エンジニアが「事例でわかる心理学のうまい活かし方」を読んでみた
はじめに
私はエンジニアとしてしばらく飯を食べてきたのですが、最近はPMやリーダーなどでコミュニケーションや人の管理を求められるようになってきました。
このときに、一辺倒に指示をした場合よりも親身に心を近づけてやり取りを行ったほうがよりクォリティが上がり良いものができると考えるようになりました。
今回は、その学習の一環として「事例でわかる心理学のうまい活かし方」という本を読みましたのでそちらの感想をまとめさせていただきます。
注意:ここではあくまでも私の感想を記載しています。内容を詳しく知りたい方は上記のリンクから購入していただくか、ご自身で調べていただければと思います。
本書の概要
この本では、精神科医の方々が実際に遭遇した6件の事例をベースにどのように改善に向かわせる事ができたかを記載しています。
通常のお医者様よりも精神科医は心と密接に関わり持って患者に向き合う必要があります。
そのため、「単純に薬を出して終了」というようなものではなく期間の長いカウンセリングを実施して、患者を改善へ向かわせます。
これらの手法は人を管理する場合にも流用できるものであると考えています。
大きくは下記の6事例の説明がメインとなり、後半は各用語の説明が付録としてついています。
- 家庭内暴力・抑うつ症状:不登校中学生事例
- パニック障害:20代女性事例
- 強迫症状・重度の抑うつ症状・抑えの効かない奮起:男性事例
- パニック障害:森田療法を用いた事例
- 失調感情障害:認知行動療法を用いた事例
- 大うつ病:認知行動療法を用いた事例
- 用語集
全体的な感想
全体を読んで感じた部分は下記である。
- 相手の世界を理解してコミュニケーションをはかる
- 問題を図などにして認識の共通化をはかる重要性
- 知識は相手を納得させるツールの一つ
- 小さな成功をもって相手の信頼を勝ち取る
- 不安などから逃げるのも一時的には良いが、改善するには不安に晒して改善する方が良い
- 相手の状態を理解し、臨んでいる役柄を演じる
- ロールプレイにて自分の行動を再度理解してもらい、問題点を改善する手段もある
- 全体的に治療には年単位の時間がかかっており、人は容易には変わらない
1. 家庭内暴力・抑うつ症状:不登校中学生事例
対象となる中学生は不登校状態が続いており、家庭内での暴力もある。
家族のすすめで受診していることもあり、カウンセラーには当初敵対的な認識(叱られるのではないか?)を持っている。
カウンセラーは最初に怒られることは無いこと、ここでは色々な不満や病気を協力して治していきたいことを伝える。
また、一番最初に困っていることを確認しその解決に対して知識を与えて認知を変えて、どのように対処すればいいかを教えた。
(具体的にはイライラし暴力を振るう件について、脳が疲れていると制御できない事があることを伝えた。)
重要だと感じた部分
* 初面識では相手は自分のことをどのように認識しているかによってコミュニケーションを変える事が重要
* 最初からメインの問題から手を付けずに、相手が問題だと思っている点から協力して解決する。
* メインの問題については非常にハードな対応になってくるため、関係性を築き信頼を持ってもらうことが大事。
* 自分にとって重要な問題でも、相手から見るとその手前の小さな問題が重要な場合がある
このイライラの原因を分解し、それぞれを順番に対処した。
これは、外的な対応と内的な対応をそれぞれ順番に行っていく。
- 痴呆気味の祖母の治療
- イライラした場合に意識的にすることを決める
- 生活習慣を整える
病状の改善が見られたため、グループセッションに移行し他者とのコミュニケーションを確認。
特徴的な問題点を見つけたため、ロールプレイにて自分の問題を認識し、どうすればいいか二人で考える。
重要だと感じた部分
* 問題について内的な側面・外的な側面双方から改善を行う
* コミュニケーションの問題について、ロールプレイなどを実施し問題認識してもらい改善案を二人で探る
その後、徐々に改善をしていった。
2. パニック障害:20代女性事例
幼少期から不安定な母親に育てられ「いらない子だ」などの言葉の暴力によってトラウマを持っていた。
高校時代から抑うつ気分で悩まされる。
就職後に男性の多い職場でパニック障害や拒食傾向となる。
最初に今彼女に起こっている現象を脳科学と心理学の側面から説明を行い認識してもらう。
その上で、気分を落ち着かせることの重要性を説明し、リラックス方法であったものを教えた。
また、パニック障害が発生しそうなときに胸元にいる小さな生き物を癒やすイメージで落ち着くように教える。
