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初めて金属削ってドはまりした話

2022/12/12に公開

この記事はキーボード #2 Advent Calendar 2022の12日目の記事です。昨日の記事は機嫌を損ねたシェフさんの「キーレイアウトのjsonをもとに図形を複製するdxf自動生成スクリプト」でした。KLE Jsonからの図形生成はいろんなところで活用できてとても便利ですね。

この記事は「初めて金属削ってドはまりした話」です。ダブルミーニングです。

EwdErnaという名前でいろいろしたいなと思っています。いまはキーボードつくったりゲームつくったり音楽つくったり。

半年ほど前に金属削り出しの自作キーボードをつくりました。その紹介を兼ねて、ハマったポイントとかうまくいかなかったところ、逆に魅力的なポイントを話そうかと思います。

自分のキーボード遍歴

  • corne Cherry
    corne Cherry
    自キに見た目で惚れて最初に買ったやつです。分割40パーセントの見た目の可愛さで一発でやられました。
    使ってみて、背が高いのやっぱ使いにくいのかな?と思ったのと、小指周りが使いずらいかも…という気がしてきた。
  • corne Chocolate
    corne Chocolate
    ひとまず薄型のに手を出してみよう、ということで。光るキーボードは気持ちいいですね。
    やはり小指周りのアクセスしづらさが気になり、自分の指に合わせて作ってみようかな?と思い立ちました。ここまで4か月。
  • Edge42 proto 1(自作)
    Edge42
    初めて使うKiCAD、初めて使うFusion360に戸惑いながらも、何とか完成させました。
    親指キーを立体的にしてみたり、めちゃくちゃ変則的な配列にしたり、今思えば冒険しすぎました。ただそれなりに使いやすかったです。現在再設計中。
  • overjoy proto(自作)
    overjoy
    なんとなく親指ジョイスティックやりたくなって作り始めました。しかしケース設計でてこずり、結局親指キーなしで30%キーボードとして運用しています。
    ただ、やはり30%は人類には早かったという結論に達しました。これもリメイクしないとな…
  • cool844 V2
    cool844
    初めての一体型です。Alice風の傾いた配列は手になじみやすく、多少忌避感のあったロウスタ気味の配列でも違和感なく使えました。
    バイト先で現役で使っています。ここから一体型の機運が高まり、次の試作に入ります。
  • POWERGRID62(自作)
    PG1
    PG2PG3
    初めての自設計一体型60%です。60%使ったことないのに危機感を覚えて作り始めました。
    シルク遊び、アジャスタブルな積層ケース構造、ドデカロータリーエンコーダーなどいろいろ遊んで楽しかったですが使いづらいので放置されてます。
  • Cr0wn65 proto(自作)
    Cr0wn65
    今日の話のメインです。まともな60%にしたい、ケース含めた一体型設計したい、あわよくばガスケットマウントにしたい。何も考えずに欲望を詰めた結果生まれたキーボードです。その結果は…
  • Cr0wn60 proto 1(自作)
    ネタバレですが、Cr0wn65にあった多数の不満点を解消するついでに、Seeed XIAO Mechanical Keyboard Contestに参加するため作成したキーボードです。
    詳細はhacksterに載せているのでそちらを見てください。

Cr0wn65 proto

アルミ削り出し65%一体型キーボードです。配列の話は端折ります。
製作開始時に考えていたことは、「角っこに別素材をチラ見せするとかっこいいんじゃない?(V4N4G0Nを見た影響)」「かっこいいガスケットマウント60%ケースにしたい(ミーハー)」「せっかくだから金属削り出しにしてしまおう」程度でした。
製作時使っていたノートPCでFusionが動かなかったため、当時そんなに触ったことのなかったFreeCADを利用しました。今はもう使い慣れましたが、拘束の計算が失敗しやすかったり種類がFusionと違ったり、ワークベンチの概念がよくわからなかったりで結構躓いた記憶があります。
デザイン面はDiscordでいろんな人に見てもらいつつ時間をかけて推敲し、不器用ながらも納得いく形に仕上げました。今見るとダサいですね。
cad

別素材のチラ見せエロリズム

絶対領域です。
kado
トップケースとボトムケースの間にプレートを挟み込み、トップケースの角を大きくえぐる形にすることで、横からも上からもプレートの色が見える構造にしてみました。このチラ見せのために、配列は強制的にHHKB風となりました。
えぐり込みの大きさでかなり迷って、このプロトではできるだけ大きくとろうとしていましたが、現在のCr0wn60では少し抑えめにしてあります。主張が強いのもよいことにはよいけど、チラリズムを標榜するにはあまりにもはしたないかなと。(???)

