[Snowflake Summit2025 参加記] 金融サービス業界におけるデータ・AI活用基盤に関するセッション参加レポート
はじめに
2025年のSnowflake Summitで開催されたセッション「The Financial Services Data, Apps and AI Guide」に参加しました。本セッションでは、金融業界を代表する企業のリーダーが登壇し、Snowflakeの最新機能やパートナー連携を通じて、セキュアかつ相互運用性の高いデータ・AI活用基盤が、実ビジネスにどう貢献しているか語られました。
スピーカー紹介
Snowflake、グローバル金融サービス責任者)
Rinesh Patel氏(Snowflakeにおける金融サービス部門の価値提案の策定と、顧客のエンタープライズデータおよびAI戦略のクラウドへの移行支援を担当。金融サービス業界で20年以上の経験を持つ。
Russell Investments、CTO)
CJ Jaskoll氏(Russell InvestmentsのCTOとして、AI、データ、モダナイゼーションに焦点を当てたグローバルな技術変革を主導。ムンバイのエンジニアリングハブを擁するスケーラブルな運用モデルを構築している。
FactSet、SVP、データソリューション担当)
Patrick Starling氏(FactSetのクラウド、GenAIデータプラットフォーム、パートナーシップ製品エコシステムを率いる。FactSetで19年の経験を持ち、戦略的カスタマーサクセス、ソリューションアーキテクチャ機能の確立に貢献。
Vanguard、エンタープライズデータアーキテクチャおよびエンジニアリング責任者)
Raman Tallamraju氏(Vanguardのエンタープライズデータアーキテクチャプラクティスを率いる。金融サービス業界で20年以上の経験を持ち、デジタルトランスフォーメーション、クラウド移行、データ分析などを専門とする。
BlackRock、マネージングディレクター)
Jeff Miller氏(BlackRockのマネージングディレクターとして、金融サービスにおけるデータ活用、特にAladdin Data CloudにおけるSnowflakeの役割やAI戦略について講演。
Envestnet、Envestnetデータソリューション責任者)
Jeremi Karnell氏(Envestnetのデータソリューショングループを率い、ウェルス企業、アドバイザー、RIA、アセットマネージャー向けのデータ駆動型ビジネスおよび意思決定インテリジェンスの開発に従事。
セッション概要
本セッションは、SnowflakeのRinesh Patel氏による金融サービスにおけるエコシステムの重要性に関する説明から始まりました。Snowflakeは、顧客がデータプロバイダー、ソリューション、大規模言語モデルとセキュアかつガバナンスの効いた形でデータを連携させることで、以下の4つの価値を実現する役割を担っていると強調されました。
- Connect(接続)
- Collaborate(協業)
- Commercialize(商業化)
- Accelerate(変革の加速)
各企業の取り組み
1. Russell Investmentsのデータ戦略とGenAIへの取り組み(CJ Jaskoll氏)
Russell Investmentsは、Snowflakeを基盤としてエンタープライズデータ戦略を推進しており、膨大なデータを活用して投資判断の高度化や新たな販売機会の創出に取り組んでいます。
GenAIの導入については、まず業務効率化といった現実的かつ実行可能な領域から着手する重要性を強調していました。
弊社ではエンタープライズ向けに生成AIを活用したアプリケーション開発の支援をしていることもあり、生成AIへの期待値を冷静に見極め、実現可能な範囲で導入するといった考え方に共感できました。
2. VanguardとFactSetの事例
Vanguardの取り組み(Raman Tallamraju氏)
VanguardのRaman Tallamraju氏は、データアクセスの進化と、Snowflakeマーケットプレイスを通じた効率的なデータ共有の重要性を強調しました。
- 従来の複雑なデータ取り込みプロセス(ETLなど)が簡素化
- ライブデータへのアクセスを通じてより迅速に価値を引き出すことが可能
- 投資分析や顧客体験向上のためにSnowflakeを活用
運用の中でデータ量や種類が増加し、データパイプラインの複雑化がデータ活用のボトルネックになるという課題に対して、Snowflakeが活用された良い例であると感じました。
FactSetの取り組み(Patrick Starling氏)
FactSetのPatrick Starling氏は、Snowflakeのようなプラットフォームの登場がデータ提供戦略に大きな影響を与えたとし、オープンで柔軟なデータ提供を目指していると語りました。
- Snowflakeマーケットプレイスへの早期参加
- 顧客が求める形でデータを容易に提供できるようになった点を評価
3. BlackRockのAladdin Data CloudとAI戦略(Jeff Miller氏)
BlackRockのJeff Miller氏は、金融業界における多様化の加速と規制強化が進む中で、データの信頼性と透明性が極めて重要であると述べました。
Snowflakeの役割
- Aladdin Data Cloudのデータ基盤として中心的な役割
- 顧客がAladdinの機能を拡張することを可能にする
AI戦略の特徴
BlackRockのAI戦略は、以下の要素を組み合わせることで、信頼性の高いインサイトを得ることを重視しています:
- データの文脈:データがどのような状況や条件下で生成されたかの背景情報
- データリネージ:データがどこから来て、どのような処理を経てきたかの履歴
- セマンティックな理解:データが持つ業務上の意味や関係性の理解
AI導入においては、説明可能性や解釈のしやすさが重要になるため、AIの出すインサイトをそのまま受け入れるのではなく、背景や意味を理解しながら活用するという考え方に共感できました。
4. EnvestnetのSnowflake Cortex活用と将来展望(Jeremi Karnell氏)
EnvestnetのJeremi Karnell氏は、同社のデータソリューショングループがデータ集約とインサイト提供に注力していることを説明しました。
Snowflake Cortexの活用
Snowflake CortexのLLMファンクションを活用することで、以下を実現:
- 意思決定における負担を軽減
- タイムリーで実用的な「next best action」に関するインサイトを提供
具体的な活用事例
- 管理対象外の資産や口座に対する潜在的な投資ニーズの発見
- 顧客ごとの税務状況に応じた最適な提案タイミングや内容の特定
- 解約リスクのある顧客を早期に察知し、継続利用につなげるための行動予測や働きかけのインサイト生成
将来展望
将来的には、自社が保有する大規模な実データをもとに合成データを生成し、機密性を保ちながらより汎用的なAIモデルの学習や業界全体への知見共有を支援する構想も視野に入れていると述べました。
まとめ・感想
金融サービス業界におけるデータ活用の進化
- 業界全体でデータ活用が高度化しており、Snowflakeエコシステムがその進展に重要な役割を果たしている
Snowflakeを共通基盤とするメリット
- データのサイロ化を解消
- パートナー企業や顧客との間で、シームレスかつ容易なデータ共有とコラボレーションを実現
AI技術活用における重要な要素
- 信頼できる高品質なデータ基盤の構築が不可欠
- データの意味を理解するセマンティックレイヤーの重要性が増している
本セッションでは、金融業界が直面する規制強化や市場の複雑化に対し、データ・アプリケーション・AIを組み合わせて価値を創出する取り組みが各社から紹介されました。
日本の金融機関にとっても、従来のレガシーシステムやサイロ化したデータ構造から脱却し、Snowflakeのようなクラウドネイティブな基盤を活用することで、競争力のあるサービスを構築するヒントが多く得られる内容だったと感じました。
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