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「お手並み拝見」を「協奏」に変える。新任EMと受入れ側の90日オンボーディング戦略

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はじめに

エンジニアリングマネージャー(EM)として転職するのは、開発エンジニアとしての転職とはまったく違う体験です。 私にとっても「EMポジションでの転職」は初めての経験でした。

そんなとき、私が入社前から感じていたのは——
「お手並み拝見」という、言葉にされない見えない壁。

信頼関係の前提が無い状態で、「なにを改善してくれるんだろう」「どれくらい現場介入してくるマネージャーなんだろう」といった無言の期待や警戒の視線を、EMポジションでの転職では誰もが感じることがあるはずです。
私も例外ではありませんでした。

けれど、結果的にこの不安は杞憂に終わりました。
それは“運”ではなく、新任EMである私と受け入れ側双方の行動がうまく噛み合ったからだと考察しています。私はこの新任EMと受け入れ側のすれ違いを防ぎ、「協奏」を生み出すための、最初の90日間のオンボーディング体験をふりかえると共に、再現性のあるEMのオンボーディング設計として整理してみました。


私が意識した「リスペクト」と「アクセル調整」

私(新任EM)が意識したのは、「リスペクト」と「アクセル調整」の2つです。

まず、やってしまいがちな前職との違いを今の職場の課題としてしまうトラップを避けるために、
徹底的に過去の意思決定への「リスペクト」に注力しました。

前任者やチームの意思決定には、必ずその時々の背景と意図があります。
事業の急成長と共に急拡大した組織であれば尚更です。
それらを軽視して「なんでこんな状態になっているんですか?」と今を切り取った指摘を口にすれば、信頼関係は一瞬で崩れます。

私は、まず気になり事案ごとに自ら積極的に関係者から“歴史を知ること”に時間を使いました。

一方で、ただただインプットに時間を使うだけではいつまで経っても自身としてのモメンタムを生み出せませんし、組織に新しいケイパビリティを加えることができません。

そこで私は自分のポリシーや理想とのGAPを感じたときには「アクセル調整」を意識して動き始めました。「踏みすぎか? もっと踏むべきか?」を常に自問し、上司やメンターをはじめとした周囲から事前事後でフィードバックをもらいながら速度をチューニングしました。

「アクセル調整」のポイントは自問するだけでなく、自ら周囲にフィードバックをもらうことです。
ジョハリの窓という言葉がありますが、人には必ずバイアスや自他認知GAPがあります。
ポジティブフィードバックをもらって勇気づけられるだけでなく、自身の伸び代を見つける目的で可能な限り客観的なGAP(ネガティブ)フィードバックも合わせて得ることが重要かと思います。
私はこういった試行錯誤の中で、周囲との信頼を徐々に積み上げることができました。

余談ですが、私は前職時に「みんなのフィードバック大全」という書籍の輪読会を主催したことがキッカケでコーチャビリティというフィードバックを受け入れる後発スキルを学び、大切にするようになりました。「成長 > 忌避(現在の耳の痛さよりも将来の成長を重視)」のマインドセットが持てれば多くのフィードバックを受け入れ、自身を成長させることができると考えています。


受け入れ側がしてくれた「期待値調整」と「戦略的チャレンジマネジメント」

受け入れ側がしてくれたのは、絶妙な「期待値調整」と「戦略的チャレンジマネジメント」でした。

「期待はしているが焦らなくて良い」と伝えながらも、“期待していない”と誤解されるような簡単すぎるタスクは避け、かといってパニックになるような高難易度タスクも避けてくれた。

そのバランス感覚こそが、新任EMが早期に信頼されていると感じながらアウトプットを出すための下地でした。

以下マトリクスですと、"重要だが緊急ではない"に比重を置いた「戦略的チャレンジマネジメント」を行なってくれました。

🎯 EMあるあるタスクで見る「重要度 × 緊急度マトリクス」

🟥 緊急(Urgent) 🟦 緊急でない(Not Urgent)
🔴 重要(Important) 第1象限
🔥 即対応が必要な重要タスク
- 対外的な期日が決められたプロジェクトの推進
- 障害対応・インシデント報告
第2象限
🧭 人脈形成や成長につながるタスク
- 部門横断プロジェクトの推進
- チームパフォーマンスの診断
- 採用関連業務
重要でない(Not Important) 第3象限
📤 任せても影響が少ないタスク
- 定例MTGの運営
- 工数報告や日次アナウンス
第4象限
🧹 手放しても問題ないタスク
- 不要な承認フロー対応
- 惰性で続いている定例参加

EMにとって問題発見力は重要なスキルですが、オンボーディング期間中になんの制約も無く、「EMだから自身で問題発見して解決してくれたら良いですよ」と草原に放たれるとミスリードしてしまって自信を無くしてしまったり、成果を出すまでのリードタイムが非常に長くなってしまいます。

初手は明確に意思と意図を持った「戦略的チャレンジマネジメント」を行い、適正な「期待値調整」を持って、早期に成果を出す機会をつくりつつ、焦らずに思考を深められるオンボーティング設計が重要と実感しました。

おわりに

オンボーディングとは、個人の立ち上がりだけでなく、組織が新しいケイパビリティを獲得し、新しいリズムをつくるプロセスです。

誰かを受け入れることは、組織全体が変化を受け入れることでもあります。
これからは自身が受け入れ側になります。自身が体験して嬉しかったことは自分自身もしっかりと体現していきたいと思います。

どの組織でも直面するオンボーディングですが、「お手並み拝見」から「協奏」へ発想の転換ができたとき、組織はもっと滑らかに、そしてしなやかに進化していくのだと思います。

この機会にあらためてオンボーディング期間に支えてくださった周囲の方々に感謝をお伝えしたいです。
またこの自身のEMオンボーディング体験があらゆるエンジニア組織で再現性を持って活かされると嬉しく思います。


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