技術同人誌を、技術の泉シリーズで商業化する

公開:2020/10/25
更新:2020/10/26
9 min読了の目安(約8200字IDEAアイデア記事

ここ数日、技術同人誌の商業化についての話題が一部の人たちで盛り上がっています。

少なくとも時系列で見た時の発端は、おやかた (@oyakata2438)さんの、2020/10/23 12:41に公開された「同人誌」の「商業化」はいいぞ|おやかた|noteです。

そのあと、2020/10/23 18:00に、mhidaka (@mhidaka) さんの 著者が出版契約で知るべき7つの項目|mhidaka|note という記事が出ました。

※他に言及してるブログがあったら是非教えてください

これらの記事、特に前者2つの記事に関しては、Piro(@piro_or)さんの https://twitter.com/piro_or/status/1319633975644614662 というツイートをスレッドで読むととても分かりやすいと思います。

この記事では、技術同人誌を底本として商業版を出すことについて、そこまでネガティブに捉えなくてもいいのでは?という、僕なりの意見を述べます。

もちろん、出版の在り方に疑問を投げかける事自体は、親方さんの最初の記事を含め賛同するところですね。

この記事を書いた人と立場について

mhidaka さんは技術書典およびPEAKS(ピークス)という出版社の代表という立場であり、mhidaka さんの記事に言及するためには、筆者自身のポジションを明示しないと不誠実なので、この記事では自己紹介をさせていただきます。(もちろん本に関する部分だけ)

僕は erukiti と申します。技術書典1に委託、技術書典2以降は落選・中止になった技術書典8以外のナンバーにはずっとサークル参加しています。

毎回イベント時、コンスタントに200〜300部くらいを頒布している、技術書典としては中堅サークルです。

技術書典9では、新刊の実践プロトタイピング 〜Webフロントエンド&バックエンドでプロトタイピング〜:東京ラビットハウスを245部と、既刊本を28部頒布しました。ご購入いただいた方、ありがとうございました。

これまでに2回、僕が書いた本がインプレス R&DNextPublishing(ネクストパブリッシング)から商業化しています。

前者は、技術書典2の直後、2017年7月21日にあった、技術書典サークル連絡会 - connpassのときに「技術書典の本を底本として商業本を出版するのはどう?」という話題が出たときに「技術書典シリーズ」というのを出版社をまたいでシリーズ化されると面白いよねという話題になり、インプレスR&Dから発足された「技術書典シリーズ」の第一冊目です。

※注1: いまは、技術の泉シリーズという名前に変わっています
※注2: 技術書典シリーズ、結局インプレスR&D以外から出なかった……。

インプレスR&Dの本のシリーズの一番最初の本ではないですが、「技術書典シリーズ」という名前で出版された第一号なのです。

このとき、色々と紆余曲折というか苦労したりあれこれした話を後ほど書きますが、その経緯もあって、技術の泉シリーズの編集長である、山城敬 (@kurakake)さんとは、色々なイベントでお会いしたりする、長いお付き合いになっております。

二冊目は技術書典3で出した同人誌を底本にした本です。

それらとは別に、親方Projectの合同誌、ワンストップシリーズなどにも寄稿し続けているため、親方Projectから出ている2冊の商業版の本にも関わっている立場です。

また、僕の職務経歴の中に出版社はございません。

まとめると

  • 技術書典1から技術同人誌を出し続けている(技術書典6で新刊を落とした&技術書典8は落選&中止だったのでそこは抜けてます)
  • 技術の泉シリーズ(当時は技術書典シリーズ)から、同人誌を底本として商業版を2冊出している
  • 親方Projectの合同誌を書いていて、それらの商業版が技術の泉シリーズとして出ている
  • 出版社に関わったことはない

