Google の事例とともに考える採用
本記事は Google Cloud Japan Advent Calendar 2022 の 通常版 の 20 日目の記事です。 私は Google Cloud Japan で Manager を務めています。Manager の大切な仕事の中に採用があります。採用活動を通じて日々試行錯誤し、学びを得ています。Google も Google re:Work というサイトで Google の働き方、研究、アイディアを公開しています。今日は Google re:Work を参考にしながら、私が学んだことを投稿します。大切なこととなりますが、このブログでご紹介することは Google の事例、そして、私の意見が入ったものです。これが正解というものではなく、皆様のが採用を考えるときのアイデアの一助となれば幸いです。
採用とは
採用は、組織にとって最も重要な活動の一つです。組織のゴールに貢献する適切な人材を採用すること、これが採用のゴールだと考えています。組織のゴールは組織によって異なると思います。 Google では組織ごとに職種 (よくロールやジョブと呼ばれます) が決まっています。1つの組織のゴールを達成するために、複数の職種が作られることもあります。職種と応募要件、構造的な面接手法、採用委員会 (英語ではHiring Committee といいます) などを通じて、効果的な採用を行うためのプロセスを構築しています。それぞれ、このあと詳しく説明します。
なお、私が今、務めている Manager というものも、私が所属する Customer Engineering という組織の職種の一つです。役割が異なるだけで、 Customer Engineering という組織のゴールを達成するために働いています。
それでは、 Google の事例も添えて、それぞれ詳しく解説していきます。
職種と応募条件を定義する
応募者の方は、多くの場合、募集要項を最初に確認すると思います。
Google では、募集要項の内容を 4 つのカテゴリ(所属部署、職種、業務内容、応募条件)に絞っています。 Google の社内外の調査で、最初に大まかな概要を記述してから、詳細(募集職種に就いた人は毎日何をするか)を説明するのが最適であることがわかりました。4つのカテゴリを、私達カスタマーエンジニアの募集要項を例に取り上げながら説明していきます。私が務めているカスタマー エンジニアリング マネージャと見比べていただくと、職種によって必要な業務内容などが違うことがわかると思います。
私達にとって、募集要項を作ったり、見直したりすることは、組織にとってどのような職種、業務内容、応募条件が必要かを考える良い機会になっています。
- 所属部署: 組織の使命と目的に焦点を当てて伝えます。(「業界をリードする企業に Google Cloud を選んでいただくことは、クラウド コンピューティングを世界に広めるうえで大きな一歩となります。...」)。
- 職種: 職種について応募者に簡潔に紹介し (「Google Cloud カスタマー エンジニアリング チームのカスタマー エンジニアの使命は、セールスチームと連携しながら、お客様の Google Cloud 導入をサポートすることです。…」)日々の業務に関する情報を提供します。
- 業務内容: 応募職種の具体的な成果物の概要を示します(「高度な技術的能力を活かして、意欲的で斬新なソリューションをお客様や社内に提案し、困難な問題の解決に取り組む。...」)。
- 応募条件: 職務を遂行するために必要な学歴、経験、スキルについて説明します。具体的に記述する必要があります(「テクニカル コンサルタント、プリセールス エンジニア、エンタープライズ アーキテクトとしてインフラストラクチャやアプリケーションの移行 / モダナイゼーションを計画した 2 年以上の経験」)。
採用責任者は、チームメンバーや採用チームに募集要項を共有し、職種の内容や求められる人材像の詳細を伝えます。Google では採用するチームのマネージャーが採用責任者となります。但し、Google の採用プロセスは、公正・公平であるようにデザインされており、一人の採用責任者の意向だけでは採用は決まりません。
募集要項には最低限の応募条件と、望ましい応募条件の2つが記載があります。
