IPAの情報処理技術者試験は使えるのか
IPAの資格って使える?
先日、応用情報技術者試験に合格しました。嬉しいです。
ところで、IPAの資格の話になるとこんな声を聞くことがあります。
- 「実務で使わなくない?実務のほうが大事じゃない?」
- 「エンジニア以外必要ないじゃん?」
- 「基本情報とか応用情報って取る意味ある?」
確かに応用情報はじめ、IPA資格には実務に直結しづらい内容も含まれています。
ただし、資格を取得した方・取得しようとしている方の中で、
「使えるか使えないか」といった単一的な視点で考えている方も少ないと思います。
私もそんなふうには考えていませんので、
今回は上にあるような声に応えられるよう、IPA資格の価値を考えてみます。
そもそも「情報処理技術者試験」とは?
唯一のIT特化型国家資格*
IPAは、日本の ”経済産業省が所管している独立行政法人” で、
主にIT人材の育成や情報セキュリティの推進などを行っています。
”経済産業省の所管” というのは意外と知られていないのではないでしょうか。
そのIPAが実施している取り組みの1つに、 "情報処理技術者試験の運営・提供" があり、
IT分野でのスキルや知識を証明できる国家試験と称されています。
以下の図も一度はご覧になったことある方多いと思いますが、情報技術者試験と一言で言ってもこれだけの区分があります。
(今後さらにデータサイエンスの区分も追加されるようです)
それぞれの職能や社内のポジション、個人の描くキャリアパスに応じて、
ロードマップを引けるようになっていることが特徴です。
上記は文字の多いガイドラインですが、聞いたことある資格や取得しようとしている資格だけでも目を通していただくと参考になる箇所あるのではないかと思います。
私は最初に見たとき、対象者が意外と広い印象を受けました。
例)応用情報技術者試験はこんな感じ
項目 | 内容 |
---|---|
対象者像 | ITを活用したサービス,製品,システム及びソフトウェアを作る人材に必要な応用的知識・技能をもち,高度IT人材としての方向性を確立した者 |
業務と役割 | 独力で以下のいずれかを遂行: ① 組織及び社会の課題に対する,ITを活用した戦略の立案,システムの企画・要件定義を行う。 ② システムの設計・開発,汎用製品の最適組合せ(インテグレーション)によって,利用者にとって価値の高いシステムを構築する。 ③ サービスの安定的な運用を実現する。 |
期待される技術水準 | ITを活用した戦略の立案,システムの企画・要件定義,設計・開発・運用に関し,担当する活動に応じて次の知識・技能が要求される。 ① 経営戦略・IT戦略の策定に際して,経営者の方針を理解し,経営を取り巻く外部環境を正確に捉え,動向や事例を収集できる。 ② 経営戦略・IT戦略の評価に際して,定められたモニタリング指標に基づき,差異分析などを行える。 ③ システム又はサービスの提案活動に際して,提案討議に参加し,提案書の一部を作成できる。 ④ システムの企画・要件定義,アーキテクチャの設計において,システムに対する要求を整理し,適用できる技術の調査が行える。 ⑤ 運用管理チーム,オペレーションチーム,サービスデスクチームなどのメンバーとして,担当分野におけるサービス提供と安定稼働の確保が行える。 ⑥ プロジェクトメンバーとして,プロジェクトマネージャ(リーダー)の下でスコープ,予算,工程,品質などの管理ができる。 ⑦ 情報システム,ネットワーク,データベース,組込みシステムなどの設計・開発・運用・保守において,上位者の方針を理解し,自ら技術的問題を解決できる。 |
ついでに知っておきたい「ITSS」
同じく経済産業省は、ITSS(IT Skill Standard) という、
IT人材のスキルを体系的に分類・評価するための指標 も策定しています。
キャリア・スキルフレームワークに応じて、レベル1~7まで設定されており、
例えば応用情報技術者試験はレベル3に該当する資格です。
これは「IT人材が中堅レベルの開発者に集中しやすい」という日本独特の性質に対して、
- 「スキルニーズの多様化」…”横の拡がり”を示すため
- 「スキルの熟達」…”縦の指針”を示すため
といった目的があるようです。
情報技術者試験の各区分と連動して案内している部分もあるため、
企業内での人材育成やキャリア設計のフレームワークとしてもよく使われています。
