"Kubernetes(AKS)のアップグレードに失敗しない漢" になる
イオンスマートテクノロジー DevSecOps Div SREチームの齋藤( @hikkie13 )です。
ふと、今年を振り返った時に、去る3月にAKSのアップグレード戦略について語る機会を頂いたので、その内容を改めて記事にしようかと思います。
AKS とは
AKSとはAzure Kubernetes Serviceの略称であり、Azureで提供されるマネージドのKubernetesです。
AKSのアップグレード戦略を語るイベントとは
去る2024/3/26に【2024年のAKSアップグレードを語る】ベストプラクティスと実践事例というイベントを開催しました。
光栄なことに、日本マイクロソフトの真壁さん、Microsoft MVPであるAPCommunicationsの吉川さんと対バンさせて頂きました。
そこで私は、「イオンスマートテクノロジーで実践しているAKSアップグレード戦略」というタイトルで発表をしました。
本題:AKSアップグレード戦略
アップグレード戦略の概要
AKSのアップグレードは、以下の方針で定期的に実施されています。
-
Minorバージョンアップグレード (x.y.z の y)
- Microsoftが推奨する
n-2ポリシー に従う。 - 必然的に、1年に1-2回アップグレードを実施することになる。
- Microsoftのサポート終了時期は、公式ドキュメント:Azure Kubernetes Service (AKS) でサポートされている Kubernetes のバージョンを確認する。
- Microsoftが推奨する
-
Patchバージョンアップグレード (x.y.z の z)
- 自動アップグレードを設定し、セキュリティ修正やバグ修正を迅速に適用する。
- Patchバージョンのリリースは月に一回ほど。Azureとしてskipされることもある。
LTS(Long Term Support)の採用は?
AKSにおいては 1.27以降で特定のバージョンにのみLTS(Long Term Support)という長期サポートが提供されている。通常1年間のサポートが、延長されて2年間になる。
本記事執筆時点の2024/12/24では、1.27および1.30が対象となる。

https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/aks/supported-kubernetes-versions?tabs=azure-cli#aks-kubernetes-release-calendar より
現状、弊社ではLTSを採用しない方針としています。
理由は以下です。
- 3rd Partyツールなどと組み合わせている場合、そちらがLTSのバージョンと整合するかを考えるのが大変
- 1回のアップグレードで発生する差分が大きくなる。(アプリケーションでいうビッグバンリリースが良くないという文脈と同じ)
- Kubernetesの新機能を活用する機会を失う。
アップグレードの実施の流れ
特別なことはしていませんが、以下の流れで実施しております。
-
事前確認
- KubernetesとAKSのChangelogを確認し、廃止予定のAPIや変更内容を把握。
- 必要に応じて、Zennの記事などを活用して最新情報をチェック。
-
テスト環境での検証
- アップグレード前にテスト環境やステージング環境で動作確認を実施。
- アプリケーションや関連するツールが正常に機能するかを確認。
-
本番環境への適用
- 切り替え方式は以下の2種類がある:
- In-place: 現行クラスタ内でRolling Upgradeを実施。
- Blue/Green: 新クラスタを作成し、トラフィックを切り替える。
- 切り替え方式は以下の2種類がある:
アップグレード切替方式
アップグレード切替方式としては主に2種類あります。
In-place: 現行クラスタ内でRolling Upgradeを実施。

https://speakerdeck.com/torumakabe/aksnoatupudetowoshou-nazukero-mazuli-jie-sositeshi-jian?slide=9 より
- この時、worker nodeの追加やPodの再作成が行われる。
- 既存PodはEvictされ、新規worker node上で起動される。
Blue/Green: 新クラスタを作成し、トラフィックを切り替える。

https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/architecture/guide/aks/blue-green-deployment-for-aks より
イオンスマートテクノロジーでは、2種類のアップグレード方式を使っています。
- Patchアップグレード: 全てIn-place
- Minorアップグレード: クラスタによって使い分けている。
方式の比較
2種類の方式のメリット・デメリットを表現すると以下のようになるかと思います。(個人の見解)
| 方式 | In-place | Blue/Green |
|---|---|---|
| 作業コスト | ○ | ×(クラスタの構築、トラフィック切替の準備) |
| 切替時間 | △(アプリケーションの起動時間やクラスタの設定次第) | ○(当日切り替えるだけ。重みづけルーティングの場合は設定次第だが、in-placeよりは短いことがほとんど) |
| Rollbackの可否 | × | ○ |
| 切り替えの制約 | ×(1バージョンずつ) | ○ |
| 作業時のサービス影響 | △(drain時に一時的にキャパシティが落ちる) | ○ |
アップグレードを安全に行うための考慮事項
上記にまとまっていますが、簡単に解説します。
計画メンテナンス
自動アップグレードに対して、計画メンテナンス期間を設定することができます。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 最低4hの枠の指定が必要
- 尚且つ、「この枠のどこかで開始される」という定義なので、4hの枠の終わり際に開始される可能性もある。(メンテナンスウィンドウではない)
- 細かい設定ができない。
- 複数条件を指定したい場合については今後の期待
Max Surge Size
-
同時に最大でどのくらいのノード数をアップグレードするかを決めるパラメータ
-
値が大きいほど、同時のいなくなるノード数やPod数が多くなる。
-
設定していない場合は、1台となる。
-
20%のように、クラスタ全体のノード数に対する割合で指定することも可能。 ※小数点以下は切り上げ -
Microsoft社の推奨は
33%

https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/aks/upgrade-aks-cluster?tabs=azure-cli#customize-node-surge-upgrade より -
この設定はAzure Portalからは設定できず、azコマンドもしくはterraformにて設定する必要がある。
Pod Disruption Budget
PDBとは、自発的なDisruptionによって同時にダウンするPodの数を制限する仕組みで、今回のようなアップグレード中に特定のアプリケーションのレプリカ数が0になってしまうような事態を防ぐ仕組みです。
-
minAvailableもしくはmaxUnavailableで指定する。 - パラメータには、整数もしくは割合で指定可能(小数点以下切上げ)
個人的な経験では、 minAvaiable の指定だとトラブルになりがち(PDBマターでアップグレードが止まる)のため、 maxUnavaible 前提でサービスに影響を与えないような設定をすることをお勧めします。
Podの安全な停止/起動の設定
こちらは、アップグレードに限った話ではないのですが、Podの停止・起動が発生する以上
- Graceful shutdown
- PreStop hook
- liveness/readiness/startup probe
を適切に設定することは重要です。
ここら辺を適切に設定しておかないと、アップグレード時にエラーが発生することになります。
アップグレード自体の本筋から外れるので、以下を参考ください。
その他、アップグレードに自信を持つための準備
「とは言えアップグレードは怖い・・・」という方のためには、以下の観点で練度を高めていくと良いと思います。
- 可観測性 (Observability) の向上。
- IaC管理により、「いざとなれば作り直せる」という準備
- 万が一エラーで止まった時の手立てを確認しておく。公式ドキュメント: AKSのアップグレードリトライ方法に記載がある。
- 回数を重ねて、組織として練度を高める姿勢を保つ。
まとめ
以上、イオンスマートテクノロジーにおけるAKSのアップグレード戦略について解説しました。
皆様も "Kubernetesのアップグレードに失敗しない漢" を目指してお互い頑張りましょう💪
参考資料
- AKS Changelog
- Zenn AKSリリースノート
- Microsoft Docs - AKSのアップグレード
- AKSのアップデートを手なずけろ! まず理解 そして実践
- イオンスマートテクノロジーで実践しているAKSアップグレード戦略
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