プルリクエストを通じたGitHubでの翻訳と開発のサイクル - Fork and pull model
はじめに
ChangeLog
- 2023-08-27
- Shared repository modelの説明を追加
- mermaid図などを整備
- 2023-08-16
- "Fork and pull model" についての記述を追加
- mermaid ダイアグラムの修正と追加
- 内容のリライト
- GitHub で完結するモデルについての記述を追加
- GitHub flow についての記述を追加
Obsidian というソフトウェアの UI とヘルプドキュメントの翻訳と保守を有志で行っています。翻訳作業を通してプルリクエストのやり方を学び、良い機会だと思ったので git と GitHub の使い方からプルリクエストによって共同で翻訳作業をしていく方法を紹介していこうと思います。
翻訳から始めるOSS
初学者の観点から git の概念やつまずいたところやコマンドの使い方、プルリクエストまでの流れなどをまとめています。次のような記事もあるので、翻訳作業を通して git の使い方をマスターするのは結構おすすめだと思います。
次のような OSS(オープンソースコミュニティ) へのプルリクエストに関する記事なども参考になりますが、翻訳での継続的なプルリクエスト (2 回目、3 回目~) についての全体の流れがわかる記事はあまり見たことがありませんでしたので主にその点について書いてみました。
ドキュメントの翻訳作業をしてみたいが、やり方がよく分からないという方、Git 初心者に役立てばよいなと思います。
また、UI ではなくヘルプドキュメントの翻訳作業を念頭において書いています。というのもヘルプドキュメントは大量のファイルを扱うので、GitHub 上ではなくローカル環境でしっかりと作業する必要があります。ローカルでの翻訳作業からプルリクエスト作成を通して Git や GitHub の基本的な使い方がマスターできます。翻訳作業そのものに関しては素人なので注意してください。
実際に翻訳されたヘルプドキュメントが Obsidian の公式サイトで公開されています。
上のドキュメントで表現の向上 (こうしたほうがよい) や誤訳、タイポなどを見つけた場合には公式リポジトリや Fork したリポジトリでもいいので issue かプルリクエストを作成してください。
最低限必要な知識や事前に必要なもの
作業を始めるのに次の最低限必要な知識やアプリケーションなどは準備するようにしてください。
- CLI の使い方の基本
- git のインストール
- GitHub のアカウント作成
- VScode などのテキストエディタ
主なソース
-
エンジニアのためのGitの教科書
- 薄くてわかりやすいのでおすすめです。わからなくなったら読むといいです。
-
GitHub で Fork してから Pull Request をするまでの流れ
- 最初のプルリクエストの流れが分かりやい記事ですが、2 回目以降については言及がなかったので補足します。また
rebase
やpush -f
など初心者が使わない方がよいです。
- 最初のプルリクエストの流れが分かりやい記事ですが、2 回目以降については言及がなかったので補足します。また
-
初めてのPull Request(プルリクエスト)
- OSS でのプルリクエストについての記事で、図はないですが細かく、分かりやすいです。
基本的概念
git と GitHub
まずは git と GitHub の違いを把握しておきましょう。
そもそも git とは分散バージョン管理のソフトウェアであり、これを使うことでソフトウェア開発のバージョン管理を行えます。git を使うことで一人でもバージョン管理を行いながらソフトウェア開発ができますが、インターネット上で複数人で共同開発を行うためには git で管理しているデータをホスティングして、そこからデータを引っ張ってきたり(fetch)、逆にアップロード(push)する必要があります。
GitHub は git を使って共同で開発を行うことができるコラボレーションプラットフォームのサービスです。git でバージョン管理されたソフトウェアのソースコードが GitHub というプラットフォーム上にホスティングされ、このプラットフォームからソースコードをダウンロードしたりアップロードすることで共同で開発を行います。
GitHub はただのホスティングサービスなので、実際には他のサービスでも同じようなことをが行なえます。代表的な別サービスとしては GitLab などがあげられます。
git push
や git fetch
などの git のコマンド操作はホスティングサービス上にあるリモートのリポジトリ(ソースコード)に対してネットワーク越しにデータのアップロードやダウンロードをするための操作です。このコマンド操作を通じてインターネットで共同開発ができる、というわけです。
リポジトリとプルリクエスト
git ではバージョン管理のために「リポジトリ」というものを作成します。リポジトリとは大雑把に捉えるなら git で管理しているプロジェクトのフォルダです。git がインストール済みなら git init
というコマンドをコマンドラインから実行することで現在のフォルダをリポジトリとして初期化することができます。
# 現在のフォルダをリポジトリとして初期化する
git init
git で初期化されたフォルダのことを一般にはリポジトリとして呼びます。
git ではデータを小さなファイルシステムとソースコードのスナップショット(ある時点での完全な状態)の集合として考えます。git を使うとそのリポジトリ内部 (フォルダ) でさまざまな変更を行い特定の時点の状態そのものスナップショットとして保存管理できます。このスナップショットをコミットと呼びます。
