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[論文紹介]あのNFTは何であの価格なのか?

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よくarxivの論文をチェックしていますが、
今日は最近のNFTの価格に関する論文(原稿)を紹介します。

TARIQ, Samiha. Pixels to Prices: Visual Traits, Market Cycles, and the Economics of NFT Valuation. arXiv preprint arXiv:2509.24879, 2025.

この論文は、NFT市場における価格形成のメカニズムを、非代替性トークン(NFT) の視覚的特徴と市場の動向に基づいて分析しています。
ここでのNFTは絵のNFTのことです。

NFTじゃない絵画でも何億の価格のものもあれば数千円のものまであります。
誰が見ても納得する絵ならいいんですが、なんでこんな価格!?って思うことありますよね。
感性の足りない自分では違いがわからないだけなのかもしれないですが。😥

1.NFTとは

論文の解説の前に、NFTについて詳しくない人達のために簡単に解説します。

簡単に言うと暗号資産の1種です。暗号通貨は同じ価値で交換可能(と考えられるもの)ですが、NFTは非代替性、つまり交換できない1点物の暗号資産です。
例えばデジタル絵画とかです。デジタルなのでコピーはできるはずですが、「所有者」が複数存在することを許さず、ブロックチェーンの仕組みで所有者が一人しか存在しない状態を実現しています。
この仕組みによって、デジタルではあっても現実世界にあるような「希少性のある芸術作品」を作り出すことができます。
投機目的で購入する場合もあり、NFT絵画などに高額な値が付く場合があります。

NFT=non fungible token

NFTって何?(Copilotの答え↓)


NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)とは、ブロックチェーン技術を使ってデジタル資産の所有権を証明する仕組みです。

  • 唯一性がある:それぞれのNFTは固有の情報を持ち、他のNFTと交換できない(非代替性)。
  • 所有権が記録される:誰がそのNFTを持っているかがブロックチェーン上に記録され、改ざんできない。
  • デジタル資産に使われる:アート、音楽、ゲームアイテム、証明書など、様々なデジタルコンテンツに応用されている。

たとえば、デジタルアート作品をNFT化すると、その作品の「本物の所有者」が誰かを証明できるようになります。


2.研究の概要とデータ

この論文では視覚的な絵画NFTの価格についてデータをもとに議論しています。

  • テーマ:視覚的特徴と市場サイクルがNFT市場の価格をどのように形成するかを研究しています。
  • データ:主要な26のジェネラティブEthereumコレクションからの94,039件のトランザクションを使用して分析が行われています。
  • 方法論:色、構図、幾何学、テクスチャ、ディープラーニング埋め込みなど、196の機械で定量化された画像特徴を抽出し、ヘドニック回帰(後述)を適用しています。また、市場サイクル全体で時変パラメータ(TVP)を持つベイジアン動的混合効果パネルを推定しています。

主な研究結果と洞察

  1. 視覚的特徴と価格プレミアム

    • 静的な混合効果モデルの結果は、いわゆる市場センチメントと、焦点の彩度(focal saturation)、構図の集中(compositional concentration)、および 曲率(curvature)といった解釈可能な画像の特徴が、価格に対して有意で独立した影響を持つことを示しています。
    • 対照的に、視覚的な 散乱(clutter)、線の太さ(heavy line work)、および 分散したパレット は割引されています。
    • ディープ埋め込み(deep embeddings)は、明示的な特徴が存在する場合、限定的な効果でした。
  2. 市場サイクルの影響(レジーム感応性)

    • NFTの取引はサンプル期間全体で滑らかに進んだわけではなく、人が認識できるようなフェーズ(市場サイクル)で推移しています。
    • 時変係数は レジーム感応性 を示しており、視覚的特徴の価格への影響は市場レジームによって強化または弱化します。
    • 特に、焦点の彩度(Composition Focus—Saturation)といった特徴に対する効果は、市場の拡張期には正の効果低迷期には弱まるか負の効果 となりました。
    • 価格変動の大部分(約60%)は、純粋に特異的なノイズではなく、 NFTレベルおよびコレクションレベルでの安定した永続的な異質性 (「ブランドプレミアム」)に起因しており、階層的設計が妥当であることを裏付けています。