技術同人誌を出しつつ、技術の泉で商業化もしていますが、出版社の経営者や編集者・編集長や社員ではないというポジションです。

※重要な補足

この記事は、あくまで一著者としての意見であり、手放しでオススメしたいわけではないので、この記事を鵜呑みにはせずに、個々の著者の皆様が、ちゃんと対話をした上で契約をするかどうかの考慮をしていただきたいと思います。

商業出版におけるネガティブと、技術の泉シリーズの違い

mhidaka さんの記事は、商業本の一般論であって、技術の泉シリーズには当てはまらない項目が目立つなーと思いました。

技術の泉シリーズでは、編集長の山城さんが最初にお声がけするメールで、よくある質問が既に FAQ 化されていて、明記されています。

先日、最新のやりとりをしたときに、僕が頂いたものから抜粋しています(許可は得ています)。

商業版の内容ですが、本シリーズのコンセプトとして、「技術書典までに書き尽くせなかった・間に合わなかった同人誌を、著者が考える完成形まで加筆・修正していただき、これをもとに弊社で校正等を行い本文校了を目指す」という形になります。
これに伴い、表紙やデザインは弊社で行います。現在本シリーズは表紙にオリジナルのイラストを展開しており、これも含めた表紙デザインとディレクションについては編集部とイラストレーター様のご相談で進めます。筆者側の費用負担はありません。

以下にいくつかよくご質問をいただく件についてご説明します。
・同人版の併売について
商業版発売後の既刊の同人誌版ですが、基本的にはそのまま販売していただいて問題ありません。後日続編等を頒布される場合に、商業版で加筆された内容を反映されることについても問題ありません。

・同人版の内容をブログやLTなどの資料で使いたい
こちらも問題ありません。できればその際に、商業版のPRを入れていただければとてもありがたいです。内容の一部または全文をWebやGitHub等で公開している場合も、そのまま公開を継続していただけます。

・内容の改版について
前述のように弊社は機動的に改版が行えるのですが、発売後すぐ、というのは少々難しい面があります。技術的に破壊的バージョンアップがあった、などは別として、細かい修正や改修については、概ね発売後半年以降よりご相談させていただいております。

という風になっております。

つまり、mhidaka さんの記事にあった

  1. 著者の権利を制限される
    出版契約では出版権の取り決めの際に2次利用を制限することがほとんどです。なぜなら出版社としては内容を他の場所で売られたり無料で公開されると売れなくなると考えているからです。次のことがらを継続したい場合は調整が必要です。
  • 底本(本のベースとなる同人誌やブログ記事)の配布を継続したい場合
  • 底本に対して商業図書版の内容を反映したい場合
  • 商業図書版の内容を無償で公開するまたはブログなどで公開したい場合

は、技術の泉シリーズでは、最初から考慮されています。

  1. 類似の出版物の規制がある
    出版社や書店はあとから出た類似の本に対して「沢山同じ種類の本があると書店もにぎやかになるので良いですね!」とマーケットの拡大を喜ぶコメントを仰ってくれますが著者には同じセリフは言いません。多くの出版契約書には著者が類似書籍を執筆することを制限する項目がついています。

これも契約書に存在していません。

ちなみに印税云々の話は、技術の泉ではどうなのか?という話もあるんですが、ぶっちゃけ、これまでに出した二冊はそんなに売れている本ではないので、そもそも印税がどうたらに言及できる身ではありません。言わせんな。(一冊目は低評価くらったし、二冊目はドマイナーなんやで)

次、出す予定の本は売れるといいなー。売れてー。

ちなみに、親方Projectが技術の泉で出している本は二冊ありまして

これら二冊は、どちらもそのまま同人誌として頒布を継続してますね!

ちなみにどっちもGitHubのpublicリポジトリなので、なんなら自由に閲覧できますし、PRも送れますよ!