git init
で git 初期化したフォルダをリポジトリとして呼びましたが、インターネットごしに共同開発するには開発者たちはソースコードを共有している必要があります。GitHub ではこのリポジトリをホスティングしており、開発者たちはホスティングされたリポジトリを自分のローカル環境に複製(clone)することで同じリポジトリで作業を行うことができます。つまり、リポジトリとは自分のパソコン上だけでなく、サーバーにもあったり、他の開発者のパソコン上にもあるという状態が一般的になります。
分散バージョン管理システムである git では、このようにリポジトリがいたるところに存在しており、リポジトリへの変更をホスティングサービスを通じて相互に反映しあうことでソースコードの更新を行っていきます。
このとき、GitHub のプラットフォーム上でソースコードの更新のやり取りを分かりやすく行うための仕組みがプルリクエスト(Pull request)です。
プルリクエストは git の機能ではなく、GitHub のサービスの機能であることに注意してください。プルリクエストは自身のローカルにあるリポジトリ内にて行った変更を、GitHub 上 (ウェブ上) にあるリポジトリに対してプルリクエストを作成することでその変更を統合 (merge
) するように申請する仕組みです。
このようにプルリクエストを通じて開発を行うのが GitHub での一般的な共同開発の方法です。OSS でのソフトウェアの翻訳作業は開発作業と同じく、プルリクエストを通じて行われるケースがよくあり、今回の記事はその方法を通じて GitHub での共同開発を学ぶというのが目的です。
GitHub flow
GitHub で開発や翻訳を行う際のワークフローではいわゆる GitHub flow と呼ばれるフローが利用されます。
GitHub flow は簡単に言えば GitHub 上でプルリクエストを使った共同開発のワークフローです。オープンソースでの開発や翻訳はこのワークフローを基本としますが、現実的にはこのワークフローをどのようなリポジトリのモデルを行うかが問題になります。
より詳細なワークフローは次に紹介する共同開発モデルを使っていきます。
Fork and pull model
GitHub 上での共同開発モデル(collaborative development model)は以下の2種類があります。
- Fork and pull model (フォーク&プルモデル)
- Shared repository model (共有リポジトリモデル)
これらのモデルは共同開発においてリポジトリをどのように扱うかを問題にした分類です。パブリックリポジトリでのオープンソースのプロジェクトでは「Fork and pull model」という複数のリポジトリとプルリクエストを使用して開発や翻訳を行うモデルがよく使用されます。逆にプライベートリポジトリでのクローズドソースのプロジェクトでは「Shared repository model」がよく使用されます。
これらのモデルについては GitHub 公式ドキュメントの以下のページで概要が解説されていますが、図なども存在せず、解説自体もかなり分かりづらく分散的になっています。
俯瞰的に理解するためには、サードパーティで書かれた記事で情報を補うことになります。このモデルについては以下の記事などで比較的に分かりやすい図や説明が記載されているので、この記事の説明を補う形で参考にしてみるとよいと思います。
- Github で Fork してから Pull Request をするまでの流れ
- The Git Fork-Branch-Pull Workflow
- Fork-Based Contribution Model
- Using Gitflow with the GitHub Fork & Pull Model
クローズドソース(プライベートリポジトリ)のプロジェクトで使われる Shared repository model は Fork and pull model に比べて非常にシンプルで簡単です。以下のように GitHub 上に一つのリポジトリを作成して、そこにすべての開発者がコミットを作成してこのリポジトリ内部で作業ブランチから main や master などのデフォルトブランチにプルリクエストを作成します。
プルリクエストが承認されるとマージでき、デフォルトブランチに変更が反映されるようになります。
この方法はプライベートリポジトリでなら有効ですが、パブリックリポジトリでは、誰でも push できてしまうような状況になるので、オープンソースのプロジェクトではオリジナルのリポジトリに対しての書き込み権を制限して、限られた人しかそのリポジトリへ push できないようにするのが普通です。
Fork and pull model では、このように書き込み権を制限したオリジナルのリポジトリを GitHub 上にまずは作成します。もちろん書き込み権が制限されているので、このままではオープンなコントリビューションができません。ただし、GitHub では fork というリポジトリの複製を行うための機能が提供されており、この機能を使うことで書き込み権が制限されたオリジナルのリポジトリを自分のアカウント上に複製でき、この複製されたリポジトリには自由に編集を行うことができます。
そして、pull request (変更のマージリクエスト) という機能は、一つのリポジトリ内だけでなく、別のリポジトリから作成することが可能になっています。つまり、自身が自由に編集できる複製されたリポジトリでの変更をオリジナルのリポジトリにプルリクエストの形で反映してもらえうように依頼していく開発方法がこのモデルのやり方となります。このモデルを使えば、安全に他者のリポジトリにコントリビュートできます。なお、git のドキュメントではこのモデル(ワーカーフロー)は Integration-Manager Workflow と呼ばれています。
