中国の "物流シェアリング" サービス利用者が死亡、運送ドライバーが過失致死罪で逮捕された件をまとめてみる
この記事は何?
2021/3/3(水)、中国公安(警察)の発表により、中国の最新物流テックサービス "貨拉拉(LALAMOVE)" の利用者(配達依頼主)が運送中の車から飛び降り死亡し、もう一方の利用者(運送ドライバー)が過失致死罪で逮捕されたことと、そのあらましが明らかにされました。
事件の全容を読むと、下記のような方に何らかの示唆があるかもしれないなと思ったので、その経緯のまとめを試みています。
想定読者
- 中国の最新シェアリングサービスに興味のある方
- 物流業界・引っ越し業界でDXをしようとしている方
- ラストワンマイルを解決しようとしている方
- 〇〇テック(X-Tech)系プロダクトを作ろうとしている方
- シェアリングサービスを使っている方or稼いでいる方
中国の物流テックサービス"貨拉拉(LALAMOVE)"とは
Lalamove Marketing, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
LALAMOVE概要
貨拉拉(LALAMOVE)はユーザと運送ドライバーを結びつけるプラットフォームを提供している企業です。荷物の運送、企業向けの物流サービス、引っ越し、車のレンタル/販売などをターゲットとして、配達を依頼したい人と、配達をして稼ぎたい人を結びつけるアプリを公開しています (Uberの物流版と言えばわかりやすいかと思います)。配達ドライバーは登録後、画像のようなLALAMOVEのバンを借り、それを使って配達をするようです。
2013年12月から香港でサービスを開始していて、2021年3月現在では中国本土352都市、シンガポール、バンコク、インド、ラテンアメリカ、アメリカなど世界の24都市でサービスを展開しているようです。2021年3月時点で、中国本土だけでも登録ドライバー数は200万人以上、平均アクティブドライバー数が48万人/月、月間アクティブユーザ数は720万人というかなりの規模のサービスです。
2019年にシリーズDで3億米ドル、2021年にはシリーズFで15億米ドル調達、時価総額が100億米ドル近くになるなど急速に成長していて、ユニコーン企業の一つに数えられています。
英語版wikipediaはこちら
アプリの使い方 (引っ越しの場合)
実際にユーザが配達を依頼するときにどんな風に使うか説明します。
アプリを立ち上げると荷物の配達や引っ越しなど多数のメニューが表示されます。
ここでは事件に関係のある引っ越しについて説明します。引っ越しには大きく2種類のメニューがあります。
- 荷物の積み込み/積み下ろし・家具の組み立てなども運送ドライバーに任せるお任せコース
- 荷物の運送のみで、積み込み/積み下ろしは自分で行う必要のあるエコノミーコース
例えばお任せコースの一番安いプランの場合、1人の作業員がついて距離10km以内、0.5t車両を使っての引っ越しで119元(日本円で約2000円)です。お安い。
エコノミーコースの場合、基本の料金は移動距離のみで決まります。最安は30元 (日本円で約500円)からです。とてもお安い。
ただし、積み込み/積み下ろしは車が停まってから40分以内に行わないといけないなど、制限があります(40分を超えたら追加料金が発生)。また、エコノミーコースでも、必要と判断すれば適宜オプションで積み込み積み下ろしや家具の設置を付けるなどすることができます。この辺りが事件のポイントとなります。
ちなみに、これだけお安くできるのは、普通中国の賃貸は家具・家電付きで、引っ越しする人の荷物が比較的少ないという事情もあるようです。だから自分で積み込み/積み下ろしを行って荷物を運んでもらう事だけ任せてできるだけ安く済まそうとするんですね。
事件の経緯まとめ
事件は2/6、中国の長沙市で起こりました。
依頼主(被害者)は23歳の小柄な独身女性、運送ドライバー(容疑者)は38歳の男性です。
以下時系列で記載します。一部事実では無いところがあるかもしれませんがご了承ください。
2/6 15時頃 引っ越し申し込み
依頼主がLALAMOVEのアプリで引っ越しを依頼します。
この時に依頼主が支払った金額は39元(約650円)、運送ドライバーが受け取った金額は51元(約850円)。差額の12元(約200円)はなんとLALAMOVEが負担しています。
20:38頃 車が依頼主宅に到着
LALAMOVEのバンが依頼主宅に到着します。依頼主は、積み込み待機料が無料となる40分以内に積み込みができるように荷物やベッドなどを急いで運び出します。全て運び出すまでには15往復ほど、36分(ギリギリ)かかったようです。
