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住民を主人公に!行政のサービスデザインでも使えそうな「ヒーローズジャーニー」とは

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はじめに:2つ目のジャーニーとの出会い

サービスデザインやUXの世界では、日々さまざまな手法が生まれています。先日、その中で思わず「これは使えるかも!」と思うフレームワークに出会いました。
その名も「ヒーローズジャーニー」。カスタマージャーニーはおなじみですが、これは映画や小説の世界で有名なストーリーテリング手法で、近年ではビジネス等さまざまな分野にも応用されています。
何気ない日常を送る主人公が、困難を乗り越えてヒーローになるというこの流れは、日々の暮らしでトラブルや困りごとに遭遇する住民生活にも重ねられるかもしれません。そこで今回は、カスタマージャーニーとヒーローズジャーニーの“2つのジャーニー”を比較し、その可能性を探ってみます。

サービスデザインとは

サービスデザインとは、サービスを利用する人の立場に立ち、より良い体験(使いやすさ、心地よさ、信頼感など)を設計する方法です。「提供する側の視点」から「利用する側の視点」へと転換することで、利用者満足度の高いサービスを生み出せます。さらに、サービスデザインでは利用者を単なる受け手とせず、ニーズやフィードバックの提供、アイデア出しやテストへの参加など開発プロセスにも関わってもらうことで、双方の状況を深く理解し、「困りごと」を「嬉しい!」という感情に変えていきます。

東京都でもサービスデザインの考えを取り入れ、行政サービスの向上に繋げています。詳しくは、東京都が策定しているガイドラインや事例集をご覧ください。
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/business/digital-guideline

カスタマージャーニー(マップ)とは

利用者の体験を時系列で書き出し、それぞれの瞬間で、利用者が考えていることや気持ちなどを整理します。利用者の立場で体験を捉えることで、サービスの改善ポイントをより深く検討することができます。

カスタマージャーニーマップのイメージ図。3段階(利用前、利用中、利用後)で構成された税務署利用者の体験マップ。各段階において、利用者の行動、感情、および関連するタッチポイント(申込み書、説明職員、受付窓口)が対応付けられている。利用者の感情の変化と、各段階での主要な接点を把握するための図。
カスタマージャーニーマップのイメージ図(「税務署での確定申告」を例にしたもの)
※説明、イメージ図ともに、『東京都 サービスデザインガイドライン VERSION 2.1.0』より抜粋

ユーザーは試練を乗り越える主人公(ヒーロー)

ヒーローズジャーニー理論は、神話学者ジョゼフ・キャンベル氏が『千の顔をもつ英雄』で整理した、世界中に共通する物語構造です。
この理論は映画『スター・ウォーズ』にも影響を与え、後にハリウッドのストーリー・コンサルタント、クリストファー・ボグラー氏が映画脚本向けに12ステージ構造として再整理し、脚本制作の現場で広く活用されました。
現在では、映画や小説だけでなく、プレゼンや広報・マーケティングなど幅広い分野でストーリーテリングの手法としても用いられています。
ヒーローズジャーニーではその名のとおり、ユーザーを試練や苦難を乗り越える「主人公(ヒーロー)」として描きます。また、「賢者」と呼ばれる登場人物は、主人公の周囲にいる人々や自治体などが当てはまり、ガイド・ナビゲーターの役割を担います。

ヒーローズジャーニー 12のステージ

ステージ 概要
日常の世界(Ordinary World) 主人公が最初にいる慣れ親しんだ日常。まだ問題は表面化していない。
冒険への呼びかけ(Call to Adventure) 異変や問題が発生し、主人公が旅に出るきっかけが訪れる。
呼びかけの拒絶(Refusal of the Call) 恐れや迷いから、最初は旅を拒む。
賢者との出会い(Meeting the Mentor) 助言者や導き手が現れ、旅の準備が整う。
第一関門の通過(Crossing the First Threshold) 主人公が日常を離れ、本格的に未知の世界へ足を踏み入れる。
試練・仲間・敵(Tests, Allies, and Enemies) 試練が訪れ、仲間や敵との関係性も明らかになる。
最も危険な場所への接近(Approach to the Inmost Cave) 最大の課題に直面する直前の準備段階。心理的・物理的に深く迫る。
最大の試練(Ordeal) 死や喪失と向き合うような最大の危機に直面する。物語のクライマックス。
報酬の獲得(Reward) 試練を乗り越え、何かしらの報酬(知識・絆・道具・成長)を得る。
帰路(The Road Back) 元の世界へ帰る決断をする。しかし簡単にはいかない。
復活(Resurrection) 帰還中に最後の危機に直面し、真の変化が試される。
宝を持っての帰還(Return with the Elixir) 主人公は成長し、得たものを携えて日常に戻る。社会や他者に影響を与える。

