ソフトウェアエンジニアからデータエンジニアへ転身して分かった「楽しさ」と「活きるスキル」
この記事は、ナウキャスト Advent Calendar 2025 の5日目の記事です。
はじめに
こんにちは、株式会社ナウキャストでデータエンジニア(DE)をしているむぐるま(@mt_musyu)です。
元々はWebアプリケーションエンジニアとして、フロントエンドからAPI開発、DB構築までフルスタックに開発をしていました。現在はデータ基盤のエンハンスや顧客向けデータ基盤構築支援などを行っています。
この記事では、「ソフトウェアエンジニアからデータエンジニアへのキャリアチェンジ」 をテーマに、実際に転身してみて感じた 「職能の違い」 や 「Webエンジニアのスキルがどう活きるか」 についてお話しします。
「データエンジニアに転向してみようかな」と少しでも思っているソフトウェアエンジニアの方の背中を押すことができれば幸いです。
この内容は以下スライドにもまとめていますので、ぜひご覧ください。
なぜ今、データエンジニアなのか?
まず、なぜ私がキャリアの転換点としてデータエンジニアを選んだのか、そして市場における立ち位置について触れておきます。
私がデータエンジニアに興味を持ったきっかけは、Webエンジニア時代に経験した 「データベース・フロントエンドレンダリングのチューニング」 でした。アプリケーションのレイテンシ改善などを地道に行うことに喜びを感じ、「縁の下の力持ち」「総合格闘技」といった要素を持つデータエンジニアという職業に惹かれました。
ちなみに、データエンジニアというワードを知ったのは、Data Engineering Study #1 というイベントでした。感慨深い・・・
市場を見渡してみても、データエンジニアリングサービス市場の年平均成長率は 15.38%(2025-2030年)と予測されており、非常に需要が高まっています。
AIやリアルタイム分析、パーソナライズされた顧客体験など、現代の技術トレンドにおいて「賢い機能」を実現するためには、信頼性の高いデータ基盤 が不可欠です。データエンジニアの需要は一時的なブームではなく、AI/IoTインフラを支える恒常的なものだと確信しています。
ソフトウェアエンジニア(SWE) vs データエンジニア(DE)
では、具体的に「SWE/Webエンジニア」と「データエンジニア」では何が違うのでしょうか。私が感じた比較軸を整理してみました。
| 比較軸 | ソフトウェアエンジニア (SWE) | データエンジニア (DE) |
|---|---|---|
| コアな責務 | ユーザー向けアプリの機能開発・安定性の維持 | 大規模データの収集・処理・品質保証 |
| 開発対象 | アプリロジック | データフロー |
| 主要技術 | Java, JS, C++, フレームワーク | Python, SQL, Spark, クラウド |
| 技術的規律 | コード品質、テスト、レイテンシ | データ品質 (Data Quality)、スキーマ進化、ガバナンス |
| ビジネスインパクト | 顧客体験、特定機能の収益化 | 組織全体の意思決定、AI/MLの土台構築 |
一言で言えば、「戦術的な機能開発」から「戦略的な基盤構築」へ と焦点がシフトします。
言い換えれば、SWEがhow(どうやって作るか)に注力するのに対し、DEはwhat(何を作るべきか)に注力する傾向があると考えます。(もちろん、両者ともにhowとwhatの両方を考慮しますが、比重の違いがあるという意味です)
ここで重要なのは、DEは「データ」という不確実性の高い資産を扱うため、技術的なスキルだけでなく、ビジネス理解やコミュニケーション能力も不可欠である という点です。ここに面白みを感じる方は、DEに向いていると思います。
また、参考までに以下の記事もご覧ください。有名な記事ですが、SWEとDEの違いが思想も含めてよくまとまっています。
データエンジニアリングに活きるソフトウェアエンジニアリングスキル
上の比較を見ると、DEはあまりテックなことできないんじゃないのか、と思うかもしれません。しかし、ここは最近では変わってきています。
データエンジニアリングの世界も 「ソフトウェア化」 が進んでおり、コード品質、テスト、アーキテクチャ設計といったソフトウェアエンジニアリングのベストプラクティスが積極的に取り入れられています。例えば、以下のようなトピックが注目されています。
- DataOps: データパイプラインの継続的インテグレーションとデリバリー
- Infrastructure as Code (IaC): TerraformやPulumiを用いたデータインフラのコード化
- テスト自動化: Great Expectationsなどを用いたデータ品質の自動検証
- モダンなアーキテクチャ設計: Data Meshやレイクハウスなどの新しいデータアーキテクチャ
SWEの経験が活きる3つのポイント
SWE/Webエンジニアとしての経験は、以下の点でデータエンジニアリングに直結します。
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システム設計能力の転用
マイクロサービスの設計原則は、近年注目されている「Data Mesh」や「レイクハウス」のアーキテクチャ設計に直接適用できます。 -
品質管理の徹底(DataOps)
SWEとして当たり前に行っているTDD(テスト駆動開発)やCI/CDの経験は、データパイプラインのテスト自動化において強力な武器になります。データはステートフルであるためテストの難易度は高いですが、だからこそSWEの知見が必要です。 -
DBの深い知見
Web開発におけるデータベースチューニングの経験は、大規模DWH(データウェアハウス)における複雑なクエリ最適化にそのまま活かせます。
埋めるべき技術ギャップとメンタルモデルの変化
もちろん、Webエンジニアから転身する上で新たに学ぶべきこともあります。
技術的なギャップ
- クラウドと分散処理: Apache Spark, Kafka, AWS/Google Cloud/Azure上のデータサービス、Snowflake, Databricksなどの理解
- データアーキテクチャ: DWH、データレイク、ディメンションモデリングなどの設計原則
- 処理言語: Python (Pandas/PySpark) や、ウィンドウ関数などを駆使した高度なSQL
ただ、これらは学習コストが高いものの、SWEとしての基礎があれば十分にキャッチアップ可能 です。特にPythonやSQLはWebエンジニアでも使う機会が多いため、抵抗感は少ないと思います。
メンタルモデルの変化:不確実性への向き合い方
一番大きな変化は「不確実性への対処法」かもしれません。
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SWEの場合(ロジックによる対処)
外部APIやユーザー入力などの不確実性に対し、アーキテクチャや型システムを用いて「防御的」にコードを書きます。ゴールは 「ステートレスなロジックで問題を解決すること」 です。 -
DEの場合(コミュニケーションによる対処)
DEが向き合うのは、データの発生源(人)や、上流システムのサイレントな仕様変更、曖昧なビジネス定義です。これらに対しては、技術だけでなく 「泥臭いコミュニケーション」 で人に向き合う必要があります。ゴールは 「ステートフルなデータと組織に向き合い、品質を担保すること」 です。
まさにこのメンタルモデルの変化が、私自身がDEとしてやっていく上で苦しんだところでもあり、同時に面白さを感じる部分でもあります。ステートフルなものに向き合うことは、技術的にも面白いですが、人間的にも成長できる良い機会だと感じています。
まとめ:Your SWE skills are the key.
データエンジニアリングの世界は今、急速に「ソフトウェア化」しています。
コード品質、テスト、アーキテクチャ設計といったソフトウェアエンジニアとしてのバックグラウンドは、これからのデータ基盤構築において 最強の武器(Key) になります。
もし「データ」の領域に興味があるなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。データインフラをソフトウェアエンジニアリングの力で進化させ、世の中を良くしていきましょう。
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