ガスケットマウントにする

Masroさん(@KS_JAPAN2021)に(設計変更で大量に余った)ポロンガスケットをお譲りいただき、ガスケットマウントにしてみました。ちょっとてこずったところとしては、間にミドルケースがあるために上下のクリアランスの計算がめんどくさくなったところでしょうか。あと金額の関係で見積もり後・発注直前にプレートの厚みが変わってしまったため、ガスケット用のくぼみの深さも変わってモデリングしなおし、見積もりを出しなおしました。工場の方にはほんとに迷惑かけました。申し訳ない…

金属削り出しにする

今回の話のメインです。金属削り出しケースひとつも持ってないんですが、なんか欲しくなって(?)せっかくだし削ろう!となった(???)のですがこれがすべての間違いでした。俺は間違ってない。(?????)
当然初めての削り出しですし、何なら参考にできるものも手元にないのでまずは無限に資料漁りです。3軸加工機で削るのが難しい形状があるとめちゃくちゃ高くなるらしい、という前情報だけ持っていたので、まずもって3軸と5軸の違いとか、なにをもって「削るのが難しい」なのか、ということを中心に調べていきます。

3軸加工vs5軸加工

3軸加工機は、(モノによって実現の方法は異なりますが)素材を工具に対して左右(x)・前後(y)・上下(z)の三つの軸で移動させることができる加工機です。
ミル
削り出し加工では主に"ミル"と呼ばれる工具を軸に対し垂直な面で動かして金属を削っていきますが、原理上工具の軸方向上側に素材があり下側に穴があるような形状は削ることができません。
削れない
素材をひっくり返したり向きを変えることで一部回避はできますが、固定や工具の位置決め(段取り、というらしい)をやり直さないといけないため、精度に難が出るか手間賃が発生するか、その両方が襲ってくる未来が待っています。
5軸加工機ではさきほどの3軸に加え、x軸・y軸での回転が可能になります。このことにより、素材の底面に対し傾いた軸で工具を進めることができるので、一回の位置決めで(垂直な下面は難しそうですが)ある程度自由に形状を削ることができます。また曲面形状も得意で、デザインにとても幅が出ます。
5軸
ただし、機械が複雑で高価になるため、3軸加工よりもお高めになる傾向があるようです。
お財布と相談し、3軸加工かつできるだけ少ない段取りで削り出せるように形状を選定していきます。

ドリルの気持ちになる

何度も言われました。ドリルの気持ちになって考えてみ?と。
例えばこんな形状があったとします。ドリルであるところのあなたは、この形状を削れと言われたときにどう思いますか?
どういく
例えば内側の角について、上から見るとドリルは図のように進んでいきます。どんなに細いドリルを使っても、角の部分には削り残しが出てしまいます。また、細いドリルを使うと一度に削れる素材は少なくなるため、結果的に時間がかかります。
のこる!
太いドリルで大まかに削ってから細いドリルを使う手もありますが、段取りが増えて加工賃がひどいことになりますし、細長いものは折れやすいので使うこと自体不安です(折れた工具の代金も上乗せされることとかあるらしいですし)。
このことから、このような内角では可能な限り半径の大きな円弧形状("内R"と言ったりします)であることが望ましいと言えます。

ドリルの気持ちになったけど…

この形状、最後まで悩みました。
斜めの内角
ミルは円柱形状なため、斜めの面に真上からおろすと壁との間にどうしても隙間ができます。しかし、ここにできる隙間は単純な円柱形状でなく、楕円のような形状になります。使っているソフトではそのような内Rを入れることができなかったため通常のRで出すことになりますが、ここについて文句を言われないか…と。
最終的には、Discord上で切削のプロ(語弊があります)から「まあ削れない形状ではない」旨教えていただき、そのまま発注することにしました。結果は後程。

発注する

トップケースとボトムケースはアルミニウム、ミドルプレートは真鍮、ここまで一切触れてませんでしたがスイッチプレートはステンレスというモリモリな構成で発注します。ステンレス及び真鍮は国内の金属カット専門業者である切断堂さんに発注しています。見積もりも発注後の制作もめちゃくちゃ早いうえに、厚さこれぐらいにしたほうが値段これだけ安くなるよ!みたいな具体的な見積もりも一緒に出してくれてほんとに助かりました。厚さ1mm変えたら半額になってびっくりして薄くしちゃった。(そしてアルミ削るほうの業者に迷惑をかける)

今回の発注では、オンライン上で自動見積もりを行ってくれるサービス3つで見積もりを取ってみました。発注した会社以外は具体的な値段を忘れてしまったのでふわっとしてますがご了承ください。

A社(中国) B社(中国) C社(日本)
トップケース $150 $750 $350
ボトムケース $450 $400 $600

B社、俺が何をした??ってぐらいトップケース高くて当時何度も形状調節してめちゃくちゃ再見積もり出した覚えがあります。自動見積もりでは何回やっても同じくらいでした。結局最後までよくわからなかったんですが、デカい穴を貫通させる形状がだめなんじゃないか見たいな話があり、じゃあ僕のやつどう頑張っても安くならないじゃん…ってあきらめました。
C社はまあ相応の値段かなぁと思いました。国内なので安心感ありますし。ただ、当時の僕はお金がなかったため(なぜ削ろうと思った)、結局は安さで選ぶことになります。
最終的に発注したA社ですが、最初はこちらの見積もりはキャンセルする予定でした。仕様をちゃんと読んでいなくて、加工可能最大値をそれなりに超えたデータを登録してしまっており、自動見積もりは通ったけど多分向こうからキャンセルされるだろう、と考えていました。ところがその後手動の見積もりも向こうから送られてきて、どういうこっちゃ?と確認したところ加工可能だ、ということで…安かったこともあり発注を決めました。まあ信用ならないな…とは思ったものの、こういうこともあるかもしれないのでやはり人の手を介した見積もりは重要なんだなと実感しました。

