“ジャバラ”がバラっと完成!人事配置表自動化の舞台裏
1. はじめに ― 「ジャバラ」とは?
図1:組織人事一覧(見本)
皆さんはタイトルを見て「ジャバラ?なんだそれ?果物か?うねうね、びよんびよんしたやつか?」と思われるでしょう。そうです、うねうねしたものなんです!
ジャバラは、都庁の人事配置一覧のことです。昔は都庁職員の一覧を蛇腹折りで保管していたため、この名前がついたそうです。
GovTech東京でも、東京都の外郭団体として「ジャバラ」を作成し共有しています。組織拡大に伴い、職員情報を毎月更新する必要があり、特に年度替わりの4月には100名規模の異動も発生するため、作業量が一気に増加します。以前はExcel上での手作業が中心で入退職者の更新漏れ、派遣元の区分間違いなども発生し時間がかかっていましたが、より短期間で正確に仕上げる必要があるため、業務の見直しが必要でした。
私たちはこういった業務改善に取り組む際に「この業務は本当に必要か」を最初に考えるようにしています。同時に、現場で培われた知見や、これまでの取組みの積み重ねにも敬意を払います。現状を頭ごなしに否定する破壊的なアプローチではなく、まず現状を深く理解し、その価値を認めた上で、関係者とともに前進する協調的な改革を目指しています。
2. 解決方法ーVBAによる自動生成マクロを開発
私は東京都のICT職員としてGovTech東京に派遣され、テクニカルグループで、東京都の各局やGovTech東京内の業務改善や自動化支援に取り組んでいます。kintoneやSalesforceといったローコードツールを活用した現場業務の効率化を担当してきました。
現場の業務改善はGovTech東京内でも重要な課題です。特にバックオフィス業務はあらゆる部門と密接に関わる横断的な性質を持っているため、この業務改善が組織全体の生産性向上に繋がります。
今回のジャバラ作成は、GovTech東京で作成を担当している総務グループにもヒアリングしながら必要最低限の作業で成果が出せるよう、検討を進めました。
解決方法として、Webやデスクトップアプリケーションでの開発も検討しましたが、特に時間的な制限からVBAによるジャバラ作成ツールを開発することとなりました。
VBAを採用した理由
- 影響範囲の最小限化:今、新しいサービスを導入するより、利用者である担当者が使い慣れている環境をできるだけそのまま維持することが最適と判断
- スピード重視の開発:3月から支援を開始し、4月の大規模人事異動に間に合わせる必要があったため、迅速に実装可能な方法を選択
ジャバラ作成ツールの構成
ジャバラ作成ツールは5つのシートから構成されています
- 職員情報一覧シート:人事異動情報の更新用メインシート
職員全員(新規入職者や退職者、休職者情報、部署情報など)の情報を管理
マクロの組んだボタンもこちらにあるので、運用者はこのページを基本触ることとなる - 組織体制シート:組織の階層構造を定義(このグループの順番にジャバラが生成される)
- 組織人事一覧シート:マクロで生成される縦に長い一覧表
- 印刷用シート:最終出力用の整形済みジャバラ
- 調整用シート:フォントの大きさや基本情報を編集したいときに触るシート
マクロの構成
図2:処理イメージ
処理のイメージ(図2)に沿って作成します。
- 職員情報一覧からジャバラに必要な職員とその情報のみ抽出して細長く整形
- 印刷用シートに並べて配置
- 名前の長い方の表示崩れなど最終確認をしてPDF印刷!!
