AI Agent Day 2025 Summer 参加レポート
こんにちは!ぎょりです。
2025年7月9日(水)〜11日(金)に開催されたAI Agent Day 2025 Summer(オンライン)に参加したので、簡単に参加レポートをまとめました!
概要
AI Agent Dayは一般社団法人AICX協会が主催する国内最大級のAIエージェントのカンファレンスです。「事例」「組織」「未来」という3つのテーマのもと、産業に関わらずAIエージェントの最新活用事例や技術動向、組織づくり、制度設計などの知見を共有していただきました。経営層から現場担当者まで自社の導入戦略や組織変革に直結する学びを得られる3日間だったと思います。ここでは、その中から印象的だった講演を5つピックアップしてご紹介します。
実例に学ぶ 顧客設定を任せられるAIエージェントの始め方
企業:株式会社セールスフォース・ジャパン
Salesforceは、世界最大のCRMプロバイダで、国内カスタマーサービスアプリ市場において49.6%のシェアを占める大企業です。また、国内だけでも8000件以上のAIエージェント導入実績があり、AIエージェント導入においても多方面から信頼を得ている企業だと感じました。
📊 Salesforceの国内導入事例
企業名 | 取り組み内容 | 成果・効果 |
---|---|---|
富士通 | チャットボットでは8往復かかっていたやりとりを、AIエージェントにより1往復に短縮 | 問い合わせ全体の15%を削減 |
ギブリー (DX支援企業) | 採用業務にAIを導入し、夜間・休日の対応も可能に | カスタマーサポート業務の97%をAIが担当 |
Gigi(食品支援プラットフォーム) | 自社プロダクト「GOCHI」の顧客対応窓口を完全にAIに置き換え | メール・電話によるサポートを完全終了 |
⚡ AIエージェント開発を加速するプラットフォーム「Agentforce」
Salesforceは「Agentforce」というAIエージェント構築・展開のためのサービスを提供しています。作成したエージェントに対して、[質問生成]・[回答生成]・[回答評価]などのテストをAIが自動で大量実施できるのがとてもすごいと思いました。ADKを使った開発もかなり便利だと思いますが、やはりファインチューニングやマルチエージェント調整に時間がかかってしまうため、一連のテストを大量に実行できる点がとても魅力的に感じます。
🤝 社内導入プロセスも支援
AIの実装が進まない理由の1つに、上司の説得など社内調整の難しさがあると思います。Salesforceはその点においても、単なる技術支援にとどまらず、いわゆる「社内で人を動かす」ところまでカバーしているところが流石だなと思いました。AI導入に慎重な経営層に対しては、長期的なコスト削減効果を数値で示し、合意形成を後押しします。また、AIエージェントが正しく機能するために重要な、データ構造や意味を説明するメタデータの整備の支援も可能とのことでした。
エンタメの雄・DeNAは何を狙うか|事業を変革するAIエージェント開発の最前線
企業:株式会社ディー・エヌ・エー
DeNAは「AIに全賭け」という強い意思のもと、1500人規模でAIを軸とした新規事業を始めています。AIツールを試したいと申請すればすぐに利用できる環境を整備しており、AI導入の体制が整っているのはとても羨ましいです。
👥 AIも採用し育てていく存在
人を新たに採用し、研修や懇親会を通して組織に馴染ませるように、AIも同じように研修が必要です。いきなり業務に組み込もうとするのではなく、1つの人格として向き合い、育成しながら実践に慣れさせていくステップを踏むことで、AIは組織にとって本当の戦力となっていきます。
AI導入は、会社や個人にとっても大きなメリットとなると思います。うまくいけば、成果と作業量の正の相関から抜け出すこともできるはずです。しかし、そこまでのプロセスは地道で泥臭い作業の連続だなと日々感じております。AI導入を成功に導くためには、「共に働く存在」としてAIという人格と向き合うことが大切だと感じました。
🧩 AIの新規事業へのオンボーディング
DeNAでは、AIネイティブな新規事業の創出を基本として様々な取り組みをされていました。その1つが↓↓↓です。今や、Claude Codeを使えばプロンプトひとつでとんでもないアプリをアウトプットできるようになりました。こうなるのも必然な気がします。自分も新規事業企画に関わっていますが、動くもの、見えるものがあるだけで話の膨らみ方が全く異なるのを感じていました。弊社でもまずは自分から実践していきたいと思います。
