差 (\ket{1} ) に一致する必要がある\Delta E = h f - この共鳴条件を満たすマイクロ波を適切な時間だけ照射することで、状態を遷移させる((
))ことができる\ket{0} \to \ket{1} - また、照射時間を調整することで、状態の重ね合わせ(例えば
)を形成することが可能\frac{\vert 0 \rangle + \vert 1 \rangle}{\sqrt{2}}
- 例えば、基底状態(
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Issue(課題)
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量子ビットを表現するための量子状態を安定させる必要があるが、技術的難易度が非常に高い
- 量子ビットは非常に繊細で、外部の干渉によって簡単に誤動作を起こす
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量子超越(古典コンピュータを凌駕する)ためには、アルゴリズムにもよるが数百から数千の「計算に使える」安定した量子ビット(論理量子ビット)が必要
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現状では、数十論理量子ビットまで実現出来ているが、実用化に向けて数百から数千の論理量子ビットが必要とされている
Discussion