Microsoft Ignite 2025の発表内容まとめ
はじめまして、ますみです!
株式会社Galirage(ガリレージ)という「生成AIに特化して、システム開発・アドバイザリー支援・研修支援をしているIT企業」で、代表をしております^^
この記事では、Microsoftが主催する技術カンファレンス「Microsoft Ignite 2025」で語られた発表内容(企業がAIを本番で使いこなすための全体像!!)について解説します!
筆者の感想
今年のIgniteを一言で言うなら『AIを「チャット」で使う段階から、業務の中で「エージェント(代理実行)」として協働する段階へのロードマップが描かれた場』です。そのための設計思想や基盤、管理の仕組みが、かなり体系立てて整理されていました。
まず結論として、以下の3つのポイントが今年のIgniteの核となる発表でした。
- 人間のアンビションの流れの中でAIを活用する(AI in the flow of human ambition)
- あらゆる場所で革新を実現する(Ubiquitous innovation)
- システムスタックのすべての層で可観測性を確保する(Observability at every layer of the stack)
本記事では、それぞれのポイントをわかりやすく解説します!
「アーカイブ動画(Opening Keynote | KEY01)」は、下記の通りです👇
イントロダクション:AI導入の「勝ち筋」は「技術導入」ではなく「業務変革」
これは、聴きながら、「まさに、その通りだな」と共感しました。
Ignite冒頭で強調されていたのは、「AI導入=効率化」ではなく、「今までできなかったことを可能にする転換点」だという話です。
逆の視点に立った時に、AIプロジェクトが失敗しやすい理由として、下記の4つが挙げられます。
- 事業とITのずれ(アライン不足)
- データ品質
- ガバナンス / 規制の未整備
- 実験偏重でスケールしない
そして、このイントロの後は、「どうスケールさせるか」にフォーカスして、先端企業になるための4つのフレームワークを紹介していました。
先端企業として成功するためのフレームワーク
Ignite 2025では、Microsoftが定義する「先端AI企業になるための成功フレームワーク(Frontier Success Framework)」が提示されました。
これは単なるAIツールの導入ではなく、AIを組織の中核へと据えるための全体戦略です。
成功フレームワークの4つの要素
-
Enrich employee experiences:従業員体験を向上し、生産性と創造性を高める。
-
Reinvent customer engagement:顧客との関係をAIで再構築する。
-
Reshape business processes:業務プロセスそのものをAI前提で再設計する。
-
Bend the curve on innovation:技術革新を競争力の源泉へ転換する。
このフレームワークは、AIを単なる機能追加ではなく、企業の業務/組織モデルそのものを書き換えるための羅針盤と言えます。

人間の野心 / 願望を起点に、AIを組織全体へ解放する設計思想
Microsoft Ignite 2025では、「Democratizing intelligence(インテリジェンスの民主化)」という考え方が、全体を貫く重要なテーマとして語られました。
これは、AIを一部の専門家や特定の部門だけのものにするのではなく、人間の意思・目的・野心 / 願望(アンビション)を起点として、組織のあらゆる場所に行き渡らせるという思想です。
その中心に据えられているのが、以下の3つの要素です。
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| Human ambition | AIは目的ではなく、人が「何を成し遂げたいのか」「どんな意思決定をしたいのか」というアンビションを起点に設計されるべきという考え方。 AIは人に取って代わる存在ではなく、人の判断や行動を前に進めるための存在として位置づけられている。 |
| Copilot | Copilotは、そのアンビションを受け取り、業務の文脈の中でインテリジェンスを提供するインターフェイス。 単なるチャットUIではなく、メール、会議、ドキュメント、業務システムといった日常のワークフローに自然に溶け込む。 |
| Agent ecosystem | Copilotの先にあるのが、実行主体としてのエージェント。 エージェントは情報提示だけでなく、判断・計画・実行まで担い、人の代わり、あるいは協働して業務を進める。 Microsoftはこれを組織内外に広げるエコシステムと位置付けている。 |
※ Ambitionとは、日本語で言うと、「野心」「願望」「欲望」「欲求」といった意味です。
そして、この「Democratizing intelligence」という考え方を実際に企業の中で成立させるために提示されたのが、先端企業になるための成功フレームワーク(Frontier success framework)を支える3つの原則です。

1. 人間のアンビションの流れの中でAIを活用する(AI in the flow of human ambition)
Microsoft Ignite 2025で最初に強く打ち出されたのが、「AI in the flow of human ambition」という考え方です。これは、AIを単体のツールとして使うのではなく、人が何をしたいのか、どんな目的や意思を持って行動しているのかというアンビションの流れの中に、自然に組み込むべきだ、という思想を表しています。
この考え方を技術的に支える基盤として紹介されたのが、LinkedInのCEOも言及していた Work IQ です。Work IQは、仕事の文脈を理解するための知的基盤であり、以下の3要素から構成されます。
- Data:メール、会議、ドキュメント、業務システムなどの業務データ
- Memory:ユーザーの役割、過去のやり取り、組織構造などの記憶
- Inference:文脈を踏まえて推論し、次の行動を導き出す能力

