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たった一人、AIを相棒に。チーム戦のAIコンテストを勝ち抜いた回顧録

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Phase0:はじまり

「チームで参加してください」――。

ビジネスコンテストの募集要項にあるこの一文に、頭を抱えた経験はありませんか? 私がそうでした。入社して間もない時期だったこともあり、まずは自分の力でどこまでできるか挑戦してみたいという思いが強くありました。

悩んだ末、私は決断しました。「よし、一人でやってみよう。AIを相棒にして」。

これは、私がAIチャットボットを戦略パートナー、ブレスト相手、そして資料作成アシスタントとして駆使して、チーム戦のビジネスコンテストにたった一人で挑み、決勝の舞台で賞を獲得するまでの、試行錯誤の全記録です。

Phase1:AIとの戦略会議「勝てるアイデアをくれ」

コンテストの準備期間は限られています。最初の関門は、無数のアイデアから「勝てる」テーマを見つけ出すこと。

まずは、社内のSlackに常駐しているAIアシスタントに、コンテストの概要、評価基準、テーマといった全ての情報をインプットしました。そして、私が散歩しながら考えた雑多なアイデアメモを渡し、こんなプロンプトを投げかけました。


アイデアのベースとなった雑なテキスト

【プロンプト例】
以下のアイデアについて、人智を超えた思考で分析し、コンテストでの勝率をそれぞれ数値で評価してください。



人智を超えた(?)分析結果

まるで優秀な戦略コンサルタントのように、AIは各アイデアの将来性や課題点を分析し、ランキング形式でスコアを提示してくれました。

ちょっと何言っているかわからない部分はありましたが、最終的に私が選んだのは、AIが2番目に高く評価したアイデア。1位のアイデアも魅力的でしたが、自分のなかで「どう実現するか」のイメージが最も湧いたのが2番目のアイデアだったからです。AIは選択肢を合理的に提示してくれますが、最後の決断を下すのは人間の直感と経験。 この最初の協業で、AIとの理想的な関係が見えた気がしました。

Phase2:アイデアを磨き上げるAIとの壁打ち

テーマが決まれば、次はその解像度を上げていく作業です。ここでもAIを使って作業をしました。

  1. ペルソナ設定と課題の深掘り
    特定の証券会社をペルソナとして設定し、「この会社が抱える業務課題を洗い出すワークショップをしよう」とAIに提案。AIとの対話を通じて、顧客が本当に困っているであろうポイントを具体化していきました。


擬似的ペインポイントワークショップの様子
※全てフィクションです。

  1. 思考のシャワーを浴びせる
    頭の中がごちゃごちゃしてきたら、iPhoneのボイスメモを起動。20分間、とにかく思いつくままにアイデアや思考を喋り続けました。そして、その音声データを文字起こしし、Geminiに投入。

【プロンプト例】
私が生成AIコンテストについて話した音声です。音声の内容から、プレゼン資料案をまとめてください。以下に生成AIコンテスト概要もインプットとして与えます。


スライド草案の一部

数十秒後、私のまとまりのなかった話が、驚くほど整理されたスライド構成案となって返ってきました。一人では何時間もかかったであろう作業が、一瞬で終わったのです。

Phase3:AIによるクリエイティブ制作

骨子ができたら、次はスライドのデザインです。ここで活用したのが、スライド作成AIの「Genspark」。テキストで指示を出すだけで、美しいデザインのスライドを自動で生成してくれるツールです。ちょうど登場したので、特に機微情報もなかったため利用してみました。

正直に言うと、AIが作ったデザインが100%完璧だったわけではありません。図がズレていたり、情報の配置がしっくりこなかったり。しかし、「たたき台」としては高品質でした。AIが作ったベースを元に、社内のスライドマスタを利用して、最後の仕上げとして私が手直しを加えることで、短時間で発表できるレベルのプレゼン資料を完成させることができました。


Genspark作成(左)実際のスライド(右)

コンテスト準備の息抜きには、プロダクトの公式キャラクターを画像生成AIで作って遊んだりもしました。これもまた、クリエイティブな発想を刺激する良い時間でした。


息抜きにAIで作成したプロダクト公式キャラ

余談:なぜ「今すぐできない」アイデアを選んだのか

ここまでプロダクトの概要を説明していませんでしたが、プロダクトのコンセプトは、以下のようなものでした。

Finatransformは、金融機関における複雑な業務プロセスと基幹システムの課題を解決する統合AIプラットフォームです。このソリューションは、レガシーシステムのUI改善、業務知識の継承、コンプライアンス強化を同時に実現し、金融機関のDX推進と業務効率化を加速させます。複数のAIエージェントが連携することで、システム刷新を待たずに即時的な業務改善効果を生み出します。


Finatransformのコンセプト

簡単にいうと、今のシステムはそのまま、モダンなUIを表示しつつ入力の正確性も保てれば、業務の負荷・ミスが減らせる、というコンセプトです。

実は、私が最終的に選んだこのアイデアは、現時点での実現可能性が少し低いものでした。ではなぜ、そのテーマで勝負したのか。

理由は、昨年度の優勝チームにありました。本開発の期間は約半年。つまり、コンテストで評価されるかは二の次として、私が挑戦したかったのは「今できること」だけでなく、「半年後、一年後に大きな価値を生む可能性」 でした。

私は、半年後には技術的ブレークスルーが起きて実現可能になっているであろう、少し未来のテーマを選びました。AIの発展速度を考えれば、これは決して無謀な賭けではない。この「半歩先の未来」への期待が、審査員の方に評価されて決勝まで行けた一因だったのかもしれません。

Phase4:結果と、これから

結果として、優勝こそ逃したものの、名だたるチームがひしめく中でAWS賞と(急設された)特別賞をいただくことができました。たった一人、AIという相棒と二人三脚で走り抜けたこの経験は、私に大きな学びを与えてくれました。

  • AIは思考を加速させるブースターであると実感。

  • 最終的な意思決定とクリエイティブの仕上げは人間の仕事。

このコンテストで描いたプロダクトの夢は、まだ始まったばかりです。まずは社内の業務効率化ツールとしてスモールスタートさせ、育てていきたいと思っています。

何よりも、Finatextグループには、多様なAIツールを使って挑戦に取り組める環境があること、そして、1人の挑戦でも応援してくださる方々がたくさんいたことに感謝です。ありがとうございました。

Finatext Tech Blog

Discussion

lichuan823lichuan823

素晴らしいシェアをありがとうございます!
私はAI学習を始めてちょうど1年の初心者ですが、著者様と似たフローを自分でも構築しており、今回の体系的な解説はとても参考になりました。

最近はイノベーションコンテストにも挑戦し始め、一歩一歩アイデアを実現できる実感が湧いてきてワクワクしています。

私の取り組み例としては、

  • アイデアが浮かんだらまずAIに研究大綱とプロセスを生成させ、
  • 途中で課題や新発想が出てきたら、その都度プロンプトを修正してブラッシュアップ、
  • 複数のAIに役割を設定し、「導入後の変化」や「本当にこれで良いか?」といったフィードバックを繰り返しています

まだまだ拙い取り組みですが、著者様のシステム化されたノウハウに大きく背中を押されました。
今後ともどうぞよろしくお願いします!