重要だと感じた部分
* 問題についての具体的な認識を相手と共通化した
* まず小さな部分からの改善を協力して行おうとした
* 問題をイメージしやすい別のものにして認識させた。
* 問題が起きた場合にそれらのイメージに対して対処を共有した。
しばらくするとパニック障害は静まってきた。
しかし、次の問題として職場で男性職員とのコミュニケーションに関する問題が露呈してきた。
- 上司などに指示されると咄嗟に反応ができない。
- 男性のほうが仕事ができ、自分が劣っていると考えている。
1については、育った環境的に母親からの指示に対しうまく行かなかった経験が記憶に残っていた影響が大きい。
そのため小さくてもいいのでうまく行った経験を積む必要があるという認識を共有した。
また、内向的な人間と外向的な人間の差を伝えて優劣は存在しない認識を共有した。
男女の違いについても劣っているわけではなく考え方ややり方の違いだと伝えた。
これらのコミュニケーションの中で完全にコミュニケーションに応じるのではなく、
助けてもらう、援助してもらうなどのコミュニケーションを行うチャレンジをするようお話をした。
その結果、下記のように改善した。
- 甘えるコミュニケーションにより、他人への相談もできた。
- 甘えるコミュニケーションにより、社内に協力者ができる。
- 男性ではできないきめ細かいやり取りでお客様に褒められた。
- よく観察していると男性のできていない部分も見えてきた。
その後、病状は改善して治療は終了した。
重要だと感じた部分
* 相手との信頼度を上げて認識を共通化して改善をはかる。
* 別の側面からのアプローチを提案する。
* 提案する場合に否定になる場合が多いため十分に注意しながら行う。
* 相手に自信を持たせて少しでも心に余裕をもたせる。
3. 強迫症状・重度の抑うつ症状・抑えの効かない奮起:男性事例
クライアントはWebの情報で自身は治療が必要なのではないかと思い来院。
当初は自身の会社内で過去に大量に希望退職者を募ったところ想定していない人材(使える人)が辞めてしまったた。
そのため、現在はリストラが狙い撃ち的に行われており、その標的になるのではないかという不安が大きかった。
治療を続けて2ヶ月後に強迫症状は改善してきたがうつに近い症状が進行してくる。
趣味が楽しめず人生に希望が持てないなどの症状を訴えてきた。
これまではサポーター的な役割でコミュニケーションを取ってきたが、悲観的な話には母親的な対応、状態改善に関する話については父親のような態度でコミュニケーションを取るように変えた。
また、仕事でミスが多い件については鬱状態だと脳ホルモンの影響でミスが発生するなどの説明を行った。
次の介入として、自動思考的に考える事を順を追って分解した。
- 勤務先が傾く不安
- 転職における年齢的な不利感
- 仕事ができずに会社から排除される
- 誰も自分を大切に思われていない
- ずっと一人なのではないか?
- 自分が消えたら喜ぶ
これらの状態について、これまでの状況と照らし合わせて違うと言い切れる部分について共有した。
目標とする認知と対人関係と相互作用を図解にして説明した。
これを伝えたところ、自分でもできるのかという自信を持って対応を進める事ができた。
治療を勧めていくと幼少期のトラウマ的な出来事が想起され始めた。
父親とキャッチボールを行い殴られた思い出、母親からは子供よりも友達関係を優先されて大事にされなかったこと等だ。
また、学校でもいじめにあったエピソードなども有り、自分もそのような子育てをしてしまうのではないかという不安を訴えた。
これらの出来事については、下記のようなアドバイスを実施した。
- 子育てのやり方をもう一度学べば良い
- 子供は小さい頃そのように権力を誇示する子がいる。貴方は不運だった。
このようなコミュニケーションを続ける事により自尊心を回復していった。
これにより、自尊心を取り戻していったのだが、その後に急に攻撃的になり、周りの人物を攻撃するような言動を取るようになった。
ただ、一通り攻撃的な行動を繰り返したあとに自分が悪かったなどと謝罪するようになった。
両親の問題については関係が続いていることから一旦棚に上げて、過去のいじめ経験に関する感情について語ってもらう治療を行う。
メモ用紙に同級生の名前と行ったことを記載し、悪質性を評価した。
これらの治療の結果、病状は安定しサークルなどにも入り治療を終えた。
重要だと感じた部分
* 現在の問題でも過去に起因する問題がある(1つの側面で捉えない)
* 問題が1つ解決すると隠れていた別の問題が出てくる場合がある
* 紙に書くなど、外側に出すことにより自分の問題を理解する事ができる場合がある
