CS対応の大幅削減を実現へ!月間対応時間を最大70%削減『CATS問い合わせ回答エージェント』をJAPAN AI HACKATHONで開発
CSチームの業務効率化を実現する『CATS問い合わせ回答エージェント』の開発
1. はじめに
第二回 JAPAN AI HACKATHONにて、私たちのチームはCS(カスタマーサポート/カスタマーサクセス)業務の問い合わせ対応を効率化するAIシステム『CATS問い合わせ回答エージェント』を開発しました。
用語解説
CS: Customer Support/Customer Success の略。顧客からの問い合わせ対応や顧客の成功を支援する部門/業務
CATS: 本プロジェクトで対象としている広告計測システムの名称
本システムの目的は、「CSへの問い合わせ対応をAIエージェントに任せることで、業務時間を削減し、より創造的な業務に集中できる環境を作る」ことです。
本記事では、開発の背景、実装した機能、得られた効果と今後の展望についてご紹介します。
2. 現場の課題
今回のプロジェクトの出発点となったのは、CSチームが問い合わせ対応に多くの時間を割いているという現状でした。
チーム構成は5名。対応にはオンラインメッセージングツールを主に利用しており、その中でも特に以下のような定型的な作業に多くの時間がかかっていました。
- システム間の接続トラブル(パラメーター不足など)に関する問い合わせ
- Webページに設定されたタグ(広告計測タグなど)の有無を確認する問い合わせ
これらは仕様書を見ればわかる、あるいは確認すればすぐに判断できる内容が多く、AIによる自動対応との親和性が高いと判断しました。
3. 開発したエージェントの概要
そこで、CSチームの日常業務で発生する定型的な問い合わせに対し、自動で対応する機能を備えたエージェントを開発しました。
以下の3つの主要機能により、大幅な時間削減と対応効率の向上が期待できます。
✅ ソケット連携機能(パラメーターエラー自動対応)
- ユーザーから「ソケット通信による計測ができない」といった旨の問い合わせを受けた際、エージェントが状況をヒアリング
- エージェントが計測システムの管理画面に自動でログインし、ヒアリング情報を基にアクセスのエラーログの有無を確認
- ヒアリング情報やアクセスエラーログの状態を元に、ユーザの陥っている問題点の指摘とその対応方法の返答
このプロセスをすべて自動化することで、人手による確認と返信にかかっていた全工数の半分以上の工数を大幅に削減可能となりました。
✅ タグ連携機能(Webタグの有無確認)
- 計測タグが正しく設置されているかを確認したい旨をエージェントに伝えると、URLにアクセスし、HTMLの情報を取得
- AIエージェントがHTMLからタグを解析するプログラムを自動生成
- WebページのHTML構造を自動解析し、タグの有無を確認
- タグの中から事前に設定したスクリプトタグに類似するものがないかを確認
- 設定漏れや誤った実装を検知し、ユーザーにフィードバック
この作業だけでも全体の3割程度の工数を使っていたため、大きな削減効果が見込まれています。
✅ URLパラメータ設定(ポストバックURLの確認)
- URLとポストバックしたいASP名を受け取る
- 現在のURLのパラメータの設定が目的のASPに合っているのかを確認
- 間違っていた場合は、付与するべき値を提案して、正しいURLを生成
これは、約800以上のASPのポストバックURL情報をspreadsheetにまとめ、事前にAIエージェントに学習させておくことで、多くのASPのポストバックURLに対応した回答ができる様になっています。
4. 技術的な工夫・実装面のポイント
使用技術スタック
- JAPAN AIエージェント(AIエージェント機能)
- Code Interpreter(自動コード生成・実行)
- SpreadSheet(ASPパラメータ情報管理)
- Selenium(管理画面自動操作)
AIエージェント実装アプローチ
今回作成したエージェントでは、JAPAN AIエージェントのAIエージェント機能を中心に構築しています。
- プロンプトベースの指示設計: 問い合わせパターンを分析し、最適な応答フローを事前に設計
- Code Interpreterの活用: AIエージェント自身にコード生成と実行を任せる形式を採用