あと、商業化したものを含めワンストップシリーズでは、新しい執筆仲間を募集中です。興味ある人は、僕でも親方さんでも声をかけてください。

そういう意味では、技術の泉シリーズは商業化をするというよりは、商業ブランチを生やすと捉えると分かりやすいと思います。

納得のいく話し合いや交渉をしよう

技術の泉シリーズは、技術者の抱える心配ポイントに寄り添ったものとなっていますが、とはいえ「ここどうなの?」とか「こうしたい」という話は是非した方がいいと思います。少しでも疑問があればカジュアルに答えてくれるはずです。

技術の泉シリーズについて大雑把に解説

技術の泉シリーズは毎月数冊刊行されているもので、基本的には同人誌を底本として、著者の意向を最大限にくみ取って、表紙をつけたり(同人版そのままにもできる)、校正を入れたり、アドバイスを貰えますが、技術のプロが監修してくれるわけではありません。

これは編集長の「既に同人誌としてちゃんとしたものが出てるわけだから、過剰に直しを入れても仕方ないし、著者の個性を大事に」というポリシーによるものです。もちろん直しなどは著者が望めばいくらでもがっつり直せるはずです。

底本となる技術同人誌の延長線上にある本を出版できるシリーズだと認識すれば大丈夫だと思います。だからこそ、権利をほとんど縛られないのです。

そういう意味では、一般的な商業出版とは、だいぶん性質が異なるモノです。

技術書典シリーズ第一号を出すときの苦労話

苦労したんですよ。

最初は、Google Docs を使って、編集しようず、っつってやってて、僕が発狂したんで、Re:View + GitHub でいけるようにオネシャス!!!!ってやってたんです。

いまはもうそのスタイルで、なんならMarkdownも普通にOKなシステムになってるので楽になりました。

一応僕がそのあたり多少貢献しております😇

山城編集長は技術者の方ではないのに、Re:VIEW やら Markdown やら GitHub や当時はまだ珍しかった Slack なんかも、積極的に吸収してらっしゃる方なので、技術者としては凄く楽にお付き合いができる、出版業界には希有な方だと思います。

とても話が通じる方なので、やりとりが楽です。

僕が技術の泉シリーズで本を出す理由

二つあります。

一つ目は、僕が技術書典や他イベントで頒布するルートとは、全く違うルートで販売されることに価値を感じています。要するに「自力では届けられない読者に本を届けたい」というのが僕の主たるモチベーションです。

さて、技術同人誌を出して、技術書典以外も含めるとお小遣いになる程度の収益はある(時給換算は禁止)として、なぜ商業版を出して、色々な人に届けたいのか?

技術同人誌を出す人間は、大なり小なり「自分の書いた本を一人でも多くの読者に読んで欲しい」「推し技術を布教したい」みたいな価値観をもっています。それがなければそもそも本を書くなんて割の合わないことをするわけがありません。

技術書典は盛況ですが、オフラインのイベントに限れば東京でしか開催されません。超技術書典という歴史から忘れ去られたイベントは千葉県の幕張メッセでしたけど、それでも首都圏です。

オンラインの技術書典(技術書典9など)は、オフラインほどのユーザーは来ません。規模として見ると、最後のオフラインイベントだった技術書典7より遙かに小さいものです。

もちろん、技術同人誌のイベントは技術書典の専売特許ではありません。コミケや、技術書同人誌博覧会や、地方で開催される様々なイベントなどもありますが、技術書典ほどの規模にはまだ育っていません。

現状で技術同人誌即売会の最大イベントである技術書典ですら、同人誌即売会という性質上、日本のエンジニア全てにリーチするわけではありません。限られた人にしか、ぼくの書いた本は届きません。

そのため、技術同人誌というコンテキストを超えて、日本全国、様々なエンジニアにリーチする方法が欲しかったのです。

二つ目の理由ですが、これは一つ目を達成する上で、楽できるからです。

Amazon KDP とかもありますが、個人的には Amazon との契約はクッソ面倒なんで避けたいのと、Amazon KDP で出したからと言って売れるとは限りません。技術の泉シリーズであればプレスリリースもありますし、公式ページも存在します。

