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全自動レストランの夢

2024/11/28に公開

映画の中の全自動レストラン

客席にすわると、天井にそなえられた機械がテーブルを瞬時にととのえる。注文をするのは簡単で、天井からおりてきた電話機から直接厨房にメニューをつたえるだけだ。厨房では数多くのロボットアームがうごめき、鶏をつかまえ、瞬く間にさばいてローストする。スープは細いチューブを通じて直接客席におくられる。人参をスライスしてグラッセにするのも、ポテトをマッシュするのもロボットの仕事である。映像作家でコメディアンでもあったチャーリー・バワーズは、1926年公開の短編映画『全自動レストラン』のなかでこのような奇妙なレストランを描いた。ボタンひとつでロボットが調理を開始し、配膳する。テーブルの後片付けもロボットにおまかせだ。

チャーリー・バワーズ『全自動レストラン』(1926年)

このようなアイデアは、これまで多くの人の想像力を掻きたててきた。たとえばケン・ヒューズ監督『チキ・チキ・バン・バン』(1968)やロバート・ゼメキス監督『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)、ティム・バートン監督『ピーウィーの大冒険』(1985)などで繰りかえし描写されてきた調理ロボットはその代表的なものだろう。ある朝に目覚まし時計が鳴りひびくと、それに呼応してトースターからパンが飛びだす。アームが不器用に動いて缶詰をひらき、その中身を皿に盛りつける。クレーンが卵が運び、目玉焼きをこしらえる。湯が沸きたって、カップにコーヒーを注ぐ。そのようなマッドサイエンティストたちの朝食に、多くの人が胸を躍らせたのである。そして現在、現実のロボットはこれらにかなり近づいている。

羽田空港ちかくにある「AI_SCAPE」は、川崎重工業が2022年に開業した実験的なレストランであり、調理から配膳にいたるまでを同社のロボットが自動で行うことが特徴だ。たとえば「ボロニア風ミートソース」を注文してみよう。客席からスマートフォンで支払いを済ませると、厨房ではロボットアームが動きだし、レトルトのソースをひとつ掴んで温めはじめる。アームがレンジを操作し、パスタを加熱する。ソースとパスタはそれぞれがアームによって容器に移され、サラダとともにトレーに並べられる。そしてそのトレーを自走ロボット「Nyokkey」が客席まで配膳してくれる。

川崎重工業製 産業用ロボット「RS007L」が働くAI_SCAPEの厨房

川崎重工業製 人型自走ロボット「Nyokkey」

"ロボットが作る「ボロニア風ミートソース」SET"
この一連の流れは若干不安定で、筆者が注文した際にはロボットがうまく動かずに人の手を借りる場面もみられた。それに料理はレトルトであるから、ロボットが作っていると謳うのは大袈裟だろう。だがそういった疑念にも増して、この食事がたのしく、興味深い経験であることは間違いなかった。

とはいえ、このように機械化されたレストランには前例がないわけではい。それどころか、調理の現場は多かれ少なかれ機械化されているのがふつうなのである。今回はそのなかでも筆者の琴線にふれる、全自動レストランの夢の断片を紹介していきたい。

機械が調理する

調理は早くから機械化が進んだ分野に違いないだろう。たとえば近年人気を集めるオートクッカーを挙げるまでもなく、電子レンジや電気炊飯器は高度にコンピュータ制御された機械調理器である。外食チェーン店で用いられる機械として著名なのは寿司の自動にぎり機で、そのはじまりは1981年の鈴茂器工社製「江戸前寿司自動にぎり機 ST-77」に求めることができる。ST-77は毎時1200貫のシャリの成形が可能であり、拡大する回転寿司チェーンの需要に応え、その発展に貢献してきたという[1]

寿司と並んで日本人に親しみのあるファストフードはそばである。そしてそれを調理するロボットも存在する。コネクテッドロボティクス社の「そばロボット」はその一例で、2020年にJR東小金井駅構内にある「そばいち nonowa東小金井店」に導入されている。

コネクテッドロボティクス社製「そばロボット」。そばいち nonowa東小金井店(東京都)にて撮影
同社は2017年に発表した「たこ焼きロボット OctoChef™」で話題をさらい、それ以来数々の調理ロボットを製造してきた。そばロボットは残念ながら現在では販売されておらず、筆者が訪れた際には動いていなかったが、同様のロボットが都内数店舗に設置されているそうである。

