アプリケーションエンジニアとインフラエンジニアの役割と責任の境界線
初めに
私が所属する組織では、昨年新たにシステム運用部を設立しました。これは、開発と運用が一体化している組織においてセキュリティ面での問題が指摘されたためです。併せてサービス規模の拡大に伴い、システムの複雑性が増し、パフォーマンスや可用性、セキュリティなど、インフラ領域に特化した専門知識やスキルが求められる場面が増えてきたので必要性が高まってきました。
1年間の運営を通じて、開発チームとインフラチームの役割や責任の明確化、コミュニケーション、プロセスの標準化といった課題が浮き彫りになりました。この記事では、アプリエンジニアとインフラエンジニアの役割と責任について調査と分析をもとに、これらの境界がどのように変わってきたのかを解説し、今後の展望やベストプラクティスについても触れていきます。
伝統的な役割分担
従来、アプリエンジニアは主にシステムの機能要件に関わり、ビジネス要件に沿ってアプリケーションの機能を実装することが主な役割で、インフラエンジニアはシステムのパフォーマンスや可用性、セキュリティなどの非機能要件を担当することが主な役割です。アプリケーションはインフラストラクチャの制約に従い、インフラエンジニアはアプリケーションの要求に応じてリソースを提供していました。これはオンプレミス環境での一般的な役割分担でした。
現代の変化
クラウドやコンテナ技術の普及により、アプリエンジニアとインフラエンジニアの役割は大きく変わりました。アプリケーション開発者はインフラを抽象化されたサービスとして利用できるようになり、従来のようにインフラエンジニアに依存することなく、迅速に環境を構築し、アプリケーションを展開できるようになりました。
このような変化により、開発(Development)と運用(Operations)の統合を目指すDevOpsという開発手法が広まりました。DevOpsでは、開発と運用のプロセスが統合され、アプリエンジニアがインフラの設定やデプロイに直接関与する機会が増えました。これによりアプリケーションとインフラの連携が密接になり、システム全体の迅速な開発とリリースが可能になりました。しかし、一方では責任範囲の境界が曖昧になる傾向も見られます。
境界線の曖昧化と新たな課題
このような変化により、アプリエンジニアとインフラエンジニアの境界線は曖昧になってきました。アプリエンジニアは、インフラの知識を求められるようになり、逆にインフラエンジニアは、コードを扱う機会が増えています。例えば、インフラストラクチャをコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)の概念が普及し、インフラエンジニアはコードを書いて環境を自動化する役割を担うようになりました。
こういった曖昧さは、特にどちらのエンジニアがどの責任を負うべきかが不明確になる場合に顕著です。例えば、コンテナ技術の導入により、アプリケーションとインフラが密接に結びつく中で、セキュリティやスケーラビリティの問題が発生した際、誰が責任を持つべきかが不明瞭になることがあります。このような曖昧さは、チーム間の協力を困難にし、チームの壁を高くする恐れがあります。
今後の展望と解決策
以下のような取り組みにより、システム全体の品質を向上させ、効率的な開発と運用を実現することができます。
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明確な役割と責任の定義
- 役割と責任を明確にし、特に非機能要件に関するタスクを洗い出し、境界線を設定します。
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スキルと知識の相互補完
- アプリエンジニアとインフラエンジニアのクロススキルを促進し、定期的なトレーニングを実施します。
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DevOps文化の定着
- 自動化と標準化: CI/CDパイプラインやIaCの標準化を進め、一貫性のある運用を実現します。
- フィードバックループの構築: フィードバックを迅速に取り入れ、システムのパフォーマンスと品質を向上させます。
- チームの協力と文化の構築: クロスファンクショナルなチーム編成や定期的なコミュニケーションを通じて、協力体制を強化します。
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