個人でプレスリリースを打ったり、公式ページ用意したり、宣伝したりするのは、僕的には労力に見合わないのでやりたくないことです。

そういうのがスキな人はやってもいいかもしれません。

販路を労力なしで広げられます(校正とかで直しが入るのは別の話として)

隠れた利点

ちなみに別の利点として、印刷の手間をかけずに紙の本を用意できます。

まず前提として、紙の本を刷るのにはお金が掛かります。このとき部数が少なければ少ないほどコスパは悪いです。そのため最初刷った部数を売り切ってから増刷できるサークルはあまりありません。

商業化しておけば、商業版を著者価格で少部数購入しておいて頒布できるのです(コミケだとアウトかな)。

フルカラーオンデマンドで紙の本をカジュアルに用意できるのは、ちょっとした隠れた利点です。

技術の泉シリーズで、技術同人誌を商業化することをオススメできるか?

僕は、普通に検討してもいいと思っています。技術の泉シリーズなら、著者としての権利が大幅に制限されるわけではありません。

それに、他の出版社の方、以前は消極的なお声がけをしてくれる人はいても、積極的にお声がけしてくれないんですものー。(声をかけてもらえるような本を書けと言われると、せやなとしか)

※ちなみに、イベント規約が厳しくなって声かけしづらいため、声かけしてほしいサークルさんは、商業化に意欲がある旨と連絡先を同人誌とかに明示してくれると助かるらしい話を耳にしました。連絡先とか色々あると、商業本に限らず「お話」が来る可能性あがりますしね!

今の時代は技術情報を発信して対価を少しでも得られる、選択肢が増えました。Zenn も素晴らしいですし、Note もあります。技術同人誌を書くのも楽しいですし、それを底本として商業化するというのも良いと思います。

もし話が来たら、幾つかある選択肢の一つとして、技術の泉シリーズによる商業版をだすことを検討してみるといいと思います。

話を聞かずに否定するのは勿体ないかもしれません。聞いてみる、話してみるだけでもいいとと思います。

一度でも出してみると分かるんですが、プロの校正が入ると自分の筆力が上がります。校正を受けられる権利として見るといいかもしれません。

一般化できる話かは分かりませんが、僕の二冊目の本は一冊目の経験があったので、ほぼ直しなしで出せました。

おまけの話

正直、個別要素の強い話なんで、一般論っぽく断言されるとモニョりますね。

転職するときの名刺代わりに

わりとなってる気がするけど、なってないかもしれない。分かりません。僕の場合、ブログ、GitHub repository や書籍などを全部 CV に書いていて、それっぽい評価を頂いてます。

mhidakaさんくらいの知名度がカンストしてる人ならともかく、そうじゃない人なら、商業出版という属性はバカにできないはずです。

知名度が上がりますよ

これも検証不可能なんだよなぁ……。僕のフォロワーとか、僕のことをご存じの方がどのチャネルで来たか、lifestage analytics(?) を走らせてるわけでもないので。

親が喜びますよ/親戚に自慢できますよ:たしかに喜んでくれますが他の方法のほうが親を喜ばせるのには効率的です。

僕の場合や、友人・知人の話を聞く限りは、ガチでウケます。ガチです。

親孝行は、色々な方法でやっていいと思いますよ。そこに効率を求めるのは個人的にはナンセンスだと思います。

※重要な補足再び

この記事は、あくまで一著者としての意見であり、手放しでオススメしたいわけではないので、この記事を鵜呑みにはせずに、個々の著者の皆様が、ちゃんと対話をした上で契約をするかどうかの考慮をしていただきたいと思います。

僕としても、皆さんが思考停止することを推奨したくないためにこのエントリを書いたので、この補足を追加しました。

選択肢は色々あるわけで、その選択肢の一つとして考えてみてもいいのでは?ネガティブに捉えすぎなくてもいいのでは?というのが、僕の考えです。