GDGs Innovative Crosstalk at 東大 【関西 x 東京】イベントレポート
はじめに
本記事は、2024 年 10 月 19 日に東京大学にて開催された GDG Greater Kwansai による「GDGs Innovative Crosstalk at 東大 【関西 x 東京】」のイベントレポートになります。
GDG Greater Kwansai とは
GDG Greater Kwansai は、広域関西圏で活動する Google Developer Group です。
大阪、京都、奈良、神戸、岡山、四国、広島大学、大阪大学、金沢工業大学など、広い意味での「関西」を活動範囲にしています。 主に AI や Cloud Computing など、最新のテクノロジーに関するセミナーやワークショップを行っています。
Opening Remarks
まず初めに開会の挨拶として、Google デベロッパーエコシステム リージョナルリードの松内良介さんよりお言葉をいただきました。
講演者: 松内良介さん
未踏事業と未踏のココロ
最初のセッションでは、東京大学名誉教授であり、未踏事業統括 PM・代表理事の 竹内郁雄教授 より未踏事業についてお話しいただきました。
講演者: 竹内郁雄教授
未踏事業がどういった経緯で生まれ、現在までどういったスーパークリエイターを輩出してきたかについてご紹介いただきました。
未踏プロジェクトを立ち上げるにあたって多大な困難があったことや、「提案の成果の権利は作成者に帰属する」など、未踏から生まれる特色について知ることができました。
竹内教授が PM として指導してきたクリエイターを数名紹介いただき、それぞれがどういったエンジニアであったかという昔話が聞けました。竹内教授から言わせると、どのエンジニアも優秀であり、何もしなくてもそれぞれ力を発揮して活躍したので、それこそが彼らが大ブレークした理由だそうです。
現在は、自身も本格的なプログラミングの世界に戻って日々開発・研究をしているそうで、 Bridget という立体型のボードゲームを紹介してくれました。
未踏 PM が語るチャレンジのポイント
続いてのセッションでは、KDDI Digital Divergence Holdings 株式会社 代表取締役社長の 藤井彰人さん より、未踏 PM として携わってきたクリエイターの活躍事例やチャレンジについて、竹内教授とは別の視点を踏まえてお話しいただきました。
講演者: 藤井彰人さん
過去の自身と周りで活躍していたエンジニアたちが、時代の流れにどうやって乗り、どう成功していったかなどを、自身の失敗談も含めて話していただきました。それを踏まえて、現在我々がどういった決断をすべきかという点についてもアドバイスしていただき、時代の波に乗り、一歩踏み出すことが大事だと改めて学びを得ることができました。
大規模計算の裏に潜む並列分散処理について
東京大学 工学部電子情報工学科 4 年の 高橋淳一郎さん より、大規模な AI を作成する際の並列分散処理についてお話いただきました。
講演者: 高橋淳一郎さん
そもそもなぜ並列分散処理が必要なのか、並列処理プログラムの内部についてなど、並列分散処理をするために関わる技術的な話しやその構成・仕組み・メリットを具体的な事例も踏まえて解説していただき、最近のトレンドに合わせた学びを得ることができました。
更にこれらを個人で実践できる方法として、Raspberry Pi を組み合わせたマイコンサーバーを作っている取り組みなども紹介いただき、今回のセッションの内容が実際に身近に試すことができるという気づきを得ることができました。
CloudNative Meets WebAssembly: Wasm's Potential to Replace Containers
Apple で Engineer をしている inductor さんより、WebAssembly と Containers 技術についてお話いただきました。
講演者: inductor さん
WebAssembly がどのような技術か解説いただき、なぜ Wasm が Containers に影響を与えるのか説明してもらいました。新しい概念だと思われたこれらの技術も、実は Java の VM と同じ思想の元で生まれたものだと知り、昔からこれら別々の技術であっても目指している方向が酷似しているのだと実感しました。
Docker 創業メンバーの「Wasm が当時存在していたら Docker を作成する必要はなかった」という言葉の背景が理解できて、非常に濃い学びを得ることができました。
Google の日本語入力について
Google で Engineer をしている 小松弘幸さんより、Google が開発している日本語入力の開発秘話をお話いただきました。
講演者: 小松弘幸さん
日本語入力の予測変換には、アルゴリズムの基本でもあるツリー構造が用いられているそうで、その詳細を丁寧に解説していただき、アルゴリズムの勉強と実際の開発での活用事例を学ぶことができました。