Fork and pull model を使った詳細なワークフローの解説に入る前に、GitHub 上でのみ完結する簡易的なバージョンについても図示しておきます。実は簡単なパッチ修正などは GitHub や github.dev だけで済ませることが可能です。この際のワークフローではローカルリポジトリを介さない以下のようなモデルとなります。筆者は MDN の翻訳なども最近行っていますが、日本語などの間違いなどを見つけた場合には実際に以下のワークフローで修正して PR を作成します。
継続的な翻訳や開発などでじっくり作業したかったり、npm script などで linter や formatter を走らせたい場合にはローカル環境にリポジトリを clone して作業を行います。
この際のワークフローでは、上記のモデルに対して更にローカル作業のフローを追加します。ブランチまで含めて図にすると以下のような感じでかなり複雑です。簡単なパッチ修正を除いて、オープンソースの開発や翻訳についてローカルでガッツリ作業を行う際にはこのモデルを使った以下のようなフローをまず習得する必要があります。
図に出てくる fork
や clone
などの操作はリポジトリレベルでの操作ですが、push
や pull
などの操作はブランチレベルの操作であることに気をつけてください。
なおこのワークフローについて、2021 年頃に追加された GitHub 上での Fork リポジトリの同期機能(Sync fork)を使うとかなり分かりやすいサイクルになります。
このモデルが利用されているプロジェクトで代表的なのは MDN のドキュメントやその翻訳プロジェクトなどです。
このモデルでのやり方を覚えれば上記のような翻訳やオープンソースの開発プロジェクトなどに参加できるようになりますのでぜひとも覚えておくことを推奨します。
必要な3つのリポジトリ
Fork and pull model において、プルリクエストを作成してマージ (変更の統合) を行うまでの流れには、合計3つのリポジトリを使用します。この3つというのがなぜ必要なのかが最初分かりづらかったので注意してください。
必要なリポジトリとして、1 つ目は公式のリポジトリ (オリジナルのリポジトリ) で、これを upstream (上流) という名前で便宜的に識別します。2 つ目は GitHub の自分のアカウント上に upstream の複製リポジトリを作成します。この行為を fork すると呼びます。この fork によって作成されたリポジトリを origin として識別します。origin や upstream はリポジトリの名前として考えてください。この origin と upstream はユーザーにとってはオンライン上に存在するので「リモートリポジトリ」と呼びます。
3 つ目は、自分の PC 上での作業のために origin リポジトリから更にローカル環境に複製リポジトリを作成 (clone) します。clone による複製と fork による複製の違いに注意してください。基本的には、この複製されたリポジトリで編集作業を行っていきます。ローカル環境上にあるリポジトリなので先程のリモートリポジトリに対して「ローカルリポジトリ」と呼びます。このリポジトリを origin や upstream と同様に local という名前で識別します。
これらの3つのリポジトリを使って以下の図のワークフローに従い、プルリクエストを通じて非同期的な共同編集を行います。
なお、upstream は自分が管理するリポジトリではなく、他者が管理するオリジナルのリポジトリです。origin は upstream から複製された自分が管理するリポジトリなので自由に編集できます。しかし、実際に触るのは origin ではなく「ローカル上のリポジトリである local」です。このあたりが紛らわしいのですが、オンライン上で作業するよりもローカルで作業するほうが軽く、常にネット接続している必要もありません。ゆえにリポジトリ local で編集作業を行い、その変更をもとのリポジトリ upstream に統合することによって共同で翻訳作業を行っていくわけです。ですが local からいきなり upstream に対して変更を申請することはできません。local から自分の管理するリモートリポジトリ origin に一度変更を反映させる必要があります。その後、origin から upstream に対して変更の統合を申請するというのがプルリクエストの流れになります。
このように、リポジトリの複製の流れや内容変更の反映の流れが複雑になるのでつまづきポイントが結構あります。
表にしてまとめると以下のような3つのリポジトリを使用します。
リポジトリの識別名 | リポジトリの内容 | 備考 |
---|---|---|
upstream | オリジナルのリモートリポジトリ | 他人が管理 |
origin | fork して複製した自分のアカウントにあるリモートリポジトリ | 自分が管理 |
local | 自分のローカルマシンに clone したローカルリポジトリ | 自分が管理、ここで編集を行う |
ブランチについて
利用するリポジトリが3つあるわけですが、更にブランチ(branch)という概念が追加されます。
リポジトリでは特定の時点の情報の状態(スナップショット)をコミットとして保存しています。このコミットからさらに変更を加えて意味ある形で再びコミットを作成していくと、コミットが時系列によって連結されたブランチ (枝) ができあがります。枝のある点から全く別の点を派生させることで枝を分岐させることができます。各種のブランチでの変更をデフォルトブランチである main
