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ゼロトラストへの理解と誤解

2024/08/05に公開

はじめに

1. 前書き

セキュリティエンジニア見習いです。みなさんゼロトラストという言葉をご存知でしょうか?
勉強内容のアウトプットついでにここに私の見解を書きます。

デジタル化が加速する現代社会において、情報セキュリティの重要性は日々高まっています。しかし、近年発生したKADOKAWAのランサムウェア被害や、他の大手企業のセキュリティインシデントは、従来のセキュリティアプローチの限界を浮き彫りにしました。これらの事例が示すのは、単に外部からの脅威を防ぐだけでは不十分であり、内部ネットワークの安全性を過信することの危険性です。

本稿では、長年にわたりセキュリティの基盤とされてきた境界防御モデルの限界を詳細に分析し、新たなセキュリティパラダイムである「ゼロトラスト」の重要性と実装方法について解説します。さらに、両アプローチの効果的な統合方法についても考察します。

2. 境界防御モデルの限界

従来のセキュリティモデルは、組織のネットワークを城壁に囲まれた城に例えることができます。ファイアウォールやIPS/IDS(侵入防止/検知システム)、VPNなどのセキュリティ対策は、この城壁や堀の役割を果たし、外部からの侵入を防ぐことを主な目的としていました。この「城郭モデル」では、一度城内(内部ネットワーク)に入れば、比較的自由に移動できるという前提がありました。

しかし、このモデルには重大な欠陥があります。まず、内部脅威への対応が不十分です。従業員による意図的な情報漏洩や、誤操作によるデータ流出といったリスクに対して、境界防御は無力です。さらに、攻撃者が何らかの方法で内部に侵入することに成功した場合、自由に内部を移動し、重要な情報にアクセスする可能性が高くなります。

クラウドコンピューティングの普及も、境界防御モデルの有効性を低下させる要因となっています。組織のリソースがクラウド上に分散し、従来の意味での「内部」と「外部」の境界が曖昧になる中、単純な境界防御では十分な保護を提供できません。

さらに、リモートワークの増加により、従業員が社外から企業のリソースにアクセスする機会が増えています。VPNを介したアクセスは新たな攻撃ベクトルとなり、VPNの脆弱性を狙った攻撃も増加しています。

最後に、高度な持続的脅威(APT)に対する脆弱性も指摘されています。これらの攻撃は長期間にわたって潜伏し、内部ネットワーク内で徐々に活動範囲を拡大していきます。従来の境界防御モデルでは、このような巧妙な攻撃を検知し、防御することが極めて困難です。

3. ゼロトラストセキュリティの本質

これらの課題に対応するために登場したのが、ゼロトラストセキュリティです。ゼロトラストの核心は、「何も信頼しない、そして常に検証する」という原則にあります。このアプローチでは、ネットワークの内部も外部も同様に危険であると見なし、すべてのアクセス要求を潜在的な脅威として扱います。

ゼロトラストの基本原則は以下のとおりです:

  1. デフォルト不信:すべてのネットワーク、デバイス、ユーザーを潜在的な脅威として扱う
  2. 最小権限の原則:ユーザーやアプリケーションに必要最小限のアクセス権限のみを付与する
  3. 継続的な認証と認可:一度の認証で永続的な信頼を与えるのではなく、アクセスの都度、認証と認可を再度行う
  4. マイクロセグメンテーション:ネットワークを細かく分割し、セグメント間の通信を厳密に制御する
  5. データ中心のセキュリティ:データの分類と保護を重視し、データへのアクセスを細かく制御する

これらの原則を実現するために、ゼロトラストアーキテクチャは複数の技術要素を組み合わせます。例えば、強力なID管理とアクセス制御システムは、多要素認証(MFA)やコンテキストベースのアクセス制御を提供し、不正アクセスのリスクを大幅に低減します。また、エンドポイント検出と対応(EDR)システムは、デバイスの健全性を継続的に評価し、マルウェア感染などの脅威を早期に検知します。

ネットワークレベルでは、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)技術を活用したマイクロセグメンテーションが重要な役割を果たします。これにより、ネットワーク内の不必要な通信を制限し、攻撃者の横方向の移動(ラテラルムーブメント)を防ぐことができます。