図1-2 共通キャリア・スキルフレームワークに基づくレベル判定
図9.典型的なキャリアパスのイメージ
レベル1~4はこのように定義されています。
- ITスキル標準レベル1
ITスキル標準が想定するレベル 1 は、専門職種を意識することなく、上司の指導の下に担当作業を実施する人材である。この段階では基礎的な「知識」を幅広く学ぶことが期待されている。 - ITスキル標準レベル2
ITスキル標準が想定するレベル2は、チームメンバとして、上司の指導の下に担当作業にかかる技術を理解し、作業の一部を独力でできる人材である。この段階でも「知識」の習得と「知識」の活用能力としての「技能」の習得が期待されている。 基本情報技術者試験は「知識」を問う午前試験と、「技能」を問う午後試験(選択式:経験がある人が解けるように工夫されている)とから構成されている。基本情報技術者試験は「上位者の指導の下に」業務を遂行するために必要となるレベル2の「知識」と「技能」を測るものであるから、この試験の合格をもってITスキル標準レベル2で期待される必要最低限の能力レベル(基本的な「知識」及び「技能」の習得)に到達しているものと見做すことができる。 - ITスキル標準レベル3
ITスキル標準が想定するレベル3は、チームメンバとして与えられた業務を独力で遂行できる「実務能力」を有する人材である(ただし、メンバとしての業務遂行能力であるため、「実務能力」の実質は応用的な「技能」である)。このレベルから、将来担うべき職種ごとの専門性が徐々に形成され始める。 応用情報技術者試験は、基本情報技術者試験と同様に午前試験と午後試験から構成されている。応用情報技術者試験は、業務を遂行するために必要となるレベル3の「知識」と「技能」を測るものであるから(午後試験は記述式により応用的な技能を測定可能)、この試験の合格をもってITスキル標準レベル3で期待される必要最低限の能力レベル(応用的な「知識」及び「技能」の習得)に到達しているものと見做すことができる。 ITスキル標準のレベル3からは、得意分野に基づいて自身のキャリア形成を意識する必要がある。ITスキル標準の職種や専門分野の特定については、ジョブアサイメント状況や、それまでの経験を参考にして決定されるものとする。 - ITスキル標準レベル4
ITスキル標準が想定するレベル4は、専門領域が確立し、チームリーダとして部下を指導し、スキルや経験を活用して要求水準を満たす成果をあげることができる人材である。後進の育成などプロフェッショナルとしての貢献も求められる。高度試験(ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、情報セキュリティスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験等)はそれぞれの職種に要求されるレベル4の「知識」と高度な「技能」を測るものであるから、試験の合格によってITスキル標準で最低限必要とするスキルの熟達度合いをほぼ満足していると見做すことができる。 ただし、レベル4では実ビジネスの世界で求められる総合的な能力発揮と責務遂行の実績、および技術の発展や後進の育成等のプロフェッショナルとしての実績が要求されるため、「達成度指標」による評価が不可欠である。従って、レベル4に関しては、高度試験の結果と「達成度指標」で測定する業績の双方から評価する必要がある。
意外と大事な試験シラバス
以下に各試験ごとのシラバスがあります。
業務として、ITサービス関連に関わられている方であれば、
「これなら受けられそうかな?」という試験 が1つはあると思います。
受験する試験を把握するためにも、試験合格に向けても、合格後のバリューの言語化のためにも、
"シラバスを理解すること" はとても大事だと考えています。
「ITパスポート」のシラバスの一例
"実務で使わない資格"の価値とは?
ここまでの内容を見ていただくとより分かっていただけると思いますが、
情報技術者試験は”1人のビジネスパーソンの実務にクリティカルヒットする資格か”と言われたら、そうではない試験が多い です。
特に、出題範囲が特定のスキルやツールに結びついているベンダー資格と比べられると、
実務直結感が薄いと思われがちです。
私もそこについては大変同意しますが、情報技術者試験の本質はもっと別のところにあると考えています。
なぜ国がこの内容を"標準"にしてるのか?