この間、運送ドライバーは有料オプションの積み込みサービスが必要かどうかを複数回確認しています。荷物が多そうに見えて、しかも時間ギリギリまで終わるかわからないとあってはそれも当然かなとは思います・・・たったの850円で3時間近く拘束されるわけですし・・・。
21:14頃 引っ越し先に向けて出発
依頼主と運送ドライバーはバンに乗り込み、引っ越し先に向けて出発します。依頼主は助手席に座っていました。道中、運送ドライバーは再度有料の積み下ろしサービス利用の提案をしますが、依頼主ににべもなく断られます。この辺りで運送ドライバーは不機嫌になりしばらく無言のドライブが続きます。
しばらくして、運送ドライバーはLALAMOVEから次の依頼を受け取ります。現在遂行中の依頼を早く終わらせたいと思った運送ドライバーは、LALAMOVEが提示するルートを外れ、近道をするルートを選びます。
依頼主は自分のスマホで友人とチャットなどしていましたが、ふと現在位置が規定ルートが外れていることに気づきます。運送ドライバーにそのことを伝えますが返事がありません。再度聞くと、運送ドライバーはぶっきらぼうに不満を口にします。
21:29頃 事件発生
依頼主は提示ルートを外れていることを再三訴え、遂には停止を要求しますが、運送ドライバーは要求を無視します。
依頼主は時間帯が夜であることもあり、規定のルートを無視し続ける運送ドライバーに恐怖したようです。
(ちなみにLALAMOVEのバンにはレコーダーの類のものは無いようです。)
突然助手席から立ち上がり、窓から飛び出そうとします。
この時運送ドライバーはそれを止めることはせず、車の減速と後続車に向けたパッシングのみ行っています。
依頼主は走行中の車から飛び降り、運送ドライバーは車を止め、確認のため車を降ります。
依頼主の頭部から出血していることが確認されたため、運送ドライバーは救急車を呼びますが、搬送先の病院にて依頼主の死亡が確認されます。
2/23 運送ドライバー逮捕
警察が運送ドライバーを過失致死罪の容疑で逮捕します。
3/3 警察の会見
警察の会見により、上記のことが調査結果として発表されました。
また、運送ドライバーが依頼主に乱暴しようとしたりした形跡は一切見つかりませんでした。
飛び降りようとする依頼主を助けようとして掴んでいたりしたら、そのような疑いがかかっていたのかもしれません。
個人的な感想
これ仕組み上仕方ないのでは・・・。
サービスを利用してより安くしようとした依頼主も、より稼ごうとした運送ドライバーも特にそんなに変なことはしてないんですよね。もちろん説明なしにルート変更されたら怖いだろとは思いますけど、まぁ人間なんだから安い仕事で長時間こき使われたら不機嫌になるのもわかるし、運転手は地元の人で近道知っていたようですし。LALAMOVEもそういうのを緩和するために運転手に少し多めに報酬支払ってるんでしょうけど。
どうしてもシェアリング系のサービスでは知らない人と何かしらの作業なり取引なりをするわけで、そこへの不安はどこまでいってもつきまといますね。評価制度だけでなんとかなる、という世界では無いので、やりすぎるくらいまで利用者同士の信頼関係を築くためのサービス設計が必要になってしまうんだろうなと思います。ただそれは突き詰めて考えると企業のスタッフがサービスを提供するのと何が違うんだろうかという話になってしまいますが。
今回の件の前にLALAMOVEが打てた有効な対策はなんだろうかと考えると、
- バンに犯罪防止用のレコーダーをつける
- バンがルートから外れた時に警告なり罰則なり与える
くらいだったんじゃないかなと感じます。それをやったところで今回の事件が起こらなかったかというとそんなこともなかった気もしますが。
サービスの立て付けそのものが悪いという話なのかもしれませんが、投資家の方にウケてて実際企業としても成長しているわけで、サービスの根本から変えてこの流れを止めるというのは難しいんじゃなかろうかとも思います。
まとめ
そんなわけで、Zenn初記事ですが、最近中国でホットなテック系サービスの1事件をまとめてみました。一応テクノロジーがらみだと思うのですが、Zennでこういう記事を書いて良いのかどうかは知らないので、ダメそうならそっと教えていただけると幸いです。
このようなテクノロジー・サービスが発展したが故に起こる事故とか事例というのはこれからも発生していくと思います。良かれ悪しかれ中国がその辺り最先端をいっていると思うので、最新の中国事情を注視して、今後のプロダクト開発の参考にしていきたいと思っています。
万一反響があるようでしたら今後もこの手の最新事情の話とかを調べたものを書きたいと思いますのでコメントなりLikeなり頂けると嬉しいです。無いようなら趣味のネタアプリ開発に走りたいと思います。
ありがとうございました。
参考記事
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