ところで、そばを調理する機械として多くの中高年の記憶に刻みつけられているのが、1975年から95年にかけて製造された富士電機社製「富士電機めん類調理販売機」ではないだろうか。かつては多くのレジャー施設やサービスエリアに見られたもので、現在でも稼働する個体がわずかに存在する。

富士電機社製「富士電機めん類調理販売機」。オートパーラー上尾(埼玉県)にて撮影

同機では、硬貨を投入して商品を選択すると、内部では冷凍された麺に熱湯がかけられ、器が素早く回転し、ほぐしと湯ぎりが行われる。これを二回くりかえしたのち、濃縮されたスープと熱湯をくわえて排出するそうである[2]。現在ではコンビニなどで電子レンジ調理するだけのそばが広く普及しているものの、同機の内部でくりひろげられる豪快な調理過程はロマンを掻きたたせるし、茹でたての食感は真似できないものだろう。

「富士電機めん類調理販売機」で調理された天ぷらうどん

現在の食品自動販売機は、冷凍食品を排出して家庭で調理するものが主流であるが、かつては内部に調理機能をもつ自動販売機が数多く存在した。富士電機めん類調理販売機と同じく1975年に発表された、太平洋工業社製「トーストサンドイッチ自動販売機」はその代表的なものである。

太平洋工業社製「トーストサンドイッチ自動販売機」。オートパーラー上尾(埼玉県)にて撮影

同機では商品を購入すると電熱線で加熱が開始され、一分ほど待つとアルミホイルに包まれたサンドイッチが排出される。表面には香ばしい焼き目が満遍なく入っており、これも他にはない味わいがある。

「トーストサンドイッチ自動販売機」で調理されたチーズハムサンドイッチ

このほかにも、星崎電機「ハンバーガー自動販売機」(1965)、川鉄計量器「川鉄のめん類自動調理販売機」(1972)、サンデン「ボンカレーライス自動販売機」(1975)、シャープ「シャープ生めん調理自動販売機」(1977)、ニチレイフーズ「24hr.HOT MENU」(1991)、セガ「それゆけ!アンパンマン ポップコーンこうじょう」(1992)など、多様な自動調理販売機が時代を彩った。しかし平成期に差しかかると、コンビニエンスストアの興盛とともにこれらの調理機能付き自動販売機は急速にその姿を消していったのである。

それでは自動調理販売機はいずれ消え去る運命にあるのだろうか。とはいえ明るい話題もある。昨今ではシンガポールに本社を構えるアイジュース社の「生搾りオレンジジュース自動販売機」が人気を集めているし、海外ではいくつかの新規な調理機能付き自動販売機が開発されているようだ。大阪で見かけたわたがしの自動販売機は、ケースのなかでロボットアームが器用にわたがしを巻き上げてくれる、目にもたのしいものであった。これらの動向は引きつづき追っていく必要があるだろう。

深圳ハオミンテクノロジー社製と思われるわたがしの自動販売機。ミライザ大阪城(大阪府)にて撮影

機械が配膳する

料理の配膳は近年急速に機械化が進んだ分野である。国内でもファミリーレストランチェーン「ガスト」などで導入されているPudu社製ネコ型配膳ロボット「BellaBot」は、ここ数年で広く見られるようになっている。

Pudu社製 ネコ型配膳ロボット「BellaBot」。ガスト 渋谷桜丘店(東京都)にて撮影

とはいえ、飲食物を機械で配膳するという発想は古くからある。江戸時代に親しまれた「からくり」のひとつ「茶運び人形」がそれである。茶運び人形とは、盆に茶をの乗せた人形が客人の手前まで歩いていって立ちどまり、客人が盆のうえの茶を手にとると、人形は振りかえり帰っていくというものだ。江戸時代中期に細川半蔵によって著されたからくりの解説書『機巧図彙』には、半蔵によって設計された精緻な茶運び人形が紹介されている。

細川半蔵『機巧図彙』(1796年)