また、チーム編成においてもAIを積極的にアサインする環境が整っていました。AIを開発やナレッジ共有のプロセスに組み込むことで、結果としてAIが扱いやすいコードやドキュメントが増え、AIとの協業が加速していくという好循環が生まれつつあるそうです。
クレディセゾンのDXとAI活用について 今までとこれから | 事業会社がAI時代に備えて取り組むべきこと
企業:株式会社クレディセゾン
クレディセゾンはクレジットカード発行会社としては珍しく、100%「内製化」している特徴のある企業です。エンジニアは200名規模で組織され、開発プロセスにおいて「作る側(SE)」と「望む側(事業部)」が完全に融合する、伴走型内製開発を実現しています。
🔍 AIエージェントの導入と課題
クレディセゾンでは、すでに複数の業務領域でAIエージェントを導入しています。しかし、ハルシネーションの懸念がどうしても払拭できないため、ヒューマンインザループの仕組みを取り入れ精度を担保しているそうです。
社内AI活用の取り組み
FAQアシストシステム
規則・規定・社内情報をAIに学習させた専用の社内FAQアプリです。社員から質問が来たら、[AIが自動で回答を生成]→[人間がチェック]→[問題なければ返信]というサイクルで精度を担保しています。ただ、社員からは裏側に人間がいると気軽に質問しにくいので「AIだけで完結できないか?」という要望が多く出されているようで、AIだけで完結できるよう日々精度向上に取り組まれていました。
社内アイデアコンテスト
業務効率化のAI活用アイデアを募集するというコンテストを全社員向けに実施し、優秀者には商品券を配るなどボトムアップ型の推進が行われていました。この施策はとても面白いなと感じます。やはりAI導入は業務を一番理解している現場の人間からアイディアベースで出してもらうことがいちばんの近道ではないかと思います。自分のアイディアが採用されたとなれば、他にもAI活用できるところはないか自ら考えるという好循環が生まれるのではないでしょうか。
🏆 業務効率化の成果
AI導入の結果、2019年と比較して161万時間(=約800人分)の工数削減を実現したそうです。インパクトがありますね...数字が大きすぎて、ちょっと想像しづらいレベルです。下記は代表的な事例です。
クレカ審査のAI化
従来は人手で対応していた審査を、最短0秒審査へ。裏側ではAIエージェントが非同期で審査。
コールセンターのAI導入
従来の「番号選択型IVR」から自然発話による問い合わせ振り分けをAIがする仕組みへ。
これは画期的ですね!!「~~の方は1を」みたいな自動音声を待つ必要がなくなりますし、自分ではどの番号か判断がつかず結局たらい回しにされるようなことがなくなるのは素晴らしいと思います!
不正検知
従来のルールベースでは検知が難しいパターンも、AIによって高精度で判定できる仕組みを構築。
🔗 レガシーシステムからの脱却
DX推進において避けて通れないのがレガシーシステム問題だと思います。経産省の「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」には、モダンなシステムは疎結合で、様々なツールやサービスとのデータ連携が容易であるといったようなことが書かれています。
クレディセゾンでも、基幹システム刷新時には必ずAPIで呼び出せる設計を徹底しており、AI活用を進めるためにもAPI化は必須条件だと感じました。JALが拓く空のDX革命|SLM活用事例と未来のAIエージェント構想
企業:日本航空株式会社
✈️ JALでの取り組み
JAL-AI
JALでは、空港や空でのマニュアルなどを学習させた社内専用の生成AI「JAL-AI」を導入しています。全社員対象にレクチャーを実施し、社員の約80%が利用しているそうで、PoC止まりじゃない本気度を感じました。生成AIの導入だけでなく、使い方を浸透させる教育にも力を入れているのは、DX成功の共通点だと改めて思いました。
AI合宿
社員57名連れ沖縄(※たしか)へ行き、AIの学習を目的としたワークショップを実施されていました。AI専門の講師を招いて講演やディスカッションを行い、AIに対する理解を深める時間としたそうです。ビーチフラッグなどのアクティビティでリフレッシュする時間もあったそうですよ(笑)。
📶 空ではネットは繋がらない
航空産業が抱える課題に、広い空港内や空でネットに接続できない環境があるというものあります。クラウド前提のAIでは、この制約は致命的です。
