AWS Amplify 進化年表【2017〜2025】
AWS Amplifyが世に出た2017年、まだ「ログイン機能を付けるだけ」の開発でもCloudFormationとIAMに翻弄されていた開発者は少なくありませんでした。それから8年あまり、毎年のアップデートは“手作業とデバッグに費やす時間”を少しずつ奪い取り、気がつけばAmplifyだけでも有名サービス級のプロトタイプを立ち上げられる環境が整いました。本記事では、その軌跡を「機能が増えた瞬間に何が楽になり、どんなプロダクトが短期間で形になったか」という観点で時系列にまとめています。振り返りの指針や導入判断の材料として、ぜひ活用してみてください。
年月 | 機能アップデート | 新しく出来ること | これで作れそうなサービスイメージ | 以前はこうしていた |
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2017-11 | Amplify CLI | Cognito/API Gateway/S3などのバックエンドを数コマンドで生成 | Todoistのような認証付きタスク管理MVP | SDK手書き + IAMポリシーを手動設計 |
2018-11 | Amplify Console (CI/CD & Hosting) | git pushでビルド → CloudFront反映 | 毎日更新の技術ドキュメント | S3, CloudFront, CodePipelineを個別配線 |
2019-12 | DataStore (オフライン同期) | 端末 ⇄ クラウドの差分同期をフルマネージド化 | WhatsAppのようなチャット/現場点検アプリ | IndexedDB/SQLiteと独自同期ロジック |
2021-11 | GraphQL Transformer v2 |
@primaryKey / @index などで複合PK・多対多を宣言 |
Shopifyのような多階層SaaS | Resolver手編集 + DynamoDB GSIを手管理 |
2021-12 | Amplify Studio × Figma | デザイン → React コンポーネント自動生成 | SquarespaceのようなLPビルダー | Figma → Storybook → 手貼付け |
2022-11 | Next.js SSR / ISR対応 |
next build だけでSSR・ISRを本番運用 |
Airbnb風の検索UI | Lambda@Edge + CloudFrontを職人設定 |
2023-06 | モノレポ (Nx / Turborepo) サポート | ワークスペース全体を差分ビルド | Uberのようなマイクロフロントエンド群 | Amplifyプロジェクト乱立 + Webhook大量 |
2024-05 | Amplify Gen 2 GA (コードファースト) | TSファイルでDB・Auth・Funcを型安全に定義 | Notionのような共有権限SaaS | CloudFormationネスト地獄 |
2024-11 | Amplify AI Kit (Bedrock連携) | チャット/要約を数行で導入 | Duolingo の AI 解説モード | Bedrock SDK+Lambda+Cognito を自前実装 |
2025-03 | WAF 統合 | クリック一発でOWASPルールを適用 | 決済を扱うECサイト | CloudFront‐WAFを外付け構築 |
2025-03 | デプロイ スキュー保護 | 新旧JS混在を自動吸収 | TikTok規模の高負荷SPA | S3バージョニング + ヘッダー管理 |
2025-05 | カスタマイズ可能なBuild Instance | Large/XLargeを選択しビルド性能を拡張 | Astro/巨大モノレポの高速デプロイ | 8 GiB-4 vCPU固定でタイムアウト |
それぞれ振り返ってみましょう
Amplify CLI (2017-11)
Amplify CLIが公開されたことで、CognitoやAPI Gatewayといった面倒な初期リソースを対話式コマンドで一括生成できるようになりました。AWSを触り始めたばかりの開発者でも半日あれば「ログイン付きWebアプリ」が形になるほど容易に。特にIAMポリシーをCLIが自動で “最小権限” に整えてくれる点が大きく、以前は「どのサービスにアクセス権がない?」と403を追いかけ回し、CloudWatchに残る原因不明の500を掘り下げる、そんなデバッグ作業に費やしていた時間を解消してくれました。
Amplify Console (2018-11)
GitHubとリポジトリを連携すると、Push〜ビルド〜CDN反映までがパイプライン化。mainにマージすれば数分後に世界中に配信されるため、技術ブログやドキュメントの「毎日更新」が現実的になりました。従来はS3とCloudFrontを手動でつなぎ、TTLが残ったJavaScriptが原因で真っ白画面が出るたびにキャッシュ無効化を実行する必要がありました。
