プロダクトと仲良く付き合うためのデータモデルのバージョン管理
この記事は、ナウキャストAdventCalendar2025の2日目の記事です。
はじめに
皆さんこんにちは!ナウキャストアナリティクスエンジニアの山本です。
突然ですが、皆さんdbtって好きですか?好きですよね?
ナウキャストでは、Snowflake×dbtを中心にデータ基盤が構築されており、各種プロダクトからデータが呼び出されています。
今回は、プロダクトから参照されるデータモデルに必要不可欠なデータモデルのバージョン管理の話を書いていきます。
30秒まとめ
-
Why(なぜやるか)
- プロダクトから参照されるデータモデルを、安心安全に開発したい。
-
What(なにをやるか)
- dbtのモデルバージョン管理を活用し、モデルの開発とプロダクトの開発を切り離す。
-
How(どうやるか)
- YAMLファイルでモデルのバージョンを管理する。
- モデルが破壊的に変更される場合、中身が大きく変わる場合は、モデルの別バージョンを作成する。
- 最新バージョンを参照するviewテーブルを使用することで、プロダクト側の変更なしにモデルをリリースできる。
データモデルとプロダクト
ナウキャストでは、複数のデータホルダーからデータを集め、各種クライアントへプロダクトとして提供しています。

特に、私が所属するREU(Real Estate Unit)では、不動産業界のクライアントへ向けたSaaSアプリケーションを提供しており、Snowflake上のデータを直接参照する仕組みになっています。
つまり、データモデルの品質や安定性がそのままクライアント体験に直結するのが特徴です。そのため、既存モデルをそのまま書き換えると、当然ながらプロダクト側は影響を受けてしまいます。
- データモデルは、最新の状況に合わせて継続的に改善したい。
- プロダクト側は、顧客への影響を考慮して慎重に開発したい。
この二つを両立するために役立つのがdbtのモデルバージョン管理です。
dbtのモデルバージョン管理
さて、ここからが本題です。dbtには、YAMLファイルでモデルのバージョンを管理できる便利な機能があります。jaffle_shopのサンプルデータで実際にやってみます。
サンプルモデル
例えば、顧客の属性情報を管理するテーブルdim_customersを想定して、モデルの加工ロジックとカラムを変更するとします。
変更箇所は、以下です。
- customer_nameを削除
- 年齢区分のカテゴリ名を変更
with src as (
select
customer_id,
customer_name,
floor(random() * 60) + 20 as age
from {{ ref('stg_customers') }}
)
select
customer_id,
- customer_name,
age,
case
- when age < 30 then 'Young Adult'
- when age between 30 and 50 then 'Adult'
- else 'Senior'
+ when age < 30 then 'young'
+ when age between 30 and 50 then 'middle'
+ else 'senior'
end as age_group
from src
プロダクト側でdim_customersを参照していた場合は、当然エラーが起こります。
(カラムも減っているし、年齢区分も変化している。)
この方法では、データモデルの更新とプロダクト側の修正を同時にリリースする以外、モデルを更新する方法がありません。
では、どうするか?
バージョン機能の使い方
ここで登場するのが、dbtによるモデルバージョン管理です。
まず、加工前のモデルをdim_customers_v1、加工後のモデルをdim_customers_v2として2つのSQLファイルを作成します。そして、models.ymlもバージョン仕様に書き換えます。
with src as (
select
customer_id,
customer_name,
floor(random() * 60) + 20 as age
from {{ ref('stg_customers') }}
)
select
customer_id,
customer_name,
age,
case
when age < 30 then 'Young Adult'
when age between 30 and 50 then 'Adult'
else 'Senior'
end as age_group
from src
with src as (
select
customer_id,
customer_name,
floor(random() * 60) + 20 as age
from {{ ref('stg_customers') }}
)
select
customer_id,
-- customer_name, -- 顧客名を削除
age,
-- 年齢区分がv1と異なる。
case
when age < 30 then 'young'
when age between 30 and 50 then 'middle'
else 'senior'
end as age_group
from src
models:
- name: dim_customers
versions:
- v: 1
- v: 2
latest_version: 2
すると、dbt内部では複数のモデルをSQL内で切り替えることができます。
-- versionを明示的に指定
select * from {{ ref('dim_customers', v=1) }} limit 10;
-- versionを明示しなければ、latestが参照される
select * from {{ ref('dim_customers') }} limit 10;
ですが、まだ足りません。
プロダクト側でテーブル名を明示している場合は、dim_customers_v2とする必要があり、モデルの更新には、結局プロダクト側の更新も必要となります。
そこで、常に最新バージョンを参照するviewテーブルを作成するマクロを使用します。
{% macro create_latest_version_view() %}
-- this hook will run only if the model is versioned, and only if it's the latest version
-- otherwise, it's a no-op
