Engraver が示す、個人開発者によるSNSの可能性
先日からテスト的な配布を開始しております Engraverですが、ようやく多機種対応にもひと段落がつき、少しずつ機能改善にも手がつけられるようになってきました。そんな中ですので、今日はちょっとエモみのある話をしてみたいと思います。
ブロックチェーンが変える、アプリ開発のパラダイム
SNSの開発・運営には、従来であれば大規模なインフラと運営体制が不可欠でした。ユーザーデータの保管、タイムラインの構築、メッセージングの仕組み──これらを実現するには、大規模なサーバー群と、それを維持する技術チーム、そして安定した収益基盤が必要だったのです。
しかし、Symbolブロックチェーンは、この常識を覆す可能性を秘めています。
Engraverの開発を通じて私が発見したのは、オープンブロックチェーンを基盤に据えることで、驚くほど多くの機能をサーバーレスで実現できるという事実でした。投稿、いいね、フォロー、メッセージング──これらの機能のほとんどが、Symbolブロックチェーン上のトランザクションとして表現可能なのです。
「軽い」アーキテクチャがもたらす自由
このアーキテクチャの革新性は、単に技術的な美しさだけにとどまりません。それは、SNSの「あるべき姿」にも大きな示唆を与えます。
従来型のSNSが抱える最大の課題の一つは、巨大な運営組織を維持するための収益モデルです。広告収入への依存は、アルゴリズムによる意図的な情報操作や、ユーザーデータの商業利用といった問題を引き起こしてきました。
一方、Engraverのようなブロックチェーンベースのアプローチでは、大規模なインフラや運営組織が不要です。これは単にコストが低いというだけでなく、「収益を上げなければならない」という重圧からの解放を意味します。
持続可能な開発モデルの模索
とはいえ、完全なボランティアベースの開発にも限界があります。そこでEngraverでは、試験的な取り組みとして、開発者のアドレスに対するトランザクションを集約して表示する方式を採用しています。(念のためですが、現在はテストネットを利用しており、開発者が対価を得るような形にはなっておりません)
この仕組みが受け入れられれば、開発者は極めて小額の──例えば0.0001円単位の──報酬を、広く薄く受け取ることが可能になります。これは「完全なボランティア」と「収益至上主義」の間にある、新しい持続可能性のモデルとなるかもしれません。
小規模なチームの時代へ
Engraverが示しているのは、個人開発者あるいは小規模なチームでも、大企業に匹敵する規模のサービスを構築できる可能性です。それは単に「小規模でもできる」というだけでなく、むしろ小規模だからこそ実現できる「健全性」があるという示唆でもあります。
利益追求に偏ることなく、純粋にユーザー体験の向上に注力できる。
広告モデルに依存せず、ユーザーの信頼を第一に考えられる。
機能の追加や変更を、柔軟かつスピーディーに行える。
これらは、小規模なチームだからこそ持てる強みです。
新しいSNSの形を求めて
現在のSNS環境には、様々な課題が指摘されています。プライバシーの問題、フェイクニュース、アルゴリズムによる分断──。これらの多くは、巨大プラットフォーマーによる中央集権的な運営モデルから生まれた歪みと言えるでしょう。
Engraverは、そのオルタナティブを提示する一つの試みです。個人開発者による、サーバーレスで、かつ持続可能なSNSの可能性を示すプロトタイプとして、このプロジェクトが示唆するものは小さくないはずです。
この実験が成功するかどうかは、まだわかりません。しかし、少なくとも「別の道がある」ということ。それを示せたなら、このプロジェクトは十分に意味があったと言えるでしょう。
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