AI EXPO 2025 春 に参加しました!
東京ビッグサイト前の写真
【現地レポート】NexTech Week 2025 春 – AI EXPOで見えた“次の社会実装”と、交差し始めたテクノロジーの輪郭
こんにちは!
AIエンジニアの Hayate Esaki(haya21_8) です。
2025年4月16日(水)、東京ビッグサイトで開催された 「AI・人工知能 EXPO【春】2025」 に、エンジニアの友人と参加してきました!
今年の展示・講演は、まさに「生成AI元年」から一歩先へ踏み出す 「AIエージェント」 によるタイミングを象徴するような熱気に包まれていました。
今回は、その中でも特に印象に残った カンファレンスセッション と、 現地で感じた空気感、さらには未来に向けた小さな “気づき” についてレポートします。
会場の雰囲気|“社会実装モード”にギアチェンジした現場
会場マップ
会場マップを見ていただくとわかる通り、AI・人工知能EXPOエリア(右半分)は 圧倒的な密度!
生成AI、LLM、RAG、エージェント、AutoML、そして業種別SaaSがズラリと並び、どのブースも熱心な説明と深い対話が行われていました。
何より印象的だったのは、思わず「面白い!」と感じる技術やサービスに何度も出会えたことです。
会場全体に漂っていたのは、単なる展示会以上の熱量。
「AIが本当にヒトにとって必要なフェーズに入った」 ことを多くの人が感じていて、各ブースではその期待感と現場ならではのリアルな課題意識が交錯していました。
未来を妄想する場ではなく、“いま始める現場” としてAIが確実に動き出している——そんな空気に包まれていました。
注目トピック:AIエージェントの本格始動と、Difyの存在感
DifyのUI
今回のAI EXPOでは、「AIエージェント」のキーワードが各所で飛び交っており、その中でもひときわ注目を集めていたのが Dify です。
Difyは、複雑なLLMワークフローや社内RAG検索、Bot構築をGUIでノーコード実装 できるAIエージェント開発プラットフォーム。生成AI時代の「業務に馴染むAI」として、導入のハードルをぐっと下げてくれる印象でした。
実際に展示ブースでの会話やデモを通じて、“ここからAI活用が一気に広がるぞ” という期待感を感じた方も多かったのではないでしょうか。
実際にDifyについては、詳しくまとめた記事もあるので、興味ある方はこちらもぜひ:
【特別講演レポート】AI活用と法規制への向き合い方
– 企業が、未知の課題に対して、権利への配慮とリスク判断をどう両立するか。
4月16日、「AI・人工知能EXPO【春】2025」Day2で開催された特別講演「AI活用と法規制への向き合い方」では、AI活用における法制度の課題とその対応策について、現場と政策、そして法律の専門家が集まり、深い議論が交わされました。
AIと法制度は“相性が悪い”——ではどう付き合うのか?
「AIと法は、そもそも相性が悪い」
AIは「できてしまう」技術であり、法制度は「何が許されるか」を定めるもの。技術の進化スピードと法の整備スピードの差は埋めがたく、実務現場では 「適法だけど前例がない」というケースが頻発 しています。
「法規制は、日本のイノベーションを止めている最大の壁のひとつ」。しかし逆に言えば、その壁の“向こう側”にこそ、技術者や企業の出番があるとも言えるのです。
「“少しずつ前例を作っていくこと”が今の日本に必要」
Common Crawlと“要配慮個人情報”のリスク
具体的な論点として挙がったのが、大規模言語モデル(LLM)の学習に使用されるCommon CrawlのようなWebスクレイピングデータに含まれる、要配慮個人情報(病歴、前科、宗教など) の扱いです。