これによりCopilotやカスタムエージェントは、「質問に答える存在」ではなく、業務の背景や意図を理解した上で行動を提案・実行する存在として振る舞えるようになります。
Igniteでは、Azure上のCopilotを用いた具体的なデモも紹介されました。サーバー間通信の不具合について、管理者が自然言語で調査を依頼すると、Copilotがログや設定を横断的に確認し、原因を特定した上で、具体的な修正案を提示し、承認後に自動で設定変更まで行うという流れです。
重要なのは、Copilotが単に情報を列挙するのではなく、
- なぜ問題が起きているのか?
- どの変更が妥当か?
- 組織ポリシー的に問題はないか?
といった判断を含めて提案している点です。
これはまさに、AIが人間の意思決定プロセスの中に入り込み、実行を伴うパートナーとして機能している状態だと言えます!
また、Copilot Chatの進化も印象的でした。
Agents for Copilot Chat により、チャットの延長でエージェントを呼び出し、業務を委任できるようになります。Outlookの受信トレイやカレンダー、Security Copilot for M365とも連携し、日常業務の文脈そのものがAIに共有されていく設計が示されました。
3つのIQ「Work / Fabric / Foundry」が「会社の知能」を補完する
企業の中には、文書や会議、チャットといった非構造データと、KPIや数値などの構造データが混在しています。
生成AIはそれぞれを扱うことはできても、両者をつなげて「会社としてどう判断すべきか」を理解することは難しいという課題がありました。このギャップを埋めるために提示されたのが、Microsoftの考える3つのIQです。
-
Work IQ
人と仕事の文脈を理解するための知能です。
誰が何に取り組んでいるのか、どのやり取りが重要なのかといった、日常業務の流れを把握します。
-
Fabric IQ
BIやセマンティックモデルを通じて、数値やKPIの意味を理解するための知能です。データ同士の関係性や、事業としての判断軸をAIに共有します。
-
Foundry IQ
構造データと非構造データを横断し、エージェントが計画・推論・実行を行うための知能です。AIが継続的に考え、行動できるようにする基盤として機能します。
これら3つのIQを組み合わせることで、AIは単なる情報検索や要約を超え、会社の文脈を踏まえた判断と行動を支援できる存在へと近づいていきます。
カスタムエージェントのためのWork IQ(Work IQ for custom agents)
そして、私が個人的に最も感動したデモが次に行われました。
このデモでは、Copilotが単に原因を調べるだけでなく、業務の文脈を踏まえて判断し、実行までを支援する流れが具体的に示されました。実際のやり取りは、次のように進みます。
- 管理者が「このサーバー A から B への通信が失敗している理由を教えてください。」とCopilotに調査を依頼する。
- Copilotが Azure Firewall のログ、NSG のルール、ルートテーブル、最近の設定変更履歴などを横断的にチェックする。
- その結果として、Copilotが「NSG『web-nsg』のインバウンドルール X がポート 443 のトラフィックを拒否しているため、アプリケーションが到達できていません。この通信は VNet 内部の特定サブネットからのものであり、組織ポリシー上、許可して問題ないと考えられます。」と調査結果を共有する。
- Copilotが「新しい『Allow-HTTPS-from-app-subnet』ルールを優先度 200 で追加し、ソースをサブネット Y、宛先をサーバー B、ポート 443、プロトコル TCP として許可する」といった具体的なルール変更案を、自然言語 + 構成プランの形で提案する。
- 管理者に対して「この推奨ルールを適用しますか?」という形で、Approve / Reject の選択肢を提示する。
- Approveを選択すると、Copilotが実際に NSG / Firewall の設定変更を自動で適用し、その結果をログとして残した上で、「変更内容」「影響範囲」「ロールバック手順」までを説明する。
この一連の流れから分かるのは、Copilotが単なる調査ツールではなく、人の判断を支えながら、実行を安全に委ねられる存在として設計されているという点です。

原因分析をしている様子

対処するためのコマンドを生成してくれている様子
Copilot Chatを起点としたエージェント活用の拡張
今回のキーノートを通して明確になったのは、Copilot Chatが単なる対話UIではなく、業務を横断してエージェントを呼び出し、実行につなげる中核的なハブとして再定義されている点です。
Copilot Chatを起点に、業務の文脈が集約され、その流れの中でエージェントが動く世界観が示されました。
-
Agents for Copilot Chat
Copilot Chatの会話の流れから、特定のエージェントを呼び出し、調査・判断・実行といったタスクを委任できるようになります。ユーザーは「誰に」「どのツールで」作業させるかを意識する必要がなく、自然な会話の延長でエージェントが動く体験が示されました。