や master
などにマージ(統合)してくことでソースコードを成長させていきます。
イメージでまとめると、箱 (リポジトリ) の中に点 (コミット) が時系列に連結した枝 (ブランチ) が存在しているような感じです。分岐して存在する複数の枝の先端の点は枝そのものの名前として扱われます。master ブランチやそこから派生させてつくった作業ブランチなどです。イメージで言うと、プルリクエストというのはリポジトリ upstream の主要な枝 (master ブランチ) の先頭に自分が編集した変更情報を点として (コミットとして) 連結する操作です。
ブランチは各リポジトリごとに存在します。つまり、upstream の master ブランチ、origin の master ブランチ、local の master ブランチというような感じで重複した名前のブランチが存在しますが、それぞれは別のものなので注意してください。
結局のところ、翻訳作業で実際に触るのはリポジトリ local ですが、local の master ブランチは基本的には触りません、master ブランチから派生させた作業ブランチ(自分で名前をつける) 上で編集します。
結局、言葉で説明しても限界があるので検索して図などで理解するのがよいと思います。また実際に Git を使ってブランチ操作をやってみるとわかってくると思います。
参考: マンガでわかるGit 12話「本家リポジトリに追従する方法」
(1) 最初のプルリクエストまでの流れ
では、実際にプルリクエスト作成までの流れを説明していきます。最初に流れを時系列順に並べます。その後に具体的な操作について説明していきます。※ブラウザ上での操作とターミナル上での操作があることに気をつけてください。
- GitHub のアカウントプライバシーを設定し、Git で日本語ファイルが文字化けをしないように設定する
- 公式リポジトリから自分のアカウントのリポジトリに fork する
- ローカル環境に fork したリポジトリを clone する
- コーディングスタイルを確認
- 作業ブランチを作成してチェックアウト
- 作業ブランチにて翻訳開始
- ある程度の作業まとまりで add/commit する
- origin に push する
- GitHub にてプルリクエストを作成し、承認を待つ
- プルリクエストに修正があれば修正後 origin に再び push する
実際のやり方
上の 0〜9 までの流れを説明していきます。
共同で編集するということで、まず GitHub のアカウントプライバシーの設定を行います。デフォルトの状態だと PC のユーザー名と GitHub で登録してアカウントが commit log に表示されてしまいます。このままプルリクエストを出して承認されてしまうと面倒です (表示されてもよいという方はやらなくて結構です)。
参考: GitHubにホストされているGitからの個人情報流出を防ぐために
次に Git で日本語ファイルの文字化けを回避するためにコマンドを打ちます。
git config --global core.quotepath false
それでは最低限準備したので、本格的に作業を開始します。まず upstream を fork して origin を作成します。GitHub のリポジトリページから右上の fork ボタンをクリックすると自分のアカウントにリポジトリが複製されます。
ここまで GitHub でできたら、ターミナルを開き、作業ディレクトリを作成しフォークした自分のアカウントにあるリポジトリをクローンします。
git clone リポジトリのURL
git clone https://github.com/yo-goto/obsidian-docs.git
# ローカルにリポジトリをclone
git branch translation
# 作業ブランチtranslationの作成
git checkout translation
# 作業ブランチにチェックアウトする
git branch -a
# ブランチの確認
作業ブランチにチェックアウトしたら Obsidian や VSCode でリポジトリを開き実際に翻訳作業を開始します。編集するフォルダは日本語用のフォルダのみとして他の言語フォルダを編集しないよう注意してください。
翻訳作業が一通り終わったら git add
でステージングして、git commit
して保存します。日本語のフォルダのみ変更を加えるため add するのは日本語フォルダ (Obsidian の場合だと ja
) 以下となります。つまりフォルダごとに add する場合には git add ja/FolderName
と打つようになります。git add -A
などのコマンドを利用してしまうと他の言語フォルダを間違って編集してしまった場合にそれらの間違った変更も追加してしまうことになるので git add -A
などは使わずにフォルダ単位、ファイル単位で add を行うように気をつけてください。
git add ja/folderName_1
git add ja/folderName_2
# ファイルごと、フォルダごとにaddする
git committ -m "ja: update"
# コミットメッセージを添えてコミット
git push origin translation
# originの作業ブランチtranslationにpush
origin(リモートリポジトリ) の作業ブランチに push したら GitHub にてプルリクエストを作成し送信します。master ブランチではなく作業ブランチ translation からプルリクエストを作成する点に注意してください。「Compare & pull request」ボタンを押して、内容に関するコメントを適度に書き承認を待ちます。