そこでJALが注目したのが、SLM(Small Language Model)をファインチューニングして端末に搭載するというアプローチです。SLMはパラメータ数を抑えた軽量な言語モデルで、知識量や汎用性はLLMより制限されるものの省メモリで動作可能というメリットがあります。JALは社員端末にiPad miniを使用しており、この端末上で完全にローカルで動作するAIが求められていました。その点、SLMはオフライン環境でもスムーズに稼働できるため、現場の要件にぴったりの解決策となったのです。
この取り組みによって、JALはファインチューニングのノウハウを獲得するとともに、小型端末におけるAIの実力と限界を把握することができたそうです。
個人的には、この事例で初めてSLMという概念を知り、とても勉強になりました。もちろん、LLMを使える環境であればそれに越したことはありません。しかし、特定領域に特化した学習を行うのであれば、SLMでも十分実用的であることが分かりました。そして、iPad miniクラスの端末で、完全にローカル動作するAIが実現できるという点は、非常に驚きました。
AIエージェントと描く『新たな共存関係』のカタチ
最後に「ドラえもんを作ることが夢」と語る大澤正彦さんのお話がとても面白かったので、要約してご紹介します。
❤️ 言葉を超えた「心の通じ合い」へ
近年、AIエージェントは「ツール」としての役割から、より人間に寄り添う「存在」へと進化しつつあります。GPT5がリリースされ、#keep4o運動がSNSを中心に発生したように、4oにあった「暖かさ」や「共感力」のある人格に我々は無意識のうちに魅せられていたようでした。
しかし、4oはまだ我々の心を理解して会話していたのではありません、なぜなら「心が通じ合う」コミュニケーションの実現には、単なる対話精度の向上では解決できない大きな課題があるからです。
🗣️ なぜ、ただ言葉を理解するだけでは不十分なのか?
現在のLLMは、自然な言葉のやり取りを得意とします。しかし、人間同士の「心が通じ合う」コミュニケーションは、言語だけで成り立っているわけではありません。
言葉が通じること ≠ 心が通じること
たとえば、友人との会話では、言葉以上に表情や空気感、関係性が重要です。この非言語的なつながりをAIがどれだけ再現できるかが、次のブレイクスルーになります。そのために、「意図を読む」「感情を感じ取る」「文脈を超えた共感」などを統合して精度を上げる必要があります。これを実現できれば、本当の意味で人間に寄り添う「存在」へとなれるのではないでしょうか。
👫 この分野で日本は最先端
実は、この領域で日本は世界でも先端を走っています。その背景には、日本文化特有の価値観があります。それは、あらゆるものに魂が宿るという考え方である「八百万の神」的な世界観です。また、ドラえもん、初音ミクなど、「心を通わせるAIキャラ」への親和性もあるでしょう。
欧米が「効率化」や「合理性」に注力してきたのに対し、日本は「共生」や「情緒」を重視してきました。この文化的背景こそ、AIエージェントを心を通わせる存在へ進化させるうえで大きなアドバンテージです。
🔮 これからのAIエージェント像
言葉の精度を高めるだけでは限界があります。「共感」「文脈」「関係性」を理解し、まるで友達やパートナーのように寄り添うAI――これが、次世代のAIエージェントの姿です。そして、この分野において、日本には文化的・技術的な優位性があります。そしてこの分野(HAI)の論文数は現に日本がトップだそうです。日本の勝ち筋はここにあると大澤さんは考えていらっしゃいました。
まとめ
今回のセッションでは、単にAIを導入するだけでなく、組織の文化や働き方そのものを変革する必要性を感じました。Salesforceの「開発から社内説得まで伴走する仕組み」や、DeNAの「AIを人格として育てる」という考え方、クレディセゾンの「現場発アイデア推進」、そしてJALの「SLMによるオフライン対応」など、各社の事例には共通して人とAIが協業するための土台づくりという視点がありました。
特に印象に残ったのは、AIを単なるツールではなく、共に働くパートナーとして捉える姿勢です。育て、チームに馴染ませるプロセスを踏むことで、初めて本当の戦力になるという考え方はとても興味深かったです。また、制約のある環境でも工夫次第でAIを活かせることを、JALのSLM事例から学べたのも大きな収穫となりました。
今回の学びを通じて、「AI活用は技術導入ではなく、組織変革のプロジェクト」だという確信が持てました。弊社でも小さく試しながら、AIをパートナーに育てる取り組みを始めたいと思っています。
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