- 最低限の応募条件とは、応募者がその職務を担うために満たしていなければならない基本的で証明可能な条件で、通常であれば交渉の余地はありません (例: コンピュータ サイエンスの学士号を取得していること(同等の実務経験でも可))。
- 望ましい応募条件とは、必須ではないものの、理想的な応募者として身につけていることが望ましいスキルや経験です。最低限の応募条件に比べると、定性的な条件が多くなります(例: Kubernetes / サーバーレス技術スタック(コンテナ オーケストレーション、サービス メッシュ)およびデプロイ技術スタック(継続的デリバリー)に関する 知識)。
募集要項ができたら、公開する前に、複数の関連部署のマネージャーや採用チームにレビューしてもらいます。社内のリサーチによれば、応募者は長い文章が続く段落を飛ばして、箇条書きされた要件をすぐに参照します。そのため、応募者が読みやすいように募集要項の書式(見出し、箇条書き、一文を短くするなど)を工夫しています。
構造化面接を実施する
構造化面接では、簡単に言えば、同じ職務に応募している応募者に同じ面接手法を使います。つまり、応募者に同じ質問をして、同じ尺度で回答を採点し、事前に決められた一貫した採用要件に基づいて採用を決定しています。面接担当者の直感による判断は、無意識の認知(バイアス)によって大きく影響されてしまいます。そのため、現在 Google では構造化面接を採用しています。
構造化面接は、準備や運用が大変な側面もあります。適切な質問を準備することや、面接担当者が他の質問をしたり、同じレベルで面接を実施出来るようにトレーニングもします。また、同じ質問を使い続けると、様々な問題も生じるため、絶えず質問を更新し続けています。
また、このあと解説する採用委員会も、客観的に職務を達成するために、適切な人材を採用し続けるための仕組みです。
構造化面接の 4 つの側面
構造化面接の目的は、応募者に対する評価が応募者のパフォーマンスのみに基づくようにし、面接担当者による評価基準や質問の難易度が上下しても影響を受けないようにするためです。
構造化面接に対する Google のアプローチには、次の 4 つの側面があります。
- 職務に関連性のある、吟味された質の高い質問をする(難問奇問をしない)
- 評価担当者が簡単に回答を審査できるように、応募者の回答に対する総合的なフィードバックを文書にする
- 優れた回答、凡庸な回答、劣った回答がどのようなものかについて、すべての評価担当者が共通の認識を持てるように、標準化されたプロセスで採点する
- 面接担当者が自信を持って一貫性のある評価を行えるように、面接担当者へのトレーニングを提供し、調整(キャリブレーション)を図る
採用する人材の要件から、面接の質問を作成する
Google では採用の際に期待する一般的な要件を 4 つ定めていますが、各組織の構成や特定の職務に応じて適切な要件や能力を決めることができます。
Google が求める 4 つの要件は次のとおりです。
- 一般的な認知能力 (GCA/General Cognitive Ability): Google は、新しい状況を学び、それに適応できる有能な人材を求めています。これは、GPA や SAT のスコアではなく、応募者が現実の難題をどのように解決し、どう学ぶかを重視するということです。
- リーダーシップ: Google では、「エマージェント リーダーシップ」という特定の種類のリーダーシップを求めています。これは、正式な肩書きや権限を持たないリーダーシップの一形態です。Google では、さまざまなチームメンバーがリーダーの役割を引き受けて貢献する必要があり、このようなリーダーシップは、彼らが持つ特定のスキルの必要性がなくなればそのリーダーの役割を退くという、シビアな責務でもあります。
- Google らしさ: Google では、応募者が Google で能力を発揮できるかどうかを判断する物差しとして、あいまいさを許容できる性格、積極的な行動力、協調性の 3 つを持ち合わせているかどうかに注目しています。
- 職務に関連した知識: Google は、応募者が成果をあげるために必要な経験や経歴、スキルなどを備えているかを精査します。
これらの4つをふまえ、それぞれに対応した、面接の質問を作っています。質問は導入部分と、フォローアップの質問に分かれています。2つに分けることで、対話形式で応募者の方から、更に詳しい説明を引き出すことができます。面接担当者は、正解かどうか評価することにだけに集中せずに、応募者が問題を掘り下げ、意味を明らかにし、解決策を示すために用いた分析思考プロセスを審査することを心がけています。
