DataOps入門:組織横断でデータを活用するための考え方
DataOpsという言葉を使う前に知っておきたいこと
DataOpsの語源と目的
DataOpsとは、 データ分析の開発~運用までを、継続的に改善するための考え方 です。
ソフトウェア領域のDevOpsをデータ活用全体(Data + Operations)へと拡張したものと捉えるとわかりやすいと思います。
この用語は2014年頃のIBMブログで取り上げられたのがよく知られていて、以下が元の記事のようです。
- JasonBailey氏「DataOpsがビッグデータの成功に不可欠な3つの理由」

データエンジニアリング・データ統合・データ品質・データセキュリティの4つの領域がある
DataOpsには 明確な公式定義は存在していません。
しかし、各社・専門家の説明に共通するのは、
「多様化・複雑化したデータから、継続的にビジネス価値を生み出す仕組みづくり」
という 目的 です。
他の研究者による定義
- Julian Ereth氏の研究論文(2018)
DataOpsとは、「データに対する統合されたプロセス指向とアジャイ手法を組み合わせることで、データの品質・利用速度・コラボレーションを向上させ、継続的な改善文化を促進する一連のプラクティス・プロセス・テクノロジー」を指す。
- Michelle Goetze氏の研究論文(2020)
DataOps は「インフラストラクチャからエクスペリエンスに至るまで、すべてのテクノロジー層にわたってソリューションを実現し、データ製品を開発し、ビジネス価値のためにデータをアクティブ化する機能」のことである。
なぜDataOpsが必要になったのか?
一言でまとめると、「データが増え・環境変化が速くなり・関わる人が多くなった結果、従来の仕組みでは回らなくなったため」 と言えるかと思います。
要素はいくつもあると思いますが、代表的な背景として以下3つの変化があります。
(1) データ管理が急激に複雑化している
- クラウド、SaaS、IoTの普及によってデータ量も種類も爆発的に増加している
- データの更新頻度も高く、管理の効率もより重要になっている
→ 従来のバッチ中心の運用では、データの鮮度と整合性を維持できない
(2) ビジネス変化にスピード感を持って対応する必要がある
- 市場環境・顧客行動・KPIがより急速に変化している
- 社内外ともに特にA活用のニーズがあり、そのためのデータを整理する必要がある
- しかしデータ改修には数週間かかる状況が多い
→ 意思決定が遅れ、機会損失につながる
(3) 関係者が増えすぎている
- データエンジニア・アナリスト・ビジネス部門などデータの担当役割が多様化
- しかし連携がうまくいかず「思った通りのデータが来ない」状態が多発
- もしくは適切なポジションを用意できず、ビジネス部門もしくは情シス部門に負担が集中
→ サイロ化が起き、データ活用スピードを止める要因に
(逆に言うと、上記のような課題が発生しておらず、現状のETL等で十分なビジネス要件を満たせている場合は、むやみやたらにDataOpsを導入する必要もないかもしれません)
DataOpsで具体的に何をするのか
上記のような背景からDataOpsという考え方が生まれている訳ですが、では具体的に何を行うのか。
今回はスタンダードとすべき(と私が考えている)IPAの資料からDataOpsの特徴を引用します。
- 「データマネジメントの高度化に対応するためのDataOpsの導入 俊敏で柔軟なデータ処理を可能にする新しいデータマネジメント手法」(2023年)
全体像
IPAが示すデータ活用基盤では、データはDataOpsの考えの元、以下のような流れに可視化されます。

図1 データ活⽤基盤の全体像(IPA資料より引用)
こうした基盤のもと、システム・データ・組織が連携し続ける必要があります。
画像には明記されていませんが、このような全体像に基づいて データと運用を継続的に改善し続ける ということです。
DataOpsを構成する基本要素
IPAは「DataOpsの基本的要素」として、以下の3つを挙げています。
(1) データマネジメントプロセスの「自動化」
- データ管理の各処理やワークフローを自動化し、作業時間とタスク間の待ち時間を短縮する
- 手動操作によるミスを減らし、データ品質と生産性を高める
(2) データマネジメントプロセスに対する「可観測性」
- データの状態や処理プロセスを可視化し、品質劣化やボトルネックを迅速に発見できるようにする
- データ配信の安定性を維持する
(3) 共通の目標に向けて協力できる「部門横断的な組織構成」
- データ提供側と利用側が、俊敏で高品質なデータ配信という同じ目標に向かって協力する
- 専門知識を持つ複数部門が連携し、新たな役割を含む組織構成とする
個人的に重要と思っているのが、この (3) です。
以下のような画像がよく見受けられるのですが、DataOpsは開発だけで完結することはないため、組織体制(ガバナンスや運用プロセス) への観点・考慮は必須かと思います。

参考:https://www.datalytyx.com/dataops/
その他
DataKitchen社のThe DataOps Manifesto「DataOpsの12原則」も見つけましたが、だいたい同じような方針・ニュアンスかと思います。
構成具体例
Azure‑Sampleリポジトリに、Microsoftが提唱する「モダンデータウェアハウス+ DataOps」のアーキテクチャ実装サンプルがあったので、概要レベルで見てみます。
架空の都市で駐車センサーから取得したデータを分析・活用するというシナリオのようです。
ここではMicrosoft Fabric/Databricksを中心に、複数のAzureサービスを使って「データ収集 → 貯蓄 → 検証/変換 → モデル化 → 可視化」までをワークフロー化しています。

