Tech 企業に必要な Cluture
なぜ Cluture が大事なのか
Google や Facebook(現在の Meta)といった Big Tech と呼ばれる企業では、技術だけでなく Culture を非常に重視しています。この「Cluture」にフォーカスする理由を少し不思議に感じませんか?技術系の企業なら、プログラミングスキルやアルゴリズム、コンピュータアーキテクチャの深い知識こそが一番大切なのではないか、と思われがちです。しかし、それだけでは十分ではないのです。
もちろん、技術力が軽視されているわけではありません。むしろ、それらの能力はすでに「前提条件」として備えているべきものです。その上で、なぜ Culture が必要とされるのか?それは、ソフトウェア開発がチームで行われる作業だからです。
どれほど優れたエンジニアがいても、1人では巨大なプロジェクトを成し遂げることはできません。チームとして効率よく、そして楽しく成果を上げるためには、お互いを理解し、協力できる環境が必要です。ここで重要なのが、組織全体に浸透した良い Culture なのです。
つまり、優れた技術者だけを集めても、そのチームがうまく連携できなければ、結果を出すのは難しいのです。逆に、Culture がしっかりと根付いていれば、メンバー同士が信頼し合い、問題を解決する力が強まります。それこそが、現代の Tech 企業が Culture を大事にする最大の理由なのです。
知識を共有する
チーム開発において、情報共有は成功の鍵を握る重要な要素です。しかし、現実には「情報を必要最小限の人だけで管理しよう」と考える場面も少なくありません。たとえば、プロジェクト資料をそのプロジェクトに関わるメンバーだけが閲覧できるように制限することです。一見すると合理的に思えますが、これではチーム全体の成長や効率性を損なうリスクがあります。
優れた Tech 企業では、この「情報の壁」を取り払うことを大切にしています。One-pager(1枚でまとめた資料)や Design Doc(設計書)、ソースコード、さらにはプロダクトのロードマップといった資料を 部外秘にせず、誰でも閲覧できる状態にするのが基本です。
情報共有のメリット
例えば、ソースコードがオープンになっている場合を考えてみましょう。コードを読めば、そのプロダクトがどのような背景で作られているか、どのような課題に向き合っているのかが一目でわかります。さらに、自分のチーム以外のソースコードも自由に閲覧できる状態であれば、他チームの成果物やアプローチから学ぶこともできます。「このコード、うちのプロジェクトでも使えるのでは?」という新たな発見が生まれるかもしれません。
ツールの共有が生む良い循環
また、情報共有はソースコードに限った話ではありません。各チームが使っているツールについても、積極的に共有する文化があります。たとえば、あるチームが業務効率化のために便利なツールを導入したとします。その情報が他のチームにも共有されれば、全社的に開発体験が向上します。そして、そのツールをさらに改良しようとするエンジニアが現れることで、良い循環が生まれます。
情報がオープンであることで、組織全体が一つの「学びの場」として機能します。誰もが自分以外のチームの取り組みを知り、そこから学び、時にはフィードバックを送り合う。こうしたオープンな文化が、チームやプロダクトの進化を加速させるのです。
信頼が情報共有を支える
もちろん、情報をオープンにするにはリスクも伴います。しかし、そのリスクを乗り越えるために必要なのが、チームや組織内の信頼です。「情報を共有しても悪用されない」「チーム全体で協力できる」という信頼感が、情報共有の土台を支えています。この信頼こそが、情報を壁の中に閉じ込めるのではなく、みんなで分かち合う原動力になっているのです。
情報をオープンにすることで、組織の知識はチームを越えて流動し、誰もがその恩恵を受けられる環境が整います。これが、Big Tech 企業が大切にしている「情報共有の文化」の真髄なのです。
技術に基づいた公正かつ中立な判断
Tech企業が持つ文化の中で、特に重要なのが技術的な視点に基づく公正かつ中立な判断です。このアプローチは、個々のエンジニアの感情や人間関係に左右されず、プロジェクトや技術の選択を最適化するための鍵となっています。
技術第一主義の判断基準
組織内では、技術的な理由以外の要素――例えば、「この人はベテランだから」「リーダーが言うことだから」といった感情的、あるいは地位に基づく判断を極力排除します。これを実現するために、多くの企業は仕組みづくりに力を入れています。技術の選定やプロジェクトの方向性について話し合う場では、テクニカルメリットが常に優先されます。
