SRE(Site Reliability Engineering)とは?: Hope is not a strategy
はじめに
Googleのエンジニアリング文化の中で誕生した Site Reliability Engineering (SRE) は、現代のITシステム運用を支える重要なプラクティスです。「Hope is not a strategy(希望は戦略ではない)」という言葉が象徴するように、SREは偶然や期待に頼ることなく、信頼性と効率性を追求します。
この記事では、SREの誕生理由、基本的な概念、そしてその重要性について説明します。
SREの誕生理由
背景
2003年、Googleは急速に成長しており、システムのスケーラビリティと信頼性を維持する必要がありました。従来の運用方法ではこれらの課題に対応することが難しく、より洗練されたアプローチが求められました。
誕生
Googleのベンジャミン・トレーナー・スロス(Benjamin Treynor Sloss)は、この課題に対するソリューションとして、ソフトウェアエンジニアの観点からシステム運用を再定義する Site Reliability Engineering (SRE) チームを結成しました。目標は、信頼性、スケーラビリティ、パフォーマンスのバランスを取りつつ、システムの運用を自動化し、人間の介入を最小限に抑えることでした。
SREとは何か?
Site Reliability Engineering (SRE)は、システムの信頼性を確保するためのさまざまなプロセスとツールを組み合わせたエンジニアリングアプローチです。ここでは、Googleが掲げるSREの基本理念について簡潔に説明します。
エンジニアリングへの持続的な時間の確保
エンジニアリングへの集中力を保持するため、GoogleはSREが行う運用作業の時間を全体の50%に制限しています。この50%の枠を超える運用作業は、プロダクト開発チームへとリダイレクトされます。この仕組みは開発者に対して、より自動化されたシステム設計を促すフィードバックメカニズムとして機能します。
- 例: SREチームは、1つのオンコールシフト中に最大2つのイベントを処理します。これにより、各イベントを迅速かつ正確に処理し、正常なサービスへと復帰させる時間を確保します。
サービスのSLOを違反することなく最大限の改善速度を追求する
SREはエラーバジェットというアプローチを使用して、開発の速度とシステムの安定性という2つの相反する目標を調整します。エラーバジェットは、システムの許容ダウンタイムを具体的な数字で示すものです。
- 例: サービスの可用性が99.99%に設定されている場合、エラーバジェットは0.01%のダウンタイム(年間約52.56分)となります。この制限内で新機能をリリースするリスクを取ることが許されます。
各稼働率における許容ダウンタイム
稼働率 | 年 | 月 | 週 | 日 |
---|---|---|---|---|
99.99% | 約52分 | 約4分19秒 | 約1分 | 約8秒 |
99.9% | 約8時間45分 | 約43分49秒 | 約10分5秒 | 約1分27秒 |
99% | 約3日15時間36分 | 約7時間18分 | 約1時間40分 | 約14分24秒 |
90% | 約36日12時間 | 約72時間 | 約16時間48分 | 約2時間24分 |
モニタリング
モニタリングはシステムの健康状態と可用性を維持するための重要な手段です。効果的な監視は、人間の解釈を必要としない自動化されたアラートを提供することが重要です。
- 例:アラートは、システムに対する即時の人間の介入が必要な場合に発生します。一方、チケットは即時ではないが後で対処する必要がある場合に発行され、ログは診断やフォレンジックの目的で記録されます。
緊急対応
緊急対応の効果を評価する上での最も重要な指標は、システムを正常に戻すまでの時間(MTTR)です。Googleでは、事前にプレイブックを用意し、それに従って対応することで、MTTRが約3倍も改善されるとされています。
- 例: "Wheel of Misfortune"という演習があり、オンコールエンジニアがプレイブックに従って高ステークスな状況に素早く対処できるようになるための訓練を行います。
変更管理
約70%の障害はシステムの変更によるものです。そのため、変更は自動化され、段階的にロールアウトされ、問題が発生した場合には迅速にロールバックする仕組みが必要です。
- 例: 新しい機能を徐々にリリースし、問題が発見された場合には即座に元に戻す能力を持つことが重要です。これにより、影響を最小限に抑えつつ、リリース速度を維持します。
需要予測と容量計画
将来の需要に対して十分な容量と冗長性を確保するためには、正確な需要予測と容量計画が重要です。これは自然な成長とイベント駆動型の成長の両方を考慮する必要があります。
- 例: マーケティングキャンペーンや新機能のリリースによる一時的な需要の増加を見越して容量を確保します。
効率とパフォーマンス
リソースの効率的な使用は、コストを抑えつつサービスを提供するために必要です。SREは、需要予測、容量計画、ソフトウェアの最適化を通じてサービスの効率を向上させます。
- 例: サービスのパフォーマンスを監視し、その結果に基づいてプロビジョニング戦略を見直すことで、効率を最大化します。これにより、コストを削減しながらサービスの品質を保ちます。
これらの基本理念を通じて、SREは高い信頼性と効率性を持つシステムを構築し維持する役割を果たしています。
まとめ
サイトリライアビリティエンジニアリング(SRE)は、Googleがその巨大なインフラを維持するために開発した画期的なアプローチです。「Hope is not a strategy」という言葉に象徴されるように、信頼性と効率を向上させるためには、計画的かつエンジニアリング主導のアプローチが不可欠です。
SREの実践により、多くの企業がより高い信頼性と効率性を実現しており、その重要性は今後も増していくことでしょう。
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