情報技術者試験の範囲には、情報セキュリティ/ネットワーク/アルゴリズム/IT法務など、
技術からビジネス、マネジメントまで幅広い分野が含まれています。
これは特定の製品やスキルに依存せず、技術の本質とその周辺領域まで含めて理解できる人材が、
あらゆる業種・職種で求められている という国家の方針に基づいた設計です。
IPAは、「情報処理技術者試験の意義」 として以下のような点を明記しています。
-
共通の評価指標であること
ITを活用するすべての組織・職種において、スキルを客観的に可視化できる。 -
変化に強い人材を育成すること
OSやツールに依存せず、技術の原理・原則を問うことで、本質的な対応力を身につけられる。 -
専門家による高品質な試験設計
実務と学術の両面から構成され、現場で求められる標準的な知識・手法を体系的に習得できる。
つまりこの資格は、技術者としての専門性よりも、
俯瞰的な理解力やバランス感覚を重視した設計 になっています。
そしてそれこそが、企業におけるDX推進やベンダーコントロールなど、
「他者と協力して価値を生む仕事」には欠かせない力の1つ でもあると考えています。
冒頭問いへのアンサー
- 「実務で使わなくない?実務のほうが大事じゃない?」
⇒たしかに、直接的には使わないことも多いです。
この試験は、「技術の本質」や「仕組みの理解」に重きを置いており、
俯瞰的な理解力やバランス感覚を評価する内容になっています。
そのため、特定の職能を評価する資格としてはふさわしくない場合もあるかと思います。
(高度試験はそんなことないと思いますが)
同時に、「実務とどちらが大切か?」といった議論もふさわしくない と思っています。
毎日ジムで筋トレを頑張っている人に「スポーツしなきゃ意味なくない?」と言うようなもんではないでしょうか。
「就職・転職の際に評価される!」という文脈で話されることが多いため、こうした会話が起きると思うのですが、誰しも現状をより発展させるためにやっていると思うので、
実務と並列比較すること自体にあまり議論の余地がないのでは?と思ってしまいます。
- 「エンジニア以外必要ないじゃん?」
⇒そんなことはありません。
IPAは、資格試験の対象者を職種で縛っていません。
レベル1(ITパスポート)は、「すべての社会人」を対象としており、むしろエンジニア以外のビジネス職こそ取得しておきたい資格です。
情報セキュリティマネジメント試験は、「情報セキュリティが確保された状況を実現し、維持・改善する者」を対象としていますが、これはエンジニア以外にも当てはまる方多いと思います。
情報技術者試験は組織のITリテラシーの底上げを実現できる枠組み・指標となっていて、
これは、全社的なDX推進やセキュリティ意識の強化、顧客との関係構築に繋がると考えています。
- 「基本情報とか応用情報って取る意味ある?」
⇒ある!けど意味は自分で考えよ!
これまでに挙げている概要やメリット等で考えられると思っています。
ただ、意味があるかないかは他者に言われる内容でもないし、
「意味を感じられるかどうか」は、やり切った人にしか語れない特権でもあります。
やってみてから「これ、こういうときに役立つな」とか「これだけ勉強したんだから自信もてるわ」と思えたら、それで十分じゃないでしょうか。
おわり:合格してッカラッス。
私自身、IPAの情報技術者試験を受けていくうちに、
ITという広い世界に対して視野が広がっていく実感を持ってきたので、
もし取得を迷っている方がいたら、ぜひチャレンジいただきたいです。
おそらく躊躇されている方のほとんどは、自身でハードルを上げられているのではないかと思います。
ただし、「資格取得がゴールになってはいけない」 と常々思います。
誰かに褒められるために勉強しているわけではないですし、
実務に直結しにくいとはいえ、実務に活かせない頭でっかちにもなりたくないです。
資格取得は、顧客や組織へ価値提供する途中過程 であることを忘れず、
「合格してからっす」を体現していきたいと思います。
さいごのさいごに
たとえ「周囲に褒められるために勉強しているわけじゃない」としても、
努力を重ねて資格試験合格という形で結果を出した方がいたら、
周りの方はまず「おめでとう」と声をかけてあげましょう。かけてあげてください。
(弊社は視野が広く優しい方が多いのでよく声をかけていただきますいつもありがとうございます土下座)
それが合格率の高い資格でも、あまり知られていないニッチな資格でも、
そこに至るまでの過程や行動力、継続も価値のあることだからです。
そうした姿勢がもっと認められ、広がる社会になるといいなと思います。
HPEOさんいつもネタをありがとう。
Discussion
私もこの4月の試験で合格しました。非エンジニアですが。
もちろん、Iパス、基本、セキマネも受かってます。
>意味があるかないかは他者に言われる内容でもないし、
>「意味を感じられるかどうか」は、やり切った人にしか語れない特権
まさにこれだと私も思います。
自分の知識の力試しとか自己満足とか、公的な知識の証明で受験する人が
多いのかと思います。ITの知識だけではなく、試験勉強をしてる過程で
学ぶことが多かったと思います。もちろん国語力がないと難しいですもんね。
まぁ、私的に言わしてもらえば、「受かってもいないくせに必要ないとか
言ってんじゃねーよ。悔しいのかよ!」って感じですね。
PS 合格番号、私のと近いですね。
@かろしむろ さん
コメントありがとうございます。また合格もおめでとうございます!
