日々のデザインワークで心がけていること
まずもって弊社ゲームエイトは多様なひとびとの集まりです。その中には個性豊かな人、クリエイティブな人、独立心旺盛な人、ビジネスに精通している人、また他の業界では珍しい視点を持つ人もいます。しかし、私たちはそれらの違いを受け入れ、協力して活動しています。
そんなわけですからデザインワークもなかなか一筋縄にはいかない。あるプロジェクトでは簡単な修正や補完で済むこともありますが、一方で複雑で難解な課題にも取り組んでいます。稀な例外を除いて、弊社のデザインワークには基本的に驚かされてばかりです。
しかし、やってやれないことはない。徒手空拳で日々のデザインワークをこなしていくと、だんだん勘所を掴んできます。このたび「ゲームエイトテックブログ」にて記事を執筆する役目をおおせつかりました。ここぞとばかりに、ひごろ考えていたデザインワークの要点を披露するといたしましょう。
単刀直入に申し上げます。日々のデザインワークで重要なこと、それは
ベロシティです。
ではなぜベロシティが重要か。飛躍があるように聞こえるかもしれませんが、それはデザインの成果を算定する方法がないからです。というよりも、デザインそれ自体が成果の算定に向いていない技術だからです。どういうことでしょうか。
デザインの成果算定からお話します。
グラフィックデザインにしろUIデザインにしろ、商業デザインは独立事象ではあり得ません。商品の中に溶け込み、溶け込んだあとで分離することが難しくなります。
商品が売れたかどうかを算定する方法はありますが、その売上にデザインがどれほど影響を与えたかを算定するなら、アンケートを取る他ないでしょう。いえ、アンケートを取っても難しいかもしれません。
どうしてかと言ったら、優れたデザインほど透明(無意識的)になっていくからです。
"「インターフェイスとは何か」について考えていく。その際に大事なテーマになるのが、「透明性」である。「透明」とは色ではなく、認知や意識が自然に、また無意識的に起こることの比喩である"
渡邊恵太『融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』42頁
例えばコンビニでチョコレートを買う時。「低カロリーなんだな」と認識こそすれ、「低カロリーをイメージさせる色とフォントを使っているな」などとパッケージデザインに着眼することはありません。アンケートで購入理由を聞かれたら単に「低カロリーだったから」と答えるでしょう。
また、壁のセロテープを剥がす時。「きれいに剥がせそうだ」などと思えど、剥がしている爪のことは意識しません。優れたインターフェイスデザインがほどこされている道具ほど、使う時に道具のことを意識しないわけです。一事が万事、この調子です。
したがってそもそもデザインは成果算定に向かない技術です。たとえそうだとしてさえ、デザインを商品から切り分けて成果算定を試みたがる、涙ぐましい考え方まで現れる始末です。その意気やよし。話を戻します。
ここから先が肝心で、PDCAも回しにくそうな成果算定に向かない業務が営利企業で行われているのは、言うまでもなくユーザの利便性と満足度に少なからず影響を与えるからですが、それだけではありません。
トップダウン方式の協力、具体的に言えば工数管理の権限を持つ人の意思決定が欠かせません。
「弊社の商品開発にとってデザインは重要である」
そのようなトップダウン方式の意思決定がないとデザイン業務は存在し得ません。なにしろ成果算定に向かないわけですから。ゲームエイトの社風に心から感謝を捧げますが、これは弊社に限らず、営利企業のデザイン担当部署全般に言える話です。デザインを尊重する意思決定に際して重要な項目のひとつ、それが
ベロシティというわけです。
かけたコストに成果が見合っていないかもしれない。逆にコスト以上の成果を得られているのかもしれない。成果算定ができないからなかなか確定的なことが言えない。そんな中でデザインを尊重する意思決定に報いるには、第一にコストを抑えなければいけない。
ピクセルパーフェクトなデザインの素晴らしさは誰も疑いません。しかし、美質がデザインの最優先事項に設定されているならば、大きく否を唱えたい。まずは迅速な制作。提出が早ければ周りのテンションも上がりますし、サービスの特性上優位になります。
拙文乱文、失礼いたしました。「デザインワークの要点」と一口に申し上げましても、我々はいまだその全貌を解明する途上にあります。しかも、解明への道は険しく遠く、解明できるという保証の限りもありません。引き続き、日々のデザインを通して研究そして議論を、えっちらおっちら深めていくといたしましょう。ほな。
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