AIパチンコとIT開発の課題
はじめに
(AIパチンコとは?)ここでは、AIに何度も答えを求めて「今度こそ当たるかも」と期待しながら試行を繰り返す、やや運任せの使い方を仮に「AIパチンコ」と呼んでみます。少しユーモラスな表現ですが、そうなりやすい場面を整理し、より前向きに使うヒントになればと思っています。
AI技術の進歩により、開発中に分からないことをその場でAIに尋ねる機会が増えました。即答が得られて助かる一方で、うまく活用できず学びが溜まりにくいケースも見られます。本記事は「より建設的に活用するための視点」が誰かの気づきになればと幸いです。
あ、タイトルが「AIパチンコとIT開発の課題」なのですが、なぜAIパチンコという言葉を使ったかというと、次に記載してみました。
ギャンブル依存症とIT開発の「あたり」待ち
簡単に調べてみたところ、ギャンブル依存症は「次こそは当たるかもしれない」という期待感から、理性的な判断を失い、同じ行動を繰り返してしまう心理状態です。IT開発においても、AIに対して「今度こそ正しい答えが返ってくるはずだ」と根拠なく期待し、俯瞰的に同じ質問や依頼を繰り返してしまうことがあります。私はギャンブルをやったことがないので、ちょっと考え方違うんじゃないという人がいらっしゃるかも知れませんが、こちらを前提に考えます。
ここでの比喩は「ギャンブル=運任せの反復」「開発で目指したい姿=理解を積み重ねる探究」というコントラストを示したい意図です。つまり『当たり待ちの時間』を『小さな検証の積層』に置き換えられるかが分岐点になります。
このような状態では、なぜ失敗したのか、どこに課題があるのかを考えず、ただ「あたり」を待つだけの受け身な姿勢になりがちです。ギャンブル依存症が自己制御を失い、損失を取り戻そうとさらにのめり込むのと同様に、AIの出力に頼りきりになってしまうと、学習や成長の機会を失い、問題把握力が育ちません。
本来、IT開発では「なぜこのエラーが出たのか」「どの部分に違和感があるのか」といった問いを立て、仮説を組み立てて検証することが重要です。しかし、AIをパチンコのように扱い、当たりが出るまで回し続けるだけでは、継続的な改善にはつながりにくいです。AIは道具であり、使い手が状況を整理しながら活かす姿勢が求められます。
課題背景(例え話)
たとえば、あるエンジニアが比較的シンプルな作業タスク(小規模なREST APIのエンドポイント追加と、その単体テスト作成)に取り組んでいました。彼はAIを使ってこのタスクに取り組んでいますが想定外に長い時間がかかっています。多めに見積もっても基礎的な知識を2日ほど学び、1日で作業を終える、合計3日かかる実装ができる内容です。
なぜ時間がかかったのかというと、作業の途中でエラーが発生した際に、その原因を分解せず、AIに何度も同じような質問を繰り返してしまっていたからです。AIから返ってきた答えをそのまま試し、うまくいかなければまたAIに聞く、というサイクルに陥っていたためです。
本来であれば、「どこまでがうまくいっていて、どこからがエラーなのか」「なぜこのエラーが出ているのか」といった点を自分で整理し、仮説を立てて検証することが重要です。AIは補助的なツールであり、状況を見極めながら活用する意識が必要です。
自分で状況を整理したり、原因を深掘りしたりすることなく、ただAIの回答を待つだけでは、スキルアップや問題解決力の向上にはつながりません。結果として、時間ばかりが過ぎてしまい、成果が出ないという悪循環に陥ってしまいます。
使い手が状況を言語化しながら活用することで初めて真価を発揮します。初めての分野の挑戦となれば、知識や経験が十分でないため、AIの回答をそのまま受け入れてしまいがちです。その結果、なぜその解決策が有効なのか、どこにリスクや注意点があるのかを深く考えずに作業を進めてしまうことがあります。こうした状況では、焦点がぼやけ、表面的な解決に終始してしまう危険性があります。
IT開発における「うまくいく」とは
IT開発は小さな理解や確認の積み重ねで形になります。ここでいう「うまくいく」は、機能が一つ実装できた、次の判断材料が得られる、といった単位の前進です。
AIはその中間過程を省いた“完成形”の断片を返します。
もし方向がずれていれば、どれだけ回答を得ても前進感は得にくく、どこで修正するかを利用者側が指示する必要があります。
経験がある人は違和感やどこに梃入れをすれば良いか早めに掴めますが、初学者は成果物に違和感を覚えにくく、エラーが出ても十分に吟味せず再依頼をしてしまいがちです。
どう使っていけばよいか
AIを使って問題解決する前に、状況を書き出し、答えを受け取った後に「何が前に進んだか」を一行で整理する。これを繰り返すだけで“当たり待ち”から“理解の積層”に切り替わるのではないかと考えます。
AIの回答をそのまま受け取るのではなく、「なぜこの答えなのか」「手元の状況と矛盾しないか」を軽く照合する習慣が、学びと成果の双方を安定させます。大げさなことではなく、短いメモを残すだけでも十分効果があります。
【質問前ミニチェック(例)】
- 目的:最終的に何を動かしたいか一文で書いたか
- 現状:動く部分 / 止まる部分を列挙したか
- 仮説:原因候補を1〜2個書いたか
- 次手:試す順番を決めたか
【回答後の振り返り】
- どの仮説が補強/否定されたか
- 新しく分かった前提はあるか
- 次に試す一手は明確か
落ち着いた使い方に切り替えるだけで、同じ時間でも吸収できる内容は増えます。少しでも参考になれば幸いです。
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