医薬品の供給不足を解決するアプリを開発しiOS/Android同時リリースしたよ
3秒まとめ
- 医薬品の供給不足問題の根は深い。風邪薬に至っては自由にもらえない時代に既に突入
- 薬剤師ならではの視点をもった、医薬品供給状況を調べるアプリ「Reimei」をリリース
- とにかく機能を絞って、最低限でシンプルな使いやすいアプリを目指して
薬が当たり前にもらえる時代は終焉を迎えました
日本医師会は、医療機関の7割以上が医薬品不足に直面したとする緊急調査報告を発表しました。
医療機関に身を置く方はもちろん、このような情報がメディアによって報じられるようになり、多くの方の目に留まるようになってきました。
咳止めや痰切りなどの身近な薬ですら、必要な人に必要な分だけ供給することができない状況です。
すべてのメーカーの供給量を合わせても、不足しています。
この問題は、小林化工という製薬メーカーが製造工程を遵守せず2020年に睡眠薬を混入させてしまう事件が発生したことを皮切りに、多くの製薬メーカーが製造工程の遵守を怠っていることが判明し、超大規模な医薬品供給不足へとつながりました。
もちろん製薬メーカーだけが悪いわけではありません。医薬品の薬価を限界まで下げようとする厚生省や、危機感から医薬品の買い占めを行ってしまう医療機関など、原因は多岐に渡り、解決が非常に困難な問題です。
「いつも飲んでいる薬は手に入らない。成分は同じだから別のメーカーに変えさせてほしい。」
医療従事者は、そんな言葉をかけざるを得ない状況です。
私が患者なら、気持ちよく受け入れられる状況ではありません。
そんな話をしたい医療従事者もいません。
困難な状況を少しでも、サポートするためのアプリを開発しました。
Reimei - 医薬品供給状況を最速で調べるアプリ
黎明とは、明け方や時代の始まりを表す言葉。
医薬品の供給不足によって苦しむ医療従事者や患者さんの負担を、少しでも軽くするために製作しました。
医薬品は、同成分の薬を複数の会社が提供する形態で供給されます。各社の総供給量が市場の需要からズレないように調整されていますが、先述した不祥事の影響や不採算品目の存在により供給量が急速に途絶える一方、簡単には供給量を増やせないため今回の問題が継続しています。
完全に供給停止しているメーカーや、供給量増加の目途が立たないメーカーに増産を求め続けても、そんな余力はない可能性が高いと考えられます。
しかしながら、企業努力によって製造ラインを増やしたり、人員を投入していて供給量を増やしているメーカーも存在します。
Reimeiは、医薬品名検索によりメーカーの供給量や、これからの供給が見込めそうかといったところまでカンタンに調べることができます。
Reimeiは、医薬品名やメーカー名で医薬品の供給情報を最速で検索できるアプリです。
あえて機能を最低限にとどめ、検索機能のみに特化した仕様が特徴。
ネット接続がなくても動くため、インストールさえしていれば、外部環境を気にせずサッと調べられるように設計しています。医薬品の仕入れについての情報を手に入れるのに手間取ると、患者さんの待ち時間を延ばすことにもつながります。速度と安定性は重要です。
患者さんや関係者への説明も、瞬時にサポート
「薬が入ってこない」状況は、医療従事者はもちろん、薬を服用する患者さんを含め、多くの関係者がよく知る状況です。しかし、薬局でいきなり「薬の供給量が少ないので、最低限しか出せません」と伝えても、患者さんの不安を煽るだけでしょう。
たとえば、上記画像の薬は痰を切る薬ですが、通常供給しているメーカーは半数しか存在せず、それ以外が供給不足 or 出荷停止となっていることがわかります。
この類の薬は予防で持っておきたいといって受診される方や、少し多めにもらえないかと交渉する患者さんも多くいますが、このグラフを見れば、とても全員の要望に応えられないことをひとめで判断できるのではないでしょうか。
薬にかかわる方々が、供給状況について知り・伝えるツールがあまりにも少ない状況です。
Reimeiは、医療に関係するすべての方の負担を減らすためのツールです。
飛び込みの患者さんが来た!医薬品の採用を決める前に
Reimeiは、医薬品名だけでなくメーカー名を検索することもできます。
例えば、飛び込みの患者さんが来たとき、発注する前にReimeiでメーカーについて調べてみてください。供給停止がほとんど、出荷量増加も見込めないメーカーで発注すべきなのか、検討することができます。
いちいち確認する時間も取れないので、卸業者に確認!という薬局もあるかもしれませんが、Reimeiを使うことで、少しでも可能性がありそうな品目に当たりをつけることができます。
MS/MRさんが、外出中に社内システムにアクセスできない。そんなタイミングですぐに供給量を調べるようなユースケースにも対応できます。
素早く薬をそろえ、なるべく継続的に採用し続けられるメーカーの選定に、役立ててください。
もちろん添付文書やIF、メーカーHPなど基本情報にも最速アクセス
薬がありません!と言われたら、まず医療従事者の立場としては代替薬を探さなければいけません。そんなときもReimeiが役立ちます。