さらに時代を遡ると、1675年には井原西鶴が「茶をはこぶ 人形の車 はたらきて」という俳句を詠んでいるが、西鶴が目撃したこの「茶をはこぶ人形」は、江戸時代前期のからくり師である竹田近江の作であったという[3]。さて、茶運び人形の仕組みとは、あらかじめ客席の位置を固定しておき、そこまでの距離に合わせて人形内部の歯車とカムを調整したうえで、盆への荷重をスイッチとして往復するようにしたものであった。それが人の姿をしているから、あたかも人形自身が知能を持ち、客との位置関係を考えて配膳しているように錯覚させるのだ。現代のBellaBotが支持されるのも、江戸時代の茶運び人形と同様に、ネコの姿に知性と愛嬌を感じさせるからではないだろうか。

以上紹介した自走式の配膳ロボットと並んで、もうひとつ見逃せない配膳機械がある。それは回転寿司のコンベアだ。周知のように、回転寿司の歴史は1958年に開業した「廻る元禄寿司」第1号店にはじまる。このコンベアはもともと、同社の初代社長である白石義明がビール工場の製造ラインから着想したものであったという[4]。同店では開業当時の機械とは異なるものの、いまでもリーズナブルな価格の回転寿司をたのしむことができる。

元祖廻る元禄寿司 本店(大阪府)

元祖廻る元禄寿司 本店のコンベア
現在の大手寿司チェーンでは、注文ごとに握りたての寿司を客席まで直接配膳させる高速レーンを設置している店も多い。しかし、コンベアから絶えず寿司が流れてくる期待と興奮は、高速レーンでは味わえないものである。

機械が接客する

機械による接客を見ていこう。これは未開な分野であるものの、いくつかの萌芽が育ちつつある。冒頭に紹介したAI_SCAPEの自走ロボット「Nyokkey」も、配膳時には頭部のモニターには笑顔が映され、その場を和ませる。そして、他にもロボットによる接客を受けられるレストランがある。ソフトバンクロボティクスグループ社が運営するレストラン「Pepper PARLER」だ。同店は東急プラザ渋谷の5階に位置し、2019年の同ビルの完成に伴って開業されている。提供される料理は人の手によるものだが、店内には数多くのPepperが設置され、来客と会話をたのしんだり、ダンスを踊っているのが異様である。

Pepper PARLER(東京都)

バレエ『くるみ割り人形』を踊るPepper

最後に、本論の趣旨からは若干外れるが、かつて新宿歌舞伎町に存在したロボットレストランにも触れておきたい。同店はロボットレストラン社によって運営されていた店舗であり、2012年に開業し、コロナ禍のなかで惜しまれつつも閉店した。同店はレストランとはいうものの、実際には劇場であり、ロボットたちもそのほとんどが着ぐるみをまとった役者であった。チケットを予約して定刻に同店に訪れると、弁当やスナック、ドリンクを買うことができる。それらを好きなだけ携えて観覧席にすわると、まもなくショーがはじまるのだ。サイケデリックに着飾ったダンサーたちが絶えまなく踊り、レーザーに照らされた会場のなかで、サイバー侍の殺陣やロボット山車のパレードが目まぐるしく展開される。このような、いささか過剰でケレンに満ちた演出が観客を沸かせてくれる。

ロボットレストランのショーの一場面

ロボットレストランにおけるロボットは、実際の自動機械ではなかったとしても、ひとつの文化的な象徴であったといえる。この例からも教えられるように、人にとってロボットとは、単なる無感情な機械にとどまらないところがある。チャーリー・バワーズの『全自動レストラン』では、むしろその無感情さこそが笑いを誘ったが、現実のレストランにあらわれたロボットは、BellaBotのように表情ゆたかなものであった。NyokkeyやPepperも同様だ。これ以後、レストランで働くロボットはどのように進歩していくのだろうか。遠くない将来に全自動レストランは実現するだろうが、それはどのような姿だろうか。いずれにせよ、興味は尽きないのである。

脚注
  1. 日本機械学会「機械遺産」 機械遺産 第107号 ↩︎

  2. 魚谷祐介『日本懐かし自販機大全 (タツミムック)』2014, 辰巳出版, pp15-17 ↩︎

  3. 立川昭二『からくり (ものと人間の文化史 3)』1969, 法政大学出版局, pp4 ↩︎

  4. 日本機械学会「機械遺産」 機械遺産 第112号 ↩︎

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