エンジニアが「精神科医が教える聴く技術」を読んだ
概要
エンジニアが傾聴の本である「精神科医が教える聴く技術」を読んでみたので感想などをまとめてみます。
この本は著者である精神科医をされている高橋先生が実際に治療の中で行っている「聴く技術」を具体的な症例や実施方法を踏まえて記載しています。
「聴く段階」や「聴けていない場合にどのような不整合あるか?」など非常に具体的にまとまっており読みやすかったです。
文小節も細かくまとまっており読みやすく個人的に非常におすすめです。
全体の感想
治療の段階のお話や、会話についての重要なものは言葉や文章ではなく感情であることが深く理解できた感じがしました。
何より書き手から感じる「なんとか相手をより良い方向へ進めてあげたい」という気持ちを強く感じました。
また、自分自身としてかなり傾聴を行うには難易度が高いなとも思いましたし、完全に仕事の中で活かすことは難しいと思います。
しかし、会話の中で重要なものは理論の他にも感情的な部分が存在して、そこについてどのように理解を示すかが相手とのコミュニケーションを円滑に進めるためには重要なのだと感じました。
エンジニアの会話の中にはこの部分を飛ばしてしまい、伝えることだけを重要視して、相手の感情を無視してしまうことが多いと思います。
なので自信としては意識して感情を聞いて、感情に答えるようにしていきたいと思いました。
治療の段階
最初に悩まれている人の悩みが解決する段階というものがあるそうで、この説明を説明していきます。
- 不安と頑張り
- 抑うつ
- 怒り
- 恐怖
- 悲しみと諦め
- 喜び
この段階は「人が人生で悩む」という状態のとき各段階を経験して問題が解決されます。
なぜ、この段階を経由するのかというと「人生で悩む」というのは、これまで人生の中で決めていたルールでは対応しきれないような問題が発生した場合にルールを変える必要があり、その部分で悩んでしまうためです。
例えばすごく単純に言えば「私は仕事をしっかり終わらせないといけない」というルールの元頑張っていた人がいるとします。
その人は毎日頑張って仕事を終わらせて努力をしてきましたが、どんどん仕事と家庭が忙しくなっていき対応しきれないほど多くなってしまいました。
そこで葛藤が生まれ、最後には自分が対応できる範囲までしか対応しないと決めるのですが、そのルールを変えなければいけないということに気づくまでのストーリーが上記の段階になります。
1. 不安と頑張り
自分の仕事が手に負えないため頑張っています。
ただ、自分で対応しきれないかもしれないという不安を持っています。
2. 抑うつ
対応しきれず、自分が駄目な人間だと自分を攻めます。
3. 怒り
対応しきれなかったのは他のメンバーのフォローが足りなかったせいだ。とか
上司が仕事を振りすぎたせいだという気持ちに変わります。
怒りは外部へのエネルギーとなるため、変わる前段階となります。
4. 恐怖
対応しきれない状態や自分についてルールを維持できない恐怖が生まれます。
今までのルールの紐を手放し新しいルールへ映る前段階です。
5. 悲しみと諦め
自分が仕事をすべて完璧に終わらせられるスキルがないこと、環境は変えられないことに対する諦めが生まれます。
これまでのルールが崩れてしまい、新しいルールを作っていきます。
6. 喜び
新しいルールが適応されて変化を受け入れた段階です。
悩みが消えて喜びが生まれます。
治療について
これらの、治療の段階をうまく発生させるために「聴く技術」を使っていきます。
また、後で記載していきますがうまく聴けていないとこの段階を発生させるのは難しいようです。
傾聴に求めること
傾聴は変化を他人に起こす方法として利用されるのですが、本に記載されている通りであくまでも変化するのは本人であり、カウンセラーはその補助を行うだけです。
「思いっきり考えを語ってもらう」というただそれだけの方法で利用されます。
失敗するとどうなるか
口を挟んでしまった場合に色々な問題が生まれます。
本の中では大きな二点について語られていました。
1. カウンセラーの想定した回答をしてしまう
