2025-07-28 AIソムリエレポート: AWSが発表したAIエディター「Kiro」の全貌
こんにちは。FLINTERSの河内です。
AIサービスを味見する会を毎週やっています。今週は私が担当で AWS の Kiro について取り上げました。
Kiro の spec-driven development は特定の開発プロセスの推進をエディタのUXとして提案してきている点が新しいと感じました。AI時代の開発プロセスとして覇権をとれるか?が一つのポイントであり、他社の追随を許さない何かが築けるか?がもう一つのポイントになるように思います。
最初に試したときは仕様書が英語だったのですが、今日試したら日本語で出力できるようになってました。頻繁に更新されているようで今後に期待が持てますね!
以下は AI による会のまとめ(発言の要約)です
2025年7月14日、AWSから新たなAIエディター「Kiro」が発表されました。AI系のサービスが多数リリースされる中で、Kiroは一際注目を集めています。その魅力は、単なるコード補完や生成にとどまらない、スペックドリブン開発という新しい開発プロセスを強力にサポートする点にあります。
Kiroとは?
Kiroは、VS CodeをフォークしたAIエディターで、CopilotやCursorのようなAIアシスタント機能を備えています。特筆すべきは、エージェントが提供する2つのモード、「Vibeモード」と「Specモード」です。
- Vibeモード: Copilotなどと同様に、ユーザーの指示に基づいてコード生成や修正を行う一般的なモードです。
- Specモード: Kiroの核となる機能で、「スペックドリブン開発」を可能にします。
スペックドリブン開発のプロセス
スペックドリブン開発は、以下のステップで進行します。
要件定義 ( requirements.md
): まず、ユーザーがやりたいことを入力すると、AIが要件を整理したrequirements.md
ファイルを生成します。ユーザーはこの内容を確認・修正し、次のステップに進みます。
設計 ( design.md
): requirements.md
に基づいて、AIが設計書design.md
を作成します。ここには、技術スタックやファイル構成などが記述されます。
タスクリスト作成 ( tasks.md
): 設計が完了すると、AIが実装に必要なタスクをリストアップしたtasks.md
を生成します。
タスク実行: tasks.md
には各タスクの実行ボタンがあり、これを押すことでAIが自動的にタスクを実行し、完了するとチェックボックスが付与されます。
このプロセス全体がKiroのUIと連携しており、それぞれのステップで生成されるファイルはマークダウン形式であるため、他のエディターでも参照可能です。特にタスクの実行状況はUI上で視覚的に分かりやすく表示され、実行中のタスクはくるくる回るアイコンで示されるなど、ユーザー体験が重視されています。
Kiroの優れた点
- 一貫性の維持: 要件から設計、タスク、実装までが一貫した状態に保たれるため、開発のブレが少なくなります。
- コンテキストロストの軽減: 要件や設計、タスクがファイルとして整理されているため、AIのコンテキストウィンドウが溢れても、迷子になりにくいというメリットがあります。
- UI/UXの最適化: 特定のプロセス(スペックドリブン開発)に特化してエディターのUI/UXが最適化されており、直感的で分かりやすい操作が可能です。タスクの実行、リトライ、変更履歴の確認などがUIから直接行えます。
- エージェントステアリング: プロジェクト全体でエージェントが参照するドキュメント(プロダクト、ストラクチャ、テックに関する情報)を自動生成し、エージェントの動作時にこれらを自動的に読み込む機能です。これにより、AIがより適切な提案やコード生成を行えるようになります。
- エージェントフック: コード保存時などに特定のタスクをエージェントに実行させる機能です。例えば、TypeScriptファイルを保存した際に自動で単体テストを実行し、結果をサマリーとして提供するといった設定が自然言語で可能です。
- 既存プロジェクトへの導入の容易さ: 既存のプロジェクトに対しても、Kiroを開いてスペックモードで新しい仕様を宣言することで、
.kiro/specs
ディレクトリ以下にスペックファイル群が生成されるため、スムーズな導入が可能です。
Kiroが成し遂げたこと、そして他のエディターが追随できるか
Kiroは、単なるAIアシスタント機能を提供するだけでなく、スペックドリブン開発という開発プロセスをエディターにビルトインし、そのプロセスをUI/UXで強力にサポートしたという点で画期的です。要件定義、設計、タスクリスト作成、タスク実行といった一連の流れを、エディター上でシームレスに、かつ直感的に進められるようにしたことが大きな特徴です。
これまでのAIエージェントでも、要件や設計、タスクリストをファイルとして作成し、それらをエージェントが参照するというアプローチはありました。例えば、 Cline のmemory bankや、Claude Codeの「CLAUDE.md」ファイルなどがそれに該当します。これらは、プロジェクトの概要や計画をファイルに記述することで、エージェントのコンテキストを維持し、より適切な動作を促すものでした。
しかし、これらのアプローチは、あくまで「プロンプト集」や「インストラクション」という形であり、エディターへの深い統合はなされていませんでした。つまり、開発者がそれらの存在を知り、意識的に活用しなければならないものでした。
Kiroは、この点を大きく進化させました。
- UI/UXによるプロセスの具現化: スペックドリブン開発という特定のプロセスに特化して、エディターのUI/UXを最適化しました。タスクの実行状況が視覚的に表示されたり、タスクの実行、リトライ、変更履歴の確認などがUIから直接行えるようになったりすることで、開発者が意識せずともプロセスに沿った開発を進められるようになりました。
- エージェントステアリングとエージェントフックによる自動化: プロジェクトの情報を自動生成し、エージェントが常に参照する「エージェントステアリング」や、ファイル保存時に自動でテストを実行するといった処理を自然言語で設定できる「エージェントフック」など、プロセスを自動化し、開発効率を高める機能が組み込まれています。
Kiroのこのアプローチは、エディターのUXという形で開発プロセスを具現化する方向への進化を示しています。
他のエディターがこのKiroの成功に追随できるか、という点については、議論の余地があります。
- 追随の容易さ: Kiroが提供する「スペックドリブン開発」の概念自体は、他のエディターでもプロンプトやプラグインの組み合わせで実現しようとすることは可能です。実際に、Claude CodeでKiroのような開発を行うための方法が共有されたり、Kiroを参考にしたツールが作られたりしています。UI/UXの差はあれど、機能的に追随することは比較的容易であると考えられます。
- 先行者利益と開発競争: しかし、Kiroは特定のプロセスに特化してエディターのUI/UXを大幅に最適化することで、先行者利益を得ている可能性があります。他のエディターが追随するためには、同様のUI/UXを実現するための多大な開発リソースが必要となります。AIエディターの競争は激化しており、短期間での機能追随が求められる状況です。
- ファウンデーションモデルの進化: 最終的には、根幹となるファウンデーションモデル(地頭)の性能が、AIエディター全体の能力を左右します。GPT-5のような新しいモデルの登場は、AIエディターの能力を飛躍的に向上させる可能性があります。
現状、Kiroはプレビュー版であり、エラーが出たり、トラフィックが多い場合にモデルの変更を促されることがあるといった課題も抱えています。
Kiroの登場は、AIエディターが開発者のワークフローに深く統合され、開発プロセス自体を効率化する未来を示唆しています。今後のAIエディターの競争では、ファウンデーションモデルの進化に加え、エージェントの自律性や、Kiroのように開発プロセスをサポートするツールの提供が、重要な要素となるでしょう。
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