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Snowflake Summit 2025 金融CDOセッション参加レポート

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はじめに

2025年のSnowflake Summitで開催された「Driving AI-Readiness with Trusted Data: Insights from Financial Services Leaders」は、金融サービス業界のCDOやデータリーダーが集い、AI導入の現場で直面する課題や、信頼できるデータ基盤の重要性について議論したセッションでした。

本記事では、パネリストの発言や会場での質疑応答をもとに、金融業界におけるAI活用のリアルと、今後のデータ戦略のヒントをまとめます。

パネリスト紹介

  • Barr Moses(Monte Carlo CEO & Co-founder)
  • Cara Dailey(T. Rowe Price Chief Data Officer)
  • Durgesh Das(Intercontinental Exchange / New York Stock Exchange VP, Data, Analytics & Governance)
  • Lee Davidson(Morningstar Former Chief Data and Analytics Officer)

セッション内容

AIセンターオブエクセレンス(AIC)の設立とROI重視

Cara Dailey氏は、T. Rowe Price(大手運用会社)でのAIセンターオブエクセレンス(AIC)設立について、「市場のコピーではなく、顧客の本質的な課題解決とROI(投資対効果)を第一原理で追求する」ことを強調しました。AICはハブ&スポーク型で、モデルやプラットフォーム、ベストプラクティスを全社に展開しています。
アイデアは厳格なプロセスを経て、ROIと顧客価値が明確なものだけが実装される仕組みです。
実際、2500種類の文書をAIで自動分類し、ローン審査期間を60〜90日から30日へ短縮するプロジェクトが進行中とのことです。

データ戦略は「ビジネス成果」から逆算

Cara Dailey氏は「データ戦略は『何のためにやるのか?』が重要」と語りました。就任後100日で、収益に直結するビジネス課題と機会にフォーカスしたデータ戦略を策定したそうです。
また、短期的なクイックウィン(ダッシュボード自動化、レポート簡略化、データクレンジング等)と、数ヶ月〜数年かけて実現する長期的な価値創出の両立がポイントであり、CFOへのROI説明責任も強く意識していると述べていました。

技術とビジネスの橋渡し

Lee Davidson氏は「金融サービス業界ではデータが成長戦略の中核」とし、AIは単なる自動化ツールではなく、組織の成長を推進する戦略的な武器であると強調しました。
また、技術チームとビジネスパートナーの間で価値を伝え、協力を得るためには、ビジネスコンテキストの理解とファシリテーターとしての役割が不可欠だと述べています。

インフラ戦略:ハイブリッドクラウドの現実解

Cara Dailey氏は、金融業界特有のセキュリティ要件やナノ秒レベルのパフォーマンス要求から、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用していると説明しました。
「AIを導入すること自体が目的ではなく、融資審査期間短縮など具体的なビジネスゴールを明確にすることが重要」とも語っています。

AI時代の人材像とチームの変化

AI時代には、技術力だけでなく「ビジネスを理解し、橋渡しできる人材」が求められるという議論がありました。
ビジネスアナリストの役割がより重要になり、CopilotなどのAIツールを活用した生産性向上も現場で進んでいるそうです。

ガバナンス・可観測性・セキュリティ

Lee Davidson氏は「スケーラブルな分析やモデルガバナンスの前に、データ管理・標準化・ガバナンスフレームワークの整備が不可欠」と指摘しました。
また、AIやデータの可観測性(Observability)も、金融業界の厳格な規制対応や信頼性担保のために重要なテーマであると述べています。
AI接続時のデータセキュリティ、特にLLMへのデータ送信には慎重な姿勢が共有されていました。

新技術導入・ベンダー選定・ROI評価

新技術導入やベンダー選定では「小さな成功から段階的に拡大」「コモディティは購入、独自性は自社構築」「法務も巻き込んだ厳格なプロセス」など、現場のリアルな工夫が語られていました。
ROI評価や、イノベーションを加速するためのベストプラクティス共有も重要なポイントとして挙げられていました。

若手・次世代へのメッセージ

AIの仕組みやLLM(大規模言語モデル)を深く学ぶこと、データとAIの取り組みをストーリーとして語る力、そして「データは知識であり責任を伴う」という意識が、次世代のデータ人材には求められていると語られていました。

まとめ・感想

本セッションを通じて、金融サービス業界におけるAI導入の複雑さと可能性、そして「ROI最適化」「ビジネス成果直結」「ガバナンスと可観測性」「人材の進化」といったキーワードの重要性が改めて浮き彫りになりました。
金融業界という規制産業だからこそ出るようなスケール感、求められるガバナンスの難易度、そしてAI導入の現場でのリアルな課題とその解決策が、このセッションでは非常に具体的に示されました。
また各金融業界のCDOからのメッセージとして、「まずはビジネスを最大化する」というのを主目的においてデータ・AIを活用することの重要さが改めて示されてました。ROIの話が繰り返されたのは印象的でデータに関わるメンバーはビジネスのことも理解しないといけないと強く実感しました。
全体通して、地に足のついた議論で、CDOの方々の話は非常に示唆に富み、今後のデータエンジニアリングやAI活用の指針となる内容でした。

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