また、質問は、過去の行動についての質問(「~のときのことを話してください」)と、仮説に基づく質問(「もし~だとしたら、あなたはどうしますか?」)の 2 種類があります。行動についての質問は、行動のパターンを明らかにするうえで有効で、仮説に基づく質問は、応募者が新しい状況にどのように対応するかを確認できます。
ルーブリック(評価基準表)を使用する
構造化面接では、質問に対する回答の評価基準を事前に準備しておくことで、複数の応募者の回答を公平かつ一貫性のある方法で比較し、評価することができます。
Google では、応募者の資質や応募要件のフィットを探る面接での質問に対して、悪い回答、あいまいな回答、良い回答、優れた回答はどのようなものかを、実例を交えて文書化しています。面接担当者には回答を詳細にメモしてもらいます。
そうすることで、次のパートで説明する、独立した採用委員会が評価を検証することができます。
採用委員会を設ける
Google の採用プロセスには採用委員会によるレビューが含まれています。
Google の採用責任者は、第三者が公正に面接結果を判断するため、自分一人だけで採用を決めることはできません。そのため、採用するには応募者を採用委員会にレビューしてもらう必要があります。特になかなか最適な人材が見つからずに、採用プロセスが長引くと採用責任者はとにかくそのポジションを埋めたいと考えがちです。しかし、短期的な判断で慌てて採用しても、長期的には良い結果をもたらしません。そこで採用委員会が Google にふさわしい、つまり会社とともに成長し、今後新たに発生する職務も担える応募者を選定できるようレビューします。
採用委員会が有効な理由として、以下が挙げられます。
- 個々の無意識の認知(バイアス)を減らすことができる
- 応募者が職務に適しているか、さらに組織全体に適しているかを確認できる
- 単独でレビューするよりも、すべてのフィードバックを包括的にレビューできる
- カリブレーションを受けていない面接担当者や、たまたま上手くいった面接によって発生する、採用プロセスにおけるばらつきをなくすことができる
Google の採用委員会は通常 4~5 人のメンバーで構成されます。各メンバーには面接の経験があり、それぞれが応募者に求める要件を深く理解しています。採用委員会は会社の部門ごとにあり、応募者をレビューします。つまり、エンジニア採用委員会はエンジニアの応募者、営業採用委員会は営業の応募者をレビューします。
採用委員会の新メンバーにもトレーニングと経験が必要です。Google では新メンバーが採用委員会に参加する際、最初の 3 回は「シャドーイング」と呼ばれます。シャドーイングの期間中、新メンバーはディスカッションへの参加を求められます。その後、経験豊富なメンバーが新メンバーによるフィードバックをレビューし、質問に答えて、新メンバーの評価基準のすり合わせをサポートします。
採用委員会は、1名ではなく複数の総意によって、応募者の「採用」「不採用」「保留あるいは追加情報が必要」の決定を行います。これにより、決定の質を高めています。「保留あるいは追加情報が必要」な場合、採用担当者は再検討できるよう、委員会からのフィードバックに基づいてさらに多くの情報を収集します(必要に応じて追加面接も行います)。
採用委員会は、面接担当者や採用責任者からのフィードバックも将来の採用に向けて行います。これにより、面接や意思決定を改善し続けます。
まとめ
Google では、このように透明性が高く、研究に基づいた採用プロセスがあります。採用責任者としては、このプロセスで、最適な人材を採用し続けているからこそ、自信をもって、採用した方が Best だと言い切ることができます。プロセスを改善し続けたり、フィードバックを行い続ける必要がある、最も難しく、重要な仕事だとも感じています。
今回のブログが皆さんの採用の一助となれば、幸いです。
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明日は Taka Sato さんによる Cloud Spanner の SQL ログを gRPC レイヤーで取得する方法です。ご期待ください!
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