工夫したポイント
開発にあたっては、実際の利用者が快適に使えるよう様々な工夫を施しました:
メンテナンス性の向上
-
組織編制の変更が頻繁かつ、組織の表示順などにこだわりがあるため組織の表示順を参照できるシートを作成しました。(組織体制シート)
-
1ページに1グループが収まらない場合、グループごとに自動でページ送りする機能を実装。今までこのレイアウト調整も手作業で行っていたため、この機能の追加が最大のポイントでした。
NG例:グループが途中で切れて次ページに送られる/OK例:余白が残ってもグループ全体を次ページに送る
シンプルで直感的な操作性
煩雑な操作を排除し、①転記情報のクリア ②組織人事一覧に転記 ③印刷用作成 の3つのボタンクリックだけで実行できるシンプルなUI設計にしました。
3. 効果と反響
作成と担当者のレビューを短い期間で繰り返すことで短時間で開発したVBAマクロは2025年4月の人事異動に間に合いました。また、実際に新しい方法でジャバラ作成をした総務グループのジャバラ作成担当者からうれしいお言葉もいただきました!✨
ミスがほぼゼロに
職員情報一覧シートを更新するだけで作成できるのでジャバラへの入退職者の反映漏れやコピペミスが無くなり、データの体裁崩れも解消され、品質が大幅に向上しました。
作業時間が劇的に短縮
以前は半日かかっていた作成作業がなんと約1時間で完了するようになりました!ミスが減ったことで修正回数も減り確認作業にかかる時間も大幅に短縮されました。人事発令があっても確認作業含めて1日以内に完了し共有できるようになりました。
実際に使った担当者の感想
「全体的に本当に楽になりました。やらなきゃ…というプレッシャーが消えました」
「4月の大異動も安心して対応できたのは大きいです」
「紙に印刷して赤ペンでチェックする作業がなくなったのが最高です」
「今まで恐怖すら感じていたExcelが愛おしく感じるようになりました」
「数人名前を追加するだけで1時間近くかかることもあったのに何と言うことでしょう。今はボタンポチッで終わりです。夢のようです。」
4.まとめ・今後の展望
今回の改善は「Excel+VBA」というシンプルな方法を選びましたが、その効果は想像以上でした。総務グループのみなさんの業務を効率化することによって、手取り時間を増やすことができました。
今後の展開としては、アプリケーション化を視野に入れています。時間的制約からVBAを採用しましたが、アプリ化すると機能拡張が可能になります。例えば、人材部門が新規採用者情報を入力すると自動的に職員一覧に反映される「ワンストップ管理」の実現や、各種提出物のチェック機能、利用中SaaSのアカウント管理など、権限設定によって複数業務を一元管理できるプラットフォームへと発展させることも構想としてはあり得るのではないかと考えています(夢はでっかく)。
今回紹介した「ジャバラ作成ツール」以外にも、私たちは OSSを活用した中期経営計画のKPIモニタリング用ダッシュボードの作成 や、アカウントの権限管理ツールの検証といった取り組みを現場の方と相談しながら進めています。
このように、GovTech東京は東京都庁や区市町村向けの支援業務だけでなく、内部のバックオフィス業務そのものを改善する取り組みも行っています。こうした「団体内部の業務効率化」は、そのまま東京都庁や区市町村の庁内業務改善のヒントにもなり得ます。言い換えれば、私たち自身が実験台となって“ドッグフーディング”を実践している、貴重なラボでもあるのです。だからこそ、現場感のある改善ノウハウを積み上げることができ、それが仕事の楽しさにも直結しています。
シンプルな改善から効率化を積み重ねていく。その姿勢こそが、行政におけるDXを地に足の着いたものにするための答えになるのだと考えています。
東京都が設立した外郭団体「GovTech東京」のテックブログです。GovTech(ガブテック)は、Government×Technologyの融合させた言葉。このブログでは、行政DXへの技術的挑戦、現場で得た知見、そして組織のカルチャーを発信していきます。govtechtokyo.or.jp
Discussion
とても参考になります!
一つ質問なのですが、"グループごとに自動でページ送りする機能" はどのように折り返しを検知し、次ページに送っているのでしょうか?
コメントありがとうございます!
ページ送りの仕組みですが、
あらかじめ「1ページに収まる行数」を固定で決めておき、その上で 「グループごと(=ブロックごと)の開始行と終了行」を辞書に記録 しています。
その後、ページを1つ進めるごとに「そのページに収まるか」を順番にチェックし、 収まらない場合はブロック単位で次ページへ送る(行を挿入する)処理を繰り返す 方式を取っています。