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修士新卒エンジニアを1年半でやめて大学に戻り研究員として働いている話

2023/12/30に公開

これは何?

私は修士号取得後に新卒入社して1年半勤めた会社を退職し、2ヶ月前(2023年10月)より出身の研究室で研究職員として働いています。
個人的には大きな決断でいろいろ迷ったのと、比較的珍しい経歴であること(博士持ちならまだしも修士なので)もあるので記事にして公開してみることにしました。
「修士卒でエンジニアにはなったけど大学で研究することにも興味あるんだよな〜」という方の参考になれば幸いです。
※ただし自分の場合はいろいろイレギュラーなので、誰にでも同じようなキャリアを歩む選択肢があるかは微妙。あしからず!

簡単な経歴紹介

学士時代

2019年に自然言語処理の研究室(宮尾研究室)に配属されました。データセットを解けないようにいじっても言語モデルは解けちゃうことがあって不思議だね〜という感じの研究をして卒論を書きました。個人的にあまり満足できず、対外的には発表していません。

修士時代

2020年に同研究室にて修士課程に進学し、学習に明示的に文法構造を取り入れた言語モデルを多言語に拡張する研究しました。
この研究が結構楽しかったので、博士課程への進学も考えたのですが、主に以下の理由で民間企業にエンジニアとして就職することを決めました:

  • 経済的な問題: 修士課程までは親より仕送りをいただいていたのですが、博士以降は仕送りできないと前から言われていました。学振とかも取れるとは限らないし、取れたとしても東京で一人暮らしするには心許なく心配でした。
  • エンジニアへの興味: 学生時代にいくつかインターンなどに参加していた経緯もあり、純粋にエンジニアリングをやってみたい気持ちも強かったです。経済的にも安定する可能性が高いし、こっちで楽しめるならそれで良いじゃん、と思いました。

会社員時代

2022年4月にソニーグループに入社し、VISION-S というモビリティ製品のクラウドサービス開発に従事しました。入社半年ほどでソニーホンダモビリティというモビリティ専門の合弁会社に出向となり、ホンダの方と一緒に仕事しました。
主に AWS でバックエンド開発をやっていて、フロントもほんの少しだけ触りました。
自分は web はほぼ未経験で就職した上に、チームに新卒が少なく周りのレベルも高かったのでいろいろな面で大変でした。とはいえ仕事は楽しく、開発に目一杯時間を使えたので、ここで経験を積めばエンジニアとして高いレベルになれるだろうと思えるとても良い職場でした。

転職の経緯

きっかけ

あるとき研究室の人達とコーヒー店に行こうということになったのですが、そこで話の流れで研究員のポストの存在を知りました。
研究というよりどちらかというと開発能力が求められるポストで、条件に博士号はありませんでした。
少し興味があったので教授と会話したところ、もともと自分のように自然言語処理の知見がある人には向けていなくて、むしろそういう人が何かの間違いで来てくれたらラッキーくらいのスタンスだったようです。
開発の比重が多いとはいえ、何かしら研究もやらせてもらえそうな雰囲気でした。
ということで、めちゃくちゃ突然にキャリアチェンジの機運がやってきたのでした。

どういう点で迷ったか?

webサービス開発の経験がかなり中途半端

個人ではまず不可能な規模のサービスのスタートアップフェーズという貴重な場に居合わせることが出来たのに、実運用に入る遥か手前で辞めてしまうのはかなり勿体無い気がしました。研究に戻ってからも何らかの形でサービス開発に携わることは出来ると思いますが、会社で集中してサービス開発することで得られる経験・知識を得るのは難しそうです。
とはいえ、研究もやりたいことの一つであり、そちらも中途半端だったと言えるので、どっちもどっちなのかなぁとも思いました。
関連して、転職するにしてもエンジニアとして満足いくスキルを身につけてからだ!とも思ったのですが、満足いくスキルってなんだ?(いつか満足するのか?)という気持ちと、そもそもこのようなポストがいつでもあるとは限らんぞ?と思いました。

