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風通しの良い開発組織を作る:スキップレベルミーティング導入の効果と実践ポイント

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多くの開発組織において、1on1ミーティングはメンバーの成長支援やチーム運営に欠かせないコミュニケーション手法として定着しています。直属の上司と部下が定期的に対話するこの仕組みは、日々の業務課題の解決からキャリア形成に至るまで、重要な役割を担っています。

私たちの開発組織も例外ではありませんが、エンジニアの数が150名を超え、組織規模が拡大する中で、新たな課題も認識するようになりました。組織全体の状況をより解像度高く、タイムリーに把握する必要性が増してきました。レポートラインを通じた情報収集に加え、現場の声を直接聞く機会を持つことが、組織の健全な成長に不可欠だと考えました。

こうした背景から、私の管掌範囲の開発組織では約1年前に「スキップレベルミーティング」を導入しました。本記事では、その実践を通じて見えてきた効果や、組織にもたらされたポジティブな変化、そして実践する上でのポイントについてご紹介します。組織運営に関わる方々、特に規模が拡大してきた開発組織のマネージャーやリーダー層にとって、何かしらの参考になれば幸いです。

スキップレベルミーティングとは?

スキップレベルミーティング(Skip-Level Meeting)とは、文字通り、直属の上司(レベル)をスキップ(Skip)し、その一つ上の階層の上司とメンバーが直接行う1on1ミーティングを指します。例えば、エンジニアがチームリーダーではなく、その上の開発部長クラスなどと対話する形式です。

この手法は、特に目新しいものではなく、国内外の様々な企業、特に大規模な組織や階層が増えてきた組織において、組織の透明性向上、エンゲージメント向上、リーダー層と現場の相互理解促進などを目的に実践されている例が見られます。エンジニアリングマネジメントに関する書籍などでその有効性が紹介されることもあります。

通常の1on1が日々の業務遂行や直属上司との関係構築に主眼を置くことが多いのに対し、スキップレベルミーティングは、より広い視点での対話や、組織全体に関するフィードバックを得ることを目的とします。重要なのは、スキップレベルミーティングが通常の1on1を代替するのではなく、補完的な役割を担うという点です。それぞれが異なる価値を提供することで、組織内のコミュニケーションをより豊かにし、多角的な視点を取り入れることを目指します。

私たちの組織での実践例

私の管掌範囲では、スキップレベルミーティングを以下の形式で運用しています。

  • 頻度: クォーター(3ヶ月)に1回
  • 対象: マネージャーのさらに上位の役職者(私を含む)と、その配下のメンバー全員
  • 時間: 1回あたり30分
  • 形式: 基本は1on1形式。事前にアジェンダを設定することも、フリートーク中心に進めることもあります。場の雰囲気や目的に応じて柔軟に対応しています。
  • 心理的安全性への配慮: メンバーが安心して話せる場であることを重視し、話された内容は本人の同意なく直属のマネージャーに共有することはありません。

クォーターに1回という頻度は、メンバーおよび上位役職者双方の負担を考慮しつつ、通常の1on1(週1〜隔週1回実施)との適切な間隔を保つために設定しました。このリズムが、「定期的に、少し立ち止まって、普段とは異なる視点で対話する」という貴重な機会を生み出していると感じています。

スキップレベルミーティングを実践する上でのポイント

スキップレベルミーティングの効果を最大限に引き出すためには、いくつかの重要なポイントがあります。特に、上位の役職者と直接話す場であるため、メンバーが安心して話せる環境づくりが不可欠です。私たちが意識している点をいくつかご紹介します。