これは、コードレビューの文化にも反映されています。リーダーや上長の提出したコードであっても、問題があれば遠慮なく指摘されるべきです。組織の役職や経験年数に関係なく、「良くないコードは良くない」というフィードバックを伝えることが求められます。技術的な正しさを尊重するこの文化が、結果としてプロジェクト全体の成功を支えているのです。
ただし、技術第一ではあるものの絶対的に正しいコードやフレームワークというものは存在しません。皆がトレードオフを正しく理解し共有して、なおかつその判断の前提となる背景情報をすべて共有しているということが、ここで定義した「技術第一主義」であることが大切です。
Blameless Postmortem:責めない文化
また、ソフトウェア開発では避けられないトラブルやミスへの対応も、この技術第一主義と関連しています。何か問題が発生したとき――たとえばシステムがダウンしたり、バグが原因でサービスに支障が出たりしたとき――重要なのは「誰が悪かったのか」を追及することではありません。
この考え方は、Blameless Postmortem(責任追及をしない振り返り)の実践に表れています。バグや問題は必ず発生するものとして受け入れ、それを前提に「なぜ起きたのか」「どうすれば再発を防げるか」を議論します。個人を責めることなく、解決策にフォーカスすることで、チームは心理的安全性を保ちながら、より強い開発プロセスを構築することができるのです。
「責めない」文化が生む安心感と成長
たとえば、システム障害が発生した際に、「〇〇さんのPRに原因のコードがあった」と責められる状況では、次からは誰もリスクを取らなくなります。それではイノベーションは生まれません。一方で、「このバグはコードレビューで検出できなかったけれど、次回はどうすれば検出可能だったか?」といった議論が行われる文化があれば、チーム全体が成長します。
失敗を恐れずに挑戦できる環境が、より良いプロダクトの開発やチームの成熟を促進するのです。
技術と文化の融合
技術に基づいた公正な判断と、責めない文化が組み合わさることで、Tech企業は強力なチームを築くことができます。誰もが安心して意見を述べ、全員が技術的な正しさを追求できる環境は、革新を生む土壌そのものです。この文化が、持続可能な成長と強固なチームワークを支えているのです。
開発チームのリーダーシップ
Cluture がしっかり共有された後、次に重要なのはチーム運営です。特にテックリードの役割は、単に技術的なリーダーシップを発揮するだけでなく、チーム全体が効率よく成果を出せるように導くことにあります。そのためには、戦略的な判断とメンバーの成長を両立させるバランス感覚が求められます。
テックリードの役割
テックリードの最も重要な仕事は、技術目線での判断を下すことです。ただし、それは単に「最高の技術を選ぶ」ということではありません。チームの状況や制約を考慮し、現実的で最適な選択をする必要があります。以下はテックリードが考慮すべきポイントです。
チームの現状に即した判断
メンバーのスキルや経験、タイムラインを踏まえて、技術的な課題をどう解決するかを考える。優れた技術があっても、チーム全体が使いこなせなければ意味がありません。
全工程を見据える視座
プロダクトの完成に向けて、テスト、QA、ドックフード(自社利用)、ローンチといった工程を視野に入れ、スムーズに進行するための計画を立てる。
メンバーの生産性最大化
必要なリソースや技術的サポートを提供し、メンバーが最大限の力を発揮できる環境を整える。
異なるリーダーシップの形
プロジェクトでは様々な役職があり、その中でもリーダーシップを発揮するポジションはいくつかあります。それぞれ役割が異なる以上、場合によっては利益相反が起きる場合があります。一例としてテックリードとマネージャーで考えてみましょう。これには明確な解決策がまだ見いだせていませんが、理解しておくことが大切です。例えば以下のような例があげられます。
テックリードの優先事項
担当するプロダクトを期限内にリリースすること。成果を出すためには、パフォーマンスが上がらないメンバーを早急に交代させることも選択肢になります。
マネージャーの優先事項
管理下にあるメンバー全員を育成し、チーム全体の底上げを目指す。短期的な成果よりも長期的な成長を重視します。