- ウェブ上に本人の同意なく公開された情報も、AIが無差別に取得してしまう可能性
- 特に要配慮個人情報は、取り扱いに高度な配慮が求められる
- しかし「それが含まれていないこと=0を証明する」ことは極めて困難
こうした背景の中、東京大学 松尾・岩澤研究室では、こうしたリスクに対処するためのフィルタリングモデル を開発しました。このモデルでは、スクレイピングされたテキストデータに対し、要配慮個人情報を自動的に検出・除去する処理を行うことができます。
現在、このフィルタリングモデルはHugging Face上で公開されており、他の事業者も参照・利用することが可能です。
重要なのは、リスクをゼロにするのではなく、どう減らすか。その対処法を公開・共有することで、他の企業も安心して取り組めるようになるという視点が語られました。
AI開発は“委託”で済まされる時代ではない
もうひとつの論点は、「委託データの活用における法的グレーゾーン」 です。
かつてのAI開発は「受託開発」で完結していましたが、今は企業が自らAIをサービス化したり、クラウド経由でユーザーと繋がる時代。そのとき、個人データが“第三者(ベンダー)”に開示されることの法的リスクが浮上します。
ポイントは以下のような整理でした:
- 委託範囲内なら本人の同意は不要
- だが、AIモデルへの活用は「委託の範囲を超えるか否か」が非常に判断しにくい
- 今のところは「委託の範囲」と見る立場が強い(委員会判断)
- ただし、“何でも委託でいける”わけではない。 線引きの資料や前例が今後求められる
JDLAではこうした曖昧な領域に対して、法と技術の検討委員会を通じて見解を公開し、相談窓口も設置。「個々の担当者にリスク判断を委ねない仕組みづくり」を進めているとのことでした。
委員会:法と技術の検討委員会については、以下のサイトで紹介されています。
松尾豊氏の視座:「やるかやらないか。勝ち筋より覚悟」
途中、松尾教授は国会出席を終えて遅れて登壇。
印象的だったのは、「日本はAIで勝てるのか?」という問いに対する答えでした。
「勝てるかどうかではなく、やるかやらないか。それだけ」
「やれる状況であれば、すでにやっていると思う。日々頑張ることでそれに繋がるのではないか」
—— 松尾 豊氏
AI戦略会議やAI制度研究会では、既存法の活用を前提としながらも、政府内にAI戦略本部を設置する動きも進行中。2025年2月にはAI法案の閣議決定も行われており、国としてもようやく腰を上げつつある段階です。
米国は「イノベーション優先」、EUは「規制重視」。
日本はどちらにも倣うのではなく、「リスクと挑戦のバランス」を模索する時期にある。
まとめ:使う責任、判断する覚悟、そして“止めない意思”
この講演を通じて最も強く感じたのは、「法はAIの敵ではなく、共に進むべき壁」 だということです。企業も開発者も、リスクから逃げるのではなく、判断・説明・対話を通じて前例をつくり、ガイドラインを磨いていく。
AIの活用はリスクと隣り合わせですが、そこに飛び込む覚悟と、“イノベーションを止めない”という意志こそが、今の日本に求められているのではないでしょうか。
「チャレンジする人が“強引”にでも動くことで、社会全体が動き出す」
—— そんなメッセージが、静かに、しかし確かに響いた講演でした。
【特別講演レポート】東京ドームのLINEとNFT活用によるファンマーケティング戦略
– Web3を“楽しさ”に変える、NFTのリアルな社会実装とは?
4月16日、「AI・人工知能 EXPO【春】2025」の併催イベント「Blockchain EXPO」にて開催された特別講演「東京ドームのLINEとNFT活用によるファンマーケティング戦略」では、東京ドームとキリフダ社がタッグを組んだWeb3×エンタメの取り組みが紹介されました。
「enXross」プロジェクトとは?