日本語も年々言葉は増えていくため、中にはアルゴリズムを見直し計算量を高めていく施策も常に試みているそうで、日々計算量を下げる試みが行われていると知り、スケールさせることの大変さがわかりました。
RAG の検索品質を高めるハイブリッド検索とエンべディング最適化
Google で Engineer をしている 佐藤一憲さん より、LLM・RAG の現在と検索品質を高める技術についてお話いただきました。
講演者: 佐藤一憲さん
RAG で使われているベクトル検索やセマンティック検索といった情報検索技術は、Google 内部では数年前からすでに使われていた技術だということを知りました。
エンベディング検索の活用事例をコードベースで紹介いただき、これらを用いることで「なぜ空は青いのか」「子どもがクリスマスに欲しいプレゼント」などの背景情報が必要な質問に対しても期待する答えが返ってくると説明いただきました。ただの類似検索だと実現できないケースは現実世界では多くあるということも知れて、AI の活用方法として一歩踏み込んだ事例を学べました。
炎上案件の楽しみ方
株式会社スミレサカモトの CEO であり、Alpha + Project 一期生、GDG Greater Kwansai のオーガナイザーでもあるすみれさんに、炎上案件との向き合い方についてお話しいただきました。
講演者: すみれさん
数々の炎上案件を乗り越えてきたすみれさんが、炎上に向き合う際にまず行うことは「耳を傾けること」だそうです。
話を聞く際には、経験や先入観にとらわれず、チーム内のコミュニケーションによるものなのか、技術的な問題なのかなど、冷静に要因を探ることが重要だとおっしゃっていました。また、こうした話を聞くためのメンタリティを保つ方法についても紹介されていました。
AI 論理とか研究してみたくて社会人学生になったのだが
AI 倫理について研究されているあんどうやすしさんから、AI 開発におけるガイドラインについてお話しいただきました。
講演者: あんどうやすしさん
近年 AI は急速に成長し、私たちの生活に深く関わるようになってきており、多くの専門家や企業が、適切に扱うためのガイドラインや原則を策定しています。
今回の講義では、Google が公開している AI 原則について紹介していただきました。
また、Google が「透明性」を確保するために作成した最新のレポートについても紹介がありました。
Go1.23 の over range func を使い倒してみた
神戸の Go 好きが集まるコミュニティ「Kobe.go」を運営し、Hack.bar のバーテンダーも務めるたくてぃんさんが、Go 1.23 で新たに追加された「over range func」構文について紹介してくださいました。
講演者: たくてぃんさん
Go 未経験の方でも理解できるように、基礎的な range 構文の使い方を交えつつ、従来のコードと新構文の比較を行い、「over range func」の利便性について解説してくれました。
後半では、Apple が開発したメディアフォーマット「QuickTime」のメタ情報を扱うための Go 製ライブラリについても紹介がありました。
また、来年の秋頃に開催予定の Go ワークショップカンファレンスについての紹介もあり、現在スタッフを募集しているそうです。
AI が家の中に"存在する"世界について考える
GDSC TMU の exLead であり、元ロボコニストである marsh_mallow さんに、AI ロボットが「私たちの生活にどのように関わるのか」や、「どうすれば、生活を手助けできるようになるのか」というテーマで話していただきました。
講演者: marsh_mallow さん
講演では、Vision-Language Model(VLM)や Large Language Model(LLM)の技術が AI ロボットにも応用され、クエリに応じて物体を認識・探索し、特定のアイテムを空間内から発見するロボットの実例が紹介されました。
しかし、家庭内で AI ロボットが人々の生活に密接に関わるためには、依然として多くの課題が残されているとのことです。
marsh_mallow さんはこうした課題の解決に向けて、さまざまなアプローチ追求し、研究を続けているそうです。
リザバーコンピューティング: 時系列データのための軽量機械学習手法
都立大の GDGoC に所属するなつめさんが、時系列データを扱うシステム構築に役立つ「リザバーコンピューティング」について紹介してくださいました。
講演者: なつめさん
リザバーコンピューティングとは、リカレントニューラルネットワーク(RNN)の一種で、従来の RNN と比べて計算コストが大幅に低いため、リアルタイムシステムへの応用が可能とされています。
発表では、リザバーコンピューティングの概要やその仕組みについて詳しく解説がありました。この手法は、音声から特定の単語を検出する発話分類、天体運動の予測、さらには食品を食べた際の感覚に基づくおいしさの変化予測といった分野においても利用されています。
新卒エンジニアが alpha+で得たこと