もっと結果をざっくり説明すると、
つまり、

  • はっきりした彩度高く集中したような絵は価値が付きやすい
  • 市場の盛り上がり具合によって価格への影響が変化するものがある

ということです。

この市場によって価格の変化する要因の一つである「composition focus」(組成焦点)とは、NFTの 画像の視覚的特徴を定量化するための指標 の一つを指します。

具体的には、画像分析によって抽出される「クラシックな」視覚的記述子の一つであり、
「composition–focus ratios(組成焦点の比率)」 として定義されます。

3.方法

3-1.データ条件

  • 26 Euthereum(ETH) NFT collections(top30, after data cleaning)
  • 期間:2021年1月~20225年3月 売買94,039回 (24148NFT)
  • 価格はその日のETH/USD交換レートを元に計算

補足:イーサリアム(ETH=Euthereum)はブロックチェーンの中でもビットコインに次いで2番目に取引のある仮想通貨です。スマートコントラクトという自動契約が可能な機能がある。詳しくはwikipediaなど参照ください:イーサリアム

3-2.画像NFT

論文中のNFT画像は下のようになっています。
左がNFTの画像で、右が色パレットの比率です。

figure1

4.技術補足

技術的に興味がある人のために説明します。

4-1.Composition Focusの定義と測定

  1. 測定対象 : Composition Focusは、中心領域とキャンバス全体を比較する比率 を測定するために用いられます。
  2. 要素 : 測定には、画像の色空間における特定の要素(色相 (hue)明度 (lightness)彩度 (saturation) )が用いられます。
  3. 重要な特徴 : この研究において特に注目された指標は、Composition Focus Saturation(組成焦点の彩度) です。これは、画像の焦点領域がどれだけ集中し、彩度が高いかを示す代理変数として機能します。

ご提示いただいた情報源に基づき、NFTの価格形成を分析するために使用された ヘドニック回帰(静的混合効果モデル)ベイジアン動的混合効果パネル(Bayesian Dynamic Mixed-Effects Panel、TVPモデル) の数式を用いた説明を行います。

これらの手法に関する数式や構造の詳細は、主に「Pixels to Prices: Visual Traits, Market Cycles, and the Economics of NFT Valuation」という論文の抜粋に含まれています。


4-2.ヘドニック回帰

(Hedonic Regression)
ヘドニック回帰は、資産(この場合はNFT)の価格がその固有の特性によってどのように決定されるかを分析するために用いられる統計的手法です。この論文では、静的な ヘドニック混合効果モデル が採用されています。

モデルの構造

ヘドニック回帰の目的は、NFTの価格の対数

y = \log(1 + \text{price})

を、観測可能な視覚的特徴や市場の共変量(Fixed Effects: 固定効果)と、コレクションレベルの異質性(Random Effects: 変量効果)を用いて説明することです。

このモデルの一般的な構造は、以下のような回帰式で表されます。

y_{it} = \mathbf{X}_{it} \mathbf{\gamma} + \mathbf{Z}_{it} \mathbf{u}_i + \epsilon_{it}
記号 説明 関連する要素(NFT分析の文脈)
y_{it} 従属変数 NFT i の取引価格の対数(\log(1 + \text{price}))。
\mathbf{X}_{it} 固定効果(特徴量) 市場共変量(例: ETH_return、fear_greed_index)や、NFTの視覚的特徴(例: Composition Focus Saturation、Line Art Proportion Curved)。
\mathbf{\gamma} 固定係数 特徴量が価格に与える平均的かつ安定的な影響(価格プレミアムまたは割引)。
\mathbf{Z}_{it} \mathbf{u}_i 変量効果 NFTまたはコレクションレベルで存在する安定した永続的な異質性(「ブランドプレミアム」など)。
\epsilon_{it} 誤差項 説明できない変動。

