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Agentic AI、Agentic RAG、Agentic Workflow、… 「Agentic」の混乱を技術視点で整理する

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はじめに

近年、AIエージェントとあわせて 「Agentic」 という言葉を目にする機会が増えています。しかし、この単語は文脈によって意味が大きく変わるため、技術議論や導入検討の現場で混乱することもあるのではないでしょうか。
そこで、この記事では、「Agentic」という言葉を3つのタイプに分類し、それぞれの特徴と代表例を整理しました。

Agenticの基本的な意味

基本定義:独立して意図的に行動する能力
ただし、生成AI文脈でのAgenticには、単なる自律性を超えた以下の要素が含まれます。

  • 目標駆動型:明確な目的に向けて行動する
  • 対話型:環境や他のシステムと相互作用する
  • 適応型:状況に応じて行動を調整する

Agenticの3つのタイプ分類

ここで紹介する「タイプA~C」の分類は、理解を助けるための便宜的なものです。
各タイプの代表例も、実装レベルによっては境界が曖昧になり、グラデーションが発生するため、後述の「よくある混乱の例」もあわせてご参照ください。

タイプA:「エージェントの(内部の)」

  • エージェントの内部思考プロセスや認知機能を指す。
  • 特徴:
    エージェントの思考プロセス自体にフォーカス
    エージェント内部の設計指針の文脈で利用される
  • 代表例:Agentic Workflow
    AI研究の第一人者であるAndrew Ng氏が定義した4つのパターン
    ・Reflection(振り返り):出力の自己評価と改善
    ・Tool Use(ツール使用):外部リソースの活用
    ・Planning(計画):複雑なタスクの分解と実行順序決定
    ・Multi-agent collaboration(協調):複数エージェント間の連携

タイプB:「エージェントのように(振る舞う)」

  • 既存システムや特定機能にエージェント的な振る舞いを付加する。
  • 特徴:
    システムの特定機能、一部の機能をエージェント化
    意思決定ループの導入により、システムが状況依存で挙動を変える
    ただし、全体が自律的なエージェントになるわけではない
  • 代表例:Agentic RAG
    従来の固定的RAGシステムに「適応的判断」を追加
    ・検索戦略の動的調整:クエリに応じた最適な検索手法の選択
    ・結果評価:取得した情報の関連性・信頼性の判断
    ・再検索判断:不十分な結果に対する追加検索の決定

タイプC:「エージェント的な(自律性を持つ)」

  • システム全体を「エージェント的」に再構築し、自律性を強化するパラダイムを指す。
  • 特徴:
    複数のエージェントがゴール達成のために自発的に行動・学習
    システム全体の設計哲学・方針としての文脈で利用される
    近年急速に普及した表現で、Agentic Coding、Agentic DevOpsなど領域特化型も増加
  • 代表例:Agentic AI
    ・Gartner「2025年トップテクノロジートレンド」での定義
    ・ビジネスプロセス全体の自動化・最適化
    ・予期しない状況への自律的対応

よくある混乱の例

どのケースが「正しい/間違い」ということではなく、文脈と意図を理解した上で解釈することが重要です。

混乱例1:Agentic RAGの解釈の複雑さ

Agentic RAGは特に解釈が分かれる代表例です。単純にタイプBかタイプCかという二分法ではなく、実装レベルによってグラデーションがあります。

  • タイプB寄りの実装(部分的なエージェント化)
    既存のRAGパイプラインに、LLMを意思決定ループを追加している段階的拡張(クエリ戦略の調整、情報の信頼性評価など)
    "いつ・どのツールを呼ぶか"といった判断を付加するだけであれば、システム全体を一気にパラダイム転換までには至ってないかもしれない

  • タイプC寄りの実装(システムのエージェント化)
    マルチエージェント協調によるユーザ質問の曖昧さ解消、動的タスク分解、持続的記憶などを組み込むことで、エージェント全体のパラダイムシフトに近づいている
    システムが自発的に情報ニーズを判断し、継続的に学習・更新を実行
    しかし現実的には"RAGパイプラインにコーディネーターや階層型エージェントを重ねた"フェーズで、まだ"全体を自律的に自己設計させる"レベルには至っていない場合もあるかもしれない

混乱例2:Agentic Workflowの多層的展開

Agentic Workflowは、タイプAの学術的フレームワークだけでなく、現在では実用的なビジネスアプリケーションまで幅広い表現に使われることがあります。

  • タイプBの例
    定義されたワークフロー内でLLMが特定の処理ステップを実行
    業務プロセスにLLMのインテリジェントな判断機能を組み込みワークフロー実行

  • タイプCの例
    ワークフロー全体を複数エージェントが協調実行

まとめ

「Agentic」という言葉は同じ用語でも実装フェーズや文脈で意味が変わるため、

  • タイプA:エージェント内部の思考設計
  • タイプB:システムへのエージェント的機能追加
  • タイプC:システム全体を自律的に設計

という3つのレイヤーで整理してみました。
重要なのは、「どの程度Agenticか」を明確にし、実装レベルのグラデーションを意識することです。
これにより、議論や技術選定での曖昧さを減らし、AIエージェント導入の精度を高めることができれば幸いです。

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