master ではなく push した作業ブランチになっていることを確認してください。作業ブランチになっていれば「Compare & pull request」ボタンをクリックしてください。更新内容について簡単に説明コメントを記載して「Create pull request」ボタンを作成すればプルリクエストの作成完了となります。
プルリクエストが承認されるまでは次のようなページが表示され「open」状態になります。リポジトリの管理者や他のコントリビューターからプルリクエストについてのコメントがあれば下に表示されます。
あとは承認される (マージされる) のを待ちつつ作業するか、作業を中断します。
git push
した後、時間がたってしまうと「Compare & pull request」が非表示になる場合があります。これであわててしまうことがあるので注意してください。非表示になっている場合には「Pull requests」のセクションに進み、右側にある「New pull request」ボタンをクリックしてください。
フォークを利用したプルリクエストを作成する場合にはデフォルトの状態ではできないので、「compaer across forks」のリンクをクリックして、比較するブランチを upstream ではなく origin の作業ブランチにします。
ここまでやって「Create pull request」ボタンをクリックすることでプルリクエストが作成できるようになります。
プルリクエスト作成後に内容を修正する場合には、そのままの状態でローカルで修正を加えた後で同様に add/commit して origin の作業ブランチ translation に再び push します
git add ja/修正を加えたフォルダやファイル名
git commit -m "コミットメッセージ"
git push origin translation
# originの作業ブランチに再度pushする
これによってプルリクエストの内容が自動修正されます。
プルリクエストが承認されたら (マージされたら)、公式のオリジナルのリポジトリ (upstream) の master ブランチが自分の作成したプルリクエストの内容がマージされた状態となります。
基本的にはこの流れで作業終了となりますが、ヘルプドキュメントでは更新は定期的にあるため、時間が経過したら再び翻訳内容が追加され、再び翻訳作業をしプルリクエストを作成することになります。2 回目以降はいままで流れと若干異なり、ローカルのブランチを更新する作業がでてくるので注意してください。
(2) 2 回目以降のプルリクエストの流れ
-
upstream
の追加と確認 - ローカルの
master
ブランチをupstream
の最新に追いつかせる -
origin
のmaster
にpush
- 以下のいずれかを行う
a.master
の最新内容を前の作業ブランチにmerge
して反映してからチェックアウト
b. 要らない作業ブランチを削除し作業ブランチを作り直しチェックアウト - 更新された内容との差分を確認しながら翻訳再開する
- add/commit した後に
origin
にpush
する - GitHub にてプルリクエストを作成し、承認を待つ
- プルリクエストに修正があれば修正後
origin
に再びpush
する
実際のやり方
上の 9〜16 までの流れを説明していきます。
翻訳作業再開するまで
作業を再開するために、ローカルリポジトリ (local) の master
ブランチの内容を fork 元のオリジナルのリモートリポジトリ (upstream) の master
ブランチの状態に追いつかせる必要があります。
まず remote の設定を確認し、upstream
として追加します。次のコマンドで upstream
という名前でオリジナルのリモートリポジトリを追加します。なお、この作業は 3 回目以降のプルリクエストからは必要ありません。
git remote -v
# fork元の公式オリジナルのリモートリポジトリがremoteのupstreamとして設定しているか確認する。
git remote add upstream fork元のURL
# upstreamとして設定する
git remote add upstream https://github.com/obsidianmd/obsidian-docs.git
upstream
から最新を fetch
して local の master
ブランチにマージしてあげます。local の master
ブランチが最新になったら自分のリモートブランチ (origin) の master
に push
して反映させます。上で提示した 9〜16 までの流れの 12(a) になります。
git checkout master
# masterブランチにチェックアウトする
git fetch upstream master
# upstreamから更新情報をとりよせる
# 更新情報は upstream/master に
git merge --ff-only upstream/master
# ファストフォワードマージを行い、リポジトリlocalのmasterブランチを最新にする
git push origin master
# 自分のリモートリポジトリ(origin)のmasterブランチにその最新内容を反映させる
git merge
コマンドでは、オプション --ff-only
をつけることでファストフォワードマージ(fast-forward merge)でマージを実行します。ファストフードマージできない場合にはエラーとなります。
