ブラックボックステストで陥りやすいバイアス、あなたも経験ありませんか?私の失敗談を添えて
はじめに
自己紹介
こんにちは。Rymと申します。SETとしてソフトウェア品質やテスト自動化、QAの組織開発に携わっています。
今回は、ブラックボックステストの『実装ロジックがもたらすテストのバイアス』をテーマに記事を執筆しました。本記事が皆さんの日々の改善活動に役立つヒントになれば嬉しいです。
対象読者
- ソフトウェア品質に関わる方
- プロダクトやサービス開発に関わる方
- 他者の失敗談を知りたい方
ブラックボックステストとバイアスの関係
ソフトウェアテストにおいて、ブラックボックステストは非常に重要な手法です。仕様や要件に基づきながらもシステムの内部構造を考慮しないテストは、ユーザー目線での品質保証を行うための基本的なアプローチになっています。
しかし、実際にブラックボックステストを行う際、特にコードの読めるQAエンジニアは、無意識にコードの内部ロジックに影響されたテストをしてしまいがちです。本記事では、このような『実装ロジックに囚われるバイアス』について、私自身の失敗談を交えながらその危険性とバイアスを抜け出すアプローチを考えていきたいと思います。
ブラックボックステストって、あらためて考えると?
ブラックボックステストは、システムの内部構造や実装ロジックを考慮せず、外部仕様に基づいて動作を検証するテスト手法です。ユーザーが実際に操作するようなシナリオを想定し、入力と出力の関係を確認することが主な目的です。
例えば、ログイン画面のテストを行う場合、以下のようなケースを検証します。
- 正しいIDとパスワードを入力した場合 → 正常にログインできることを確認する。
- 間違ったIDやパスワードを入力した場合 → エラーメッセージが表示され、ログインできないことを確認する。
- IDやパスワードを空欄で送信した場合 → 適切なエラーメッセージが表示されることを確認する。
このように、ユーザーが実際に行う操作を想定してテストを行うのがブラックボックステストの基本です。この際、内部でどのように認証処理が行われているかは考慮しません。
つい陥ってしまう!実装ロジックがもたらすテストのバイアス
さて、ここからが本題です。
ブラックボックステストを行う際、特にコードを読める、実装ロジックの詳細を理解しているQAエンジニアやテストエンジニアが陥りがちな罠があります。
それは、実装ロジックやコードの詳細を理解しているがゆえに、無意識に「効率的なテスト」を優先してしまい、ユーザー目線のテストではなく、実装ロジックに引っ張られたテストになっていることがあります。一般的に言われる開発者目線のテストになっていると表現した方がイメージしやすいかもしれません。
以下に簡単な比較表を示します。
特徴 | 💻 開発者視点のテスト(内部を知っている目) | 👤 ユーザー視点のテスト(外部から見る目) |
---|---|---|
テスト範囲 | コードの変更箇所に注目しがち | 実際の使い方のシナリオに沿ってテスト |
テスト設計 | コードの構造や処理フローから発想 | ユーザーニーズと操作パターンから発想 |
省略判断 | 実装変更のない部分は省略しがち | 繋がりのある機能は変更がなくても確認 |
重視する観点 | 開発技術的な効率と網羅性を優先 | ユーザーの価値やリスク、行動パターンを導出 |
こんなことありませんか?テストでの落とし穴
ブラックボックステストを行う際、特に「コードの変更がない部分は無影響だろう」と判断してテストを省略するケースがあります。この判断は効率的なテストを目指す上で重要ですが、ユーザー利用の観点を十分に考慮しないと、思わぬ不具合を見逃してしまうリスクがあります。
「これはスキップしても大丈夫」の危険な判断パターン例
例えば、ログイン画面のテストを行う際、QAエンジニアが以下のように判断することがあります。
- 「認証処理のコードは変更されていないから、特殊文字や長いパスワードのテストは省略しても問題ないだろう」
- 「入力フォームのバリデーションロジックに変更がないから、空欄や不正な入力のテストは不要だろう」
このような判断は、コードの変更箇所に基づいて効率的にテスト範囲を絞る意図があります。しかし、実際にはコード変更がない部分でも、他の機能や外部システムとの連携によって影響を受ける可能性があります。
バイアスから抜け出すための3つのアプローチ
1. 初心、忘れていませんか?