例えば会話の中でカウンセラーが「◯◯ということですか?」などと言ってしまった場合は、患者も「そうです」などと答えてしまう場合が多々あります。
また、ここまで具体的ではなくても「本人の頑張りが足りないかもしれない」とか「母親に問題があるのかもしれない」などの個人的な考えが相手に伝わってしまうと、相手もそれに反応してそれっぽい回答をしてしまうものです。
正しく傾聴ができていないと、本人の考えではなくカウンセラーの考えが反映されてしまうため、本人の考えを引き出すことができません。
2. 患者がすっきりしない
例えば患者の方が「◯◯について悩んでいます」と言えば、それについての悩みを聞いて解決しようとします。
しかし、患者の深層心理では別の問題について悩んでいる場合も多々あります。
患者に思いっきり話していただくことで、深い心の底まで話してもらって、感情をすべて吐き出してもらいスッキリしてもらうことは非常に重要です。
例えば「〇〇だと思うので、□□はしないように頑張りましょう」などと言われてしまった場合にすでに頑張ってしまっている患者に努力を強要してしまうこともあるかもしれません。
患者にはスッキリとした気持ちで終わってもらうように努力しましょう。
傾聴の訓練
1. 黙って聴く
最初が最も難しいと書かれており、1年ほど練習にかかるだろうと記載されています。
最初の訓練としては「黙って聴く」です。相手のお話を45分程度ひたすら黙って聞くことを目的にします。
黙って聴くには下記の3点は絶対にしないように気をつけます。
- 絶対に口を挟まない
- 絶対に質問しない
- 絶対に助言しない
更に具体的には次の4つを禁止します。
- 指示・承認の口を挟まない
- 復唱・繰り返し・要約をしない
- 明確化しない
- 聞き取れない場合も聞き返さない。
これらを守って傾聴することを目指しますが、最初は非常に難しいそうです。
2. 賛成して聴く
一番最初に「黙って聴く」を勧めたのには理由があるようです。
この非常に難しい聞き方は本人の自信を無くさせます「ああ、なんて駄目なんだろう」という具合です。
その結果、親身になって賛成しながら聞くのが簡単になります。
また、賛成して聞くとは助言をしないということです。
なかなかこれが実現できない場合は、悩みの分類について考えながら相談を聞くと良いようです。
悩みの分類は下記の4つに分けられるとのことです。
- 人が怖い
- 自分を攻める
- 人とうまく付き合えない
- 死ぬのが怖い
この4つにはそれぞれ目指す状態や治療のやり方があります。
詳細は省きますが、各悩みの分類を明確にしていくことで、どのように対応していくかを考えながら対応をする事ができます。
3. 感情を聞く
文章ではなくその中に含まれている感情を聞き取るというレベルとなります。
50分の相談のうち、35分程度(70%)は黙って聞くことに集中します。
その後の15分程度でフィードバックを行い、このまま進めてほしいというニュアンスを伝えます。
その時にこのまま進めてほしいという基準になるのが感情がスムーズに流れているかと言う部分です。
具体的には表現しづらいのですが、感情がスムーズに流れている場合は上手く聴くことが出来ている状態です。
逆に口を挟んでしまっていたりする場合は感情がスムーズに流れません。
どこかおかしな方向に流れてしまっていたりします。
その流れを感じ取り、スムーズに黙って聞けるようになるようにしていきます。
4. 葛藤を聞く
葛藤とは最初の方に説明した治療の段階を意識して、患者の葛藤を聴くことになります。
葛藤と言っているのは、自分のルールと外界のルールが矛盾している状態を指します。
これまではこのルールで生きていたけど、外界のルールがアンマッチが有り上手く動けていない部分が葛藤です。
この部分を上手く理解し、どのように治療の段階を進めて、最後のトリックスターを発生させるかと言う部分になってきます。
トリックスターとは予想外の出来事や事件のことを指します。この事件が最後に発生して、心の葛藤が解決します。
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