DataStore (2019-12)
DataStoreはローカルストレージとAppSyncの間で差分同期と衝突解決を自動化します。電波圏外で入力しても復帰後に自動リプレイされるため、フィールド保守やチャットのような「切線前提」の業務アプリを短期間で構築可能。独自実装していた頃は、時刻衝突やネットワーク復帰時の整合性テストに多くの時間を費やしていました。
GraphQL Transformer v2 (2021-11)
@primaryKey
や @index
が導入され、複雑なデータ構造や検索要件をスキーマのみで表現できるようになりました。設計書と実装コードが一致するため、チーム間で「実テーブルはどうなっている?」と確認する手間が消えます。v1ではResolverを直接編集し、GSIを増やすたびにCloudFormationが巨大化してコードレビューが停滞していました。
Amplify Studio × Figma (2021-12)
FigmaのUIをAmplify Studioにインポートすると、Reactコンポーネントとテスト用モックデータが自動生成されます。デザイナーが色や余白を更新した直後にPull Requestが届くため、ブランドガイドラインの反映が高速化。以前はStorybookで再現 → スクリーンショット確認 → 差分が出るたびに手修正、という作業がスプリントを圧迫していました。
Next.js SSR / ISR対応 (2022-11)
Amplify HostingがNext.js 12/13を公式サポートし、SSR・ISR・ミドルウェアがフルマネージドになりました。在庫や価格が変動するEC/旅行予約サイトでも、キャッシュ更新を秒単位で制御できます。Edge Lambdaのデプロイ順序やバージニア北部リージョン特有の設定を気にせず、next build
だけで本番と同等の環境が手に入ります。
モノレポサポート (2023-06)
Nx/Turborepoなどのワークスペース構成をそのまま認識し、差分ビルド+キャッシュを自動化。ライブラリ共有も型共有も1リポジトリで管理でき、チームごとのSPAが同じパイプラインでデプロイされます。従来はアプリごとにAmplifyプロジェクトを複製し、WebhookがGitHub上限に達するたびに掃除するという運用コストが発生していました。
Amplify Gen 2 GA (2024-05)
TypeScriptにデータモデル・権限・関数を記述するだけで、型安全なバックエンドがデプロイされます。スキーマとビジネスロジックが同じ言語に統一されるため、レビューやリファクタリングが楽になり、Notionのようなロール/フィールド単位の権限制御を短期間で実装可能。CloudFormationを直接編集する場面はほぼゼロになりました。
Amplify AI Kit (2024-11)
チャットUIコンポーネントや型付きAPIクライアントが同梱され、数行のコードでBedrock LLM連携が完結します。学習履歴+要約+フィードバックを組み合わせたDuolingo的語学アプリも数日でPoCが可能。以前はAPI Gateway → Lambda → Bedrockを自前で連携し、CORS設定やトークン管理が足かせになっていました。
WAF統合 (2025-03)
Amplify ConsoleからWebACLを選択するだけでSQLi/XSSルールを適用でき、OWASP Top10対策が数分で完了。CloudFrontを別途挟まずともPCI-DSSレベルの防御を実現できるため、決済機能を持つECサイトのアーキテクチャが大幅に簡素化されます。以前はCloudFront‐WAF構成を別途管理し、ドメイン切替のたびにダウンタイムリスクがありました。
デプロイ スキュー保護 (2025-03)
ローリングデプロイ中に新旧JavaScript版が混在しても、ブラウザごとに特定版へピン止めしてくれる機能が追加。高頻度デプロイのSPAでも「真っ白画面」が発生しにくくなり、ユーザー体験と運用速度を両立できます。従来はS3バージョニングとヘッダー制御で似た仕組みを手作りし、設定ミスが404の原因になっていました。
カスタマイズ可能なBuild Instance (2025-05)
Amplify HostingにLarge(16GiB/8vCPU)とXLarge(32GiB/16vCPU)が追加され、依存解決や型チェックが重いAstro/巨大モノレポでもビルド待ちが激減。ビルド分 × インスタンス係数で課金されるため、月数回の大型デプロイ時のみサイズアップするとコスト効率が高い運用が可能です。標準インスタンスのタイムアウト再試行の日々ともお別れです。
おわりに
Amplifyは毎年「時間を奪う手作業」を標準機能に置き換え、2025年時点では週末でも有名サービス級のプロトタイプを形にできるプラットフォームへ進化しました。本記事がロードマップ整理や導入判断の参考になれば幸いです。
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