-
Outlook Inbox & Calendar for Copilot Chat
Copilot ChatがOutlookの受信トレイやカレンダーと連携し、メールや予定の文脈を理解した上で支援を行います。未対応メールの整理、予定の優先順位付け、次に取るべきアクションの提案など、日常業務の流れそのものがCopilot Chatに共有される設計が特徴です。

-
Security Copilot for M365
セキュリティ領域では、Security CopilotがM365と統合され、Copilot Chat上からセキュリティ状況の把握やインシデント対応を行えるようになります。専門的な操作を意識せずとも、自然言語で状況確認や対応判断を進められる点が強調されていました。

これらに共通しているのは、Copilot Chatが「質問する場所」から、業務の文脈を集約し、エージェントを動かす起点へと進化している点です。
MicrosoftはCopilot Chatを、人とAIが協働するための「入口」として明確に位置づけていました。
ChatGPTで利用可能な「社内知識」の機能はかなり便利で、それと同じような世界観がCopilotにも訪れることを示唆しています。
2. あらゆる場所で革新を実現する(Ubiquitous innovation)
Ubiquitous innovationとは、AI活用を一部の専門家や開発者に限定せず、個人・チーム・開発者それぞれが、自分の立場に応じた形でイノベーションを起こせる状態を作るという考え方です。
※ Ubiquitousとは、日本語で言うと、「普遍的」「普遍的な」「普遍的な」といった意味です。
※ ちなみに、ユビキタス言語というフレーズになると、「どこでも使える言語」という意味になります。

App Builder:アイデアを「言葉で」アプリ化
まず個人向けの領域として紹介されたのが App Builder です。
App Builderでは、チャットベースで要件を伝えるだけで、アプリや業務フローを構築できます。これにより、従来は「4人で作る開発」だったものが、「5人目=業務担当者自身も開発に参加する」形へと広がっていくことが示唆されました。
これは単なるノーコードツールではなく、業務を一番よく知っている人が、AIの力を借りて改善を形にできる環境を意味します。
GitHub Agent HQ:「複数エージェント」を束ねる
そして、開発者向けには GitHub Agent HQ が発表されました。
GitHub Agent HQは、GitHub上でエージェントを管理・統合するための拠点(HQ=Headquarters)として機能します。
- どんなエージェントが存在するのか?
- どの業務を担っているのか?
- どのように連携しているのか?
といった情報を一元的に把握でき、非同期型の開発プロセスを前提としたエージェント開発が推進されていきます。
Model Router:「最適なAIモデル」を使い分ける
さらに、Azure AI FoundryではAnthropicのモデルが利用可能になりました!!!
これもものすごい大きなアップデートでした!
今までは、利用しようと思ったら、DataBricksを経由する必要がありましたら、それが不要になりました◎

これは、Model Router によって用途に応じたモデルの使い分けも可能になっています。
Microsoft Foundry:モデルもツールも「選べる」前提へ
こうした個人・開発者双方の取り組みを支えている共通基盤が Microsoft Foundry です。
すべての開発・エージェント活用が、このFoundryを土台として設計されている点も、今回のIgniteの大きな特徴でした。
ちなみに、Microsoft Foundryは、Azure AI Foundryの改名後の名前です。Azure AI Studioなど毎回、発表のタイミングで改名するのがお決まりになってきましたね😇
また、Microsoft Agent Factoryも発表され、エージェントを「作る」「試す」だけでなく、事業成果につなげるところまでを支援する仕組みが用意されつつあります。
Microsoft Agent Factory:「エージェント活用」を事業スケールへ
GitHub Agent HQやModel Routerが「エージェントをどう作り、どう使うか」を支える仕組みだとすると、Microsoft Agent Factoryは、その先にある「どう事業としてスケールさせるか」を見据えた取り組みだと言えます。
Agent Factoryは、エージェントを単発で開発・実験するための仕組みではなく、設計・構築・テスト・展開・運用までを一貫して支える枠組みとして位置づけられています。企業が複数のエージェントを同時に扱い、業務や部門をまたいで展開していくことを前提とした考え方です。
これにより、エージェントは「便利な実験的ツール」ではなく、継続的に価値を生み出す業務基盤の一部として扱われるようになります。
Microsoft Agent Factoryは、エージェント時代における「工場」として、開発から運用、スケールまでを現実的なものにする役割を担っていると言えます。
3. システムスタックのすべての層で可観測性を確保する(Observability at every layer of the stack)
Charles Lamanna氏は、2028年までに13億のエージェントがデプロイされるという予測を示し、エージェントが爆発的に増える未来を前提に語りました。その前提として強調されたのが、「エージェントは最初から安全に使える設計でなければならない」という点です。

