👌

ネットワークの基礎_ルーターから先はインターネットの海...ではない?

に公開

ネットワークの基礎_ルーターから先はインターネットの海...ではない?

こんにちは! 株式会社HESの望月です。

私は先日、会社の技術合宿に参加し、初めてAmazon VPCの構築に挑戦しました。
結果は無事成功でした! しかし、振り返るとたくさんの失敗がありました...。

例えば、以下は私が合宿中に書いた「PCからサーバーまでの通信経路図」です。

■ PCからサーバーまでの通信経路(初稿)

『PCをルーターにつなげるとインターネット上のWebサイトが見られる』
『ならば、ルーターの先はインターネットだ!』

などと考えてこの図を書きました。
しかし、会社のベテラン技術者によると、この図には多くの要素が欠けているようです。一体何が足りないのでしょうか?

今回は、インターネットにスポットライトを当てた記事となります。本記事を読めば、以下のような疑問を解消できるはずです。

  • インターネットとは何者か?
  • PCからサーバーまで、どうやって通信が届くのか?
  • 回線事業者(キャリア)とISP(プロバイダ)の違いは何か?
  • インターネットエクスチェンジ(IX)とは何者か?

本記事が、みなさんのネットワーク学習の助けになれば幸いです。ぜひ最後までご覧になってください!

1. ネットワークの基礎知識

まずは初心に帰り、ネットワークの基礎知識をおさらいしました。

1.1. ネットワークの種類

ネットワークは、その規模によって以下の3つに分類できます。

  • LAN:建物やフロア内などの狭い範囲のネットワーク
  • WAN:離れたLANどうしを接続した広域ネットワーク
  • インターネット:世界中のネットワークを相互に接続した大規模ネットワーク

1.2. IPアドレス

IPアドレスは、ネットワーク上の機器の「住所」となる番号です。
データ通信の「宛先」と「差出人」の識別に使われており、ネットワークに接続する機器に割り当てられています。

1.3. LANとWANの境界

複数のネットワークの境界で通信を中継する「関所」の様な仕組みがゲートウェイです。
そして、ゲートウェイの一種として代表的な機器がルーターです。

ルーターは様々な仕事をしますが、特にLANとWANの境界で行われるのが NAT/NAPT です。
NAT/NAPTは、ルーターを通過する通信のIPアドレスを見て、LANなどの閉じられたネットワーク専用のIPアドレス(プライベートIP)を、開かれたインターネットで使われるIPアドレス(グローバルIP)に変換する機能です。

  • プライベートIP:LANなどの閉じたネットワーク内で使うIPアドレス
  • グローバルIP:インターネット上で使う、世界で一つだけのIPアドレス

2. インターネットへの接続経路

それでは、実際に私たちのPCから送られたデータが、どのような経路を辿ってサーバーに届くのでしょうか。
その全体像を、現在主流の「光回線」の「PPPoE接続」を例に説明します。
※ ここでの説明は一例です。回線や契約の種類によって異なるため、あくまで全体像をイメージするための参考としてください。

2.1. インターネットの全体図

PCからサーバーまでの道のりは、実は同じパターンの繰り返しでできています。

  • ゲートウェイ:ネットワークとネットワークの境界となる機器 (関所)
  • ネットワーク:関所と関所をつなぐ回線や通信網 (道)

インターネットの通信は、 「ゲートウェイ(関所)を抜けて、次のネットワーク(道)を通り……」 という、バケツリレーの繰り返しです。
また、道には種類があり、一般道(アクセス回線)や、都市間を高速で結ぶ高速道路(バックボーン)のように規模や呼び名が異なります。

インターネット全体を理解するために、ざっくりとした図を作りました。

■ PCからサーバーまでの通信経路

物理的な境界をグレーの破線で、ネットワークの境界をノードの色分けで表現しています。赤い線で囲まれたノードが「ゲートウェイ」です。

「関所と道路の繰り返し」というリズムを意識しながら、以下の詳細なステップを見ていきましょう。

ステップ1:PCからルーターへ (LANエリア)

PCからサーバー宛ての通信を送ると、データはまずLANケーブルやWi-Fiを通って、自宅/オフィスにあるルーターに届きます。
この時点ではまだ、自宅/オフィスの中(LAN)の通信です。

ステップ2:ルーターという関所を越える (LANとWANの境界)

ルーターは、自宅/オフィスの中(LAN)と外の世界(WAN)の境界線に立つ「関所」です。
ここで、PCが持っている「プライベートIPアドレス」が、インターネットで通用する「グローバルIPアドレス」に書き換えられます[NAT/NAPT]。
これにより、データは自宅/オフィスの中(LAN)を離れて、インターネットへ向かうための「回線」へ送られます。

