Gemini利用環境の解説(Google AI Studio,Vertex AI Studio,Gemini for Google etc)
こんにちは、メディア・エンターテイメント業界 担当の Customer Engineer の Dan です。
本記事は Google Cloud Japan Advent Calendar 2024 Gemini 特集版 の 16 日目の記事です。
上記 Advent Calendar に掲載されている他の記事を見ていただけると分かる通り、Gemini といってもその利用環境やサービスとして、Google AI Studio、Vertex AI Studio、Gemini for Google Workspace、Gemini in BigQuery、Gemini Code Assist など様々なサービスがあります。色々ありすぎて、どういうシーンに使うべきサービスなのか分かりづらいと感じる方もいるかと思いますので、本記事では各サービスの機能やターゲット、利用規約の違い等を解説していきます。
3行まとめ
- Geminiは個人向けと企業向けのサービスに分かれており、個人向けはGoogle AI Studio、企業向けはVertex AI StudioとGemini for Google Workspaceが中心です。
- 個人向けはサポートが限られ、データが学習に利用される可能性があります。
- 企業向けでは充実したサポートとデータ保護が提供されます。
Gemini エコシステム
改めてですが、Gemini は Google が開発する最先端の生成 AI モデル ファミリーの名称です。 テキストだけでなく画像や動画なども一緒に処理できる、マルチモーダル モデルの大規模言語モデル (LLM, Large Language Model) になります。またロングコンテキストとして、2024/12 現在は 200 万トークンまでのデータ入力に対応しており、約 2 時間の動画、22 時間の音声、2,000 ページ以上の PDF といった大規模データの情報を処理可能です。 この能力を活かし、複雑な問題を理解し、幅広い分野の知識を備えているため、下記のような様々な形でサービスとして提供されています。
サービスとターゲット例)
- Geminiアプリ: AIアシスタントとして気軽にGeminiを使いたいユーザー向け(例: 個人的な質問、アイデア出し)
- Gemini API: 自社サービスにGeminiを組み込みたい開発者向け(例: チャットボットの開発、文章生成API)
- Gemini for Google Workspace: 企業のIT管理者がGoogle WorkspaceアプリとGeminiを連携して従業員の業務効率化を図りたい場合(例: メール作成支援、ドキュメント要約)
これらの他にも数多くの Gemini 関連サービスがあり、今後も増えていくものと思われます。
Gemini サービスを選定するにあたり、機能だけではなく下記の点にも留意いただくことが重要です。
- サポートの有無
- データの取り扱い(モデルの学習への利用可否)、利用規約
- 利用者の制御、監査ログの可否
企業利用であれば、自社のサービスレベルやセキュリティ規定、ガバナンス要件が上記にマッチするかどうかで、どの Gemini サービスを利用するかを判断することになります。
ここからは、下記の2軸をベースに、現状提供している Gemini サービスについて整理していきます。補足として見分け方も記載します。
- 一般利用者向け(toC): Google が提供するサービス
- notebooklm.google.com や ai.google.dev のような、google ドメインで提供されます
- 企業向け(toB): Google Cloud が提供するサービス
- Web コンソールは console.cloud.google.com、API は aiplatform.googleapis.com といった形で、cloud や googleapis といったドメインで提供されます
12/16 現在の Gemini サービスの大きな分類は下図の通りです。
一般利用者向け(toC)Gemini サービス
toC 向け Gemini サービスは基本的に下表の通り、個人利用向けの特徴を有しています。
特に、品質の向上とプロダクトの改善のために入力データを基盤モデルの学習に利用する場合がある点は注意が必要です。もちろんその際はプライバシーを保護するための措置が講じられていますが、会話には機密情報を入力しないことが推奨になります。
これらのサービスには、Google 利用規約と生成 AI の使用禁止に関するポリシーが適用されます。Google が Gemini アプリのデータをどのように使用するかについて詳しくは、Gemini アプリのプライバシー ハブをご参照ください。
カテゴリ | 説明 |
---|---|
サポート | × サポート窓口はなくコミュニティベースでの課題解決 |
データの取扱 |
