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Mastra .vs. Langgraph 比較

2025/03/20に公開
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以下ではMastra(TypeScript/Node.js製バックエンドAPIフレームワーク)と、LangGraph(Python/LangChainエコシステム向けのワークフロー/エージェント構築ライブラリ)の比較をまとめます。特に開発のしやすさ(API設計、エージェント管理、ワークフローの記述、デバッグ性)と、スケーラビリティ(負荷分散、並列処理、クラウド対応、分散実行)に注目し、それぞれの特徴を整理しました。


1. 開発のしやすさ

1.1 API設計の柔軟性

  • Mastra

    • Hono(軽量なHTTPフレームワーク)を組み込み、エージェントやワークフローごとに自動生成されたAPIエンドポイントをすぐ公開できるのが強み。
    • 追加のカスタムエンドポイントを同じサーバーに組み込みたい場合はやや制限がある。今後の改善が期待されている。
    • ミドルウェア(認証や共通ログ出力)による処理挿入は容易。
    • 「デフォルトで完成度の高いAPIが備わっている」一方で、自由度は限定的。
  • LangGraph

    • 本体にはWebサーバー機能がなく、FlaskやFastAPIなどPythonのフレームワークでAPIを作る必要がある。
    • API設計は完全に開発者の裁量に委ねられる反面、ルーティングやサーバー起動周りを自分で用意する手間がある。
    • 公式エンタープライズ版「LangGraph Platform」ではデプロイ支援が提供されているが、OSS版では自前実装が基本となる。
    • URL設計の自由度が高い代わりに、セットアップコストはやや増える。

1.2 エージェントの管理方法

  • Mastra

    • TypeScriptコード内でエージェントオブジェクトを定義し、new Mastra({ agents: { ... } }) のように登録するだけで有効化。
    • 標準でLLM関数呼び出しツールやRAG(Retriever)との統合があり、メモリ(長期記憶)の設定も簡単。
    • コード再デプロイを通じて管理する静的な構造で、ランタイム中に動的にエージェントを増減する機能はない。
    • ローカルの開発用UI(プレイグラウンド)で一覧から選択しテスト可能。
  • LangGraph

    • ライブラリレベルで複数のエージェントを任意に生成・組み合わせ可能。
    • マルチエージェントを構成し、役割分担やメモリ/ツールを個別に設定できる柔軟性がある。
    • ただし専用の登録UIや管理仕組みはなく、コードでの管理が前提。
    • LangChainのツールやメモリを活用しやすいが、抽象化が複雑になるケースもある。

1.3 ワークフローの記述しやすさ

  • Mastra

    • ステップベースのワークフローDSLを備え、.step(), .if(), .while() などメソッドチェーンで制御フローを定義可能。
    • 条件分岐やループ、分岐の合流(.after([stepA, stepB]) など)を明示的に書ける。
    • コードの可読性が高く、デバッグ時にフローを追いやすい。
    • XState(状態機械ライブラリ)の考え方を取り入れており、複雑なフローも比較的コンパクトに表現できる。
  • LangGraph

    • 状態マシン(ステートマシン)ベースでフローを設計。ノード(処理)とエッジ(遷移)を明示的に定義するスタイル。
    • ループや条件分岐、状態の巻き戻しなど非直線的なプロセスを表すのに適している。
    • 非常に強力だが、事前に「状態構造」と「遷移」をしっかり設計する必要があるため、複雑化すると管理に工夫が要る。
    • 大規模タスク管理や分岐が多いシナリオで威力を発揮する反面、小規模では初期コストが高め。

1.4 デバッグやトレースのしやすさ

  • Mastra

    • OpenTelemetry(OTel)対応により、各ステップの実行ログや分散トレースを標準で取得。
    • 専用のローカル開発UI(プレイグラウンド)で対話テストと同時にエージェントの状態やメモリ、評価スコアを可視化できる。
    • エラー発生時のトレースや再実行が容易。New RelicやLangSmith、SigNozなど主要なObservabilityサービスとの連携プラグインが揃っている。
    • 「最初から充実したデバッグ環境」が提供されるのが強み。
  • LangGraph