経済的な問題

とりあえず研究員の給与は問題なかったのですが、個人的には研究に戻るなら博士取得を視野に入れたいと思っていたので、何かしら工夫しないと収入が減ることは間違いありませんでした。
研究員になってからも貯金を続ければ逃げ切れそうな算段は立ったのですが、オーバードクターしたり奨励金申請が全然通らないとかがあると苦しそうだったので、さすがにノーリスクとはいかなさそうでした。
ちなみに経済的な問題を解決しながら研究するのであれば社Dもあり得たと思うのですが、この選択肢は吟味しきれませんでした。ただ、感触的には厳しいと思いました。できる限り研究に目一杯集中したいし、会社の仕事もやはりそれなりに大変だったので、両立できる気がしませんでした。

最終的な判断基準は?

ありきたりですが、最後は 「何をやりたいか」 でした。結局これに尽きる。「web開発と研究、どっちも選べるとしたらどっちだ」と問われれば後者でした。
もちろん↑に挙げたように迷う余地は様々ありましたが、いずれも全く解決できない話ではなさそうだと思いました。
ちなみにこの時期謎に岡本太郎の本を読んでいたのですが、一貫して「やりたいことをやろう!!」というエールに溢れていて勇気づけられたりもしていました。

また、一度全然保守的でない選択を行うことで、チャレンジへの免疫を付けたい というふんわりした思いもありました。
思えば情報科学科を選んだのも「なんか潰し効きそう〜」という理由でしたし、なんやかんやで修士卒で大手に就職しているし、割と保守的で安全な・ありがちな(?)選択をしているなという実感がありました。
盤石なキャリアとかお金とか、そういう損得勘定に囚われず、保守的な思考から脱却することで、長い目で見たときに人生全体に良い影響を与えたりするんじゃないかな〜と、ふんわり思いました。

唐突な謎ポエム差し込み

私は音楽が好きなのですが、これまで特に気に入ったものの共通性を考えてみると、「明らかに妙なことをやっているのだが、何か信念めいたものに裏付けられていて全く不自然さが無い」 ものだと考えています。
日本のアーティストだと例えば筋肉少女帯、人間椅子、たま、平沢進あたりで、彼らはどうあがいてもマイナーなのですが、どれも一つの確固たるスタイルがあり、それが全く不自然ではないのです。
面白い研究というのもそういうものなんじゃないかと考えていて、自分が憧れているものです。音楽の世界でこの領域に達するのはちょっと大変そうですが、自分の専門性を活かしてそのような営為に携われるとしたら、やはりどうしても惹かれます。
そういう意味で、人間椅子の和嶋慎治の自伝『屈折くん』にはだいぶ励まされました(涙ぐましい貧乏談から成功へのストーリー、そしてそれでも全く変わらないスタイルに心を打たれました)。
あたかも彼らのように研究が出来たら良いなと思います。

今の気持ちと今後のこと

今のところ研究は楽しく、勇気を持って選択して良かったと思っています。
まずはリハビリ的に勉強したり論文読んだりして自分の興味のあることについて知識を蓄えていますが、良い…。元々気になっていた音声処理を中心にサーベイしていて、Textless NLP 系の話に興味を持ち始めています。
仕事の関係でLLMを触って開発したりはしましたが、まだまだ面白いアウトプットは出せていません。早く自分も非自明を生み出したいのですが、今はむしろ気になることが多すぎてどうしようという状態になっています。
せっかくいただいた機会なので、まずは腰を据えてインプットしていきたいと思っています。
気が変わらなければ2025年度には博士課程進学を考えているので、直近はまずは学振の申請などに向けてテーマを練っていきたいと思います。

まとめ

ということで、保守的人間(諸説)が一歩踏み出してみたらめっちゃ良かったぜ話 でした。同じように惑う人々の道標として少しでも役立つことができれば幸甚です。

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