4. パニック障害:森田療法を用いた事例
20代前半の女性で電車内でパニック障害が発症した。
その結果、電車に乗るたびにパニックが起こるのではないかという不安で電車に乗れなくなってしまう。
これを改善したいと治療を開始した。
昔から心臓の動機やあがり症な部分があり、今回発病したものと思われる。
将来的には海外で活躍したいと考えており、そのために治療を行いたいと望んでいる。
総合的に見て生の欲望が強く、回復への動機づけも高かったため森田療法を用いることとした。
最初に不安が生じるメカニズムや基本的な心理教育をお実施した。
また、森田療法で重視している不安を抱えたまま日常生活を行い、不安を感じるところへの暴露を実施する必要性を説明した。
これに対して、患者は前向きに対応することを述べた。
この結果、彼女はこれまで通りに大学に通い、電車に乗ることを続けた。
時々休む場合もあったが、できる限り休まないように伝えて彼女も実現した。
数ヶ月立つとなんとか普通に大学に通える様になって、電車に乗ることもできるようになった。
また、大学ではサークルにも入会し交友の和を広げることができた。
しかし、順調に思えたが問題が1つ発生した。
彼女は大学に通うことや日記を書くことなどを「行うこと」が目的化してしまっていた。
軽度の完璧主義日介しそうであり、友人にもそれを求めてしまう事もあり、トラブルに発展した。
これについてカウンセラーは「本当に自分のやりたいことを考えてやることを選択するべき」というお話をした。
その結果、彼女はサークルについては本当にやりたいことであり、絵を集中して書いていれば周りが遅れた場合も気になることが少なくなった。
このように彼女は、これらの治療で改善が見られたため、治療を終了とした。
重要だと感じた部分
* 本人の前向きな意志レベルを測り、治療法を選択することが大事
* 不安な状況に対し、逃げて心身の回復をまって再度試す案もあるが、不安な状況に対して暴露を行うことで改善を目指す方法もある
* 完璧主義に近い人には「完璧を目指すべきではない」というより、自分が本当にやりたいことを内面に確認するという改善が良い
5. 失調感情障害:認知行動療法を用いた事例
患者は幼い頃から鬱傾向があり、何度もカウンセリングを受けていた。
そのため、今回のカウンセリングでも期待度は低いものだった。
悩んでいる項目の中で、生活リズムが治らないというものが有り、本人もそれについてかなり気にしていた。
具体的には朝に1度目覚めるが、二度寝してしまい昼以降に起きてしまう→そのことを悔やんでいたら夕方になってしまい毎日何も出来ずに苦しいとのことだった。
まず、患者と相談して、これらの問題について一緒に改善する方針とした。
最初の作業として、患者の朝の行動について、細かくまとめてもらった。
問題状況
①朝の7時に目覚ましがなる
⑥部屋が明るくなる
⑮時計の針が12路を過ぎている認知(考え・イメージ)
④カーテンを開けなきゃ
⑧眠い、だるい、まずい、またやってしまいそうだ、でも眠い
⑪ちょっとだけ、ああまただ
⑯またやってしまった、自分はだめだ、こんなことはだめだ気分・感情
⑨不安感、虚しい感じ
⑫虚しい感じ
⑰落ち込み 自己嫌悪 あせり 恐怖身体的反応
②薄っすらと目覚める
⑦眠いしだるい
⑬眠る→自然な目覚め行動
③ぱっと目覚まし時計を見て止める
⑤立ち上がって部屋のカーテンを開ける
⑩ベッドに横になって目を閉じる
⑭時計を見る
⑱夕方頃までベッドでグズグズする
この結果を踏まえて、下記のような目標を作成した。
①時に目が冷めたときに眠い場合も明確に目覚めることを意識して自分の気持を起きる方向に持っていけるようにする。
②ベッドから体を起こし、ベッドに二度と戻らないようにする。
この目標を持って実施し、本人も、思考がここまで影響を与えていることに驚いていた。
問題の解決手順
- 問題を具体的に定義する(大・小で分ける・できる限り具体的に・問題を様々な方面から考え外在化する)
- 現実的に達成可能な目標イメージを同定する
- 目標を達成するための具体的な手段を案出する
- ③の手段を評価し、選択したものを組み合わせ実行プランを作成する。
- 計画を実行し、効果を評価する
この手順にて具体的な計画を策定した。
具体的には割愛するが「声を出す」や「カーテンを開ける」、「コーヒーを飲む」などの具体的な動作まで落とした計画となる。
また、最後には二度寝をしなかった自分へのご褒美としてアイスクリームを食べるということだった。
これらの計画を実行した結果、患者は朝の行動は完全に改善された。
この成功をもとに、患者はカウンセラーへの信頼度が上がり、今後の治療にも前向きになった。
