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🐝 BeeAI入門

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最近「AIエージェント」という言葉を耳にする機会が増えてきました。​しかし、異なるエージェント同士を連携させるのは、思った以上に複雑です。​そんな中、IBM Researchが開発したオープンソースのプラットフォーム「BeeAI」が登場しました。​BeeAIは、異なるフレームワークや言語で構築されたAIエージェントを統一的なインターフェースで接続し、協調動作を可能にすることを目指しています。​

この記事では、BeeAIの基本的な考え方や構成要素をざっくり紹介します。​実際に手を動かしてみた話などは次回以降に書く予定なので、今回はBeeAIの全体像をつかみたい方向けの入門編として気軽に読んでもらえると嬉しいです。

BeeAIとは何か

BeeAIは、IBM Researchが開発したオープンソースのAIエージェントプラットフォームです。​異なるフレームワークやプログラミング言語で構築されたAIエージェントを発見、実行、構成し、連携させることを目的としています。​2024年に「Bee Agent Framework」としてリリースされ、当初はビジネスユーザー向けでしたが、その後開発者向けに大きく刷新されました。

なぜBeeAIに注目すべきか

現在のAIエージェントシステムは、異なるフレームワークで構築され、エージェント間のやりとりには独自の通信手段が採用されているため、エージェント間連携が難しいという課題があります。​複数エージェントを連携させるには複雑さが増し、開発・運用コストが増大し、他システムとの連携が制限され、AIエージェントシステムの本来の可能性を引き出せない大きな障壁となっています。

BeeAIは、異なるフレームワークで構築されたAIエージェントを統一的なインターフェースで接続する共通基盤として登場し、こうした課題を解消しようとしています。

  • ベンダーロックインを排除し、異なるソースからのマルチエージェントワークフローを構成できるようにする
  • ゼロから始める代わりに既存のエージェントを使用することにより、開発をスピードアップする
  • 共通の問題を解決するためにコミュニティが構築したエージェントを共有し、発見することを容易にする

私個人が共感したのは、BeeAIの根底には “make simple things simple and complex things possible.”(シンプルなことをシンプルに、複雑なことを可能にする)(参照)というビジョンがあるという点です。AIエージェントのフレームワークは機能が豊富になるほど複雑になりがちで、問題解析が困難になる傾向があります。​BeeAIがこのビジョンをどのような技術で実現していくかに注目しています。

BeeAIのコアコンポーネント

BeeAIは3つの核となるコンポーネントで構成されています。

1. BeeAI Framework:本番環境対応のエージェント開発基盤

PythonまたはTypeScriptで本番環境に対応したAIエージェントを構築するためのフレームワークで、beeai-frameworkリポジトリで公開されています。
Python版のスターターテンプレート beeai-framework-py-starter も用意されています。

  • 自身のユースケースに合わせて、ワークフローを使用して様々なエージェントパターンを実装することも、​ReActAgentなどの既成のエージェントタイプから始めることもできます。
  • Ollama、Groq、OpenAI、watsonx.aiなどのモデルをはじめ、LangChainのツールやMCP(Model Context Protocol)を介した任意のサーバーとの接続が容易に行えます。
  • トークン使用量の最適化、エージェント状態の保存と復元、構造化出力、サンドボックス環境でのコード実行(近日対応予定)など、本番環境での運用に必要な制御機能を備えています。

2. BeeAI Platform:エージェントの発見と統合のハブ

BeeAI Platformは、エージェントの発見、実行、構成を行う機能を提供し、マルチエージェントシステムの構築を容易に実現する基盤で、beeai-platformリポジトリで公開されています。

  • Python、TypeScript、LangChain、AutoGenなど、さまざまな技術スタックで構築されたエージェントを統一されたインターフェースで統合できます。
  • 複数のエージェントを組み合わせて、複雑なマルチエージェントワークフローを構築できます。
  • 強力な検索機能を備えたエージェントカタログを活用して、目的に合ったエージェントを迅速に見つけることができます。

3. ACP(Agent Communication Protocol):エージェント間通信の共通仕様

ACPは、AIエージェント間のコラボレーションと相互運用性を実現する標準インターフェースです。2025年4月現在、アルファ版として公開されており、ACPリポジトリ公式ドキュメントでは、SDKや仕様書が整備されています。

ACPは以下をコア原則としています。

  • シンプルさ:​エージェントフレームワーク間で容易に実装可能な設計。
  • 汎用性:​フレームワークに依存しない設計。
  • 相互運用性:​エージェントが互いを発見し、構成し、協調できる能力。