    • 実行中のトークンストリーミングを可視化する機能があり、エージェントの推論過程をリアルタイムで観測可能。
    • LangSmithとの連携で各実行履歴(Run)を蓄積・分析でき、OpenTelemetryにも簡単に対応できる。
    • ただし、開発者が使うUIとしてはLangSmithなど別途ツールを併用する形になる(OSS版単体にプレイグラウンドは付属しない)。
    • 大規模システムでの本番運用実績があり、設定次第で必要十分な観測体制を構築可能。

2. スケーラビリティ

2.1 負荷分散と水平スケーリング

  • Mastra

    • Node.js製ステートレスサーバーとして動くため、複数インスタンスを立ち上げてロードバランサを挟むだけで水平スケールしやすい。
    • 状態(メモリやベクターデータ)は外部データベースに保存可能なので、サーバー側は一切ステートを持たなくて良い。
    • VercelやCloudflare Workers、Netlifyなどサーバーレス環境でも自動的にスケールされる運用が可能。
  • LangGraph

    • こちらはあくまでPythonライブラリ。FlaskやFastAPIアプリをコンテナ化してKubernetesやAWS Lambda等でスケールさせるのが基本。
    • OSS版に特段のクラスタリング機能はなく、インフラ側で水平スケーリングを実装する。
    • ただしエンタープライズ向けのLangGraph Platformでは長時間稼働エージェントを大規模運用する仕組みを提供している。
    • UberやReplit、LinkedInなど大規模ユーザ企業での本番採用事例があり、適切に構成すれば十分にスケールする実績がある。

2.2 並列処理や非同期処理

  • Mastra

    • Node.jsの非同期I/Oをフル活用。外部APIやLLMとの通信をPromiseで発行するため、一つのサーバープロセスでも高い並行処理性能。
    • ワークフロー内で .step() を複数並行し、 .after([stepA, stepB]) で合流するといった書き方で並列実行を明示的に制御できる。
  • LangGraph

    • PythonではGIL制約があるものの、asyncioやマルチプロセスで並列実行を組み合わせることは可能。
    • グラフ構造上のノードを分岐して同時に処理させる「論理的な並行フロー」は得意。
    • スループット向上には基本的にサービスインスタンスを増やして負荷分散するアーキテクチャが推奨される。

2.3 クラウド環境・サーバーレスとの親和性

  • Mastra

    • Cloudflare WorkersやVercelといったJavaScriptランタイムのサーバーレスプラットフォームに公式対応。
    • AWS LambdaやGCP Cloud Functions上でもNode.js対応ランタイムでそのまま動かせる。
    • Dockerコンテナにも容易に梱包でき、Kubernetesクラスタでも運用しやすい。
    • コールドスタートが軽量で、エッジ環境やサーバーレスとの相性が良い。
  • LangGraph

    • PythonベースのWebサービス(FastAPI/Flaskなど)をデプロイする形になる。
    • AWS LambdaやCloud Runでの起動時間やメモリ使用量に注意が要るが、外部API主体なら問題なく動作可能。
    • Kubernetes上でUvicorn/Gunicornのレプリカを横に並べるといった一般的なパターンで大規模化。
    • LangGraph PlatformではKubernetesを含めたエージェント管理の仕組みが提供されているらしいが、OSSのみでは自力で構築する必要がある。

2.4 分散実行・チェックポイント機能

  • Mastra

    • ワークフロー実行の一時停止・再開を .suspend() / .resume() で明示的に扱える。
    • 長期対話の途中でユーザ承認を挟む「Human-in-the-Loop」や、外部イベント待ちのシナリオに向いている。
    • 外部データベースやUpstash Redisに状態を永続化すれば、分散サーバーでも続きから再開できる。
  • LangGraph

    • 状態マシンとして各ノード間の遷移を管理するため、長時間のワークフローを通してコンテキストを保持し続けられる。
    • interrupt_before=["tools"] のように設定し、人間が介入するタイミングに「チェックポイント」を置く例もある。
    • 明確なAPIとしての.suspend()はないが、チェックポインタと状態管理を組み合わせて一時停止や再開に相当する仕組みが実現可能。
    • 結果として、人の承認プロセスを挟むような高度な対話フローにも対応できる。

