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行政におけるITエンジニアの働き方

2024/12/18に公開

はじめに

GovTech東京 原田です。この記事はGovTech東京アドベントカレンダー18日目の記事です。

私は、デジタルサービス基盤開発本部デジタル基盤グループに所属しており、主に東京都クラウドプラットフォームの設計構築を担当しています。都の各局等が将来的にこのプラットフォーム上で最適かつ迅速に業務システムを構築できるようにすることが大きなミッションです。また、複業として岡山県井原市役所のCIO補佐官も務めています。

職務経歴は、民間企業でシステム開発を25年程経験した後、東京都でデジタルシフト推進担当課長として1年間勤務した後、GovTech東京に転籍し、行政機関での職務は1年9か月程となります。

本記事では、民間企業での経験を持つITエンジニアの視点から、行政におけるITエンジニアの働き方について紹介します。

民間経験者が知っておきたい違い

行政機関、主に自治体での仕事を検討する際に直面する「違い」について紹介します。

ここでは挙げていませんが、自治体ではベンダーロックインを許容しない、品質管理アプローチの違い、ステークホルダーとの関係などといった「違い」も多々あります。

予算と調達

自治体で行政サービスを都民に提供するには予算が必要です。これは民間企業でも開発を行うには予算が必要であると同様です。

自治体の予算は、1年間の収入(税収など)と支出(行政サービス提供のための費用)を事前に計画したものです。予算には「当初予算」と「補正予算」があります。

  • 当初予算:年度開始前(通常3月)に議会の承認を得て成立する、1年間の基本となる予算。
  • 補正予算:年度途中で災害対応や制度変更、新たな需要などが発生した際に、追加・修正を行うための予算。こちらも議会での承認が必須です。

また、予算年度は4月から翌年3月までで、主な会計区分として以下があります。

  • 一般会計:福祉や教育など基礎的な行政サービスを包括する会計
  • 特別会計:特定事業(例:国民健康保険、介護保険など)の収支を別枠で扱う会計
  • 公営企業会計:水道事業など、独立採算で運営する事業の会計

予算編成は、各部署からの要求をもとに財政部署が査定し、首長の確認後、議会で審議・決定します。予算は目的外使用が禁止され、計画的な執行が求められます。

民間企業では、企画により絶好のタイミングでサービスを提供したいと計画した場合、年度途中でも予算調整を行えますが、行政機関では余程の理由がない限り行うことができません。

民間企業であれば必要に応じて随時発注が可能な場合も多いですが、自治体では入札制度が基本となります。

プロジェクト期間

行政サービスを提供するためのシステム開発に関するプロジェクトは、2-5年の中長期プロジェクトが標準です。

業務にもよりますが、基本構想1年、要件定義1年をかけ、開発を開始するまでに2年かかり、開発規模にもよりますが構想からサービスインまで3、4年かかることもしばしばです。

期間が長期に渡るのでゆっくり仕様の検討ができるかというとそうではありません。

予算を要求するためのマイルストーンがあり、それぞれの期間は短く、短期間で仕様を検討することが多いと感じます。仕様確定後の変更が難しいので、仕様変更などによる予算の修正がないようにする必要があります。

意思決定プロセス

民間企業であれば、担当者、部門長、役員といった比較的シンプルな承認フローで、スピード重視の判断が可能です。市場動向に応じた柔軟な方針変更もできます。
一方、自治体では、法令や規則に基づく明確な根拠が必要です。また、複数部署との調整や合意形成が必須です。議会承認が必要なケースもあります。自治体で働き始めたばかりの時に承認までのリードタイムを考慮していないために、スケジュールが2か月以上遅延することもありました。

行政機関で活躍するためのポイント

民間企業経験を持つITエンジニアが活躍するには、民間での技術力を活かしつつ、行政特有の意思決定プロセスを理解し、丁寧な合意形成を心がけることだと思っています。

求められるスキル

民間企業での経験を持つITエンジニアが求められるスキルについて挙げてみます。

  • コミュニケーション能力
  • 文書作成能力
  • プレゼンテーション能力
  • システムの企画、要件定義、設計、開発、運用といった実務経験
  • プロジェクトの進捗管理
  • セキュリティ
  • 品質管理

挙げてみましたが、民間で求められるスキルと大して違いはありません。これらを総合的に持ち合わせておくと仕事がスムーズに進むと考えます。

コミュニケーション能力、文書作成能力、プレゼンテーション能力を求める理由は、多様な関係者との調整が必要で、丁寧な説明と合意形成をすることが多いためです。自治体職員は行政事務に関して精通した方々が多く、ITに関しては必ずしも精通しているわけではありません。
そのため、自治体職員と一緒に働く際、ITの専門的な知識を持っていても、上手く伝えることが出来なければプロジェクトをうまく進められないこともしばしばあります。取り扱う文書も公文書が多いため、行政文書のフォーマットを理解する能力も重要となります。

心構え

社会貢献の視点を持ち続けることが重要だと思います。

行政サービスの利用者を検討する際には、特定の利用者だけではなく全ての都民への配慮が必要です。「公平性」を重視しています。

民間企業の目的は、利益を追求することです。利益を追求するために「スピードを重視」しますが、自治体では、都民のためにより良い暮らしを追求することを目的としていますので、確実性を重視しながらスピード感も求められます。

やりがいと課題

わたしが感じるやりがいと課題を紹介します。

やりがい

社会的インパクト

数万~1000万人規模の都民生活への直接的な貢献ができます。業務の種類も福祉、水道、交通、教育などと他にも多数あり多様です。行政サービスのシステムを効率化、利便性向上することで職員の業務効率化となり住民サービスも向上します。やりがいしかないです。

技術的な挑戦

大規模システムの設計・運用経験が得られます。高可用性アーキテクチャの設計、大量データの効率的な処理、マイクロサービス化による柔軟な拡張、クラウドサービスの活用、AI・RPAによる業務改善、データ利活用といった幅広く経験できる機会があります。

課題

ITエンジニアの人材不足であると感じています。民間でも同様ではありますが、一つのプロジェクトに専念することはなく、複数のプロジェクトに携わるのですが、その携わる数が民間よりも多く感じます。

調整する部署が多いので承認を得るまでのリードタイムがクリティカルパスになります。

まとめ

社会的意義の大きさという他では得られない独自のやりがいがあります。一方で、自治体特有の課題も存在します。民間での経験を活かしつつ、行政特有のルールを理解し、丁寧なコミュニケーションを心がけておくことが重要だと思います。

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