いかがでしょうか。「あの映画やアニメ、ゲームもこんな展開あったなぁ」と思いませんでしたか?多くの作品で使われている構成だとすると、やはり人々が共感しやすい仕立てなのだと言えるでしょう。

2つのジャーニーを比較してみた

早速ですが、たとえば、住民が「マイナンバーカード取得」「引っ越し」「保活(保育園探し、見学申込、入園申請といった一連の流れの総称)」「家庭の防災対策」といったライフシーンに直面しているとします。これらのシーンにはもちろんカスタマージャーニーが活用できますので、今回は「保活」という特定のシーンで2つのジャーニーを比較してみたいと思います。どんな違いがあるでしょうか。

サービスに試練を増やすということではありませんので、勘違いされませんよう。

保活のカスタマージャーニー

ステップ 保育園を探す保護者(ユーザー)の行動・感情 行政・保育園(サービス提供者)の対応 接点・チャネル
認知 産休・育休の終了が近づき、保活の必要性を感じる。情報収集を始める 市区町村による保育園情報や申込スケジュールの公開 広報誌、ウェブサイト、SNS、母子手帳アプリ
検討 希望エリアの保育園を調査。入園基準や点数制度について理解しようとする 保育園マップ提供、入園基準の説明、見学会情報の案内 保育課窓口、保育コンシェルジュ、オンライン説明会
申請 就労証明書など複雑な書類の準備に奔走。締切に間に合わせようと焦る 必要書類チェックリスト提供、記入例の公開、申請サポート 窓口、電子申請システム、LINEサポート
審査・決定 「点数は足りるだろうか」「第何希望まで書くべきか」と不安を抱える 審査状況の可視化、結果通知方法の明確化 通知書、メール、マイページ
利用開始 入園が決まった喜びと「子どもを預けて大丈夫か」という葛藤 慣らし保育スケジュールの調整、保育園生活の丁寧な説明 入園説明会、個別面談、園だより
継続利用 仕事と保育園の送迎の両立。子どもの体調不良時の対応に苦慮 延長保育・病児保育の案内、働く保護者向けサポート情報提供 連絡アプリ、保護者会、相談窓口
フォロー 保育園卒園後の学童保育の心配。就学準備への不安 就学準備情報提供、学童保育申込案内、保育から教育への移行サポート 保育園・小学校連携イベント、卒園前相談会

認知から始まり、フォローまでの各段階で、ユーザー(保護者)の行動や感情、それに対するサービス提供者(行政・保育園)の対応、そして両者の接点となるチャネルを整理しています。このように一連の流れを可視化することで、サービス設計の各段階での課題や改善点を見つけやすくなります。

