【第1回】0から自分たちでメタバース上にオフィスを作る-企画とコンセプトと設計-
はじめに
はじめまして。株式会社GUNCY’S(グンシーズ)テクニカルプランナーの小林です。私たちGUNCY’Sが普段おこなっている仕事は、3DCGをはじめとしたデジタルコンテンツの制作・開発を、企画段階からプロダクトにするまで、お客様の思い描くゴールを具現化するために、0から1を生み出す仕事をしています。
新型コロナの流行に伴って拡がった、仕事のスタイルの一つである「リモートワーク」。もし会社が完全なリモートワークで、社員全員が遠隔地で業務を進めていくことになった際、会社および組織として、どうやって形を保って業務を進めていくか。社員同士のコミュニケーションを円滑にするにはどうすればよいか。会社の経営や運営、管理を行う役職にいる方は必ず悩む種になるかと思います。
本記事では題名にもある通り、複数回にわたり私たちGUNCY’Sがバーチャル空間上にオフィスを作った経緯やその作り方、工夫した点、空間がどう機能しているかなどをお話していきます。
株式会社GUNCY’S
株式会社GUNCY’Sは、3DCGをはじめとする最先端テクノロジーを熟知したメンバーと独自の戦略・ユニークな提案などで、人々が思い描くあらゆるアイデアやイメージを実現・成功へと導く現代版”軍師”集団です。プロジェクトコンサルティングやデジタルコンテンツ制作・開発、教育・執筆・講演など様々な事業を執り行っております。
プロジェクト発足
私たちGUNCY’Sはコロナ禍から現在に至るまで、全社員が遠隔地からのフルリモート体制で業務を行っております。そこでフルリモートの形の一つとしてバーチャル空間上にオフィスを作るという企画が立ち上がりました。バーチャル空間上で社員同士が業務のコミュニケーションを図ったり、リアルタイムでのやり取りで業務のスムーズな進行を促すことが目的です。
まずはUnrealEngine、Unityでメタバースサービスに対応した状態の3D空間を用意し、VRChat向けのワールドの公開することを目標にしました。
コンセプト
まずは空間のコンセプトを用意するところから始まります。この空間がどのような願いで存在するのか、その意義を考えました。
会社の風土、社風、そしてどんな仕事を取り扱うか。
社員同士のコミュニケーションのとり方がどうなるか。
この会社を構成している人間の在り方を洗い出し、その本質と空間との関係性を一言の言葉に表します。
「綯い交ぜる空間」
綯い交ぜる(ないまぜる)とは
- 種々の色糸をより合わせて紐などにする
- 質の違うものをまぜ合わせる
GUNCYSは幅広く洗練された様々なスキルやナレッジ、経験、コネクションという色糸が綯い交ざり、お客様の問題解決の糸口へと繋ぐソリューションを提供する。
GUNCYSを構成するメンバーは個性豊かで幅広い界隈から集まった、十人十色のメンツが綯い交ざるチーム。
そんなGUNCYSのチームメイトが紡がれる一つの空間は、GUNCYSを象徴し、その空間の機能、質感の境界線は綯い交ざったものとなる。
これらはすなわち、空間の糸、人の糸、各々の糸が綯い交ざれば、コミュニティは強い糸となり、コミュニケーションはより活発化する。
オフィスとは単に仕事をする場所ではなく、更にはリモートでありバーチャルだからこそ強い糸で結ばれた場所であるべき。
という願いを込めてコンセプトを設定しました。
空間設計
コンセプトまで決まれば、実際に空間の設計に進みます。まずは、リファレンス集めと、ざっくりラフスケッチを描きつつ、空間の構成を考えていきます。
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ラフスケッチ
今回は、GUNCY’Sのロゴの形、広がった糸が紡がれる形、軍師が身に着ける兜の形を意識して構成します。
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ゾーニング
外観の形を決めつつ、ゾーニングも同時に考えます。
ゾーニングとは、空間の要素や機能を考え、それを区切っていくことです。簡単に言うとだだっ広いところから部屋を区分けする作業です。
入口から入ってきて、重要な機能やよく使う機能を備えた空間は移動距離を短くし、普段使わない空間は移動距離が遠いところに配置します。
またすべての空間に到達するのにかかる時間が偏りすぎないようにして、複雑で分かりづらい導線にならないように注意を払います。
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ゾーニングラフ案
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ゾーニング具体案
今回はデザイン班というチームを構成し、複数人で空間のデザインを検討しました。
複数人がリアルタイムに、一つのキャンバス上で絵が描けるペイントツールを利用して、ミーティングしながらその場でイメージを描きだし、アイデアをまとめていきました。
magma studio
Magma: The browser-based art collaboration platform for artists, teams and studios
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最終的な機能別ゾーニング
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エリア
2F
- エントランス
- オフィスの入り口
- シアター
- ステージと大スクリーンで登壇や画面共有、発表会や上映会などできる
1F
- 会議スペース(複数)
- 会議ができる。スクリーンなど配置で画面が共有できる。面接や重要会議、メンタリング等でプライベートに使用したいときの空間。
- フリー
- 自由エリア(シンボルがあるだけで機能は特にない。連絡路扱い)
- チル・DJ
- 休憩、雑談、作業スペース。BGM流したり、目的なくオフィスに来ても落ち着いて居座れる場所。
- 個人スペース
- 社員分それぞれ区分けされており、自分で自由に装飾できる。ここで作業するもよし、誰かとcoffee chatするもよし。
B1
- 配信スタジオ
- コンテンツ収録や配信のためのシアターよりコンパクトな収録部屋
- エントランス
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設計を煮詰める
デザインの方向をつかむことができたら、早い段階でラフモデルの制作に移ります。このあと説明しますが、デザインチームだけでなく社内全体レビューを早いペースで何回もするため、初期の案からそこそこ形を変えて着地していくことになります。したがって空間のデザインの軸だけ固めておき、そこがブレないように意識はしつつ、それ以外の部分はほかの人の意見を落とし込んで使いやすくします。そこのイテレーションの速度を担保して設計を煮詰めます。
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外観の最終的なラフスケッチ
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ラフモデルの作成
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ラフモデルのレビュー
ラフモデルがざっくり作れたら早々にメタバース空間に持っていって、複数人で空間を実際に歩きながらレビューします。
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導線・デザイン調整
このように複数人でレビューを行いながら、ラフモデルにも直接フォトバッシュを行い、作業を進めました。
さて、ここまできたら残りは見た目をきれいに作りこんでいきます。その制作の進め方、モデルを作る時の注意点などは、次回以降お話していきます。
まとめ
今回は、本プロジェクトの発足についてと、空間の設計の進め方、それを煮詰めていく部分のお話をしました。ここで空間に軸を作ることで、今後本番モデルを制作していく際に迷走しないように、他のメンバーと共通認識を作りやすくするようにできます。
前の項でも書きましたが、次回からはモデルを作りこんでいく際の注意点や、メタバースに使用するための特有の最適化についてなどお話していきたいと思います。
最後まで御覧いただきありがとうございました。
執筆者
株式会社GUNCY’S所属テクニカルプランナーとして従事。普段はプロジェクト進行時にプランニングとディレクションを務める。今回は本プロジェクトのPMを務めつつ、空間設計、アートディレクション、DCCツールおよびUnityのアートワークも担当。
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