東京ドームシティ全体を舞台にしたファン体験の再構築プロジェクト 「enXross(エンクロス)」。NFTやLINEミニアプリを活用し、日常的にドームに訪れるユーザーとデジタルでつながる新たな仕組みを導入しています。
東京ドームで過ごした特別な日を、NFTとしてコレクションできるプロジェクト
- 毎日ことなるデザインのNFTを配布
- その日、東京ドームで開催されたイベント情報を記録
- 1日400枚、ドームシティ内だけで受け取れる
といったように、収集・カスタマイズ・交換といった「遊びの要素」がUXに組み込まれています。
本講演の背景や「enXross」プロジェクトの思想については、公式noteでも詳しく紹介されています。NFTが単なる技術ではなく、“人を惹きつける仕組み” としてどう機能するのかを深掘りした内容になっています。
LINE活用とNFT導入の“地に足ついたメリット”
NFTといえば、どうしても「胡散臭い」「投機的」といったイメージが先行しがちです。しかしこの取り組みでは、NFTはあくまで ファン体験を豊かにする“裏方の仕組み” として使われていました。
講演では、NFTを導入するメリットとして以下が挙げられました:
- 紙のシールや引換券を配るのが大変
- NFTだとデジタルなので維持コストが軽い
- LINEを活用するからこそ、個人情報の取得を最小にできる
東京ドームのように多世代が訪れる場所だからこそ、Web3の技術は“尖ったもの”ではなく、むしろ楽しさとして自然に取り入れられることが大切だと強調されていました。
総括:「NFTを“使える仕組み”に変える挑戦」
このセッションでは、「NFTを使うこと」そのものを目的にするのではなく、“NFTがあることでファン体験がどう豊かになるか”を徹底的に考えた仕組み設計が印象的でした。
- 難しいWeb3用語は極力排除し、
- 日常的なアプリ(LINE)をベースにし、
- ユーザーにとって自然な行動を促す仕組みを作る
こうした地道な取り組みは、NFTに対する“怪しさ”のイメージを少しずつ払拭しながら、東京ドームを「 NFTを楽しめるアプリ体験の場 」へと進化させる礎になっています。
NFTやWeb3を“特別な技術”ではなく、日常に自然に溶け込む体験として活用している実例としても非常に興味深く、今後の展開にも注目が集まります。
AIの未来が“見えた”ブース、個人的ベスト3
展示会を歩いていると、技術の凄さや派手さに目を奪われることは多いですが、今回は 「これ、本当に未来を変えるかもしれない」と実感できたブースに出会うことができました。
ここでは、個人的に強く印象に残った3社をご紹介します。
🥇 第1位:AVITA株式会社
アバターで人類を進化させる -Virtualize the Real World-
AVITA株式会社は、大阪大学教授・石黒浩氏のアバター研究をもとに設立された大学発スタートアップ。20年以上にわたる研究成果とAI・アバター技術を活かし、企業のDX支援を幅広く展開しています。
AVITAのブースでは、アバター型のAIロールプレイ支援ツール「AVACOM」 の実演が行われており、まさに「AIが人の育成や対話のあり方を変えていく」現場に立ち会っているような感覚がありました。
画面の中で動いていたのは、アニメ風のキャラクターや猫型アバターたち。
ユーザーの音声や表情に応じて自然なフィードバックを返す“会話AI”と、顔の動きをリアルタイムで反映するアバタードライビング技術が組み合わさり、対話型ロールプレイを没入感のある体験に変えていたのが印象的です。
特に面白かったのは、
- キャラクターの切り替えがワンタップで可能
- 表情トラッキングによって自然なジェスチャーや視線が実現
- 「営業」「接客」「面接練習」など、複数シナリオに対応できる柔軟性
といった実用性の高さ。
“バーチャルの中に入り込んで練習できる” という設計思想は、単なるツールの枠を超えた体験そのものの変化を感じさせました。
「人と人のコミュニケーションに、AIが“第3の相手”として加わる」。
そんな未来のヒントをリアルに体感できた、強く印象に残る展示でした。
🥈 第2位:株式会社松尾研究所
AIの社会実装を語る上で、今もっとも注目されている研究機関のひとつが松尾研究所です。
株式会社松尾研究所は、東京大学大学院・松尾・岩澤研究室の技術とビジョンを軸に、産学共創による社会実装を進めるために設立された大学発ベンチャーです。
AI技術の応用研究、人材育成、スタートアップ支援などを通じて、次世代のイノベーションを支える役割を担っています。
今回のブースでは、大規模言語モデル(LLM)を日本語環境に最適化していくためのデータ整備・環境構築・法的対応といった、実運用を見据えた取り組みが多数紹介されていました。
特に印象が残っているのが、【パナソニック ホールディングス株式会社様】生成AI技術を活用した「松下幸之助」再現AIを共同開発 です。