Alpha+ Project(以下、Alpha)2 期生のキム・ハンセさんが、Alpha についての紹介と、参加して感じたことについてお話しくださいました。
講演者: キム・ハンセさん
キムさんはもともと経済学を専攻していましたが、在学中に「経済の道に進むより、ものづくりに携わりたい」という思いが強まり、金融業界などの内定を辞退してエンジニアの道へシフトされたそうです。
Alpha に参加して良かった点として、BigTech 企業やアメリカの文化・マインドセットについて学べたことや、低レイヤーについての理解が深まったことが挙げられていました。
技術を身につけるだけでなく、エンジニアとしての考え方も学べる点が非常に有益だと感じたそうです。
また、講師や卒業生に質問できる環境があるため、疑問を解消しやすく理解も深まるとおっしゃっていました。
さらに、Alpha に参加してからはコミュニティイベントへの参加や登壇の機会も増え、デザインスプリントの講義では TA(ティーチングアシスタント)として教える立場を経験したことで、受講者として学ぶだけでは気づけなかったことも多く、「教わったことを他人に教える経験」の重要性を実感されたそうです。
医療 AI 研究開発について
東京大学 工学部電子情報工学科 4 年の 高橋淳一郎さん より、現在研究中の医療 AI についてご紹介いただきました。
講演者: 高橋淳一郎さん
電子カルテの作成等に生成 AI を導入するには医療現場特有の表現に合わせる必要があるため、既存のモデルをそのまま活用することは難しいようです。
一般企業とは違う個人情報に対する取り扱いのハードルや、医師への DX 化促進に向けた説得など、業界特有の問題があるそうで、自身の業務経験と研究を踏まえて紹介してくれました。
また、CT や MRI といった画像解析での導入事例や結果が出ているものも数多くあることも紹介いただき、AI x 医療がすでに我々の身近なものになっていることを知ることができました。
シンプルさを追求した Flutter デザインパターンの提案
GDGoC Osaka Lead で大阪大学情報科のゆにねこさんより、Flutter のデザインパターンについてご紹介いただきました。
講演者: ゆにねこさん
今回ゆにねこさんが提案したのは「Provider/Action パターン」です。既存の Provider パターンに Action という概念を追加することで、役割を簡略化してオーバーエンジニアリングを避けられるというものです。
ロジック部分を Action に集約することで、View(UI)部分にロジックを一切持たせることがなく実装できるというコードの実例を見せていただき、モバイルやフロントエンドでの開発の参考になる解説をしていただきました。
Gemma Developer Time
東京農工大学の ほきさん より、Gemma を使った開発のデモをご紹介いただきました。
講演者: ほきさん
軽量モデルである Gemma の特徴やそのパフォーマンスについて、他のモデルとの比較をしながら解説いただき、MacBook と Raspberry Pi 5 で動かしたデモの比較も見せてもらいました。Raspberry Pi で動作できるぐらい軽量なモデルが登場することで、我々の日常に AI を活用することが当たり前になってきているという解説が、非常に印象的でした。
最後に、Firebase Genkit を使ったデモも紹介いただき、AI を活用した開発が今まで以上に我々の身近なものになっているということを再認識しました。
Closing Remarks
最後に、今回主催の GDG Greater Kwansai の Organizer でもあり、運営の Alpha+ Project の主催者でもある 石原直樹さん より閉会の挨拶をしていただきました。
講演者: 石原直樹さん
今回のイベントでは多岐に渡るセッションであったことを踏まえ「Be Cross-Boundary for Innovation」という一文を締めの言葉として残してくれました。様々な専門家が集まることで、お互いインスパイアして良い刺激をもらえるというというのが、このイベントで実現したかったことであり、各セッション・LT が素晴らしかったものだと各登壇者にとっても励みのなる言葉でした。
来場者数
現地参加:62 人
オンライン参加:92 人
次回イベントについて
2024 年 12 月 21 日に Google Developer Group(GDG)が世界中で展開している人気の技術イベント、「DevFest」を関西エリアの GDG と協力して開催します!
AI、クラウド、BigQuery、Web、モバイルアプリ開発といった最新の技術トピックをカバーしたセッションやワークショップ、幅広い分野のセッションを予定していますので、ご興味のある方はぜひご参加ください!
さいごに
GDG Greater Kwansai は、毎月各地を巡ってイベントを開催しています。
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