技術要素一覧
以下はCI/CDプロセスの全体として、データ基盤の変更を Git管理 し、開発→テスト→本番と安全にステップアップする仕組みとなっています。(技術要素は一部私の想定を含んでいます)

| Step | 目的 | 主な技術的要素 |
|---|---|---|
| ① データ収集 | 各システムから安定的にデータを取得 | - Azure Data Factory / Fabric Data Factory - Databricks Auto Loader(新規ファイル監視) - Event Hub / IoT Hub(ストリーミング) - Azure Functions(Webhook / API 集約) - SAP / Salesforce Connector など |
| ② 蓄積(レイクハウス) | 生データを保持、加工の基盤を形成 | - ADLS Gen2 / OneLake(Fabric) - Unity Catalog |
| ③ 整形・処理 | AI/分析向けに信頼できるデータへ加工 | - PySpark / Azure SQL / Databricks SQL / Fabric Dataflows Gen2 - Spark Structured Streaming(リアルタイム) - Delta Live Tables - dbt |
| ④ 活用 | 分析・可視化・APIなどで顧客価値へ | - Power BI / Fabric Semantic Model - Databricks SQL - Power Apps / Logic Apps(業務アプリ) - Databricks Apps(UI/アプリ配信) |
| ⑤ 継続改善(CI/CD) | 自動化と運用改善 | - Azure DevOps / GitHub Actions(CI/CD) - Databricks Asset Bundles / Terraform(IaC) - Fabric 管理者ポータル / Log Analytics (監視) |
| ⑥ データガバナンス | データの信頼性・セキュリティ・責任を担保 | - Microsoft Purview(メタデータ管理・データマップ・分類) - Unity Catalog(ポリシー統合、アクセス制御、行列レベルセキュリティ) |
注意:DataOpsは“絵にするだけ”では機能しない
上記図を見ると、「これをそのまま入れればいいのね」と思われるかもしれません。しかし、いざ目の前のユースケースに当てはめようとすると、現実の難しさが見えてきます。
例えば、
- 「データ抽出は、ソースごとに接続方式も信頼性もまったく違う」
- 「データレイクとデータウェアハウス(近年はレイクハウス)の役割分担をどう設計する?」
- 「セキュリティや権限管理は誰がどんなルールで担保する?」
- 「そもそも、運用はどの部署が責任を持つ?」
等々。構想および実装すべき要素は、表面から見えている部分よりはるかに多く複雑です。
DataOpsは「ツール導入」ではない
そして、ここが非常に重要なポイントです。
「DataOps = ツール + 自動化」という単純な話ではありません。
特定の言語やライブラリ、サービスに縛られていません。
DataOpsを成功させるには、組織構成 × 運用プロセス × 技術基盤 が一体となった仕組みが必要です。その視点を持つと、課題が自然と整理されてきます。
| 視点 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 組織構成 | 役割と責任を明確にし協働を促す | ドメインオーナー、データスチュワード など |
| 運用プロセス | データ活用の流れを最適化する | ガバナンス方針、変更管理、品質検証など |
| 技術基盤 | 自動化と信頼性の向上 | CI/CD、データテスト、コスト、メタデータ管理 |
昨今のデータ基盤技術進歩の背景から上に書いたような技術を追いかけたくなってしまう方は多いのではないでしょうか。(調べていると私もそうした気持ちになります)
もちろん技術検証とその実装スキルも大切ですが、それだけだとDataOpsの導入、ひいては全社のデータ活用というビジョンが実現できません。
DataOpsに限らずすべてのエンジニアリングに必要な考え方かもしれませんが、私も常々気を付けています。
“人材面の課題”は特に大きい
また、DataOpsの考え方に基づくと運用プロセスがさらに横に広がるので、様々な専⾨知識やスキルを持つ⼈材が必要 であることもわかります。
これは以下のIPAの調査にもある通り、日本の大きな課題でもあるようです。

参考:DX動向2025 https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/tbl5kb0000001mn2-att/dx-trend-2025.pdf
DataOpsに関する質問ではありませんが、強く関連するかと思い、引用しています。
まとめ:DataOpsは成果が見えにくいからこそ重要
DataOpsは、データ活用を継続的に改善するためのアプローチです。
自動化や可観測性、組織の横連携を取り入れることで、データの品質・スピード・コラボレーションを底上げします。
DataOpsの取り組みは、数字で追える指標だけでも一定の改善効果を確認できます。
- データ提供までのリードタイム短縮
- パイプライン障害の減少/回復の高速化
- 手動作業の削減と自動化率の向上 等
しかし、こうした一次要素だけで測定を終えてしまうとどうしても費用対効果を低く思ってしまいます。
DataOpsのゴールは、ビジネスとしてのスケールに直接つながる組織能力を高めること です。
具体的には、
- 組織が新しいデータを迅速に取り込み、機会を逃さない状態
- データ活用から新しいインテリジェンス(洞察/意思決定力)が生まれる状態
- ドメイン横断の連携が機能し、活用範囲が自然に広がっていく状態
- 追加開発や新領域への展開が負荷なく継続できる状態
こうした「スケールし続ける組織」を実現するための土台がDataOpsです。
運用改善の効果は大切ですが、それはあくまで手段であり、本当の成果は“データ活用に強い組織が育つ”という長期的な価値に現れるものだと考えています。
次回以降の記事にDataOpsの手順も書きたいと思います。
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