そもそも供給される医薬品を探すために、成分名で検索可能です。
さらに、ジェネリックを探す際には、適応が不足品と同じかどうかについても注意して選択する必要があります。そんなときは、PMDAが公開している添付文書を一覧で見たいと考えられるため、Reimeiでは、PMDAの各薬品のページへのリンクを用意しています。
また、詳細を問い合わせしたいというタイミングも発生することが想定されるため、各メーカーについてもリンクを用意しました。
Flutterでとにかく開発コストを下げ、機能を絞って開発
そもそも公益性を重視したプロダクトにしたかったので、決済やユーザー認証など、少しでも重くなりがちなフローは一切実装する気がありませんでした。なんと現段階では広告すらついてません。
- 薬を検索する機能と、審査を通すための最低限の実装のみを行う
- Webサイトとして同様の情報を提供しているサイトもあるので、iOS/Androidのネイティブ版のみを提供する
- 医薬品供給データ自体は頻繁に更新されるものではないので、思い切ってDBはローカルのSQLiteでいい
そもそも医薬品データは2万以下なので、最低限のSQLiteのチューニングで十分実用に耐える速度を実現できたと考えています。ネットワークのオーバーヘッドがかからない分、その辺もだいぶ工数を削減できていると考えています。
また、ユーザーは検索結果のリストをずっと見ることになるため、体験を向上させるためにアニメーションを利用してヌルヌル動くように工夫しています。このアニメーションにより、スクロール体験が向上しており、テストで利用していただいた方からはヌメヌメスクロールが気持ちいいという意見をいただきました。
フォントについては、やわらかくて視認性の高いLINE Seed JPを利用しています。以前はNoto Sans JPをよく利用していましたが、医薬品供給に関する情報は固いイメージなので、すこしでも柔らかい印象を与えて中和したいと考え、LINE Seed JPとしました。
Reimeiが活躍するとき、医療従事者には時間がなく焦っているような状況が見込まれるため、柔らかい印象を与えるためにフォントや色の与えるイメージがきつくならないように調節できたと思います。
医療を提供したいのに、謝ってばかり。そんな状況をなんとかしたかった
私は現在はIT業界に身を置いていますが、医薬品不足問題が発生した2020年は医療現場で薬剤師として働いていました。当時は回復に2年程度かかるといわれていましたが、2023年現在、一切改善の見込みはありません。
当時は本当に謝ってばかりでした。患者さんには申し訳ございません、どうしてもこの薬は入ってこないので、成分が同じだけどメーカーが違う薬でどうにかお願いしますと。
当時メーカーはこの品目は大丈夫だからと言っていたため、それを医師に伝え、なんとか用意しても、結局需要過多になりすぐに欠品。そんな状況がずっと続いていました。
大部分の医師、患者には理解があり、仕方がないからと文句も言わずに状況を受け入れてくれましたが、当然苦言もたくさんいただきました。
信頼して医薬品の管理を任されているのに、肝心の薬が用意できない。
医療が提供できない。
そりゃ苦言くらい言われて当たり前。
本当に悔しかったことを今でも鮮明に思い出せます。
2023年11月には、武見厚生労働大臣が不足している咳止めをはじめとする医薬品についてメーカーに増産を要請していました。でも、そんなん無理に決まってます。
有名な咳止めの薬、メジコンは1錠5円以下、痰切りのカルボシステインは1錠8円程度。逆に、抗がん剤のキイトルーダは1瓶で21万円です。
もちろん、薬効や開発費用などにも大きな差がある薬を無理やり比較したものですが、儲からない薬を増産できるほど製薬メーカーに余裕があるとは思えませんし、少しでも利益の上がる薬を作りたいのは当然です。
猛威を振るうインフルエンザ。友人の薬局では治療薬タミフルのうち、特に子供向けのものがなかなか入ってこないと嘆いていました。この問題は、そうそう簡単に解決するものではありません。
薬剤師でありながらITエンジニアとして働いている、自分のスキルを活かして、なにか少しでも力になれることはないか。そんなことを考えて、Reimeiを作成しました。
Reimei(黎明)には、医薬品供給が不足する時代の夜明けという意味が込められています。
もちろん、このアプリでこれだけ複雑な問題が一挙に解決すると楽観視はしておりません。現場にいる医療従事者や患者さんへの負担が、少しでも減ればいい。それだけを願っています。
おまけ
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前回の記事を書いたときは、1年の75%が過ぎていた頃。
なんと今日は95%が終了しているらしい。
時が過ぎ去るのは早いものです。
残念ながら医薬品供給問題の根は深く、おそらくすぐには解決しないでしょう。
薬剤師であり、ITエンジニアでもある自分だからこそ、これからもITで薬の問題を解決する手助けをしていきます。
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