[無線LAN/Wi-Fi]屋外利用とDFSに気を付けたい話
はじめに
現在は、ほとんどの方が業務でもプライベートでも無線LANを利用しているかと思います。
その中でも、利用中に無線LANが切断されてしまって困った経験をした方も多いかと思います。
自分自身も、入社直後に自宅でのリモートワークでWeb会議に参加していたら急に会議が終了してしまい、焦って確認したらアクセスポイント無線LANから切断されていたなんて事もありました。
原因は機器の故障や不調ではなく、DFSと呼ばれる機能が働いたことによる切断でした。
なぜこのような機能が必要なのか、どう対策すればよいのか、今回はこのDFSや、それに関連した屋内外での無線LAN利用について解説したいと思います。
無線LANで利用される周波数帯について
DFSを解説する前に、無線LANで利用される周波数帯について軽く解説します。
日本で使用されている周波数帯
日本国内における無線LANで使用する周波数はIEEEの規格で定められており、2024年2月現在、日本国内で利用されている無線LANの周波数帯は主に・・・
- 2.4GHz帯
- ISMバンドとして割り当てられている帯域
- 5GHz帯
日本では下記の3つのチャンネルグループに分類されます。- W52(5.2GHz帯)
- W53(5.3GHz帯)
- W56(5.6GHz帯)
- 6GHz帯
- Wi-Fi 6Eから対応
の3種類となります。
次に各帯域の説明。
2.4GHz帯
無線LAN機器ならほぼ全て対応している帯域で、屋内外で利用可能です。
ISMバンドとは
ISMバンドはIndustrial Scientific and Medical Bandの略で、その名の通り、産業・科学・医療の分野で無線通信以外の目的で汎用的に利用するために国際電気通信連合(ITU)によって割り当てられた帯域になります。
ちなみに、IoT分野も様々な無線通信規格で使われている周波数帯になります。(Wi-Fi, Bluetooth, Zigbee, etc...)
無線通信以外の目的とは・・・?
いやいやWi-Fiって無線通信でしょ?と思われたと思いますが、無線を免許なしで全世界で普及させるためには、ISMバンドを利用する方が手っ取り早かった為、出力が低い無線通信に限りISMバンドの利用を認め、Wi-Fiで利用し始めたという背景があるようです。
また、同じ周波数帯でBluetoothや電子レンジなどでも利用されており、干渉による速度低下など、いわゆる電波汚染が著しい周波数帯でもあります。
そんなISMバンドですが、10mW以下の出力であれば屋内外問わず自由に利用可能というのがメリットです。
5GHz帯
普及も進み多くの機器で対応している帯域ですが、製品のコストダウンなどにより対応していない製品などもあります。チャンネルグループによって屋外での利用に制限があります。
日本国内における5GHz帯は、衛星通信や気象レーダーも利用している共用の帯域になります。
共用の帯域ではありますが、通信衛星や気象レーダーといったインフラのプライオリティが高いため、後に解説するDFSという機能によってWi-Fi側が帯域を明け渡し、自身は空きチャンネルへと移動する必要があります。
記事のタイトルにもある屋外利用とDFSですが、5GHzは両方とも注意点があり利用には気を付けたい帯域になります。
6GHz帯
あらたにWi-Fi6E規格で追加された新帯域です。2022年9月より日本国内で利用可能になりました。
5GHz帯と比較すると、日本国内では衛星や気象レーダーと干渉する恐れがなくDFS対象の帯域ではありません。
また、新たにAP側の送信出力に関するモードが定義されており、下記の3つが制定されました。
詳しい仕様は割愛しますが、概要だけ載せておきます。
- SP(Standard Power)
- 屋内外で利用可能な高出力送信モード。2024年10月現在、日本国内では利用不可。
- LPI(Low Power Indoor)
- 出力を落とし、屋内利用に限定したモード。日本国内で利用可。
- VLP(Very Low Power)
- LPIよりも更に出力を落とし、屋内外でも利用ができるモード。日本国内で利用可。
DFS(Dynamic Frequency Selection)とは
本題の部分になります。
DFSの正式名称はDynamic Frequency Selectionです。日本語に直訳すると「動的周波数選択」になります。
周波数帯の効率的な利用を目的に、気象レーダーなどで使用されている5GHz帯の一部を無線LANでも使用できるようにした仕組みになります。
どのように共用利用しているかというと、下記図のように無線LANのAPがDFS対象帯域を利用する設定の場合は、電源ON直後の1分間でレーダー検知を行い、検知したら別のチャンネルに移動します。
無線LANは気象レーダーが稼働していない間は帯域を利用させてもらい、稼働時に帯域を明け渡すイメージです。
通常稼働の際にも利用帯域でレーダーを検出したら別のチャンネルに移動しますので、その際には無線LANの電波(5GHz帯のみ)が止まりネットワークから切断されてしまいます。
各周波数帯のDFS機能の要否と屋外利用可否の一覧
DFS機能の要否とあわせて屋外利用可否について下記の表にまとめました。
- | ISM(2.4GHz帯) | W52(5.2GHz) | W53(5.3GHz) | W56(5.6GHz) | 6GHz帯 |
---|---|---|---|---|---|
屋外(上空) | ○ | × | × | × | △(※2) |
屋外 | ○ | △(※1) | × | ○ | △(※2) |
屋内 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
DFS | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 | 不要 |
○:利用可 ×:利用不可 △:条件付きで可
※1 総合通信局へAPの登録手続きが必要
※2 Low Power Indoor(LPI)での利用は禁止、Very Low Power(VLP)でのみ利用可
DFS機能を回避して利用する方法
日本国内で5GHz帯を使用するAPには必ずDFS機能が実装されている必要があります。
また、設定で無効化することもできないため、DFS機能を有効にしたままDFS機能に引っかからないようにします。
方法は簡単で、DFS機能の検出対象外の周波数を利用する方法です。
下記に、各周波数を利用した場合のメリットデメリットをまとめました。
2.4GHz帯を使う
- メリット
- DFSの対象外
- 屋外でも利用できる
- 5GHz/6GHz帯と比較して遠くまで通信できる
- デメリット
- 混雑している帯域なので干渉の懸念がある
5.2GHz帯(W52)を使う
- メリット
- 5GHz帯で唯一DFS機能の対象ではない帯域
- 2.4GHz帯に比べて干渉しにくい
- 屋外での利用が困難
- デメリット
- W52のみで使える周波数幅が80MHz幅までしか使えない
チャンネルと周波数幅の組み合わせを図にしました。赤の太線で囲っている部分はDFS対象の帯域になります。
- W52のみで使える周波数幅が80MHz幅までしか使えない
6GHz帯を使う
- メリット
- DFSの対象外
- 条件を満たせば屋外でも利用可(ただしVLPモードのみ)
- デメリット
- 6GHz帯に対応したWi-Fi 6E以降の規格に対応している機器が少ない
まとめ
- 電波資源の有効活用の観点からDFS機能で気象レーダーと帯域を共有している
- 無線LANの電波が止まる要因は機器の不調だけでなくDFS機能で起きる事もある
- 5GHz/6GHz帯は基本的に屋外で利用できない。もしくは一定の条件下で利用可能
もし、電波に関する法規や最新情報について興味があれば[総務省-電波利用ホームページ]を参照してみてください。
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