この違いを理解し、対立が起きないよう双方が連携して取り組むことが重要です。例えば、テックリードが「プロジェクトのスピード」を重視する場合、マネージャーは「メンバーの成長」も同時に考慮し、解決策を共に模索する必要があります。
また、テックリードとマネージャー(PdM, TMなど)はプロジェクトや組織によっても定義が異なるため、一概にこれが該当するものとも限りません。
成長するチームをどう運営するか
プロダクトやチームが拡大すると、次に直面するのが属人化のリスクです。属人化はチームの成長を妨げ、最悪の場合、プロジェクト全体の停滞を招きます。ここでの課題と対策を見てみましょう。
Bus Factor を上げる
Bus Factor とは、「何人が突然いなくなってもプロジェクトが動き続けられるか」を示す指標です。Bus Factor が「1」の場合、その人がいなくなるだけでプロジェクトが停止します。このリスクを減らすためには、以下のような取り組みが必要です。
- 情報や知識をメンバー間で共有する
- 複数のメンバーが同じタスクを担当できる体制を整える
- 意思決定権を一人に集中させない
- 意思決定を迅速に行う
リーダーが迷っている時間はチーム全体の足を引っ張ります。リーダーの役割は、全ての情報を集約し、早く、正確に意思決定を行うことです。判断が難しい場合でも、適切な方向に進むための仮説を立て、行動に移すことが求められます。
リーダーが築くチームの未来
優れたリーダーシップは、単にプロジェクトを成功に導くだけではありません。属人化を排除し、メンバーが安心して働ける環境を整えることで、チーム全体が長期的に成長する基盤を作ります。プロダクトとチームの双方が進化するには、リーダーの意思決定力と柔軟性、そしてメンバー一人ひとりを尊重する姿勢が不可欠です。
テックリードやマネージャーが目指すべきは、チーム全体での成功と、そこから生まれる新しい価値。それを実現するためのリーダーシップは、未来を築く上で欠かせない要素なのです。
KPI ドリブン
チームが大きくなるほど、メンバー間の軋轢やインセンティブのミスマッチ、さらにはコンフリクトが避けられなくなります。こうした課題を未然に防ぎ、解決するために有効なのが、KPI(Key Performance Indicator) に基づいた運営方法です。
KPI ドリブンの重要性
KPI を設定する最大の利点は、あらゆる意思決定を客観的な基準に基づいて行えることです。勘や直感だけに頼るのではなく、数値で示された指標を活用することで、以下のメリットが得られます。
透明性の向上
メンバー全員が何を目指しているのかが明確になります。ゴールが共有されていると、誰もが共通の目標に向かって進むため、軋轢が生まれにくくなります。
迅速な意思決定
Tech Lead にとって、意思決定のスピードは非常に重要です。KPI に基づいて判断を下すことで、時間を無駄にすることなく、確実な決定を下すことが可能になります。
インセンティブの整合性
チーム内で異なるインセンティブがぶつかり合うことを防ぎます。KPI が明確であれば、各メンバーがその数値を達成するために行動しやすくなり、方向性の統一が図れます。
数値でゴールを設定する
「数字で示せないものは管理できない」という有名な言葉がありますが、これを実践するのが KPI ドリブンです。例えば、以下のような具体的な指標を設定します。
開発スピード
タスク完了までの平均時間や、1週間で消化したチケット数など。
コードの品質
テストカバレッジの割合。
※ コードレビューでの指摘回数や不具合の再発率などを指標にする場合もある。
プロダクトの健全性
システムの稼働率、エラー数、レスポンス時間。
チームの満足度
定期的なアンケートを実施し、フィードバックを基にしたスコア化。
これらの数値目標を設定することで、曖昧な課題を具体化し、取り組むべき優先事項がはっきりします。
KPI ドリブンが描く未来
KPI ドリブンの運営は、単なる効率化の手段ではなく、チームを一枚岩にする強力なツールです。共通のゴールを持つことで、メンバー同士の信頼が深まり、組織全体が同じ方向に進むことができます。そして、数値で裏付けられた意思決定は、プロダクトの成功を確実にするだけでなく、チームの成長にも寄与します。
最終的に重要なのは、数字がチームを支配するのではなく、数字を使ってチームをより良くすることです。KPI を正しく活用することで、チームの未来はさらに明るいものになるでしょう。
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