🏛️

VS Code拡張マーケットプレイス問題を理解する:Cursor事例から見るオープンソースの課題

に公開

はじめに

最近、AI強化コードエディタ「Cursor」がVS Codeのフォーク(派生版)であるにもかかわらず、VS Code専用の拡張機能マーケットプレイスを利用していて規約違反の可能性があるという話を耳にしました。さらに、2025年4月頃からCursorユーザーがMicrosoft製拡張機能を使用できなくなるという問題が発生しています。この状況について事実関係を調査してみました。

この記事では、何が起きたのか、その背景、そして今後の展望について中立的な立場から整理します。VS Codeとその派生エディタを取り巻く状況は、オープンソースの境界線、ビジネス競争、そして技術エコシステムのあり方について多くの議論を巻き起こしています。

何が起きたのか?

2025年4月初旬、Cursorユーザーは突然Microsoft製のC/C++拡張機能が正常に動作しなくなったことに気づきました。具体的には:

  • バージョン1.17.62までは動作していたC/C++拡張機能が、バージョン1.18.21以降で機能しなくなった
  • 「Find all references」などの機能が使用できず、最終的には「The C/C++ extension may be used only with Microsoft Visual Studio, Visual Studio for Mac, Visual Studio Code, Azure DevOps, Team Foundation Server, and successor Microsoft products」というエラーメッセージが表示される
  • 同様の問題が他のMicrosoft製拡張機能(Remote Access、Pylance、C#など)でも報告された

興味深いことに、エラーメッセージは拡張機能のインストール時ではなく、使用時に表示されます。また、サードパーティ製の拡張機能には影響がないとされています。

技術的背景:どのように動いていたのか?

この問題を理解するには、VS CodeとCursorの関係、そして拡張機能マーケットプレイスの仕組みについて知る必要があります。

VS CodeとCursorの関係

  • VS Codeは「Code-OSS」というオープンソースプロジェクトをベースにしていますが、Microsoftの製品版には独自のカスタマイズが加えられています
  • CursorはCode-OSSをベースにした派生エディタで、特にAIコーディング支援機能を強化しています
  • Code-OSSはMITライセンスの下で公開されていますが、VS Code拡張機能マーケットプレイスは別の利用規約に従います

マーケットプレイスの仕組みと規約

Microsoftの利用規約では、VS Code拡張機能マーケットプレイスは以下の製品でのみ使用可能と明記されています:

  • Visual Studio
  • Visual Studio Code
  • GitHub Codespaces
  • Azure DevOps
  • Azure DevOps Server

一方で、CursorはVS Code拡張機能マーケットプレイスへのアクセスを提供していました。The Registerによると、Cursorはこれを実現するために「リバースプロキシを設定して、Microsoft Visual Studio Marketplaceへのネットワークリクエストを隠していた」とされています。

各社の対応と主張

Microsoftの立場

Microsoftは公式な声明を出していないものの、その行動は明確です:

  • 利用規約を技術的に強制し始めた
  • 特にC/C++拡張機能の最新バージョン(v1.24.5、2025年4月3日リリース)から制限を適用
  • 拡張機能の.vsixファイルのダウンロードリンクをマーケットプレイスから削除(これによりCursorユーザーが手動でインストールする方法も制限。なお、これは暫定的な措置とみられます)

これらの動きは、VS CodeのAgent Mode(AIコーディング支援機能)の安定版リリースと時期が重なっています。

Cursorの対応

Cursorの共同創業者兼CEOのMichael Truellは対応策を発表しています:

  • 一時的な修正を展開
  • 長期的には、Microsoftの閉鎖的な拡張機能からの移行を計画
  • コミュニティに既存のオープンソース代替品に投資し、次のバージョンにバンドルして円滑な移行を可能にする方針

開発者コミュニティの反応

この問題に対する開発者コミュニティの反応は大きく分かれています:

批判派の主な意見

  • 「Microsoftは市場を独占しようとしている」
  • 「オープンソースの精神に反する」
  • 「Agent Modeリリースのタイミングを考えると、競合排除が目的ではないか」
  • 一部の開発者は米国連邦取引委員会(FTC)に不公正な競争調査を求める手紙を送ったとの報告も(SNSでそのような動きがあった)

支持派の主な意見

  • 「利用規約は以前から明確だった」
  • 「オープンソースのコードとサービスは別問題」
  • 「Microsoftにはサービスを保護する権利がある」
  • 「Microsoftは多くのオープンソースプロジェクトに貢献している」

代替手段

現在、Cursorユーザーや他のVS Code派生エディタユーザーには、いくつかの選択肢があります:

  1. Open VSXマーケットプレイス:Eclipse財団が運営する代替マーケットプレイス。ただし、拡張機能の数はMicrosoft公式マーケットプレイスより少ない
  2. オープンソース代替品の使用:例えばC/C++拡張機能の代わりにclangd拡張機能を使用(ただしインストール数はMicrosoft製の約1/50)
  3. GitHub等から直接.vsixファイルをダウンロード:拡張機能がオープンソースの場合に可能
  4. Microsoft公式VS Codeの使用:最も確実だが、Cursorのような特化機能は利用できない

今後の展望

この状況は依然として進行中であり、今後の展開には以下のような可能性があります:

  1. 法的問題への発展:不公正競争に関する調査が進む可能性
  2. オープンソース代替品の進化:Microsoftに依存しない拡張機能エコシステムの成長
  3. 規約の改定:市場の反応によって、Microsoftが規約を見直す可能性
  4. 技術的対応の強化:CursorなどがMicrosoftの制限を回避する新たな方法を見つける可能性(合法的な範囲での技術的対応や、コミュニティ主導の新たな方法が模索されるかもしれません)

まとめ

VS CodeとCursor間の拡張機能マーケットプレイス問題は、単なる技術的な問題ではなく、オープンソースの精神とビジネスの境界線、競争と協力のバランス、そして開発者エコシステムのあり方に関わる複雑な問題です。

どちらの立場にも一理あり、この問題には単純な正解はないでしょう。しかし、この議論が継続することで、より健全で持続可能なオープンソースエコシステムの形成につながることを期待します。

開発者として重要なのは、このような状況を把握し、自分のワークフローに最適なツールと代替手段を理解しておくことです。テクノロジーの世界は常に変化しており、柔軟な対応が求められます。


この記事は2025年5月20日時点の情報に基づいています。状況は日々変化する可能性がありますので、最新情報をご確認ください。

参考リンク

  1. VS Code extension marketplace wars: Cursor users hit roadblocks - DevClass
  2. Compliance: How does Cursor use VSCode Marketplace extensions? - Cursorコミュニティフォーラム
  3. Microsoft subtracts C/C++ extension from VS Code forks - The Register
  4. Microsoft Visual Studio Marketplace Terms of Use - Microsoft公式規約(PDF)
  5. VS Code License - VS Codeライセンス情報

Discussion