ワンオフ試作

当時の為替は1ドル120円ぐらいだったと思うので、だいたい7万円ぐらいの支払いになります。ケースだけで7万………??????
キーボードに限らず、多くのものは一つだけ注文するよりも同じものを何百個何万個と注文するほうが単価は安くなります。
主な理由としてあげられるのは、先ほどの「ドリルの気持ちになる」にも通じてきますが、同じ加工を繰り返すことで一つの段取り当たりの単価がどんどん下がっていくことです。同じプログラムで同じ加工を繰り返すため、プログラムのセットの必要がなかったり、大きな素材からいくつも加工品を取り出すことができたり…など、一度に同じことができるというのは大事なことです。塗装なども、たった一つの加工品のためだけに余裕をもって薬剤を用意するのはコストがかかります。
また、工場側のリスクの問題もあります。一万個の製品をつくるにあたり1個不良が出ても全体から見れば大したダメージにはなりません(し、コスト上の理由からもともと数%の余裕をもって生産することも可能になります)が、一つの製品で一つの不良が出たら納品するものがなくなります。さらにその試作のために工場を回している間、よりお金になる大きな注文のために機械を動かすことはできません(試作が後回しにされたりすることも)。
工場としては基本的には試作の後には本発注があると考えて安い見積もりを出すことが多いため、そのつもりがない場合は見積もりの段階ではっきりと伝えておく必要があります。今回はメールでのやり取りにて、今後大きな発注をすることのないワンオフの制作であることを伝えて見積もりを出してもらっています。

モノが届く

発注してからというものの楽しみすぎて&ちょっと不安で、毎日制作状況を(発注ページで更新されるので)確認したり夜も眠れない日々が続いていました。そして約3週間後、ついに完成のメール。さらに一週間後に家に届きました。段ボールを受け取った時の重さでテンションが最高潮。
実物はというと、想定していたより少し明るい赤できれいに塗装され、外側に傷もなくねじ切りなど必要な加工も精度よく加工してくれていました。内側には多少傷があったり、モデリングの際に気にしていた斜めの面の内角もなんというか不思議な造形にはなっていましたが、ここは見えない部分なので問題なし。重くて高かったため輸入消費税はかかりましたが自動で引き落としも処理され、その他の追加料金などはなかったので、一安心です。
全体

完装した感想

重くて…良い……
別素材を見せる構造もアルミ削り出し+真鍮プレートによる重量感もいい感じ。ここは意図通りにうまくいったため、とてもよい成功体験になりました。
一方で初めてのガスケットマウントは比較対象がないため正しい評価ができているか不安ですが、多分ステンレスプレートが重すぎて初めから潰れすぎてしまっており、あまり柔らかい打鍵感を生み出せていないように感じました(反省点1)。
さらに見た目重視で左右対称を目指した物理配列ですが、あの、余計な場所に余計なキーがありすぎてほんとに使いづらい……ダメ……二度とこんな配列使わないわ…(反省点2)
ケース本体がめちゃくちゃよく仕上がっただけに他の場所のポカがとても気になってしまい、残念な結果に終わっています。削り出しだけで7万使ったのに全然使ってない(反省点3)。本当にバカ……

今後の展望

反省点を生かして新たにCr0wn60というキーボードを製作中です。反省点を生かせるよう、現在試作を重ねています。
Discordである方に言われました。「プロトなのにケースまで作る必要なくないですか?」ワイ「……たしかに!!!!(完全に麻痺してる)」
削り出す必要はないということに気づけたので、3Dプリントでケースを出しています。後方のディテールをつくりこんだり、ついでにガスケットじゃなくてO-ringマウントに変えました。なぜ…?
Cr0wn60
これもまだまだ改善点あるので、またお金たまったら3Dプリントします。ある程度煮詰まったら今度こそ削る。もし興味ある人が多かったら小規模GBとかもしてみたいね。
僕個人のサーバーではありませんが、こちらのサーバーで制作の進捗をあげていますあげていました。最近動きがありません。

書きたいことを書きなぐっただけの記事になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日の記事はぎーくらびっとさんの「チモシーができるまで」です。キー部 2%で触ってみましたが、親指キーのアクセスしやすさや専用パームレストなど使いやすそうな要素満載でした。楽しみです。
この記事はCr0wn60 proto 1, Alpaca Switchで書きました。

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