- データ連携: 800以上のASPのクリックパラメータ情報をSpreadSheetで管理・参照
主要機能の実装ポイント
- システム連携: 広告計測システムから調査に必要な情報を取得
- HTML構造の自動解析: ページソースからDOM構造を解析し、必要なタグを特定
- エラーログの取得と解析: ユーザー情報を元に関連するエラーログを抽出・分析
苦労した点と解決策
- プロンプト設計: 指示や前提を直接羅列すると不自然な挙動を示すことがあったため、目的と手段を明確に分離し、段階的な指示を与える方法に改善
- 自動ログインの安定性: 英語での指示、用語の統一、構造化された指示形式の採用で精度を向上
- HTML解析の精度: 抽象的な指示ではなく、具体的なHTML要素を指定する方法が効果的
5. 成果とインパクト
『CATS問い合わせ回答エージェント』の導入により、以下のような成果が得られました。
- 月間対応時間の最大70%削減へと対応時間を削減可能
- 年間2,520時間の業務効率化が見込まれる
- CS担当者の負荷軽減と、より戦略的な業務への集中が可能に
特に定型的な問い合わせの比率が高い環境においては、AIの導入効果が極めて高いことが示されました。
6. 今後の展望
現在の『CATS問い合わせ回答エージェント』は、問題の調査と原因特定をJAPAN AIエージェントで実現していますが、まだ完全な自動化には至っていません。今後は以下の方向性で拡張を進めていきます。
6.1 オンラインメッセージングツール連携による完全自動化
現状では調査結果をもとに人間が返信する必要がありますが、オンラインメッセージングツールのAPIを活用した完全自動化を目指します。
- オンラインメッセージングツールの APIを利用した問い合わせの自動取得
- 調査結果に基づく適切な返信文の自動生成と送信
- 解決確認と追加質問への自動フォローアップ
これにより、現在の最大70%削減からさらに工数を削減できる見込みです。JAPAN AIのAPI連携機能を活用することで、エージェントが検出した問題点とその解決策を直接顧客に伝えることが可能になります。
6.2 エラーログ取得の安定化
現在はSeleniumを使用した画面操作でエラーログを取得していますが、より安定した方法への移行を計画しています。
- 管理画面APIを直接利用したエラーログの取得
- バッチ処理による定期的なログ収集と分析
- 異常検知の自動化と予防的アラート機能
APIベースのアプローチにより、処理速度の向上と安定性の確保が期待できます。また、蓄積されたログデータを分析することで、問題の傾向把握や予防的対応も可能になるでしょう。
6.3 他部署への展開
CS部門での成功モデルを他部門にも展開し、組織全体の業務効率化を目指します。
- 営業部門: 顧客からの仕様確認や見積もり依頼への初期対応
- 開発部門: バグ報告の自動分類と優先度判定
- マーケティング部門: キャンペーン情報や資料請求への即時対応
各部門の特性に合わせたカスタマイズが必要になりますが、基本的なエージェントアーキテクチャは共通化できるため、効率的な横展開が可能です。特に問い合わせ内容の分類と適切な情報源へのアクセスという基本構造は、多くの部門で応用できると考えています。
7. まとめ
JAPAN AI HACKATHONでの開発を通じて得られた主な学びは以下の通りです。
- プロンプトエンジニアリングの重要性: 具体的な指示、一貫した用語使用、構造化された指示形式が効果的
- エラー処理の必要性: リトライメカニズム、結果検証、人間へのエスカレーションポイントの設定
- 段階的な自動化の価値: 高頻度タスクから優先的に自動化し、段階的に拡張
- AIと人間の適切な役割分担: AIは定型作業、人間は例外処理と創造的業務
『CATS問い合わせ回答エージェント』の開発を通じて、AIが人の業務をサポートする現実的な形を具体化できました。重要なのは、AIの導入が「人員削減」ではなく「人材の価値向上」につながるという点です。今後もAIと人間の強みを活かした協働モデルを追求していきます。
補足情報: 本プロジェクトは第二回JAPAN AI HACKATHONにて「カスタマーデライト賞」を受賞しました。ハッカソンの詳細はこちらの記事をご覧ください。
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