{% if model.get('version') and model.get('version') == model.get('latest_version') %}
{% set new_relation = this.incorporate(path={"identifier": model['name']}) %}
{% set existing_relation = load_relation(new_relation) %}
{# ここで、view でも table でもあれば一旦 drop する #}
{% if existing_relation %}
{{ drop_relation_if_exists(existing_relation) }}
{% endif %}
{% set create_view_sql -%}
create view {{ new_relation }} as
select * from {{ this }}
{%- endset %}
{% do log("Recreating view " ~ new_relation ~ " pointing to " ~ this, info = true) if execute %}
{{ return(create_view_sql) }}
{% else %}
-- no-op
select 1 as id
{% endif %}
{% endmacro %}
# 上記マクロがbuild時に動作するようにdbt_project設定を加える
models:
jaffle_shop:
+ post-hook:
+ - "{{ create_latest_version_view() }}"
staging:
+materialized: view
marts:
+materialized: table
実行してみるとこんな感じです。
dbt build -s dim_customers # これで、dim_customersの全バージョン(v1, v2)がビルドされる
>
00:45:56 4 of 8 START sql table model main.dim_customers_v1 ............................. [RUN]
00:45:56 5 of 8 START sql table model main.dim_customers_v2 ............................. [RUN]
# ここで、v2がdim_customersという名前のviewテーブルにマッピングされていることがわかる。
00:45:56 Recreating view "dev"."main"."dim_customers" pointing to "dev"."main"."dim_customers_v2"
00:45:56 5 of 8 OK created sql table model main.dim_customers_v2 ........................ [OK in 0.03s]
00:45:56 4 of 8 OK created sql table model main.dim_customers_v1 ........................ [OK in 0.03s]
実際にdim_customersという名前のviewテーブルは、v2を参照していることがわかります。



プロダクト側では、常にこのviewテーブルを参照するようにしておけば、コードを書き換えることなくデータモデルの開発とリリースを行うことができます。
ちなみに各バージョンごとにテストやカラムの設定を変えることも可能です。
models:
- name: dim_customers
columns:
- name: customer_id
- name: customer_name
data_tests:
- not_null
- name: age
- name: age_group
versions:
- v: 1
columns:
- name: age_group
data_tests:
- accepted_values:
values: ["Young Adult", "Adult", "Senior"]
- v: 2
columns:
- include: all
exclude: [customer_name] # excludeで反映しないカラムを設定
# v2用のテストを定義
- name: age_group
data_tests:
- accepted_values:
values: ["young", "middle", "senior"]
latest_version: 2
バージョン管理のメリットとデメリット
モデルバージョン管理のメリットは、破壊的な変更に強くなるということ以外にもいくつかあります。
- プロダクト側への反映タイミングと基盤側への反映タイミングを分けることができる。
- データの中身が大きく変わるとクライアントに不信感を与える可能性がある。
- データ基盤側には最新モデルを作成しておき、クライアントとの調整が終わった段階で、(プロダクト側を変更することなく)、バージョンを切り替えるなどデータ基盤側でタイミングを制御できる。
- モデルの差分調査がしやすい。
- 同じモデルを更新すると、更新前後で差分がわかりにくい。
- バージョンを分けておけば、v1とv2の2つのテーブル差分調査となるので、やりやすい。
- データソースの追加や廃止に柔軟に対応できる。
- 新たなデータ提供元が増える、逆に今まで使えていたデータが使えなくなるといったことがある。
- v1はデータ提供元Aのデータ、v2はデータ提供元Bのデータとして開発、v2が使えなくなってもv1に切り戻すこともできる。
逆にデメリットとしては、以下のようなものがあります。
- データが2倍、3倍になる。
- バージョンごとにモデルが増えるため、データ量が単純に増える。
- 適切に過去バージョンの削除ルールを決めておく必要がある。
- バージョンごとのメタデータ管理が大変
- 扱うデータが増えるということは、それだけデータ品質に関する管理コストも上がる。
- バージョンごとのYAMLファイルをうまく活用する必要がある。
まとめ
データ自体がクライアントへの提供価値と直結するため、「データasプロダクト」として開発していく必要があります。
今後の課題として、
- データの差分調査の簡易化
- 過去バージョンの廃止ルールの整備
- バージョン切り替えの運用ルールの策定
など、まだまだ課題は山積みですが、試行錯誤しつつデータ開発を楽しんでいきます!
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