実は私自身、現在Panasonic社関連の業務にも関わっており、「PX(Panasonic Transformation)」 に関する情報に触れることも多いのですが、この再現AIはまさに “理念継承×テクノロジー”というPXの象徴的な実装例 だと感じました。
また、ブースでは松尾研究所オリジナルのステッカーもいただきました。
思わず「これ、ノートPCに貼りたいな」と思わせるような、現場の熱と遊び心が伝わるアイテムでした。ありがとうございました。
🥉 第3位:株式会社KIZASHI × 生成AI活用普及協会(GUGA)
最後にご紹介するのは、株式会社KIZASHIとGUGA(生成AI活用普及協会) による、ちょっと面白くて、でも核心を突いてくる展示。
このブースでは「生成AIリテラシー診断」と題した偏差値形式のテストが用意されていて、来場者は自分の知識やリスク理解度をリアルにチェックすることができます。
実際に試験を受けてみたところ……
会場内での順位は9位! ただし、偏差値は50・リスク理解度はB判定と、結果にはやや反省モード。
「けっこうイケてるはず」と思っていた自分のリテラシーが、想像以上にアップデートを求められていることを痛感しました。
ちなみに、1年前に受験した「生成AIパスポート」 の内容と比べても、今回の診断は明らかに難易度が上がっていて、技術の進化とともに求められる知識の質も変わってきていることを実感。
リテラシーとは“知っているか”ではなく、“使う前提で理解しているか” だというメッセージが、エンタメを通して自然に伝わってきた体験でした。
印象的だったのは、
- “どう捉えるか”にフォーカスした問いの構成
- 診断を通して、自分が「どこを伸ばすべきか」が分かる設計
- エンタメ感を保ちながら、かなり深い知識ベースに支えられた内容
というバランスの良さ。
生成AIの普及が進む一方で、誤用や過信も課題となる中で、こうした「正しく向き合うためのリテラシーづくり」は欠かせません。
まさに “触れる入口”としての体験設計に秀逸さを感じたブースでした。
実は生成AIパスポートに合格するとブロックチェーン上に保存される “オープンバッジ” が発行されます。このバッジは誰でも検証可能な形式で、学びの履歴を証明する“新しい認証のかたち” として注目されています。
以下は私が生成AIパスポートのオープンバッジです:
AI Table|“AIエージェント時代の幕開け”を見据えた実践型トークセッション
展示ブースだけでなく、今回のNexTech Weekでは実践者同士が集い、リアルな視点を交わす場として 「AI Table」 にも注目が集まっていました。
今年のテーマは、
「Last DX - AIエージェント時代の幕開け」。
生成AIの導入・実践、組織変革、AIエージェントの社会実装をどう進めていくか。まさに “これからの現場” を見据えたテーマで、各分野のキープレイヤーたちによる実例紹介と課題共有が行われました。
AI Tableのセッションの中でも特に実務的なリアリティがあったのが、 「AIエージェントは内製するべきか?」 というテーマ。
登壇したのは、MODERATORの小澤 健祐氏とAlgomatic 執行役員/AXカンパニー CEO の鴨居啓人 氏。
自社内でエージェント開発・運用を進める立場から、「内製と外部サービス活用(例:Dify)の線引き」について、実体験ベースで語られました。
印象的だったポイントは次のとおり:
- 「すべて内製すればいい」わけではない。フレームワークや共通基盤は外部サービスも積極的に活用している
- 内製すべきなのは、自社の業務特性や顧客体験に直結する“思考の部分”
つまり、「内製か外注か」ではなく、“どの層を持つか・どこを借りるか”の設計こそがDXの中核になるという示唆に富んだセッションでした。
この話を聞いて、エージェント活用が単なるツール導入ではなく、“企業の行動様式そのもの” に関わる変化であることを、改めて実感しました。
セッション後には、Algomatic 執行役員/AXカンパニー CEO の鴨居さんと名刺交換&写真撮影の機会をいただきました。非常に面白く、実務にも直結する学びの多いセッションでした。ありがとうございました。
さいごに
今回のNexTech Week 2025春は、単なる技術展示や未来予測ではなく、“いま、どこまでできるか” という現場のリアリズムに満ちたイベントでした。
各所で語られていたのは、「AIをどう使うか」ではなく、「AIとどう付き合い、社会や組織に根づかせていくか」という問い。
テクノロジーの進化と、そこに向き合う人間の姿勢の交差点に立てたことに、強い刺激とヒントをもらえた一日 でした。
未来は、誰かがつくるものではなく、「いま動く誰か」 が引き寄せるのかもしれません。
新しい社会は、少しずつ、でも確実にAIエージェントと共に始まっている。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回の投稿もお楽しみに!
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