fetch と merge が行うこと
作業の流れからは離れますが、git fetch
と git merge
で行っていることを理解しておくことは非常に重要なので、ここで何を行っているかを解説しておきます。
ブランチには種類があり、一般的に作業を行うローカルブランチを main
としてみると、main
に対して上流であるリモート追跡ブランチ(remote-tracking branch) の origin/main
というブランチと、さらにリモートリポジトリ上にあるリモートブランチ origin main
という3つのブランチがあることになります。※ なお origin main
というのはコマンド上での引数としての指定の仕方で通常はリモートの main
などと識別するのが普通でしょう。
ブランチ名 | 説明 |
---|---|
main |
ローカルブランチ。 |
origin/main |
ローカルブランチ。origin main を追跡する、リモート追跡ブランチ(remote-tracking branch) である。 |
origin main |
リモートブランチ。リモートリポジトリ origin の実際の main ブランチ。 |
ブランチは以下のように上流の関係があります。
リモート追跡ブランチとは、リモートリポジトリにあるブランチへのブックマークのようなものであり、fetch
+ merge
(あるいは pull
) という操作を行うためのバッファとなるようなブランチです。
git fetch
を行う際には実際にはリモートリポジトリからの変更をまずリモート追跡ブランチに反映しており、git merge
を行う際には、リモート追跡ブランチから変更を作業を行うためのローカルブランチ main
に反映していることになるわけです。
git checkout main
git fetch origin main # origin main の変更を origin/main に反映
git merge origin/main # origin/main の変更を main に反映
なお、git pull
というコマンドはこの作業を一気に行うコマンドであり、このコマンドを使う場合にはリモート追跡ブランチを意識する必要なく以下のように描いて実行できます。
git chekcout main
git pull origin main
# origin main の変更を origin/main に反映してからその変更を main に反映
なお、fetch, merge, pull の関係は以下の GitHub 公式ドキュメントが詳しいです。
さて、OSS で使われる Fork and pull model では origin だけではなく upstream というもう一つのリモートリポジトリがあったので、リモート追跡ブランチも複数あることに注意が必要です。図にすると以下のような複雑な関係になっています。
fork 元のリポジトリである upstream からの変更を main に反映させるには以下のように行います。
git checkout main
git fetch upstream main # リモート追跡ブランチを更新
git merge upstream/main # リモート追跡ブランチの内容を取り込む
git pull
でやるなら以下のように行います。
git checkout main
git pull upstream main
翻訳作業再開
さて元の作業解説の流れに戻ります。
git checkout translation
# 作業ブランチにチェックアウトする
git status
# 作業ブランチに変更がないか調べる(もしなにかあればコミットしたり、stashしたりして退避させる)
git log --all decorate --graph --oneline
# グラフを出してコミットのハッシュ値を確認できる。作業ブランチtranslationのハッシュ値をしらべる。冒頭の数桁のみでよい
git show HEAD
# これでも最新のコミットのハッシュがわかる(あとでハッシュ値を使う)
git merge --no-ff master
# 最新内容であるlocalのmasterを作業ブランチにリカーシブマージさせる(これを行うとマージメッセージの入力画面がvimモードででるので適当なメッセージを書いて終了)
マージを --no-ff
オプションで行うとリカーシブマージになります。これを行うと Vim が立ち上がりマージコミットのメッセージを書くことになります。Vim の使い方 (挿入モードや保存終了の方法) を簡単に調べておくとよいです。
前回から更新された内容を確認するため差分を表示させます。上で調べた前回コミットのハッシュ値と master ブランチとの差分を確認します。
git diff ハッシュ値 master
# これでも差分を確認できる。ハッシュ値は冒頭の数桁の数字をいれればよい
git diff 78d63a7 master en/
# masterブランチとコミット78d63a7間でenフォルダについての差分を確認できる
git diff 78d63a7 master en/Pulgins/
# Pluginフォルダの内容だけ差分を見る
git diff 78d63a7 master en/Pulgins/test.md
# test.mdのファイルの差分を見る
git diff 作業ブランチ master en/
# ブランチで比較
更新内容が複数のファイルや追加内容が多い場合にはターミナルで diff を使うよりも GitHubのcompare機能 や VSCode などの差分表示機能 (特に GItLens などの拡張機能) を使った方がよいですが、なれるまでは git diff