ステップ3:ルーターからONUへ

ルーターを出たデータは、ルーターの隣にある ONU(回線終端装置) に届きます。
ONUは「デジタル信号」を、光ファイバーを通れる「光信号」に変換する翻訳機です。
※マンションの場合、共用部に設置されていたり、壁のコンセントと一体化していることもあります

ステップ4:ONUから最寄りの収容局へ (回線事業者のWAN)

ONUを出た光信号は、電柱を通る光ファイバーに乗って、街中にある回線事業者のビル「収容局」まで運ばれます。
収容局では、図にある OLT(光回線終端装置) という装置が、各家庭からの光信号を受け取ります。

ステップ5:回線事業者の巨大なネットワーク (NGN網)

収容局に集まったデータは、NGN(Next Generation Network) と呼ばれる、回線事業者の巨大なネットワーク網の中を通り、より大きな「中継局」へと転送されます。
※ まだここは「インターネット」ではなく、NTTなどの回線事業者が管理する専用道路です。

ステップ6:回線事業者からISPへ

中継局の建物の中で、回線事業者のネットワークからプロバイダ(ISP)の設備へバトンタッチが行われます。
この接続地点のことを、専門用語で POI(相互接続点) と呼びます。

POIには、 網終端装置(NTE) と呼ばれる「ISPへの関所」となる機械が置かれています。
ここで「契約者本人である」ことが確認されると、データはISPが管理するネットワーク「ISPバックボーン」へと入ります。

ステップ7:ISPからIXへ (インターネットの交差点)

ISPのネットワークに入ったデータは、IX(インターネット・エクスチェンジ) と呼ばれる場所(東京や大阪などの大都市)を目指して、ISPのバックボーン回線を高速で移動します。
IXは、プロバイダやGoogleなどの巨大企業が相互に接続している「巨大な交差点」です。  
データはISPの出口にある「境界ルーター」からIXに入ることで、「契約しているプロバイダのネットワーク」から「相手(サーバー)側のネットワーク」へと乗り換えます。

ステップ8:IXからサーバーへ (相手側のWAN)

データはIXからサーバー側が契約しているプロバイダのネットワークに入ります。あとは今までの逆の手順です。
相手側のネットワーク網を通り、データセンターのルーターを通過して、最終的に目的のWebサーバーへと到着します。
※ サーバー側にも「回線」が存在しますが、データセンターでは家庭用とは異なり、より太く直接的な回線が使われています

3. まとめ

結局「インターネット」とは何なのか?

ここまで、データがPCからサーバーへ届くまでの道のりを見てきました。
しかし、ここまでの経路図の中で『ここからがインターネットです』と明確に指させる特定の「場所」は登場しませんでした。

私たちはよく「インターネットに接続する」といいますが、インターネットという名前の巨大な装置が鎮座しているわけではないのです。

つまりインターネットとは、 「IX(交差点)を通じて、世界中のプロバイダや企業のネットワークが相互につながった『状態』そのもの」 を指します。

■ インターネットの概念図

  • 回線事業者の網(NGN)
  • プロバイダの網(ISP)
  • AmazonやGoogleの網

これら一つ一つは、それぞれが個別に管理されている 「独立したネットワーク」 に過ぎません。
しかし、これらがIXなどの交差点で相互に接続され、網の目のように世界中どこへでも道が繋がった瞬間、それは 「インターネット」 と呼ばれるものに変わるのです。

次なる疑問_ルーターが持つグローバルIPは『自分専用』ではない?

今回の調査を進める中で、私はある驚きの情報を見かけました。
それは、 「ISP側でもIPアドレスの変換(NAT/NAPT)が行われている」 という情報です。

最初は『そんな馬鹿な』と思いました。
私は「グローバルIPアドレスは世界に1つだけの住所」だと習いました。もしISP側でも変換が行われているとしたら、手元のルーターに割り当てられているのは「共有の住所」ということになってしまいます。

しかし、今回整理した「インターネットの全体図」を改めて見返しハッとしました。
インターネットの本質が「IXを通じたネットワーク同士の結合」であるならば、世界中で重複しないIPアドレスが不可欠なのは、ISPが外の世界(IX)に出ていく瞬間[※ステップ7]だけでいいはずです。

つまり、インターネットの仕組み上は「必ずしも各家庭のルーターに個別のグローバルIPアドレスが必要なわけではない」のです。

実は、今回紹介した「PPPoE接続」では個別のグローバルIPが割り当てられることが一般的ですが、近年普及している新しい接続方式では、複数のユーザーで1つのグローバルIPを共有するケースが増えています。

次回は、 「IPアドレスの枯渇問題」と、それを解決する「アドレス共有の仕組み」 について、掘り下げてみたいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!

参考

記事作成にあたり、以下サイトの情報を参考にさせていただきました。

HESI :技術や日々のお仕事などを紹介します

Discussion