Agent 365:エージェントを安全に使える管理体制を作る
これを実現するための中核的な仕組みが Agent 365 です。Agent 365では、以下のような機能が提供されます。
- Registry:組織内外の多様なエージェントを一元管理
- Access Control:ユーザーからのリクエストに対する承認・拒否の制御
- Visualization:エージェントの利用状況や関係性を可視化
- Interoperable:他社・他クラウドのエージェントとも相互運用
- Security:セキュリティリスクや異常挙動の検知



これらは Agent 365 Admin Center から管理可能で、IT部門がエージェント全体を俯瞰できる設計になっています。さらに、開発者向けには Foundry Control Plane が提供され、エージェントの挙動・品質・コスト・リスクを継続的に監視できます。
ここに Defender / Entra / Purview が統合されることで、アイデンティティ、セキュリティ、データガバナンスが一体となった運用が可能になります。このようにMicrosoftは、「エージェントを自由に作れる世界」ではなく、「安心して使い続けられる世界」を最初から設計に組み込んでいる点が非常に印象的でした。
Foundry Control Plane:開発者側の観測性(品質・コスト・安全)を確保する
Foundry側でも、評価指標(groundedness等)、ガードレール、モデル切替によるコスト最適化、攻撃(Jailbreak)検知などが語られ、「作った後の運用」が本番仕様になっていることが印象的でした。
Cosmos DBが担うエージェント時代のデータ基盤
今回の発表内容とは少し毛色が異なるものの、キーノートの終盤で触れられていた Cosmos DB に関するアップデートも、エージェント時代を見据える上で重要なトピックです。
Cosmos DBは、Microsoftが提供するグローバル分散型のデータベースサービスであり、高い可用性とスケーラビリティを強みとしています。Ignite 2025では、単なるデータストアとしてではなく、AIやエージェントがリアルタイムにデータを読み書きしながら動作するための基盤としての位置づけがより明確に示されました。
やっぱりCosmos DBは、最強ですし、技術者からしたら、ワクワクしますね。。。自分はめっちゃ大好きです(特に、Mark BrownさんとJames Codellaさんの話がすごい好きです)。
余談はさておき、ここでは、エージェントが業務を代行する世界では、以下の3つの要件が不可欠になります。
- 最新の状態を即座に参照できること
- 複数のエージェントが同時にアクセスしても破綻しないこと
- グローバルに分散した環境でも一貫性を保てること
Cosmos DBは、こうした前提条件を満たすデータ基盤として、エージェント活用の土台を支える役割を担います。
また、Foundryを中心としたAI基盤や、Agent 365による管理・ガバナンスの仕組みと組み合わさることで、エージェントが扱うデータを安全かつ効率的に管理する構成が現実的になってきている点も印象的でした。
Cosmos DBの発表は一見すると補足的な内容に見えますが、実際には、
「エージェントが当たり前に動く世界を、どのようなデータ基盤で支えるのか?」
という問いに対する、重要なピースの一つだと言えるでしょう。


まとめ:Ignite 2025は「エージェントを「業務の一員」にするための設計図」
Ignite 2025のメッセージをまとめると、下記のような整理になります。
- AIは「チャットの便利ツール」から、業務を実行するエージェントへ
- 成功の鍵は、業務文脈(Work IQ)× 事業ロジック(Fabric IQ)× ナレッジ横断(Foundry IQ)
- エージェントが増える未来では、Agent 365のような統制・観測のOSが必須
全体に対する私の所感としては、「エージェントによる魔法のような自動化」という夢のような期待を持たせるのではなく、「安心してエージェントに仕事を任せる世界をいかに設計・統制するか?」というエンタープライズにとって重要なテーマに対して、真正面から向き合っている印象を持ちました。
また、AIエージェントの社内浸透に必要不可欠な要素として、一人ひとりの現場・社員の「業務文脈」を深く理解し、「現場の多様性」をデザインに取り込んだ共通基盤をどこまで用意できるか?が重要だと感じました。
最後に
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
この記事を通して、少しでもあなたの学びに役立てば幸いです!
宣伝:もしもよかったらご覧ください^^
『AIとコミュニケーションする技術(インプレス出版)』という書籍を出版しました🎉
これからの未来において「変わらない知識」を見極めて、生成AIの業界において、読まれ続ける「バイブル」となる本をまとめ上げました。
かなり自信のある一冊なため、もしもよろしければ、ご一読いただけますと幸いです^^
参考文献

Discussion