を使ってひとつずつやる方が後学のためになると思います。
差分を確認しながら作業ブランチにて追加内容分の翻訳作業をすすめていきます。ターミナル上で git diff
を使って差分表示させると修正前と修正後が赤と緑で表示されるので、その内容をみながら日本語版での内容を追加修正していきます。Obsidian の場合、英文 (原文) のドキュメントフォルダ (en/) と日本語などの他言語用のフォルダ (ja/など) は別れています。なので diff を使うときには英語のドキュメントフォルダを対象に差分を見ます。その差分から追加された部分を見て、翻訳を開始します。
なるべくマージしないで作業する方法
作業ブランチに master をマージするのではなく、作業ブランチを毎回新しく作りなおす方法を行ったほうがわかりやすいことがあります。個人的に慣れるまではこの方法を行っていたので、マージの意味がよくわかっていない場合には、こちらの方法をとるのがよいです。上で提示した 9〜16 までの流れの 12(b) です。(a) を行わない代わりに (b) をやるという感じですね。
プルリクエスト承認後、git merge --no-ff master
をやらずに次の操作を行います。
git checkout master
# masterにチェックアウト
git branch -d translation
# プルリクエストが承認されたので作業ブランチを削除してしまう
git branch -a
# ブランチが削除されたことを確認
git branch translation
# 作業ブランチを最新のmasterから作り直す(分岐させる)
git checkout translation
# これで最新内容になった作業ブランチで作業再開できる
マージの意味が理解できたら、いちいち作業ブランチを破棄して作り直す方法をとらずに、マージによって作業ブランチの内容を最新にすればよいです。
作業終了後にプルリクエスト作成
初回のプルリクエストまでの流れと同じく add/commit 後に自分のリモートリポジトリ (origin) の作業ブランチに push します。
git add ja/folderName_1
git add ja/folderName_2
# ファイルごと、フォルダごとにaddする
git committ -m "ja: update"
# コミットメッセージを添えてコミット
git push origin translation
# originの作業ブランチtranslationにpush
push を終えたら同じように GitHub で作業ブランチ translation からプルリクエストを作成し承認を待ちます。
流れのまとめ
シーケンス図でのまとめです。リポジトリの種類は3つ(upstream, origin, local)あり、それぞれに master
や作業ブランチがあることに注意してください。
(3) 慣れたらやってみること
プルリクエストの分割
別々の意図でプルリクエストを分割できる。ローカルブランチを複数きって別々に git push
を行い、それぞれでプルリクエストを作成することでプルリクエストの分割を行えます。内容追加と修正でプルリクエストを分割するなどができるようになります。
Git client の利用
Working Copy などの Git client を利用してモバイルで作業すると暇なときに翻訳作業を行うことができます。こちらでもメールアドレスを GitHub で設定した同一のもにする必要があります。
vscode の拡張機能で作業効率アップ
GitLens や GitGraph などの拡張機能を入れることで作業効率を上げることができます。
GitLens を利用すればブランチ間 (コミット間) の差分を簡単に確認しながら翻訳作業を行えます。更新された部分のみを見ながら翻訳を追加できます。
Sync fork バージョンでやってみる
2021 年頃に追加された GitHub 上での Fork リポジトリの同期機能(Sync fork)を使うことで origin の master に push
したり、upstream の master から pull
せずにワークフロー全体をシンプルにすることができます。
以下のように GitHub 上で fork リポジトリ(origin
)の "Sync fork" ボタンから "Update branch" ボタンをクリックすることでそのリポジトリの master(main) ブランチを fork 元のリポジトリ upstream の master(main) に追従できます。
あるいは、GitHub CLI を使って以下のようにコマンドラインから GitHub 上の origin リポジトリを upstream リポジトリに同期できます。
# 自分のアカウントのforkリポジトリ名を指定
gh repo sync yo-goto/obsidian-docs
いずれかの方法で origin の master(main) を upstream の master(main) に追従させたら、ローカルで以下のコマンドを実行することで local の master(main) を更新できます。
# 通常バージョンだと git pull upstream master
git pull origin master
ワークフローの全体図を fetch
+ merge
も pull
に置き換えると、Sycn fork バージョンにすると以下のようにシンプルかつ分かりやすくなります。
GitHub のドキュメントなどではこのワークフローについて特に名前がついているわけではないのですが、名前をつけて認識することは重要なので、Fork-Pull-Sync cycle workflow (FPS cycle workflow) とでも名前をつけて呼ぶことにしましょう。