「初心忘るべからず」とはよく言ったものだと感じることがあります。人間は忘れる生き物です。今回の記事のような件に限らずですが、バイアスに囚われていると気付いたタイミングで初心に戻ることをオススメします。
立ち止まって考える、ブラックボックステストの本質
ブラックボックステストの本質は、内部構造を知らないユーザー操作を想定したテストを行うことです。
実装ロジックに囚われる感覚を感じたことがある方や経験がある方は、素晴らしい技術者の方々だと思います。多様なスキルや経験、実績があるからこそ、このバイアスの罠に引っかかってしまう可能性があります。
そんな時こそ、初心を思い出して以下のような意識をしてテストをすることが大切だと考えています。
- 「コードに変更がないからテストしない」という判断をする際は、ユーザー目線での影響を慎重に検討する。
- 「変更がない部分でも、ユーザーが操作する可能性があるならテストする」という意識を持つ。
バイアスから抜け出すためにテスト技術へ立ち返る
- 同値分割、境界値分析を活用する
- 組み合わせパターンを正しく把握し、デシジョンテーブルや直交表など適切な技法を利用する
- ユーザーや事業収益などを意識して状態遷移を考える(無料、有料ステータスなど)
- エッジケースを想定する
効率的なテストもとても重要ですが、ブラックボックステストの本質であるユーザー目線を意識してバイアスを排除し、適切なテスト技術を利用して効果的なテストができるマインドに戻すことが必要です。
2. 一人で抱え込まない、チームや仕組みの力を活かす方法
自分自身だけでは、気付けないこともあります。そのためにチームでの取り組みやツールを取り入れることも非常に有効な手段だと思います。
みんなの視点が宝物、フィードバックの仕組み作り
以下のような仕組みを取り入れることで、チームで検知できるようになるため有効です。
- テスト設計の相互レビュー
- チーム内でテストケースを相互にレビューすることで、複数の目を通すことができ、実装ロジックに引っ張られないテスト設計が可能になります。
- 「このテストケースは本当にユーザー目線か?」という観点でレビューを行います。
- QA内のペアテスト
- QAエンジニアがペアになってテストを行うことで、双方の視点を取り入れたテストが可能になります。
- 「なぜこのテストを省略したいと思ったのか」という議論を通じて、バイアスを認識できます。
- モブテスト
- QAエンジニアや開発者をはじめ、PdMやデザイナーなど複数人が集まってテストを行うことで、様々な視点を取り入れたテストが可能になります。
- こちらは様々な職種の視点を取り入れたテストを通じて、バイアスを認識できます。
3. テクノロジーの力を借りて、ヒューマンエラーを減らす
テスト設計においては、意識やチームの取り組みもとても有効ですが、実行となるとヒューマンエラーの可能性があります。自動化ツールや管理ツールを活用して機械的にテストをすることで、ヒューマンエラー改善に有効だと考えています。
代表的なツール
ツールタイプ | 代表的なツール |
---|---|
オープンソースE2Eテストツール | Appium, Cypress, Playwright, Selenium |
商用ローコードE2Eテストツール | Autify, mabl, MagicPod, Testim |
APIテストツール | Apidog, Postman, Rapid API |
テスト管理ツール | Qase, qTest, QualityForward, TestRail, Zephyr |
私が経験した『実装ロジックの罠』とその教訓
私が過去に、あるデータの新規作成機能に関するテスト設計を担当した時の話です。
当時の私は、「今回のテスト対象はA画面の新規作成機能だから、主にA画面の新規作成とその関連機能を中心にテストすればよいだろう。データ削除機能はないので、編集機能周りまでを影響範囲としてテストすれば十分だろう。B画面については、実装に変更がないため影響範囲外だ」と判断し、テスト設計を行いました。
しかし実際には、B画面にはA画面で新規作成または編集されたデータに対して、通常は使われないものの、例外的に使用される認証機能があることが、チーム内のレビューで指摘されて初めて発覚しました。 この機能は利用頻度は高くないものの、利用できない場合にはユーザー体験に大きな影響を与える重要なものでした。
結果的にチーム内レビューで気づくことができ、テスト設計を修正することで問題を未然に防ぐことができました。しかし、もしレビューを通さずに、そのままリリースされて不具合報告が上がってきた場合のことを想像した時のゾッと冷や汗がでる感覚は今でも忘れらません。
私自身がコードやアーキテクチャに触れることで良かったと感じる経験があるので、QAエンジニアであってもコードを読めたり実装の深い部分を理解していることは必要ではないか?と考えています。
しかし、この経験を通じて、ブラックボックステストの本質を改めて理解するとともに、自分の中のバイアスを排除する意識を持ち、効率とユーザー目線、双方のバランスが重要であることを痛感しました。
さいごに
ブラックボックステストは、ユーザー目線でシステムの品質を保証するための重要な手法です。しかし、実装ロジックのバイアスに囚われることで、無意識にその本質からズレてしまうことがあります。
テスト効率とユーザー視点のバランスを意識し、適切なツールや手法の活用やチームでの効果的な取り組みをすることで、より質の高いブラックボックステストが実現できると思います。
皆さんは、どのようなブラックボックステストのバイアスに気づいたことがありますか?また、それをどのように克服しましたか?ぜひ、コメント欄でご共有いただければ嬉しいです。
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