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10年以上テックブログを書きながら考えていたことと、AIの到来で考えること

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AIに文章を書かせることが当たり前になってきました。ブログ記事の下書きをAIに任せたり、構成を考えてもらったり、文章の推敲を手伝ってもらったり。使い方は様々ですが、ライティングのハードルを下げてくれるツールとして定着しつつあります。

筆者は10年以上、個人でテックブログを運用してきました。とはいえ人気記事をバンバン書けているわけでもなく、細々と続けてきたという感じではありますが、その間ずっと自分の手で書いてきました。

AIがライティングのハードルを下げてくれる時代に、あえて自分で書くことにどんな意味があるのか。10年以上、普段どんなことを考えながら技術記事を書いているのかを振り返りつつ、この問いについて考えてみたいと思います。

なお、そういったことを書くにあたり、この記事自体も実験的にAIで作成してみています。

書くことは考えること

書くという行為は、単にアウトプットを残すだけの行為ではありません。書く対象を探したり、それを実際に書こうとする過程で、自分が何を考えているのか、何を伝えたいのかが整理されていきます。頭のなかでぼんやりと思っていたことが、言葉にしようとすることで輪郭を持ち始める。リチャード・ファインマンにも似た言葉[1]があるように、書くことは、考えることそのものだと思っています。

「書くネタがない」というのはよく聞かれる悩みですが、ネタを探すこと自体が、自分の経験や学びを振り返る機会になります。まずは書きながら様々な要素を並べていき、それらを掛け合わせることで希少性が生まれたりします。藤原和博氏の「3つのキャリアを掛け算して100万分の1の人材になる」という話がありますが、キャリアに限らず、希少性は掛け算から生まれます。例えば以下の記事は「AWS Health」「Slackへの通知」「AIでの要約」という3つの要素の掛け算です。

https://zenn.dev/globis/articles/aws_notification_with_zapier

あるいは企業テックブログなどであれば、その「企業」というバックグラウンドやコンテキスト自体が掛け算の要素にも成り得ます。

https://speakerdeck.com/globis_gdp/ze-wu-dekao-eruzu-zhi-to-di-san-shi-dai-nosre

こうした工夫を考えること自体が、自分の成果やインプットを棚卸しする機会になります。日々の仕事や学びのなかで何を得たのか、どんな価値を発揮できたのかを振り返り、言語化できるものを見つけ出す。書く過程そのものが、自分のアウトカムを可視化し、見つめ直す訓練になっているのです。

書くことは対話すること

以前、勉強会でLTを聞いていたら、発表スライドの参考文献に自分のブログ記事へのリンクが載っていたことがありました。これはまったくの偶然で、当時とても嬉しかったし、驚いたのを覚えています。自分の書いたものが誰かの考えの一部になっている。そういう対話の連鎖が実際に起きているのだと実感した瞬間でした。

書くことは、誰かに向けたコミュニケーションでもあります。それが思いも寄らぬ人へも届くかもしれません。反対にブログを読むという行為も、単なる情報の摂取ではなく、書き手の考えに触れ、自分の考えと照らし合わせる——ある種の対話だと思っています。

この経験もあって、筆者は記事を書くとき、なるべく参考文献を載せるようにしています。自分の考えを補強するためでもありますが、それ以上に、先人たちの考えとの対話に自分も参加しているという感覚があるからです。誰かのブログや本から学んだことを、自分なりに咀嚼して書く。そしてその記事が、また誰かの参考になるかもしれない。参考文献を明記することは、学ばせてもらったことへの恩返しでもあります。

https://zenn.dev/globis/articles/daily_mental_management_for_middle_managers

例えばこの記事では、中間管理職のメンタルマネジメントについて、自分の実践を書きつつも、認知行動療法やストア哲学に関する本を参考文献として挙げています。自分の考えだけでなく、先人たちの知見と照らし合わせながら書くことで、記事に厚みが出ますし、読者がさらに深掘りしたいと思ったときの道しるべにもなります。

AI時代に書くということ

ここまで、書くことは考えることであり、対話することでもあると述べてきました。しかしAIを使えば、こうした過程を意識しなくても、それなりの文章を仕上げることも可能になりました。ネタ探し、資料や文献の調査、ラフの作成、実際の本文作成、その後のレビューなど、ブログの執筆においてAIを活用できる場面は多々あります。