3. まとめ比較表

比較観点 Mastra (TypeScript/Node) LangGraph (Python)
API設計の柔軟性 自動生成APIで迅速に公開可。独自エンドポイント追加はやや制限あり。
ミドルウェア対応による共通処理の注入は容易
自前でAPI実装が必要。自由度は高いがセットアップコスト増。
エンタープライズ版「LangGraph Platform」でのデプロイ支援も
エージェント管理 TypeScriptコードベースで簡単登録・一括管理(型安全)。
ツール・メモリ統合が標準サポート。
動的追加・削除は不可
コードレベルで自由に構成可能。
マルチエージェント連携や役割分担が柔軟。
管理UIはなく、LangChainの抽象化に依存
ワークフロー記述 .step().if(), .while() などメソッドチェーン形式のDSL。
フローの可読性が高く、直感的に条件分岐や合流を表現
状態マシンベースでノード・エッジを定義。
非線形フローやループなど強力にサポート。
状態と遷移を綿密に設計する初期コストがある
デバッグ/トレース OpenTelemetry連携&プレイグラウンドUIで対話デバッグ可能。
各ステップのログや評価が標準装備
トークンストリーミング可視化・LangSmith連携。
ログ取得や実行履歴分析は豊富だが、OSS版には専用UIがなく外部ツール利用が前提
水平スケーリング ステートレス設計でロードバランサ配下に複数インスタンスを増やしやすい。
Vercel等サーバーレスにもネイティブ対応
Pythonサービスとしてコンテナ化&K8sなどで展開。
OSS版は自前でスケーリング基盤を構築。
UberやLinkedInでの大規模導入実績がある
並列・非同期処理 Node.jsのノンブロッキングI/Oで高並行処理。
ワークフロー内の並行ステップを簡単に表現
Pythonのasyncioやプロセス並列を併用可。
グラフ分岐を使った論理的な並行フローが組みやすいが、GILによる制約も考慮
クラウド/サーバーレス適用 Vercel、Cloudflare Workers、Netlifyなどエッジ環境に公式対応。
AWS Lambdaにも配置可能でコールドスタートが軽量
FastAPI+PythonであればAWS LambdaやCloud Runにデプロイ可。
起動時間やメモリに注意しつつ、一般的なクラウド運用パターンを適用
分散実行・チェックポイント .suspend()/resume()でワークフローを中断再開。
外部DBで状態を共有し、人間承認を挟むようなフローが容易
状態マシンとして長期コンテキストを保持。
チェックポインタ機能・人間介入用のinterrupt_before設定などで同様のシナリオを実現可能

4. 結論

  • MastraはTypeScript/Node.js環境で「すぐに使えるAPI」が整備されているのが大きな強みです。最初からワークフローDSL、プレイグラウンド、OTelトレースなどが充実しており、素早い開発サイクルやデバッグのしやすさを重視する場合に適しています。サーバーレスへのデプロイが容易なので小~中規模プロジェクトで導入しやすく、コード量を抑えて開発できるメリットがあります。ただしRESTエンドポイントを細かく作り分ける自由度は限定的で、拡張性を求める場合はややワークアラウンドが必要です。

  • LangGraphはPython/LangChainのエコシステムを活かして強力なマルチエージェント構成や非線形フローを表現できます。特に状態マシンの考え方で複雑な対話やタスク管理を「ノードとエッジ」の形で設計でき、大規模で高度なユースケースに向いています。一方で、API公開は自前でサーバーを用意する必要があるなどセットアップはMastraより手間がかかりやすいです。またOSS版のみだと統合管理UIがないため、LangSmithなど外部ツールを組み合わせたデバッグ・監視が基本となります。

両者ともにスケーラビリティの面では十分な設計を備えており、クラウド上での水平拡張や分散実行も問題なく可能です。プロジェクト要件として、

  • 「できるだけ簡単・早くAPI提供したい」「Node.jsスタックを使いたい」「標準である程度整った開発体験がほしい」
    Mastraが有力候補

  • 「Python/LangChain連携で高度なエージェント構成を組みたい」「状態遷移が複雑でカスタマイズ性が重要」「既存のPython基盤との親和性を重視」
    LangGraphが有力候補

という形で判断すると良いでしょう。


参考文献・情報源

以上が、MastraとLangGraphの主要な違いと選定ポイントです。両フレームワークの特性を理解し、プロジェクトの要件に合った選択を検討してみてください。

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