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データに基づく意思決定と経験に基づく意思決定

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はじめに

この記事ではビジネスにおいてデータを分析した意思決定をおこなう目的やメリットを紹介します。
さまざまな場所で議論されているテーマですが自分なりの考えをまとめたく記事として残します。
似たようなテーマで複数の観点から解説していく予定です。

意思決定における2つのアプローチ

ビジネスの現場では複数の選択肢からどれか1つを選ばなければいけないというシーンがよくあります。
たとえば、マーケティングにおいて「商品のプロモーション用に広告AとBの2つの候補からどちらを選ばなければいけない」なんてシーンは想像に容易いでしょう。
他にも「どの見込み顧客から営業をするべきか?」とか「このプロダクトのボタンは赤と青どちらの色にしたらいいだろうか?」なんてことを考えている人はきっとこの記事を読んでいる方にもいるのではないでしょうか。

これは日常的な風景ですが、しかしこれらの意思決定によって売上が変わる可能性を秘めています。
下手な広告を選んだら獲得できるリードは減るかもしれませんし、営業の優先順位を間違えば大事な顧客を逃しているかもしれません。
ボタンの色が不評であれば機能を使う人が減ってしまう可能性もあります。
1つ1つの意思決定の質が企業の売上や成長へ直結する重要な要素です。

では、わたしたちはどのように意思決定をしていけばよいのでしょうか?この問題に対するアプローチを大きく2つにわけて考えていきます。
1つは経験や知識に基づく意思決定、もう1つは客観的なデータに基づく意思決定です。
どちらも現代のビジネスにおいて重要な役割を果たしていますが有効なシーンに違いがあります。
この2つのアプローチを比較することでそれぞれの特徴を理解し上手い使い方を把握していきましょう。

経験に基づく意思決定の特徴と限界

長年マーケティング業界で活躍してきたベテラン担当者であれば事例や過去の体験から「このターゲット層にはこういったメッセージが響きやすい」とか「今の時期にはこのタイプの広告が効果的だった」のような経験則を蓄積しているものです。
市場や顧客の心理など数値化が困難な要素を感覚的に捉える能力はベテランの貴重な資産といえるでしょう。
特に参考となる情報が乏しいまったく新しい市場や商品カテゴリーのような問題ではこのような経験や知識に基づく判断が強力な手法となります。

しかし、このような経験に基づく意思決定には欠点がいくつか存在します。
その1つは判断の基準が個人の主観的な観察や経験に依存しているということです。
例えば、新しい広告を展開した際にたまたま接触した顧客から「この広告は印象的で良かった」という好意的な反応を得たとします。
このような直接的なフィードバックは重要ですが担当者に実態以上に強い印象を与えがちで全体の傾向を正確に反映しているとも限りません。

接触した顧客層が特殊だった可能性、季節や時期による一時的な要因、さらには観察者自身の期待や先入観が判断を歪めている可能性などさまざまなバイアスが混入するリスクがあります。
たまたまその顧客が気に入っただけで多くの人は別の要因で商品を買っただけかもしれませんし、もしかしたら顧客がお世辞をいっただけという可能性もあります。
心理学でいう「確証バイアス」により自分の判断を支持する情報ばかりに注目し反対の証拠を無視してしまうこともよく見かけます。

経験に基づく意思決定がその人に固有の知識や感覚に強く依存するため、品質のコントロールが難しく再現性や客観性に欠けるという点です。
同じ状況でも担当者が変われば全く異なる判断が下される可能性があり、組織として一貫した品質の意思決定を維持することは簡単ではありません。

データに基づく意思決定の特徴と優位性

これに対して十分なデータが蓄積され適切に分析できる環境が整っている場合、意思決定のアプローチは根本的に変化します。
データに基づく意思決定では実際に顧客がクリックしたり売上につながった広告やコンバージョンに結びついた施策を客観的な数値として把握することで感情や先入観に左右されない合理的な判断が可能になります。
具体的な例を見ながら広告AとBのどちらがよいのか考えてみましょう。

広告A

  • 表示回数10万回
  • クリック数2,000回(クリック率2.0%)
  • コンバージョン数80件(コンバージョン率4.0%)
  • 獲得単価5,000円

広告B

  • 表示回数10万回
  • クリック数1,500回(クリック率1.5%)
  • コンバージョン数90件(コンバージョン率6.0%)
  • 獲得単価4,500円

このようなデータがあれば、どちらの広告がより効果的かを明確に判断できます。
この例では、広告Bの方がコンバージョン率が高く、獲得単価も安いことがわかりました。
それぞれの指標について学んだ人であれば、投資対効果の観点から広告Bが優れていることが数値から読み取ることができるでしょう。