保活のヒーローズジャーニー

段階 ストーリー 感情・内面の動き
① 日常の世界 育休中、子どもとの穏やかな日々。職場復帰が近づき「保育園を考えないと」と思いつつ行動できず、SNSでは既に保活話題で持ちきり。 焦りと罪悪感。子どもと離れる寂しさと社会復帰への期待が混在する複雑な心境。
② 冒険への呼びかけ 自治体から入園案内の冊子が色々と届く。複雑な申請方法や点数制度、締切の近さに圧倒される。保活の始まりを実感。 緊張と戸惑い。「思った以上に申請が大変そう」という混乱と「これからの生活がかかっている」という重圧感。
③ 呼びかけの拒絶 認可・認証・小規模など情報量の多さに押しつぶされ「明日から考えよう」と先延ばし。SNSの見学予約情報に焦るが動けない。 不安と混乱。「理解できない」「どこを選ぶ?」という疑問と「後回しにしたい」気持ちと「間に合わない」焦りの葛藤。
④ 賢者との出会い 子育て仲間からの誘いで保活情報交換会に参加。具体的なアドバイスを得て自治体説明会にも参加。「これならできるかも」と思える。 安心と希望。「みんなも同じように悩んでいた」という安堵感。「情報整理すれば何とかなりそう」という前向きな気持ちの芽生え。
⑤ 第一関門の通過 保育園見学を開始。各園の特徴を確認しノートにまとめ、家族と共有。書類準備も並行し、希望園が絞られていく。 決意と期待。具体的行動で自信がつき、選択肢整理での安心感と良い園への期待。子どもを預けるイメージができ罪悪感も和らぐ。
⑥ 試練・仲間・敵 申請書作成に着手。希望園選定で家族と意見相違。証明書取得に時間がかかり焦る。友人と情報交換し励まし合いながら期限ギリギリに提出完了。 多忙と緊張。「これでいいのか」という迷いと「後戻りできない」感。家族内の意見調整で絆も深まる。提出完了の達成感と不安の共存。
⑦ 最も危険な場所への接近 結果待ちの不安な日々。「もし落ちたら」とプランBを模索。認可外保育園調査や育休延長可能性など検討。 不安と覚悟。「保育園に受かるか」「仕事と育児を両立できるか」という問いと「どんな結果でも受け入れる」覚悟。待機状態での忍耐力が試される。
⑧ 最大の試練 結果通知で全て「不承諾」。涙が止まらず頭が真っ白に。SNSの「内定」報告に追い打ちをかけられる。社会への不満も噴出。 落胆と怒り。「こんなに準備したのに」という虚しさ。「働けない」不安と「制度に裏切られた」怒り、自責の念が交錯。
⑨ 報酬の獲得 数日の落ち込み後、再起動。二次募集情報入手や認可外保育園検討、育休延長交渉。同じ境遇の仲間との出会いで希望が見え、安心して預けられる園に出会う。 回復と希望。「他にも道はある」という前向きさ。「一人じゃない」連帯感。「認可だけが正解でない」価値観変化。困難を乗り越える力の獲得感。
⑩ 帰路 二次募集で園が決定。入園準備が始まり、持ち物準備や生活リズム調整に取り組む。家族と協力して具体的な生活設計を進め、期待が大きくなる。 安堵と期待。「ここまで来た」達成感と「新生活が始まる」期待。紆余曲折を経て「どんな園でもベストを尽くそう」という前向きさ。
⑪ 復活 入園初日、子どもが離れたくないと泣いて胸が締め付けられる。それでも笑顔で見送り、1週間後には園生活を楽しむ姿に「正しい選択だった」と確信。 自信と感謝。自己成長の実感と子どもの適応力への驚き。保活で得た経験や人とのつながりへの感謝。達成感が新たな自信となる。
⑫ 宝を持っての帰還 保活を経て安定した日常へ。園の保護者との交流で新コミュニティ形成。保育環境への関心が高まり、これから保活を始める人へのアドバイスや行政へのフィードバックなど経験を還元。 成長と還元。「誰かの支えになれば」という利他的気持ち。経験を社会還元する充実感。地域社会とのつながりと社会の仕組みを変える当事者意識。

保活という日常的な行政手続きも、主人公(保護者)にとっては大きな「冒険」であり、不安や混乱から始まり、情報収集や準備、結果待ちの緊張、時には挫折を経験し、最終的に解決に至るという「英雄の旅」やハッピーエンドの要素を持っています。

ご覧のとおり2つのジャーニーは軸は違えど、どちらもユーザーの感情は捉えています。ただ、ヒーローズジャーニーは、行動や接点そのものより、「その時、主人公(住民)は何を感じ、その体験にどんな自分なりの価値観や意味づけを行ったのか」といった内面の変化をリアルに追体験しています。まさに小説を読んでいるような感覚です。

主人公の意味づけを知ることが、行政UXを高めるヒント

ヒーローズジャーニーは「体験への意味づけ」を描くと説明しましたが、この意味づけとは具体的に以下のようなものです。

  • 「手続きに時間がかかって大変だった」 → これは単なる"事実"であり、カスタマージャーニーでもよく見られる観点です。
  • 「でも、あの時期に一歩踏み出せたことで、子どもの未来の準備ができたと思える」 → これが"意味づけ"です。本人がその体験に対して後から「意味」や「価値」を見出している状態を指します。親としての喜びや成長、自己肯定感の高まりなどが含まれます。