その中で、自分を非難するような声が聞こえるという話があった。
具体的には周りの住民が悪口を言っている、上の部屋の子供がわざと大きな音を出して嫌がらせをしているという内容である。
前の主治医にこのことを話したところ、幻聴だと済まされてしまい改善しなかったということだった。
このようなことがあると胸が苦しくなって生活が厳しいので助けてほしいとのことだった。
ここで、カウンセラーは「幻聴である」という一般的な回答を行わず、「幻聴かもしれないし、実際に言っているのかもしれない」という回答を行った。
その上で、幻聴の場合に過剰に反応してしまうと問題であり、幻聴でない場合も悪口を言う程度に暇を持て余しているような人なので相手にする必要はないという対応策を共有した。
重要なのは仮に本当にそうだった場合という仮説のもとで対応策を考えることで、その上でも自身にはなんの問題もないので反応をするほうが損をするという結論に達した部分である。
胸の苦しさについてもしばらくそういった環境に露暴されることにより、状態が改善する可能性があることを伝えた。
しばらくするとこれらの影響によるうつ状態も軽減されていった。
重要だと感じた部分
* 自身の行動を具体的に分解し、各段階での対策を具体的に検討する。
* 他の人が当たり前にできたことでも、本人が努力した結果であれば成果を褒めるべきである。
* 小さな成功をベースに本題に向かうべき(本題は大きな苦悩を含む可能性がある)
* 人が変わるにはやはり年ベースで時間がかかる
* 自身で正しいと思っていることについて具体的な例を含めて本人も理解するように共有する
* 100%間違えだとしても、本人が真実であると信じている場合は頭から否定せず、それが真実である場合の対応策を一緒に考える
6. 大うつ病:認知行動療法を用いた事例
患者は30代女性で、入社した会社にて多忙+叱責によりうつ病を発病した。
その後、入院退院を繰り返し薬物療法などを行っていたが、あまり改善が見られなかった。
インテーク面接にて、ネガティブな言葉が耳に入るとうつ状態になるなどの症状があった。
これらのネガティブな言葉から連想され良くない状態となる仕組みを図式などに落とし込み外在化した。
この図解をみて、患者と一緒に考えたところ、一人でいるときにこの症状を連想することがわかった。
そのため、できる限り一人な状況を作り出さない行動をするように心がけるようにした。
また、ネガティブな思想に陥る周期やタイミングを確認したところ、自身の生活リズムが乱れているタイミングで陥りやすいことがわかった。
そのことから生活リズムの改善を行うこととなった。
最後に、かなり対人関係について苦手意識があり、病気がバレるのではないかなどの不安症状があった。
これを改善するため、不安から逃げるのではなく露暴することにより、問題が改善するなどの知識の共有を行った。
これらの3点について合意し、問題解決を目指した。
- 一時的な改善と悪化の繰り返し
これらの改善を初めて、調子の良い日と悪い日が繰り返される事があった。
本人的にはうまく行ったり悪い結果になったりと良くない兆候だと感じていたがグラフで記載すると、少量ずつ改善していることがわかった。
波があり、一度悪くなる場合があるが、確実に改善していることを理解して治療を進める事ができた。
- ネガティブな思想をやめられない
家にいるとテレビや母親からネガティブな話を聞かされてしまい気分が落ちてしまう現象が続いた。
これを改善する提案として、近くのところでもいいので出かけて見るという提案を行った。
試しにでかけてみたところ、いい気分にはならないこともあったが、特段悪い気持ちにもならなかった。
そのため、引き続きこの治療法を続けることとなった。
- 対人関係について
会話を行う場合に、自分が喋って病気であることが不安であり喋ることに対して不安になる悩みがあった。
これについて心理学的な知識を共有し、会話はうまく話すことが重要ではなくうまく聞く事が重要であると話した。
その結果、これまで自分本位で喋ってしまっていて、自分本位だったことに気づき友人との会話についてポジティブに前進することができた。
集結として、完全に完治はしなかったものの自分に対する再発見をすることができたと感じた。
また、家でも料理を作るなどの行動の改善も見ることができた。
重要だと感じた部分
* 問題点を具体的に文章や図などに集約して認識を合わせる重要性。
* 知識は他人を説得するために利用し、「試してもいいかな」程度まで落とし込んでお話する
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