A/Bテストのような事前に準備された実験でデータを収集した場合、データの価値はさらに高まります。
A/Bテストであれば同じ期間、同じ予算、同じターゲット層に対してランダムに異なる広告を展開し統計的に比較することでどちらがより効果的か高い信頼性をもって客観的に判断できます。
このような手法では、季節要因、競合他社の動向、市場環境の変化といった外部要因の影響を最小限に抑えることができ、純粋に広告自体の効果を測定することが可能になります。

データに基づく判断のメリットは個人の経験や直感に依存度が低く誰が見ても同じ結論に到達できることです。
マーケティング部門の新人からベテランまで同じデータを見れば基本的に同じ判断を下すことができます。
これは経験に基づく意思決定とは対照的な特徴であり組織全体の意思決定の品質向上に大きく貢献します。

データ活用による継続的な学習と改善

データに基づく意思決定のもう一つの重要な利点は、継続的な学習と改善のサイクルを構築できることです。
広告Aと広告Bの効果を測定した結果、広告Bが優れていることが判明したとします。
しかし、データ活用の価値はここで終わりません。

広告がどのようなセグメントに効果的だったのか調査することで次回の広告制作時により効果的な施策を企画するために活かすことができます。
たとえば「広告Bは都市部のユーザーには効果があったが地方ではいまいちだった」とか「実は広告Aは獲得が難しいセグメントで比較すると優位だった」といったことがわかればターゲットに対して効果的な広告を展開できるようになります。
これらの知見は組織の資産として蓄積され強力な武器となるでしょう。

また、時系列でのデータ分析により、季節性や市場トレンドの変化も把握できます。
「夏季は広告Aが効果的だが、冬季は広告Bの方が良い」といったパターンが見えてくれば、時期に応じた最適な施策を事前に計画することも可能になります。
「広告Bはよかったが市場の変化によって費用対効果が悪くなっている」ということがわかれば新しい広告を検討すべきだとわかります。

このような継続的な学習プロセスにより組織のマーケティング能力は段階的に向上していきます。
データの蓄積期間が長くなればなるほどデータを通した知見も蓄積され意思決定の品質も高まります。
これは個人の能力に依存した意思決定だけではなかなか難しいことです。

組織全体での意思決定品質の標準化

データに基づく意思決定は組織全体での意思決定品質の標準化にも大きく貢献します。
経験に基づく判断では意思決定者の能力や経験値によって判断の質に大きな差が生まれます。
20年の経験を持つベテランマーケターと入社1年目の新人を比べたら判断の精度に差が出るのは自然なことです。

しかし、データに基づく意思決定の仕組みが整備されていればこの格差を大幅に縮小することができます。
新人でも適切なデータの読み取り方と分析手法を身につけることでベテランと同等の判断を下すことが可能になります。
これは個人のスキルに依存しない組織として安定した品質の意思決定システムを構築できるということです。

意思決定の標準化によって論点がクリアになり判断の速度も向上します。
「こっちのほうが好きな人が多そう」とか「前にあった顧客はこの広告を褒めていた」といった主観や経験に基づく議論では簡単に決着がつきません。
判断軸と評価が曖昧なため最終的に立場や社内政治で物事が決まってしまうこともあるでしょう。
一方で「データによるとクリック率が1.5倍高い」「コンバージョン率で比較すれば明確に優位性がある」といった客観的な根拠に基づいた議論であれば論点が明確になりスムーズに判断することができます。
これは意思決定の高速化を同時にもたらします。

2つのアプローチの使い分けと組み合わせ方

現代のビジネス環境では経験に基づく意思決定とデータに基づく意思決定を適切に使い分け組み合わせることが重要です。
すべての状況でデータが利用できるわけではありませんし、すべての要素が数値化できるわけでもありません。

新市場への参入や全く新しいタイプの商品・サービスの展開など参考となるデータが乏しい場合には経験豊富な担当者の直感が重要な役割を果たします。
また、クリエイティブなど感性的で定量化が難しい要素については経験に基づく判断が価値を発揮するでしょう。

一方で反復性の高いサービスや施策の最適化などではデータに基づく意思決定の威力が遺憾なく発揮されます。
投資対効果の測定が重要なサービスの改善や広告・プロモーション活動においてはデータ活用は価値が高いと言えるでしょう。

重要なのはどちらか片方に偏るのではなく両方をバランスよく組み込むことです。
経験に基づく判断であっても可能な限りデータで検証し学習サイクルに組み込むことです。
「ベテランの経験から選んだ施策の効果を測定し、その結果を今後の判断基準に反映させる」といったアプローチにより組織全体の意思決定能力を継続的に向上させることができるのです。

データに基づく意思決定と経験に基づく意思決定は対立するものではなく相互補完的な関係にあります。
変化の激しい現代のビジネス環境において成功の確率を上げるためには両者の特性を理解し場面に応じて適切に使い分けることが重要です。

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