Gemini API 追加利用規約 ・無料枠の場合、基盤モデルの学習にデータを利用 ・有料枠の場合、データ利用対象外 ※規約内に Google Cloud Platform 利用規約に関する言及がありますが、有料枠の請求管理に Google Cloud 請求先アカウントを利用するために請求部分のみ Google Cloud の利用規約が適用されます。API の利用に関しては Google Cloud のサポートや規約は一切適用されません。 顧客暗号鍵やデータの所在地に関する設定は不可 |
利用者の制御 | △ (Google Workspace 管理者画面から機能自体へのアクセス制限は可能) |
監査ログの収集 | × |
toC 向け Gemini サービスには下表のようなサービスがあります。
サービス名 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
Google AI Studio | Gemini API (Gemini 1.0 や 1.5 Pro/Flash, 2.0 Flash 等の基盤モデル) を利用できるサービス | |
Web UI コンソール上での利用の他、API キーを発行してアプリケーションから利用することが可能 | 前述のGoogle 利用規約と生成 AI の使用禁止に関するポリシーに加え、Gemini API 追加利用規約が適用される。Gemini API 追加利用規約内で Google Cloud 利用規約が言及されているが、これは Google AI Studio の有料サービスの課金は Google Cloud の請求機能を利用して行われる仕様になっているため、この請求・支払い部分に関する規約だけは Google Cloud 側の利用規約に部分的に従うことになっている | |
Gemini アプリ | Google の生成AIサービスである Gemini を利用できるWeb/モバイル アプリ | |
Gemini in Gmail, Docs, Slides, Sheet, Chat, Meet, Drive, Vids, Keep, Form | Google Workspace Labs(早期アクセス用テスト プログラム)経由で利用可能な、Google Workspace 製品に統合された個人向け Gemini サービス | 企業内利用は、Gemini for Google Workspace をご利用ください |
NotebookLM | ユーザーがアップロードした資料などの情報に基づいて回答する機能を持つ生成AIツール | |
Google Labs (ImageFX, MusicFX etc) | 旧 AI Test Kitchen、Googleから提供される最新AIテクノロジーを利用できるプラットフォーム。ImageFX: テキストから画像を生成できるAI画像生成ツール。MusicFX: テキストから音楽を生成できるAI音楽生成ツール | Privacy Policy |
企業向け(toB)Gemini サービス
toB 向け Gemini サービスは基本的に下表の通り、企業利用向けの特徴を有しています。
特に、入力データが基盤モデルの学習に利用されない点が特徴です。
これらのサービスには、Google Cloud Platform 利用規約とGoogle Cloud Platform Acceptable Use Policyが適用されます。Google Cloud がデータをどのように使用するかは、Google Cloud プライバシー通知をご参照ください。
カテゴリ | 説明 |
---|---|
サポート | ◯ カスタマーケアに加入が必要 |
データの取扱 | Google Cloud Platform 利用規約。入力されたデータは基盤モデルの学習に利用されません。顧客暗号鍵の適用や、データの所在地に関する設定が可能 |
利用者の制御 | ◯ IAM による制御や、利用可能なサードパーティモデルを組織ポリシーで制限可能 |
監査ログの収集 | ◯ 通常の監査ログの他、下記機能を実装することで利用者のプロンプトや Gemini の出力をロギングすることが可能(今後マネージドサービスとして機能提供されることを期待しています)https://github.com/GCP-Architecture-Guides/gcp-llm-logging |
toB 向け Gemini サービスには下表のようなサービスがあります。
サービス名 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
Vertex AI Studio | Gemini API を利用できるGoogle Cloud のサービス。Google AI Studio の企業版。 Web UI コンソール上での利用の他、サービスアカウントやAPI キーを使用してアプリケーションから利用することが可能 その他の特徴として、Google Cloud 上の他サービスとシームレスに連携することが可能 |
|