意味づけでは「なぜその感情が生まれたのか」「その経験から自分はどう変化したか」「その体験が現在の自分にどうつながっているか」という視点で経験を捉え直します。

このように保活という制度利用の一連の行動を物語として描くことで、行政が本来提供している価値や、住民が乗り越えている"目に見えない壁"を可視化できるのです。

行政側にとっては「情報提供と手続き」でも、住民にとっては「人生の大切なストーリー、ワンシーン」

この視点を持つことで、様々な場面での言葉づかい、画面設計、リーフレットの構成、説明会の語り口が変わります。そして"サービス提供"という概念から、"住民それぞれの人生に寄り添うサポート"へとクリアになっていくのではないでしょうか。

ヒーローズジャーニーを活用したサービスデザインの具体例

以下では、ヒーローズジャーニーの考え方を行政サービスに取り入れることで、どのような改善が実現できるものなのか2つのシーンで考えてみました。課題の内容や、ヒーローズジャーニーを活用することで得られる示唆、さらにそこから生まれる具体的なサービスやコミュニケーションのアイデアについて一緒に考えてみましょう。

1. 引っ越し手続き

実施前の状況:引っ越し手続きは「転出届」「転入届」「各種住所変更」などのリストとして整理され、効率的に案内されていましたが、新生活という観点からの情報提供には発展の余地がありました。

ヒーローズジャーニーでの示唆:

【②冒険への呼びかけ】住民は新しい土地への期待と不安を抱えて手続きを始めます

【⑥試練・仲間・敵】未知の地域での生活に向けた様々な準備に戸惑いを感じています

【⑫宝を持っての帰還】手続き完了は新しいコミュニティの一員になる象徴的な瞬間です

改善されたサービス:

「新生活スタートガイド」というコンセプトで、手続きと地域情報を一体化。

  • コミュニケーション面:「新しい生活の第一歩をサポートします」「この街での暮らしが素敵なものになりますように」など温かいメッセージを採用
  • 体験デザイン:手続き完了後に「地域お役立ちマップ」を配布。スーパーやクリニック、公共施設などの情報と、地域の人々からのおすすめスポット情報を掲載
  • 継続サポート:手続き完了から1ヶ月後に「お困りごとはありませんか?」のフォローアップで、新生活での不安や疑問に対応

2. 家庭の防災対策

実施前の状況:防災啓発は重要な情報や準備すべき事項を明確に伝えていましたが、住民の具体的な行動変容を促すためのアプローチに新たな視点が求められていました。

ヒーローズジャーニーでの示唆:

【③呼びかけの拒絶】多くの住民は「自分は大丈夫」という思い込みから行動を先延ばしにしています

【⑥試練・仲間・敵】実際の災害事例や体験談に触れることで危機感が芽生えます

【⑫宝を持っての帰還】防災対策完了による「家族の安全」という心の平和を得る体験が重要です

改善されたサービス:

「我が家の安心プラン」というコンセプトで、防災対策を家族の物語として再構築。

  • コミュニケーション面:「家族を守る勇気と知恵を身につけましょう」「小さな一歩が大きな安心につながります」など、前向きなメッセージを採用
  • 体験デザイン:防災チェックリストを「家族の安心ミッション」としてゲーム化。各ステップ完了ごとに達成感を味わえる仕組みを導入
  • 継続サポート:地域の防災リーダーによる「安心の知恵袋」相談会を定期開催し、住民同士で体験や知恵を共有できる場を創出

これらの例から分かるように、ヒーローズジャーニーを行政サービスに取り入れると、どう行動してほしいかのほかに、どう寄り添えるのかという視点が明確に加わります。カスタマージャーニーが「何をするか」「どこで困るか」という行動に注目するのに対し、ヒーローズジャーニーは「どう感じるか」「どう成長するか」という心の変化に焦点を当て、住民の気持ちやニーズに応えるサービスを作れます。

まとめ:2つのジャーニーの相乗効果

ヒーローズジャーニーとカスタマージャーニーは、それぞれ異なる目的や視点を持つフレームワークであり、使い分けが有用と感じました。ヒーローズジャーニーは住民の心の内面を追体験でき、感情の深い部分にフォーカスします。一方、カスタマージャーニーは、サービスやプロセス全体における課題の抽出や改善に重宝するものです。

これらのフレームワークをうまく組み合わせて活用するには、違いを理解して適材適所で使う必要があります。以下の比較表は、2つのフレームワークの主な違いを整理したものです。