静的な結果: このモデルから、例えば Composition Focus Saturation の係数 (\gamma) が 0.119 であり、高い彩度の焦点が価格プレミアムをもたらすことが定量的に示されています。

4-3.ベイジアン動的混合効果パネル (Bayesian Dynamic Mixed-Effects Panel: TVP)

このモデルは、NFTの視覚的特徴が市場サイクルに応じて価格に与える影響が変化する レジーム感応性 を捉えるために使用されました。ここでは、特に 時間変動パラメータ(TVP) が導入されています。

モデルの構成要素と数式

TVPモデルは、静的な固定効果に加えて、時間とともに変化する係数、市場サイクル固有の効果、およびコレクションごとの市場変動(ブランドドリフト)を組み込みます。

(1) 時間変動係数(Time-Varying Parameter: TVP)

特定の回帰変数(例: Composition Focus Saturation)の係数 \beta_k は、プールされた平均 \bar{\beta}_k の周りを巡る1次ガウスランダムウォーク としてサイクル(\tau)を跨いで変化します。

  • 初期状態の定義(サイクル \tau=1):

    \beta_{k,1} \sim N(\bar{\beta}_k, \sigma^2_{k\bar{}})

    ここで、\bar{\beta}_k はプールされた平均係数、\sigma_{k\bar{}} はその変動を表します。

  • 係数の進化:係数はランダムウォークとして進化します(これは資料に直接記載されていませんが、ランダムウォークの一般的な定義として示唆されます)。この変動には \omega_k(変動のスケール)が関与します。

(2) サイクル効果(\delta_\tau

市場サイクルに依存する平均的な価格効果を表現するために、中心化されたサイクル効果が導入されます。

\delta_{\tau} = \sigma_{cycle} \left( \delta^{(0)}_{\tau} - \frac{1}{T} \sum_{s=1}^{T} \delta^{(0)}_{s} \right), \quad \delta^{(0)}_{\tau} \text{ i.i.d.} \sim N(0, 1), \quad \sigma_{cycle} \sim HN (0.5)

ここで、\delta^{(0)}_{\tau} は正規分布から独立に抽出され、全体として中心化されます。

(3) コレクション\timesサイクル偏差(ブランドドリフト w_{c,\tau}

コレクションの嗜好がサイクルごとにドリフトするのを許容するために、コレクションごとのサイクル偏差も同様に中心化された形で含まれます。

w_{c,\tau} = \sigma_{coll \times cycle} \left( v_{c,\tau} - \frac{1}{T} \sum_{s=1}^{T} v_{c,s} \right), \quad v_{c,\tau} \text{ i.i.d.} \sim N(0, 1), \quad \sigma_{coll \times cycle} \sim HN (0.2)
(4) 測定ノイズ(\epsilon_{it}

外れ値への感度を低減するため、裾の重い(Heavy-tailed)スチューデントのt分布 が測定ノイズに使用されます。つまりt分布は正規分布に比べて絶対値の大きい値の起こる確率が大きくなります。

\epsilon_{it} \mid \nu, \sigma \sim t_{\nu}(0, \sigma), \quad \sigma \sim HN (1), \quad \nu = 2 + \eta, \quad \eta \sim Exp(1/28)

ここで、\nu は自由度、\sigma はスケールです。

これらの要素を組み合わせることで、NFT価格の変動は、視覚的特徴の動的な影響(\mathbf{\beta}_t)、市場の一般的なサイクル(\delta_\tau)、およびコレクションの永続的な異質性(変量効果)によって説明されます。NFT価格変動の約60%が、NFTレベルおよびコレクションレベルでの 安定した永続的な異質性 に起因していることが、この階層的設計によって確認されています。

ヘッドウォータース

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