Gemini for Google Workspace(NotebookLM Plus 含む) | Gmailやドキュメント、スプレッドシートなどの使い慣れた Google Workspace アプリと Gemini の強力な AI 機能を連携して業務効率化を図ることが可能なサービス | 利用に際しては、Google Workspace プランのアドオンとして、下記プランの契約が必要。 Gemini Business: 基本的な Gemini の機能を利用できるプラン Gemini Enterprise: Business の機能に加えて、より高度な機能やセキュリティ機能が追加されたプラン 機能詳細は、Google Workspace 管理者ヘルプ - Gemini for Google Workspace を参照 |
Gemini for Google Cloud | Google Cloud ユーザーに、生成 AI を活用したアシスタンスを提供する機能の総称 次行から記載するサービスを有する |
|
Gemini Code Assist | AIを活用したコーディング支援ツール。コード生成、補完、レビューなどを効率化します | Gemini Code Assist の Standard もしくは Enterprise プランが必要 機能差異は Gemini for Google Cloud の料金 を参照 |
Gemini in Colab Enterprise | Colab Enterprise上でGeminiのAI機能を利用し、コーディングやデータ分析などを支援するサービス | Gemini Code Assist の Standard もしくは Enterprise プランが必要 |
Gemini in Firebase | Firebaseアプリ開発を支援するコラボレーションアシスタントです。開発効率向上、デバッグ時間短縮に貢献します | Gemini Code Assist の Standard もしくは Enterprise プランが必要 |
Gemini in Databases | AIを活用したデータベースアシスタント。自然言語でのデータ分析、SQL生成、パフォーマンス最適化などを支援します | Gemini Code Assist の Standard もしくは Enterprise プランが必要 |
Gemini in Apigee, Gemini in Application Integration | Apigee や Application Integration の開発を支援する AI ツール。自然言語でフロー生成、タスク提案、コード生成などを行い、開発を効率化します | Gemini Code Assist の Standard もしくは Enterprise プランが必要 |
Gemini in BigQuery | BigQuery 上で自然言語でデータ分析を可能にするAIツール。SQL生成などを支援し、データ活用を効率化します | Gemini Code Assist の Enterprise プランもしくは BigQuery Enterprise Plus エディション契約が必要 |
Gemini in Security Command Center(SCC) | SCC 上のセキュリティ脅威の検出・調査・対応を支援する AI サービス。自然言語検索やサマリー生成などが可能 | ケースの AI サマリーと UDM 検索クエリは、SCC Enterprise ティアに含まれる |
まとめ
この記事では、Googleの生成AIモデル「Gemini」の利用環境の違い、特に個人向け(toC)と企業向け(toB)のサービスの違いに焦点を当ててご紹介しました。Geminiはマルチモーダルで非常に強力なモデルですが、その利用方法や提供形態は多岐に渡り、ユーザーは自身のニーズに合ったサービスを選ぶ必要があります。
特に重要な点は、以下の3点です。
- 個人利用と企業利用で明確な区別がある: 個人向けはGoogle AI StudioやGeminiアプリ、Google Workspaceアプリへの統合など、手軽にGeminiを体験できるサービスが中心です。一方、企業向けはVertex AI StudioやGemini for Google Workspaceなど、より厳格なセキュリティやサポートが求められる環境で利用できるサービスが中心となります。
- データの取り扱いが大きく異なる: 個人向けサービスでは、サービスの品質向上やプロダクト改善のために入力データが基盤モデルの学習に利用される可能性があります。そのため、機密情報の入力は避けるべきです。企業利用では、入力データが基盤モデルの学習に利用されることはなく、より安心して利用できます。
- サポート体制や利用規約も異なる: 個人利用はコミュニティベースのサポートが中心となり、利用規約もGoogleの一般的な利用規約が適用されます。企業利用は充実したサポートが提供され、Google Cloud Platformの利用規約が適用されます。企業は自社のセキュリティポリシーやガバナンス要件に合わせてサービスを選択できます。
今後も Gemini 関連のサービスは増えていくことが予想されます。本記事が、皆様が Gemini サービスを選定する際の一助となれば幸いです。
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