もちろん fork 操作は実際には最初の一回だけしか行いませんが、pull 操作 (コントリビューター側の視点では pull request) と sync 操作は何回もサイクルして行うことが重要であり、このワークフローの要となります。
他によく使うコマンドの概説
git checkout -b branchName
# ブランチを新規作成した上でチェックアウトする
git merge --no-ff branchName
# non fast-forward(recursiveマージ)
git merge --ff-only branchName
# fast-forwardマージできるならマージする、できない場合にはマージしない
git rm fileName
# git監視下でファイル削除
git mv 旧ファイル名 新ファイル名
# ファイルの名称変更
git mv fileName folderpath
# ファイルの移動
git config --global list
# globalのconfig確認(ユーザー情報などの確認)
git log --graph --oneline
# ログをグラフとして簡易表示
リモートブランチ関連
git push --delete origin branchName
# リモートブランチの削除
git checkout -b branchName origin/branchName
# リモートブランチをローカルにcheckout
翻訳そのものについて
自由にやると結構楽しい
翻訳の厳密性はプロジェクトごとに色々あると思いますが有志の翻訳であれば、ある程度のゆるさがあっても大丈夫だと思います。あまり気にしすぎずに挑戦してみるとよいと思います。分からない表現や専門用語はどんどんネットで検索しましょう。自分の場合には、不自然な日本語になるくらないなら解釈から相当する自然な言い回しを優先しています。文も切ったりつなげたり、結構自由にやっています。参加者の少ない日本語翻訳のプロジェクトの場合、このように自分の好きなようにできるのも利点だと思います。一方、人数が少ないと校正や、表現性の向上、誤訳やタイポなどの修正があまりできないのが難点です (textlint を使うのがいいかもしれません)。
Obsidian の翻訳プロジェクトでは、翻訳に問題や修正、追加内容があれば誰でもプルリクエストや issue を GitHub に作成できるスタイルでやっているので翻訳作業自体は結構はやいスピードで進みます。もちろんニッチなソフトウェアのベータ版という開発途中のもの故にこのような自由な事ができるわけで、他のメジャーなソフトウェアやサービスではなかなか難しいのではないでしょうか。
他の翻訳プロジェクトってどうやってやっているのかと思って他のサービスなどちょっと調べてみました (スケールによって結構違いますねやはり)。
- Notion Community Translation Guide
- Hugo Docs Japanese | Hugo Documentation の和訳・日本語翻訳プロジェクト
- yohamta/typescript-book-jp: TypeScript Bookの日本語訳です。
日本語表現が難しい
英文の解釈よりも日本語の表現が難しいです。英語で理解できても日本語自体の表現や語彙のストックがないので (笑)、どうしても直訳っぽくなってしまい、他のアプリケーションやサービスのドキュメントの日本語訳版などを参考にすることもありました。また、他の言語翻訳者がどのように翻訳しているのか Google 翻訳などを使って見ていました (例えばイタリア語やロシア語など)。
実際のところ、まだ稚拙な表現が多いかもしれませんが、現在は「とりあえず翻訳を完成すること」を念頭にプルリクエストで修正点や校正などをはさみつつクオリティを上げていくようにしています。
UI とヘルプドキュメントの一貫性
また、自分の場合はヘルプドキュメントから翻訳をはじめましたが途中から UI との整合性を図るためにヘルプドキュメントでは UI をベースとした説明文になるように注力しました。UI の翻訳では json ファイルの文字列を翻訳していく形でしたが、英文の文字列を見てもどういった操作なのかわからないことが多いので、実際に Obsidian の画面を出してどの部分の文字列なのか確認しながらやらないといけませんでした。
Obsidian は Electron ベースで開発されているので developer tool が使えます。翻訳であやしい部分があれば UI にあっているか、developer tool で実際に変えてみて合うかどうかを確認しています。
他に、特段注意すべきことは、句読点やスペースや半角全角などの表記ルールや語彙対応表などを早いうちから作成しておくと良いです。あとから整合性を整えるのは面倒なので最初から表現や単語のルールを統一しておきましょう。UI との整合性もを考える上で重要です。といってもいきなりルールを想定することはできません。その場合は翻訳しているうちに必要なルールがどんどんでてきますので、その都度はやめに追加していくのがよいです。表記のスタイルについては Wrodpressの翻訳スタイルガイド や JTF(日本翻訳連盟) の翻訳スタイルガイドなどが参考になります。ルールを新たに追加する際には既存のドキュメントに対してルールを追加するためテキストエディタの検索と置換機能を駆使して全体に適応します (これも textlint でできそうです。プリセットルールで JTF-style なるものが存在します)。
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