  • 心理的安全性の徹底的な確保: 通常の1on1以上に、メンバーは緊張している可能性が高いと認識することが出発点です。「この場で話した内容が評価に影響することはない」ということを明確に伝え、安心できる雰囲気を作ることを最優先にしています。雑談から入る、自己開示するなど、話しやすい空気を作る工夫も有効です。
  • 「メンバーのための時間」であることの明確化: この時間は、上位の役職者が何かを指示したり、トップダウンで方針を伝えたりする場ではありません。「あなたのための時間であり、あなたが話したいことを聞く場です」というスタンスを明確に伝えます。主役はあくまでメンバーであり、私たちは聞き役に徹することを意識しています。
  • 傾聴と問いかけのバランス: 基本的にはメンバーに自由に話してもらうことを促しますが、時には適切な問いかけも重要です。「最近どうですか?」といったオープンな質問から始め、「業務のこと以外で、何か気になっていること、組織に対して思うことなどはありませんか?」といった、普段の1on1では出にくいかもしれないテーマにも触れられるような問いかけを心がけています。直属の上司と話せるような具体的な業務の進捗などは、ここではメインテーマとしません。
  • フィードバックへの感謝と敬意: メンバーから様々な視点でフィードバックをいただけること自体が、組織にとって非常に貴重であり、大変ありがたいという姿勢で臨みます。どのような意見や提案であっても、まずは真摯に受け止め、組織をより良くしていくための重要なヒントとして大切に扱います。発言して良かった、と思える体験を積み重ねることが、継続的な対話と信頼関係に繋がります。

これらのポイントを意識することで、スキップレベルミーティングは単なる形式的な面談ではなく、組織にとって価値ある対話の場となります。

スキップレベルミーティングがもたらした効果

導入から約1年が経過し、スキップレベルミーティングは組織に以下のような好影響をもたらしていると評価しています。

  • 組織の解像度が格段に向上: マネジメント層にとって、現場のリアルな状況や温度感を直接把握できる機会は非常に貴重です。レポートラインだけでは伝わりにくい、細かな課題感、部門間の連携における潜在的な問題、新しい技術や働き方に対する現場の意向などを直接聞くことで、組織運営における意思決定の精度が向上しました。例えば、開発プロセスにおける非効率な点や、利用ツールの改善要望などが直接上がり、具体的なアクションに繋がった事例もあります。
  • メンバーの心理的安全性が向上: 例えば、「チーム内の関係性を考えると、直属の上司には直接伝えにくいかもしれない」と感じるような組織全体への意見や懸念も、スキップレベルミーティングのような場であれば安心して話せる、といった声が聞かれるようになりました。「自分の意見が組織の上層部に直接届くルートがある」という認識が広がったことも、大きな成果の一つです。これにより、メンバーはより安心して多様な考えを発信できるようになり、結果として組織全体の風通しが良くなったと感じています。これは、アイデアが生まれやすい土壌づくりにも貢献しています。
  • 視座の向上とキャリア意識の変化: メンバーにとっては、普段の業務から少し離れ、より上位の視点を持つマネージャーと対話することで、会社や部門全体の目標と自身の業務との繋がりを再認識する良い機会となっています。「自分の仕事がどのように組織全体に貢献しているのか理解が深まった」「将来のキャリアについて、より広い視野で考えるきっかけになった」といった声も聞かれます。これは、メンバーのエンゲージメント向上にも繋がっている可能性があります。

これらの効果は、通常の1on1だけでは得難い側面があり、スキップレベルミーティングが組織のコミュニケーション戦略において独自の価値を発揮していると言えます。

まとめ

スキップレベルミーティングは、既存の1on1コミュニケーションを補完し、組織内に多層的で健全な対話を生み出すための有効なアプローチです。マネジメント層にとっては組織の実態把握(解像度向上)に繋がり、メンバーにとっては心理的安全性の確保や視座の向上に貢献します。

特に、組織規模が大きくなってきた開発組織においては、レポートラインだけでは捉えきれない現場の声を吸い上げ、組織全体の連携や一体感を維持・向上させる上で、スキップレベルミーティングは有効な手段の一つとなり得ると感じています。

もちろん、スキップレベルミーティングは多くのメンバーと直接対話するため、実施するマネジメント層にとっては相応の時間的投資が必要です。しかし、それによって得られる組織の解像度向上やメンバーとの直接的な関係構築は、組織全体の成長を加速させる上で非常に価値のあるものだと考えています。

実践する上では、心理的安全性の確保や場の位置づけの明確化など、いくつかの重要なポイントがありますが、これらを丁寧に運用することで、組織に新たな視点と活力を吹き込むことができます。

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