さらに、暗号化技術の徹底的な適用も、ゼロトラストの重要な要素です。データは保存時も転送時も常に暗号化され、認可されたユーザーのみがアクセスできるようになります。

4. ゼロトラスト実装の現実

ゼロトラストの概念は理想的に聞こえますが、その実装には多くの課題があります。まず、既存のIT環境を完全にゼロトラストモデルに移行することは、技術的にも運用的にも非常に複雑で時間のかかるプロセスです。

そのため、多くの組織では段階的なアプローチを採用しています。最初のステップとして、重要なアセットの特定と保護から始め、徐々に範囲を拡大していきます。この過程で、包括的な資産インベントリの作成が不可欠です。すべてのデバイス、ユーザー、アプリケーションを把握し、継続的に管理する方法を確立する必要があります。

アイデンティティ中心のセキュリティも、ゼロトラスト実装の重要な柱です。強力なIDおよびアクセス管理(IAM)システムの導入、シングルサインオン(SSO)と多要素認証の統合により、アクセス制御の精度と効率を高めることができます。

同時に、ネットワークトラフィックの可視化と分析も重要です。ネットワークトラフィック分析(NTA)ツールを導入し、異常検知能力を強化することで、潜在的な脅威をより早く、より正確に識別できるようになります。

さらに、セキュリティオペレーションの効率を高めるために、自動化とオーケストレーションの活用が不可欠です。セキュリティオーケストレーション、自動化、レスポンス(SOAR)ツールを導入することで、インシデント対応の迅速化とヒューマンエラーの削減が可能になります。

5. ゼロトラストと境界防御の統合

ゼロトラストセキュリティの概念が広まるにつれ、「境界防御はもはや不要である」という誤解も生まれています。しかし、現実はそれほど単純ではありません。ゼロトラストと境界防御は、互いに排他的なものではなく、むしろ補完的な関係にあると考えるべきです。

多くの組織では、オンプレミスのシステムとクラウドサービスが混在するハイブリッド環境が一般的です。このような環境では、従来の境界防御とゼロトラストアプローチを適切に組み合わせることが、最も効果的なセキュリティ戦略となります。

具体的には、外部からの大規模な攻撃や、既知の脅威に対しては、従来の境界防御が依然として有効です。ファイアウォールやIPS/IDSは、組織のネットワークに到達する前に多くの攻撃を阻止できます。一方、内部ネットワークやクラウドリソースの保護には、ゼロトラストモデルを適用することで、より細やかなアクセス制御と監視が可能になります。

さらに、次世代ファイアウォール(NGFW)とゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)を統合することで、「インテリジェントな境界」を構築できます。これにより、境界でもコンテキストベースのアクセス制御を適用し、より高度な脅威検知が可能になります。

また、ネットワークセグメンテーションについても、従来のVLANベースのセグメンテーションとゼロトラストのマイクロセグメンテーションを組み合わせることで、より柔軟で強固なネットワーク分離が実現できます。さらに、ソフトウェア定義境界(SDP)の導入により、動的かつ細やかなアクセス制御が可能になります。

6. 結論

ゼロトラストセキュリティは、現代の複雑なIT環境に対応するための革新的なアプローチです。しかし、それは境界防御の完全な代替ではなく、むしろ既存のセキュリティ対策を強化し、補完するものとして捉えるべきです。

企業は、ゼロトラストの原則を採用しつつ、既存の境界防御を最適化することで、より強固で適応性の高いセキュリティ態勢を構築できます。この統合的なアプローチにより、外部からの脅威と内部のリスクの両方に効果的に対処することが可能になります。

最終的に重要なのは、セキュリティを単一の技術や概念ではなく、継続的な過程として捉えることです。脅威の状況は常に変化し、新たな攻撃手法が次々と登場します。そのため、企業は常にセキュリティ戦略を見直し、改善し続ける必要があります。

ゼロトラストと境界防御を効果的に組み合わせ、常に進化する脅威に対応できる柔軟なセキュリティ戦略を構築することが、今日のデジタル社会で組織を守るための鍵となるのです。

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