2つのジャーニーの比較

要素 カスタマージャーニー ヒーローズジャーニー
主な目的 サービスの検証・改善(使いやすさ・流れ・窓口設計) 住民の気持ちに寄り添った言葉・体験・共感づくり
視点 サービス提供者側として客観的に行動や感情を分析する 利用者(住民)側、主人公本人になってその心の動き・意味付けをたどる
ジャーニーの流れ サービス・事業により、柔軟にステップを設定できる 決められた12のステージに沿って展開する
感情への向き合い方 各場面で個別に確認 ステージを超えた変化とつながりに注目
確認すべき点 行動や接点、問題発生箇所、コミュニケーションのタイミング 気持ちの変化や意味づけ、困難を乗り越えるプロセス
適した場面 課題の発見と改善、業務の可視化 共感を重視した文章、広報、学びの場、コンテンツの質的向上

この比較からわかるように、ヒーローズジャーニーはユーザーの気持ちを深掘りし、より寄り添ったコミュニケーション内容を考えたいときに効果的です。一方で、サポートするサービス自体の具体的な課題を明らかにするにはカスタマージャーニーが適しています。どちらか一方を使うのではなく、目的に応じて両者を組み合わせることで、より多面的で深いユーザー理解が可能になります。

たとえば、新しいサービスの設計段階では、まずカスタマージャーニーを活用して全体の流れを可視化し、特定の接点や感情の変化など時間軸を洗い出します。そして、最重要なステージで住民側の心情を丁寧に追体験したい場合に、ヒーローズジャーニーを適用することができるでしょう。
どちらも特性を活かして適切に使い分けることで、共感と分析のバランスを取り、質の高いサービスデザインが実現できるのではないかと考えています。

ぜひ、実際に2つのフレームワークを組み合わせて活用し、サービスを通じて「ヒーロー」を生み出してみてはいかがでしょうか。

おまけ:聞こえてきそうな2つの疑問

お決まりのプロット(構成)で体験設計できるものなのか?

  1. 住民の心の動きを“共通の言語”でとらえるため
    ヒーローズジャーニーは、神話や映画に使われてきた普遍的な構造です。このプロットにあてはめることで、複雑で多様な住民のストーリーを、誰もが理解しやすい“共通のフォーマット”で捉えることができます。サービス設計や説明資料、チーム内の共有にも役立ちます。
  2. 利用者の“ココロの変化と意味付け”に焦点を当てるため
    手続きや接点の表面的な行動だけでは見えない、住民本人の不安・迷い・決断・成長といった内面の変化を丁寧にたどることができます。 フロー設計に留まらず、心の揺れ動きを意識したUX・広報企画につながります。
  3. 行政サービスを“人生の物語”として再発見するため
    一見すると事務的な制度や手続きも、住民にとっては人生の節目や挑戦・希望であることが多いです。ヒーローズジャーニーを使えば、そうした日常の手続きが誰かにとっての「冒険」や「意味ある試練」として見えるようになります。結果的に、職員自身の仕事への誇りや、住民との共感を生み出すのではないでしょうか。

カスタマージャーニーでも十分ではないのか?

  1. 住民本人の「気持ちの変化」と「行動の意味」を把握するため
    カスタマージャーニーでは、住民が何をして、どのような接点があり、どの場面で困ったかを整理することができます。ただ、ジャーニーの流れによっては、そこで生まれた気持ちが「なぜそう感じたのか」「その体験が本人にとってどんな意味を持ったのか」が深掘りしづらいこともあるかと思います。
    ヒーローズジャーニーは、利用者を「物語の主人公」として捉えることで、課題に直面した背景や、それを乗り越えた結果として得た納得感・自信・成長など、本人にとっての意味づけを丁寧にとらえることができます。
  2. 「制度や業務の視点」だけでは見えないことを可視化できるから
    行政サービスの多くは、「業務プロセス」や「制度設計」に基づいて動いています。カスタマージャーニーもその流れを整理するのにとても有効です。
    しかし実際の利用者は、制度に対し直線的に行動するばかりではありません。不安になったり、途中でやめたくなったり、別の支援制度に頼ったりしながら、状況に応じて試行錯誤しています。
    ヒーローズジャーニーを使うと、そうした「行動の迷いや揺れ」「関係者(賢者)とのやりとりによる変化」など、制度の枠組みではとらえきれない住民の実体験が見えてきます。
    この視点を取り入れることで、住民にとって本当に必要なサポートや、心に響くメッセージを届けるヒントが見つかります。
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