こちらの点、私もとても共感します。
「これ実際どんなふうに使われてるんやろ?」とついでに調べたり、「これこんな風に伝えたらわかりやすそうやなー」と考えたり、副産物が多い経験でしたね。
もちろん、価値観は人それぞれでどんな考え方にも一理あるとは思いますが個人的に、
すでに一定の分野で突き抜けられている方"(いわゆるレベル5~7の方) には、
この種の資格はあまり必要ないと考えています。
(そういう方ほど、あえて否定的な発言をされることも少ない印象です)
レベルが高い人はそれを合格する苦労を知っているので発言はしないと私も思います。
先日友人がFPに合格しましたが、一切否定はしませんでした。それが彼には大事な資格
だからです。蚊帳の外からなんだかんだ言うのはまさにお門違いだと思います。
応用情報は幅が広い分、いろいろな知識がつけられたかと思います。確かに専門を極める
のは仕事上大事かと思いますが、オールラウンダーとして使えるものと思います。
(特に私たちのような非エンジニア界隈からは重宝がられます。)
ま、どっちにしても「国家試験に合格」したことには変わらないので良しとしましょう。
#ITジャンルでは唯一の国家資格
技術士を忘れないでください。
IPAより色々言われますが、一応最高資格です。
@koma さん
ご指摘ありがとうございます。
確かにふさわしい表現ではありませんでした。該当箇所を修正・追記しました。
IPA 資格試験の合格は「〇〇できる」を示すものではなく、「最低限、試験範囲の 70%くらいは知っている」ことの客観的な証明だと思われるので、日本における最終学歴程度の価値しかないと思っています。
「〇〇卒だけど実務経験がないから、採用はするけど実務はこれから勉強してね。足切りにはしないけど。」
という評価基準であると推測される事と、試験範囲の事柄を調べる適切なクエリ(検索キーワードやプロンプトや同僚・先輩への質問文)を提示できるところに価値があると思います。適切な言葉で相談や質問ができることの方が話の通じないスペシャリストより遥かに重要なスキルなのではないかという認識です。(個人の感想です
ITに限らず、技術・法律系の知識は数年もすると陳腐化して行く中、「自ら学ぶ姿勢の実践と証明」と「学習スキルの実践と証明」、「共通の用語や概念の保証」という意味ではとても価値があるのではないでしょうか。
@hideo さん
ご意見ありがとうございます。
このような視点もあるのだと、とても参考になりました。
私自身は「就職・転職のために資格を取る」という考え方にあまり馴染めないところがあるのですが、そうした評価軸が存在する背景には社会の構造的な課題もあるのかもしれないと感じさせられました。
とはいえ、新しい技術に対応する場面で「学習コストが低く済む人材」として評価されることは、企業にとっても合理的な側面があるのだろうと思います。
私は非エンジニアですが、合格したからといってすぐ使える人材には程遠いなと思いました。
やはりその道で働いてらっしゃる方には到底かなわないです。でも合格したことでその業界に
近づけた気がしますし、技術的なネットニュースも読めるようになったので良かったです。