エージェント間通信プロトコルの標準化は、ACP以外にも広がりを見せています。2025年4月には、Googleが「Agent2Agent Protocol(A2A)」を発表しました。A2Aもまた、異なる開発言語やフレームワークで構築されたエージェント同士の情報交換と協調を目指すプロトコルですが、現時点では仕様がドラフト段階にあります。

このように、生成AIのエージェント間通信プロトコルの標準化は黎明期にあり、AIエージェント業界全体での標準化の確立が望まれます。ACPのそのシンプルさと汎用性に基づいた設計思想により、今後の発展への寄与を期待したいです。

BeeAIのアーキテクチャ

BeeAIのアーキテクチャは、公式ドキュメントにまとめられていますが、現在、「Fundamental breaking changes are happening now」との注意書きがあるため、現時点では省略します。

BeeAIのその他の機能

Code Interpreter

AIエージェントの核となる機能のひとつに、任意のPythonコードを実行できる「Code Interpreter」があります。
BeeAIでもCode Interpreterが提供されています(beeai-code-interpreterリポジトリ)が、ポイントは、ローカル環境にPythonやPoetryをインストールする必要がなく、すべてがDockerコンテナ内で完結する点です。

一般的に、AIエージェントフレームワークでのCode Interpreterの実装は、以下の3つのアプローチに大別されます。

  • 完全内部実装型: フレームワーク自体がコード実行環境を提供する方式
  • コンテナ利用型: Dockerなどのコンテナ技術を活用し、隔離環境を構築する方式
  • 外部サービス依存型: 外部APIやクラウドサービスに依存してコードを実行する方式

BeeAIのCode Interpreterはコンテナ利用型なので、隔離性の高さとセキュリティの確保という点で大きなメリットを持ちます。ただし本番環境ではセキュリティ強化のためKubernetesクラスタの利用が推奨されており、その結果インフラ構成は複雑複雑化する点は考慮が必要です。

UI

現時点では、UI用のリポジトリ(bee-uiリポジトリ)が存在しますが、こちらはPublic archive状態となっています。最新のUI実装に関する情報は、今後のアップデートを待ちたいと思います。

Observability

同様に、Observability用のリポジトリ(bee-observeリポジトリ)も現在はPublic archiveになっています。システムのモニタリングやロギングに関する取り組みについては、随時情報に注目していきたいと思います。

MCP (Model Context Protocol)

2024年11月、Anthropicが「Model Context Protocol(MCP)」をオープンソースで発表しました。​これは、LLMと外部データソースやツールとの接続を標準化するプロトコルです。​従来、LLMからのツールへのアクセスはカスタム実装が必要だったのが、MCPを使えば標準的な実装方法で多様なデータソースやツールにアクセス可能になります。​GitHubやGoogle Drive、Slackなど、主要なエンタープライズツールとの統合も容易になりました。 ​

BeeAIは、この流れをいち早く察知し、2025年1月上旬にはTypeScript版でのMCPサポートをリリースしました。(参照)​​ さらに現在では、Python版でもビルトインツールとしてMCPを提供しており、開発者は簡単にMCPクライアントを構築できます。(参照)​ 個人的な体感では、MCPが本格的に注目され始めたのは2025年3月頃からでしたので、BeeAIの対応はかなり早かったと言えるでしょう。​実際、MCPの公式サイトでも、BeeAIはMCPクライアントの例としてリストされています。

MCPのサポートにより、BeeAIは、LLMと外部データソースやツールとのシームレスな統合を実現しました。​これにより、開発者はより効率的にAIアプリケーションを構築できるようになり、BeeAIの柔軟性と拡張性が大きく向上しました。​今後、MCPの普及とともに、BeeAIのような先進的な対応がますます重要になってくると考えられます。

オープンソースコミュニティの動向と参考リンク

BeeAIプロジェクトは、Linux Foundation AI & Dataプログラムの一環として、オープンで協調的なコミュニティ主導の開発を進めています。
代表的なリンクを以下にまとめます。

GitHubリポジトリ:BeeAIの開発はGitHub上で活発に行われています。
https://github.com/i-am-bee

YouTubeチャンネル:チュートリアルや機能紹介、コミュニティミートアップのアーカイブなど、多彩なコンテンツを提供しています。​
https://www.youtube.com/@BeeAIAgents

公式ドキュメント:
https://beeai.dev/

さいごに

本記事では、BeeAIの全体像とその魅力、そして今後の発展に向けた動向や可能性について概観しました。
これからも今後の展開にも注目しながら実践的な情報を共有していく予定です。
BeeAIの動向をぜひ引き続きウォッチしていただければと思います。

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