試しに筆者のClaude Code半年分の会話ログをClaude Codeに読ませて「ネタ探し」をしたところ、37個のネタを見つけ出してくれました。

Claude Codeが会話履歴から37件の技術ネタを見つけ出した会話の様子
かしこいかわいいClaude Code

ネタ探しだけでなく、構成を考えてもらったり、本文を書かせることもできます。AIがライティングのハードルを下げてくれるのは間違いありません。

ただし、「魂」を載せたい

ただ、単にAIに書かせた文章は文体の特徴からバレやすいですし、現状ではそれを嫌う人もいるのは事実です。個人的にも「AIが書いた」と丸わかりの、いかにも自動生成っぽい文章はちょっと残念に思ったりします。人間の手が入ってなさそうである故のクオリティへの懸念もありますが、それ以上に、その人なりの感情や考え、文脈が載っていない文章は、読んでいて物足りなさを感じます。先に書いた通り、ブログを読むのは書き手の考えとの対話でもあるので、書き手の存在が感じられないと、対話にならない。筆者はこれを「魂があるかどうか」と表現しています。AIにすべてを任せてしまうと、「考える過程」と「対話する姿勢」が失われてしまうのではないか。そこが気になるところです。

以前、別の記事をAIに書かせたことがあります。

https://zenn.dev/globis/articles/sgfp_cost_anomaly

このときはあまり工夫をせず、ほぼAIに任せる形で書きました。結果として、一部のエピソードが架空のものになっていたり、構成が教科書的に整いすぎていたりして、自分の文章としてはしっくりこない仕上がりになりました。事実ベースの技術記事だからまだ成立していますが、今読み返すとAIっぽさを感じる部分があります。

今回は違うアプローチを取りました。まず、Few-shot Promptingの要領で、自身の過去記事をAIに読ませて文体を模倣させた上で一度別の文章を生成しています。その文章を筆者の過去の記事と比較して何か違いを感じるかAIに問いかけ、プロンプトをさらに改善した上で、この記事の初稿を生成。その後は対話式にセルフレビューと改善を繰り返させる形で記事を作っていきました。結果、筆者が書いた文章として違和感の少ないものに仕上がったと感じていますし、AIとの対話を通じてさらに良いものに仕上げていくこともできました。

AIは手段ですので、単に文章を自動生成することもできれば、このようにCopilot的に執筆過程に伴走してもらうこともできます。AI利用が完全に是か非かという話ではなく、凡庸な結論ではありますが、結局は使いようなのだと思います。

むしろこのAI時代だからこそ、「自分の言葉で書く」とはどういうことか、自分がアウトプットする言葉にどう向き合うか、改めて考える機会になっているのかもしれません。便利なツールが手に入ったからこそ、その使い方を意識的に選ぶ必要がある。逆説的ですが、書くことの本質について考えさせられる時代だと思います。

なお、筆者の場合は純粋に「文章を書くのが好き」なので、今後の執筆については積極的にAIに任せるつもりはありません。今回の実験を通じても感じましたが、自分で書いたほうが、自分の文章としてしっくりくるものが早く作れてしまいます……少なくとも今のところは。

今回のように実験するのは面白いですし、AIもまだまだこれから変化していくと思いますので、今後も実験として試していきたいとは思っています。

AIで書くにも自分で書くにも理論は要る

最後に、これまでブログを書くにあたって参考になった本を紹介しておきます。読みやすい文章を書くには、確立されたテクニックや理論があります。自分で書くにせよ、AIの出力を手直しするにせよ、そうした基準を持っておくと判断がしやすくなります。

理科系の作文技術

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784121006240

王道ですが基本です。アナログ時代の内容なので古くなっている部分もありますが、一度読んでおいて損はありません。

まったく新しいアカデミックライティングの教科書

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784334103804

『理科系の作文技術』が細かな日本語の作法などにも言及しているのに対し、こちらは論文全体の構成にフォーカスした内容です。テックブログは必ずしも論文的な文章ではありませんが、何かを主張するのにはどのような文章を編めばよいのか、とても丁寧に書かれています。

ライティングの哲学

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065243275

書きたい、あるいは書かねばならない、けど書けない、という悩みについてプロのライターたちが語り合っている本です。実践的な部分もありつつ、タイトル通り観念的な内容も多い本ではありますが、「書くこと」をどう捉えるか、という読み物として面白いです。


この記事は、GLOBIS Advent Calendar 2025 シリーズ1 13日目の記事でした。

脚注
  1. 思考は「頭の中」ではなく、「紙の上」ですること - 自分の仕事は、自分でつくる ↩︎

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